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(平10.12.18裁決、裁決事例集No.56 220頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地の譲渡所得について、調査手続の違法性及び居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例が認められるか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和59年3月3日、父であるFの相続に伴う遺産分割協議により、別表2の甲土地及び乙土地の2筆の土地(以下、これらを併せて「本件土地」という。)を、母J(以下、請求人とJとを総称して「請求人ら」という。)とともに、それぞれ共有持分各2分の1の割合で相続した。
ロ そのころ、本件土地には、請求人ら及び祖母であるMらが居住する家屋(以下「旧家屋」という。)が存し、旧家屋は、上記の相続に伴う遺産分割協議により、請求人が単独で相続した。
ハ 請求人らは、S有限会社(以下「S社」という。)との間で、甲土地を平成6年12月2日に41,500,000円で、乙土地を平成7年1月10日に3,000,000円で、いずれも譲渡する旨の売買契約を締結し、平成6年12月ころに旧家屋を取り壊した上、本件土地を平成7年1月に同社に引き渡した(以下「本件譲渡」という。)。
ニ Jは、本件譲渡に先立って、平成元年6月1日にS社との間で、前記肩書住所地(T市Y町200番地の1)に居宅を建築する旨の請負契約を締結し、平成2年9月ころ、同社から、完成した木造瓦葺2階建ての居宅(以下「新家屋」という。)の引渡しを受け、請求人らは現在これに居住している。
ホ 以上の事実関係を基に、請求人は、本件土地の譲渡所得について、祖税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定に基づく譲渡所得の特別控除の特例(以下、この特例措置を「本件特例」という。)の適用があるとして、その旨を記載した平成7年分の所得税の確定申告書を提出した。
 これに対し、原処分庁は、本件譲渡は旧家屋が請求人の居住の用に供されなくなった日、すなわち、請求人が旧家屋から新家屋に生活の本拠を移した日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間になされたものではないとして、本件土地の譲渡所得について本件特例の適用を認めず、原処分を行った。

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2 主張

(1)調査手続について

イ 請求人
 請求人らに対する原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、本件調査において、税金について素人である請求人らに誘導尋問やプライバシーに及ぶ調査を行ったり、近隣住民から聞き取り調査を行うなど、請求人が現住所地で生活ができなくなるような違法な調査を行い、偏った近隣住民の証言を基に原処分を行った。
ロ 原処分庁
 本件調査は適法に行われており、本件調査において、請求人の主張するような原処分を違法とする事実は存しない。

(2)本件特例の適用について

イ 原処分庁
(イ)旧家屋と新家屋に係る水道、電気、ガス及び電話の使用状況等から判断して、請求人が平成3年3月以降旧家屋に居住していた事実は認められず、請求人の生活の本拠は、遅くとも、平成3年3月までには旧家屋から新家屋に移っていたものと認められる。
 そうすると、旧家屋が請求人の「居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日」は、平成6年12月31日となるが、S社に対する本件譲渡は、この日を経過した平成7年になされている。
 したがって、本件特例の適用を認めることはできない。
(ロ)請求人は、平成6年12月31日までに本件土地を譲渡できなかったのは、本件土地への公道設置の認定が遅延したこと等が原因であり、これは措置法第35条第3項に規定する「やむを得ない事情」に当たる旨主張するが、公道設置の認定等は法律上本件譲渡を制限するものではないから、請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人
(イ)請求人らが仏壇、家財道具及び農具を旧家屋から搬出したのは、Mが死亡した平成6年9月14日以降のことであり、請求人の生活の本拠は、平成6年に旧家屋から新家屋に移っている。
 そうすると、旧家屋が請求人の「居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日」は、平成9年12月31日となるところ、本件譲渡はこれ以前になされている。
 したがって、本件特例の適用を認めるべきである。
(ロ)仮に、平成3年3月までに請求人の生活の本拠が旧家屋から新家屋に移っていたとの原処分庁の主張が正しいとしても、本件譲渡は、次のとおり、「やむを得ない事情」(措置法第35条第3項)により遅れたものであるから、本件特例の適用を認めるべきである。
A 本件土地周辺は、昭和50年代ころから農村総合整備モデル事業による土地改良事業が施工されたものの、十分な土地改良事業がなされず、本件土地は囲繞地のままとなっていた。そして、請求人ら家族は、本件土地が公道に面していないので、長年近隣者の土地を通行して本件土地を使用していたものである。
B そこで、請求人らは、本件土地への進入路が公道として認定されるよう、平成2年9月に公道設置の申請をしたが、道路申請地の建物の撤去及び一部住民の反対等により、公道設置の認定が遅延した。
C 請求人らは、新家屋建築当時から本件譲渡を意図していたものであるが、公道が設置されるまで本件土地を譲渡することができず、本件譲渡が遅れたのは、上記のとおり公道設置の認定が遅延したからである。

(3)課税長期譲渡所得金額について

イ 原処分庁
 請求人の平成7年分の所得税に係る課税長期譲渡所得金額及びその内訳は別表3の「原処分庁主張額」欄のとおりであり、この範囲内でなされた更正処分は適法である。
 なお、別表3の譲渡費用の額803,225円の内訳は、(1)測量・分筆費用153,225円及び(2)旧家屋の解体費用650,000円である。請求人は、このほかに抵当権抹消登記費用18,450円を譲渡費用として申告しているが、これは本件譲渡に直接要した費用ではないから、譲渡費用に含めることはできない。
ロ 請求人
 原処分庁は旧家屋の解体費用を650,000円と認定しているが、旧家屋の解体費用は、K社に対する2,268,000円、勝手場解体360,000円及び整地の未払金280,000円の合計2,908,000円になる。
 また、測量・分筆費用は1,495,350円である。

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3 判断

(1)調査手続について

イ 請求人は、本件調査において調査担当職員が請求人らに対して誘導尋問やプライバシーに及ぶ調査を行った旨主張するが、当審判所が調査したところによれば、本件調査は旧家屋及び新家屋について現地確認等をするために合理的な範囲において行われたものであり、請求人が主張するような事実を認めるに足りる証拠はない。
ロ 請求人は、調査担当職員が、近隣住民から聞き取り調査を行うなど、違法な調査を行い、偏った近隣住民の証言を基に原処分を行った旨主張するので、原処分関係資料を当審判所において調査したところ、本件調査において、調査担当職員は、請求人の近隣住民若干名に対して聞き取り調査を行ったことが認められる。
 しかしながら、この近隣住民に対する聞き取り調査の内容は、請求人の居住の事実の有無の確認に限られており、違法な調査を行ったものとは認められない。
 また、原処分庁は、この調査結果を原処分を行う上での一つの判断材料としたにとどまり、このほかに、旧家屋と新家屋に係る水道、電気、ガス及び電話の使用状況等に関する調査結果等を総合して原処分を行ったものと認められる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ハ その他、請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、本件調査において、調査担当職員が違法な調査を行ったことをうかがわせる事実は認められず、本件調査は適法に行われたものと認められる。

(2)本件特例の適用について

 本件特例の適用要件である「居住の用に供している家屋」とは、実質的に生活の本拠として使用している家屋をいうと解するのが相当であるので、以下、生活の本拠としている家屋について認定し、本件特例の適用の可否について判断する。
イ 請求人が旧家屋から新家屋に生活の本拠を移した時期
(イ)認定事実
 原処分関係資料(旧家屋と新家屋に係る水道、電気、ガス及び電話の使用状況等に関し、原処分庁の照会に対して各照会先から提出された回答書等)及び当審判所の調査の結果(これら回答書の内容を確認した結果等)によれば、次の事実が認められる。
A 水道の使用状況
 旧家屋及び新家屋における水道の使用量は、別表4のとおりであり、旧家屋においては、平成2年11月ころから使用量が減少し、平成3年3月以降は使用した実績がない。
 反面、新家屋においては、平成2年7月ころから水道が使用されるようになり、平成3年1月ころ以降の使用量は、請求人が旧家屋から新家屋に生活の本拠を移したことに争いのない時期である平成7年と同程度の使用量である。
B 電気の使用状況
 旧家屋及び新家屋における電気の使用量は、別表5のとおりであり、旧家屋においては、平成3年3月以降、使用した実績がない。
 反面、新家屋においては、平成2年9月ころから電気が使用されるようになり、平成3年1月ころ以降の使用状況は、請求人が旧家屋から新家屋に生活の本拠を移したことに争いのない時期である平成7年と同じような使用状況である。
C ガスの使用状況
 請求人らは、旧家屋において、G株式会社からガスの供給を受けていたが、同社との取引は平成3年2月28日付けで終了している。
D 電話の設置場所
 旧家屋に設置されていたJ名義の電話は、平成2年11月20日をもって他に移されている。
(ロ)当審判所の認定
 上記(イ)の事実を総合すれば、請求人が平成3年3月以降旧家屋に居住していた事実はなく、請求人の生活の本拠は、遅くとも、平成3年3月までには旧家屋から新家屋に移っていたと認めるのが相当である。
(ハ)請求人の主張に対する判断
 この点、請求人は、請求人の生活の本拠が旧家屋から新家屋に移ったのはM死亡後の平成6年である旨主張し、(1)調査担当職員及び当審判所に対してこれに沿う申述をするほか、(2)旧家屋の隣地に居住するH作成の当審判所あて意見書を証拠として提出しているが、これらの申述及び意見書は、上記(イ)の水道、電気及びガスの使用状況並びに電話の設置場所に関する証拠に照らし、採用することができない。
 また、(3)請求人が当審判所に提出したJあての年賀状等の郵便物によれば、平成5年以降においても旧家屋にJあての郵便物が郵送されたことがあると認められるが、転居の事実を知らない者が、旧住所を記載し郵送することはままあることで、この事実が前記認定を左右するものではない。
 よって、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件特例の適用の可否
(イ)当審判所の判断
 上記イの(ロ)の認定から、旧家屋が請求人の「居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日」は、平成6年12月31日となり、甲土地はこの日前に譲渡契約がなされ、乙土地はこの日後に譲渡契約がなされていることになる。
 しかしながら、S社に対する本件土地の引渡しは、いずれもこの日を経過した平成7年1月になされており、本件土地の譲渡所得についての請求人の確定申告も平成7年分である。
 したがって、本件譲渡は、平成6年12月31日までの取引とは認められないから、本件土地の譲渡所得に本件特例の適用を認めることはできない。
(ロ)請求人の主張に対する判断
 請求人は、本件譲渡が平成6年12月31日を経過した日以後になったのは、農村総合整備モデル事業による土地改良事業が不十分であったこと及び本件土地への進入路の公道設置の認定が遅延したことが原因であり、これらは措置法第35条第3項に規定する「やむを得ない事情」に当たる旨主張する。
 しかしながら、そもそも措置法第35条第3項は、確定申告書の提出がなかった場合又は確定申告書に本件特例の適用を受ける旨記載しなかった場合等、手続的要件を欠いた場合であっても、「やむを得ない事情」がある場合には本件特例の適用を認めることとした規定であると解されるところ、請求人が主張する事情は、いずれも実体的要件である同条第1項の譲渡時期に関するものであり、同条第3項にいう「やむを得ない事情」には当たらない。
 また、この点に関して請求人が主張、立証しているところを前提に検討しても、土地改良事業が不十分であったこと及び本件土地への進入路の公道設置が遅延したことは本件譲渡を法律上制限するものではないから、本件特例の適用を認めなかった原処分庁の判断は不当とは言えない。
 よって、請求人の主張には理由がない。

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(3)課税長期譲渡所得金額及び更正処分の適法性について

イ 課税長期譲渡所得金額
 原処分関係資料等を当審判所において調査、審理したところ、請求人の平成7年分の所得税に係る課税長期譲渡所得金額及びその内訳は別表3の「審判所認定額」欄のとおりであると認められる。なお、この認定過程は、次のとおりである。
(イ)譲渡費用の額
 原処分庁は、前記2の(3)のとおり、譲渡費用として請求人が申告した18,450円は、その全額が抵当権抹消登記費用であって譲渡費用に含めることはできない旨主張する。
 しかしながら、原処分関係資料(司法書士X作成の請求人らあて領収書)によれば、請求人が譲渡費用として申告している18,450円の明細は、(1)抵当権抹消登記費用10,100円、(2)住所変更登記費用3,850円及び(3)売渡証書作成費用4,500円であり、(1)及び(2)は譲渡に直接要した費用ではないので譲渡費用に含めることはできないが、(3)は譲渡に直接要した費用であって、譲渡費用に含めるべきと認められる。
 したがって、譲渡費用の額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、807,725円(測量・分筆費用153,225円、旧家屋の解体費用650,000円及び上記(3)の売渡証書作成費用4,500円の合計額)となる。
 なお、請求人は、解体費用は2,908,000円であり、測量・分筆費用は1,495,350円である旨主張するが、請求人から当該主張を認めるに足る証拠資料の提出がないので、解体費用及び測量・分筆費用については、請求人が譲渡所得計算明細書に記載し申告した解体費用650,000円及び測量・分筆費用153,225円と認定するのが相当であり、請求人の主張は採用することができない。
(ロ)その他の部分は、別表3の「原処分庁主張額」欄のとおりと認められる。
(ハ)よって、請求人の平成7年分の所得税に係る課税長期譲渡所得金額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、19,329,000円となる。
ロ 更正処分の適法性
 したがって、この範囲内でなされた更正処分は適法である。

(4)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、これにより増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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