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(平10.12.22裁決、裁決事例集No.56 235頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社員であったが、平成7年分の所得税の確定申告書(分離課税用)の「特例適用条文」欄に「措法31の3」及び「措法35」と記入の上、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、この申告書を「本件確定申告書」という。)。
 原処分庁は、これに対し、平成9年1月28日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(単位 円)
区分確定申告更正処分等
項目
総所得金額1,593,0331,593,033
内訳
給与所得の金額1,500,0001,500,000
雑所得の金額93,03393,033
分離長期譲渡所得の金額14,451,95243,451,952
所得控除の額1,896,1781,516,178
内訳
配偶者控除の額380,0000
その他の所得控除の額1,516,1781,516,178
課税総所得金額076,000
課税長期譲渡所得金額14,148,00043,451,000
納付すべき税額1,239,40010,867,500
過少申告加算税の額1,375,000

 請求人は、これらの処分を不服として、平成9年2月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月23日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年6月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 なお、原処分のうち下記イ及びロ以外の部分については争わない。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、平成7年9月12日に、P県S市r町15番地60所在の家屋番号r町15番60の1の建物98.54平方メートル(以下「甲建物」という。)及び家屋番号r町15番60の2の建物50.41平方メートル(以下「乙建物」といい、甲建物と併せて「本件建物」という。)並びにその敷地である宅地261.00平方メートル(以下「本件宅地」といい、本件建物と併せて「本件譲渡資産」という。)を有限会社M(平成9年3月2日に株式会社Mに組織変更しており、以下「M社」という。)に52,000,000円で譲渡する(以下「本件譲渡」という。)契約を締結し、平成7年分の譲渡として租税特別措置法(平成8年法律第17号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項及び同法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定による特例(以下、これらの特例を併せて「本件各件各特例」という。)を適用して、法定申告期限までに本件確定申告書を原処分庁に提出した。
 ところが、原処分庁は、本件譲渡に係る譲渡所得の金額及び納付すべき税額の計算上、本件各特例の適用はできないとして、本件更正処分をした。
(ロ)しかしながら、本件譲渡資産は、次のとおり本件各特例に規定する居住用財産(以下「居住用財産」という。)に該当するから、本件各特例の適用を認めるべきである。
A 請求人は、昭和48年9月25日に請求人の父F(以下「F」という。)所有の甲建物を増築し、融資を受ける都合から、増築部分を請求人所有の乙建物として登記して、以後これらの建物を一体として居住の用に供し、また、事実上、父母の生活費を負担していた。
 その後、請求人は、転勤のため昭和50年5月以降本件建物に居住できなくなったが、生計を一にしていたFは死亡した昭和54年9月18日まで、同じく生計を一にしていた請求人の母G(以下「G」という。)は本件譲渡時まで本件建物に引き続き居住していた。
 なお、Fの死亡により、甲建物及び本件宅地は請求人が相続により取得した。
B 租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて(昭和46年8月26日付直資4―5ほか国税庁長官通達。ただし、平成7年12月19日付課資3―4ほかによる改正前のもの。)31の3―6《生計を一にする親族の居住の用に供している家屋》及び35―5《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱いの準用》(以下、これらを併せて「本件通達」という。)は、譲渡した家屋(以下「譲渡家屋」という。)がその所有者の生活の拠点として利用している家屋に該当しない場合であっても、(1)当該所有者が従来その所有者として居住の用に供していた家屋であること及び(2)当該所有者が居住の用に供さなくなった日以後引き続きその生計を一にする親族の居住の用に供している家屋であること等の要件のすべてを満たしているときは、その家屋はその所有者にとって「居住の用に供している家屋」に該当するものとして取り扱うことができる旨定めている。
C 原処分庁は、本件譲渡資産を甲建物、乙建物及び本件宅地に分離してそれぞれごとに本件各特例の適用の有無を判定しているが、請求人及び請求人の親族は本件譲渡資産を一体として居住の用に供していたものであるから、居住用財産の判定を別々に行うのは誤りであって、原処分庁も認めるとおり乙建物が居住用財産に該当する以上、本件譲渡資産全体が本件通達の定めにより居住用財産に該当するというべきである。
 また、本件譲渡資産は請求人の所有していた唯一の不動産であり、これを一括して譲渡したものであるから、本件譲渡については、本件各特例を適用すべきである。
D また、原処分庁は、乙建物は本件各特例が適用される居住用財産に該当すると認めた上で、本件譲渡に係る売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)において、本件宅地の公簿面積と建築確認対象面積とに差があった場合には売買代金の額52,000,000円を本件宅地の公簿面積で除した1平方メートル当たりの金額に相当する金額199,233円により売買代金の額を清算する旨の条項(以下「本件清算条項」という。)があることを理由として本件譲渡資産に係る譲渡対価の全部が本件宅地の対価であると認定し、乙建物については本件各特例の適用がないとしているが、本件清算条項は古い建物を含む不動産取引では慣行上付されているものであって、原処分庁の判断には法律の運用上誤りがあるから、乙建物の譲渡についても本件各特例を適用すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各特例の適用を認めなかった本件更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件譲渡資産の登記簿によれば、次の事実が認められること。
(A)甲建物及び本件宅地は、昭和54年9月18日の相続を原因として平成7年8月24日にFから請求人に所有権移転登記がされている。
(B)本件宅地は、平成7年11月20日の売買を原因として同日に請求人からM社に所有権移転登記がされている。
(C)乙建物は、昭和48年9月25日の新築を原因として同年10月26日にその所有者を請求人とする所有権保存登記がされている。
(D)本件建物は、いずれも平成7年11月30日の取壊しを原因として同年12月6日に登記簿が閉鎖されている。
B 本件売買契約書には、(1)1平方メートル当たりの土地清算単価を199,233円とする本件清算条項及び(2)「買主または買主の指定した者が残代金支払時に本物件につき売主の所有権移転登記の申請手続にかえて建物の滅失登記の申請を希望したときは、売主はこれに協力します」旨の特約(以下「本件登記特約」という。)が付されていること。
C 請求人及び請求人の妻H(以下「H」という。)の昭和45年3月28日以後の住民登録の異動状況は次表のとおりであること。

住所を定めた年月日住所
昭和45年3月28日P県○市30番地
昭和48年7月26日P県S市r町15番地の60
昭和50年8月11日Q県T市x町10番5号
昭和56年3月28日○○県○○市○○町6番3号
昭和57年10月15日○○県○○市○○町13番26号
昭和63年6月20日○○県○○市13番9号○○ビル501
平成3年3月24日P県V市y町12番地1◇◇ビル602
平成7年12月9日P県W市z町110番地5△△ビル613

(ロ)ところで、措置法第31条の3第1項及び同法第35条第1項の規定によれば、本件各特例は、現に居住の用に供している家屋及びその敷地の用に供されている土地(以下「居住の用に供していた家屋等」という。)を譲渡した場合のほか、かつて居住の用に供している家屋で居住の用に供されなくなったもの及びその敷地の用に供されている土地(以下「居住の用に供していた家屋等」という。)をその家屋が居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した場合にも適用されることとされているが、この場合の「居住の用に供していた家屋」とは当該家屋を譲渡所得の帰属者の立場において、すなわちその所有者として居住の用に供していたことを要件とするものと解されることから、かつて当該家屋を居住の用に供していた個人が、当該家屋を居住の用に供さなくなったのちに相続によりその所有権を取得した場合には、本件各特例の適用は認められないというべきである。
 また、本件通達においては、居住の用に供している家屋に該当するための適用要件として、譲渡家屋は「当該所有者が従来その所有者としてその居住の用に供していた家屋であること」と定めていることから、所有者となってから居住の用に供したことがない家屋は本件通達に定める家屋に該当しないものと解される。
(ハ)以上の事実等を総合勘案すると、次のとおり判断される。
A 上記(イ)のCに記載した請求人及びHの住民登録の異動状況によれば、乙建物は、昭和48年7月26日から昭和50年8月11日までの間、請求人がその所有者として居住の用に供していた家屋であると認められるが、甲建物及び本件宅地については、その所有者として居住の用に供した事実はないことから、本件各特例を適用することはできない。
B 請求人は、請求人及び請求人の親族が本件譲渡資産を一体として利用していたものであるから、乙建物が居住用財産に該当する以上、甲建物及び本件宅地を含めた本件譲渡資産全体が本件通達の定めにより居住用財産に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、請求人は、甲建物については所有者として居住の用に供した事実はないと認められるのに対し、乙建物については所有者として居住した事実が認められるのであって、請求人が本件建物を一体として利用していたかどうかはこの判断に影響を及ぼすものではないから、請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、原処分庁が本件譲渡資産の譲渡対価の全部が本件宅地の対価であるとしたのは法律の運用上誤りがあり、乙建物の譲渡についても本件各特例を適用すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件清算条項で定める1平方メートル当たりの土地清算単価199,233円は売買代金52,000,000円を本件宅地の面積261.00平方メートルで除した金額と一致することが認められるから、本件譲渡資産の譲渡対価の全部が本件宅地の対価とみるほかなく、本件各特例の適用があると認められる乙建物の譲渡については譲渡益が発生しないことから所得が発生せず本件各特例を適用する余地がないというべきである。
(ニ)以上に基づいて請求人の本件譲渡に係る譲渡所得の金額及び納付すべき税額を算定すると、それぞれ43,451,952円及び10,867,500円となるから、これらの金額と同額でした本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡に本件各特例を適用することができるか否かであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、F所有の平屋建甲建物の上に独立した乙建物を建築し、昭和48年10月26日に、同年9月25日の新築を原因として請求人を所有者とする所有権保存登記をしたこと。
(ロ)請求人は、昭和54年9月18日に甲建物及び本件宅地をFから相続により取得したこと。
(ハ)請求人は、平成7年9月12日に本件譲渡資産をM社に譲渡する契約を締結したこと。
(ニ)本件売買契約書には、本件清算条項及び本件登記特約が付されていること。
(ホ)本件宅地は、平成7年11月20日付で請求人からM社に所有権移転登記がなされ、また、本件建物は、平成7年12月6日に、同年11月30日付の取壊しを原因とする登記簿の閉鎖がなされていること。
(ヘ)請求人及びその親族の乙建物建築後の本件建物における居住状況は次のとおりであること。
A 請求人は、昭和50年5月の転勤まで居住していたが、それ以降は居住していない。
B Fは、昭和54年9月18日の死亡時まで居住していた。
C Gは、本件譲渡時まで居住していた。
D H、請求人の長男及び次女は、昭和50年8月11日まで居住していたが、それ以降は居住していない。
E 請求人の長女は、昭和51年3月30日まで居住していたが、それ以降は居住していない。
(ト)請求人が本件建物に居住しなくなった昭和50年5月から本件譲渡時まで居住の用に供していた家屋は勤務先の社宅であり、また、請求人は、本件譲渡資産以外に不動産を所有していた事実はないこと。
ロ 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)請求人は、昭和50年5月に転勤のためQ県T市に単身で転居したが、同年8月に、H、長男及び次女を呼び寄せ、住民登録をしたこと。
(ロ)請求人は、昭和50年5月にQ県T市に転居してから本件譲渡時まで本件建物には住んでいなかったこと。
(ハ)請求人は、本件譲渡時はP県V市y町にある社宅に住んでいたこと。
(ニ)平成7年6月の退職後は本件建物に住む予定であったが、改めて本件建物をよく調べてみると、1階部分の床下が白ありに食い荒らされており、他にも大修理の必要な部分が相当あったほか、海岸に近いことから、鉄・アルミ部分の塩害腐食が激しく、大金を投じて修理をしてもトラブルが発生することが予想されたため取りやめたこと。
(ホ)本件譲渡に係る売買代金52,000,000円の決定経緯については、仲介を依頼したK株式会社に任せていたので詳しくは分からないが、売買代金の計算根拠等について担当者から電話で聞いた内容は、要旨次のとおりであること。
A 不動産売買契約において、古い建物の価額を評価しないということは昔から世間一般に行われており、本件清算条項は決して特殊なものではない。
B 本件清算条項が付されている同様の売買契約について、建物の譲渡には所得が生じないとして税務署に申告を否認された話は聞いたことがない。
C M社は建売業者で、契約の際に本件宅地は大きすぎるため分筆して売るしかないと言っていたことから、本件建物をすぐ取り壊したものである。
(ヘ)Gの収入は遺族年金のみで、請求人は生活費として年間に約500,000円から600,000円を送金していたこと。
ハ M社の代表取締役であるL(以下「L」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)本件登記特約は、中古建物として販売予定の場合には付けないが、建物に価値がなく購入後すぐに取り壊す場合には通常する特約であること。
(ロ)本件譲渡資産の購入後における経理処理については、本件宅地は棚卸資産として計上したが、本件建物は資産には計上していないこと。
(ハ)平成7年11月20日に本件譲渡資産の引渡しを受けた後、すぐに本件建物を取り壊し、同月30日に閉鎖登記をしたこと。
(ニ)本件宅地については、購入後二筆に分筆した上、一筆は建物を建ててから販売し、一筆は宅地のまま販売したこと。
ニ 請求人は、甲建物と乙建物とは構造的に一体の建物であり、請求人及びその親族が一体として居住の用に供していたのであるから、本件譲渡資産は全体として居住用財産に該当する旨主張するので検討すると、次のとおりである。
(イ)措置法第31条の3第1項及び同法第35条第1項には、「居住の用に供している家屋等」を譲渡した場合及び「居住の用に供していた家屋等」をその家屋が居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した場合に本件各特例が適用される旨規定されているところ、この「居住の用に供している家屋」とは個人が生活の本拠として利用している家屋をいい、具体的には、当該個人及び配偶者等家族構成員らの日常生活の状況その他の諸事情を総合勘案の上、社会通念に照らして判断すべきものとされている。
 そして、当該家屋の敷地である土地については、災害により滅失した家屋の敷地の用に供されていた場合を除き、当該家屋とともに譲渡した場合に本件各特例の適用があるものとされていることから、家屋の所有者と土地の所有者は同一人であることを前提として本件各特例は規定されているものと解される。
 また、社会の実情として譲渡時まで引き続いて譲渡家屋に居住することが困難な事情が少なからず存するため、「居住の用に供していた家屋等」であっても、居住しなくなった後の一定期間内の譲渡であれば本件各特例が適用されることとされているのであるが、その要件の解釈に当たっては、「居住の用に供している家屋等」と統一的になされるべきことから、いずれも所有者として家屋等を所有している期間において居住の用に供していたことを要するものと解されており、したがって、かつて居住の用に供していた家屋等を居住の用に供しなくなった後、相続により所有権を取得して譲渡した場合には、本件各特例の適用はないというべきである。
 さらに、不動産登記上、一棟の建物に構造上区分された部分で独立して住居等の建物としての用途に供することができるものがある場合には、その部分は一個の建物として取り扱われており、本件譲渡資産の場合、独自に所有権の対象となっている乙建物、甲建物及び本件宅地はそれぞれ独立した不動産というべきであるから、居住用財産に該当するかどうかの判断に当たっては、それぞれの資産ごとに行うのが相当であると認められる。
(ロ)そうすると、上記イの事実によれば、甲建物及び本件宅地については、請求人は所有者として居住の用に供した事実はないのであるから、本件各特例の適用はないというべきである。
(ハ)なお、本件通達によれば、譲渡家屋が「居住の用に供している家屋」に該当しない場合であっても、生計を一にする親族の居住の用に供されているときには、譲渡者が従来その所有者として居住の用に供していた事実等を要件として、「居住の用に供している家屋」に該当するものとして取り扱うことができる旨定められているところであるが、上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件通達の適用が可能な資産は乙建物のみであって、所有者として居住の用に供したことのない甲建物については該当がないというべきである。
(ニ)以上のとおりであるから、本件譲渡資産は全体として居住用財産に該当するとの請求人の主張には理由がないと認められる。
ホ また、請求人は、本件譲渡資産は請求人の所有していた唯一の不動産であり、これを一括して譲渡したものであるから、本件各特例を適用すべきである旨主張するが、所有していた唯一の不動産であるか否かは本件各特例の適用上の要件ではなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ さらに、請求人は、原処分庁が本件譲渡資産に係る譲渡対価の全部が本件宅地の対価であると認定したのは誤りがあり、乙建物の譲渡についても本件各特例を適用すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件建物の構造は木造スレート葺であり、本件譲渡時においては建築時から甲建物は28年4か月、乙建物は21年11か月が経過していること。
(ロ)請求人は、本件建物の平成7年ごろの状況について、上記ロの(ニ)のとおり、傷みが激しいため居住を取りやめた旨答述していること。
(ハ)Lは、上記ハの(イ)及び(ハ)のとおり、本件建物には価値はなく、引渡しを受けた後直ちに取り壊した旨答述していること。
(二)請求人と買主であるM社とで合意された本件清算条項によれば、本件宅地の1平方メートル当たりの土地清算単価199,233円に本件宅地の地積261.00平方メートルを乗じた価額は本件譲渡資産の売買代金52,000,000円に一致すること。
(ホ)本件売買契約書には、本件登記特約のほか、売主は「建物老朽化等のため、本物件の隠れたる瑕疵につき一切の担保責任を負わない」旨の特約が付されていること。
 これらの事実を基に判断すると、本件譲渡資産の譲渡対価はすべて本件宅地の対価と認めるのが相当であり、乙建物については譲渡対価は生じないことから、乙建物が居住用財産に該当するとしても本件各特例を適用する余地はないものといわざるを得ない。
 なお、請求人は、その主張を証するものとして、本件譲渡の仲介を依頼したK株式会社の担当者から聴取した内容の文書を提出したが、個々の譲渡資産に係る譲渡対価は、当該資産の現況及び売買契約の内容等を踏まえ総合的に判断すべきものであって、請求人の主張は認められないというべきである。
ト 以上の結果、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件譲渡に係る譲渡所得の金額及び納付すべき税額の計算上、本件各特例を適用することはできないと認められるから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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