ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.56 >> (平10.12.17裁決、裁決事例集No.56 281頁)

(平10.12.17裁決、裁決事例集No.56 281頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、化粧品容器の卸売業を主として営む同族会社であるが、平成6年8月21日から平成7年8月20日まで、平成7年8月21日から平成8年8月20日まで及び平成8年8月21日から平成9年8月20日までの事業年度(以下、順次「平成7年8月期」、「平成8年8月期」及び「平成9年8月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、T税務署の職員の調査を受け、平成9年8月期の法人税について、別表の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を平成10年5月11日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成10年6月29日付で本件各事業年度の法人税について、別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をしたので、請求人は、同年8月19日に審査請求をした。

(2)原処分の概要

 請求人は、化粧品容器を製造する中空成型機及び化粧品容器の原材料を乾燥させる除湿乾燥機(以下、これらを併せて「本件機械装置」という。)を取得し、事業の用に供したとして本件各事業年度において、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第42条の7《事業基盤強化設備を取得した場合等の特別償却又は法人税額の特別控除》第2項に規定する法人税額の特別控除(以下、この規定による措置を「本件税額控除」という。)を適用したところ、原処分庁は、本件機械装置は請求人の営む卸売業の用には供されず、専ら製造業の用に供されているから、本件税額控除は適用できないとして原処分をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取り消しを求める。
イ 本件更正処分について
 本件機械装置は、卸売業等を営む請求人の事業の用に供しているから、本件更正処分は次のとおり違法、不当である。
(イ)措置法第42条の7の規定は、卸売業の衰退を防ぎ、高価値製品への転換をすすめるとともに、事業基盤の強化を図ることを目的に政策的減税として設けられたものであり、また、租税特別措置法関係通達(法人税編)(昭和50年2月14日付直法2―2(例規)国税庁長官通達、以下「法人税関係通達」という。)においても、その適用範囲を広く定められていることなどを総合勘案すれば、法令の許す限りにおいて広く適用されるべきものである。
 なぜなら、中小企業者が取得する機械装置で製造業以外の用に供される機械装置は、ほとんど存在しないといえるから、卸売業を営む法人には、本件税額控除を適用する余地は全くないということになる。このように、法の存在価値そのものを否定するような法令の適用は適正とはいえないものである。
 すなわち、請求人は、本件機械装置を生産手段として、純然たる卸売商品と全く同種類の製品を製造販売しているのであるから、小規模かつ部分的に製造部門を有しているとしても、これも卸売業の一環としての企業活動としてとらえるべきであり、単に製造部門の存在のみをもって、本件税額控除の適用を認めないのは誤りである。
(ロ)原処分庁は、平成5年にも請求人に対する調査(以下「前回調査」という。)を行い、請求人が平成2年8月21日から平成3年8月20日まで及び平成3年8月21日から平成4年8月20日までの事業年度(以下「前回調査年度」という。)の法人税について、本件税額控除を適用して申告していたところ、その適用を認めている。なお、請求人の経営形態に当時から現在まで特に変わったところはない。
 この件に関して、原処分庁は、請求人が前回調査年度において取得した機械装置が措置法第42条の7第1項第2号に規定する機械及び装置に当該するか否かの判断をしなかった旨主張するが、前回調査を担当した職員は、本件税額控除の適否について、請求人の工場及び倉庫に臨場して実態を十分に把握するとともに、帳簿及び証ひょう書類を確認することによって適正と判断したものである。
 さらに、請求人は、平成7年8月期の確定申告書に、本件税額控除に関する明細書を添付しているにもかかわらず、原処分庁は、これを見過ごし、およそ3年を経過した後に本件税額控除の適否を指摘するのは無用の混乱を生じさせるものであり、善良な納税者の安定した納税義務を極端におびやかすものであるから、このような行き過ぎた行政処分は違法、不当である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は、違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

原処分は、次のとおり適法である。
イ 本件更正処分について
(イ)本件機械装置は、次のとおり、本件税額控除の適用要件を満たしていないから、本件更正処分は適法である。
A 措置法第42条の7第2項は、同条の第1項第1号ないし第7号に掲げるもの(以下「特定事業者」という。)が昭和62年4月1日から平成11年3月31日までの期間(以下「指定期間」という。)内に、その製作の後事業の用に供されたことのない当該各号に定める機械及び装置並びに器具及び備品で政令で定める規模のもの(以下「事業基盤強化設備」という。)を取得し、これを特定事業者の営む事業(以下「特定事業」という。)の用に供した場合に適用される旨規定している。
B 請求人は、主たる事業として化粧品容器の卸売業を行っているが、従たる事業として、小規模ながら本件機械装置を生産手段として、化粧品容器の製造業も営んでいる。
C そうすると、本件機械装置は、請求人の営む特定事業である卸売業の用には供されておらず、専ら製造業の用にのみ供されているのであるから、本件税額控除の適用はできないというべきである。
(ロ)請求人は、前回調査年度に係る本件税額控除の適用は認められたが本件各事業年度に係る適用は認められなかった旨主張するが、原処分庁は、請求人が前回調査年度において取得した機械装置が特定事業の用に供する事業基盤強化設備に該当するか否かの判断をしていないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件機械装置について、本件税額控除の適用があるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 請求人提出資料、原処分庁関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成6年10月に中空成型機(〇〇〇型、製品番号×××)一式を9,900,000円及び平成8年1月に中空成型機(〇〇〇型、製品番号△△)一式を19,500,000円並びに除湿乾燥機一式を2,700,000円でそれぞれ取得し、化粧品容器を製造している。
(ロ)請求人は、前回調査年度においても中空成型機を取得したとして、確定申告書に本件税額控除に関する明細書(別表6(11))を添付して、原処分庁に提出している。
ロ 請求人は、当審判所に対して、除湿乾燥機は中空成型機に投入する原材料を乾燥させるための機械装置であり、中空成型機は原材料のペット粒子を加熱し、これをペレット状にしたものを金型に流し込み、主に化粧品容器を製造するための機械装置であって、中空成型機で製造した化粧品容器は、他の仕入商品と同様に卸売販売(商品総売上高の3%程度)している旨答述している。
ハ ところで、措置法第42条の7第2項は、青色申告書を提出する法人で特定事業者が、指定期間内に、事業基盤強化設備を取得し、これを特定事業の用に供した場合には、供用年度の所得に対する法人税の額からその事業の用に供した当該事業基盤強化設備の基準取得価額の100分の7に相当する金額の合計額を控除する(当該供用年度の法人税の額の100分の20に相当する金額を限度とする。)旨規定しているところ、ここでいう「事業の用に供した」とは、事業を遂行するための方法や手段として使用しているものと解されている。
 これを受けて、法人税関係通達第42条の7―6《事業の判定》では、法人の営む事業が特定事業に該当するかどうかは、おおむね日本標準産業分類(総務庁)の分類を基準として判定すると定められており、日本標準産業分類によれば、卸売業とは、原則として有体的商品を購入して販売する事業所をいうとされ、製造業とは、有機又は無機の物質に物理的、化学的変化を加えて新製品を製造加工し、これを卸売りする事業所をいうとされている。
 また、同条の7―5《主たる事業でない場合の適用》及び7―7《特定事業とその他の事業とに共通して使用される事業基盤強化設備》では、特定事業と特定事業の対象とならない事業を営む法人が事業基盤強化設備を取得し、当該設備を「それぞれの事業に共通して使用している」場合には、当該法人が主たる事業として特定事業を営んでいるか否かを問わず、当該設備の全部を特定事業の用に供したものとすることができる旨定められている。
 そうすると、本件税額控除の適用に当たっては、特定事業者の範囲について卸売業だけに限定しているものではなく、事業基盤強化設備を特定事業の用に供することがその適用要件とされているにすぎないのであり、法人税関係通達においても、その適用範囲を明らかにしているところである。
ニ これを本件についてみると、前記イの(イ)及びロのとおり、請求人は、本件機械装置を生産手段として使用して化粧品容器を製造し、これらを卸売りしているのであるから、本件機械装置は専ら製造業の用に供されていると認められる。
 そうすると、本件機械装置は、特定事業者の営む事業すなわち請求人の営む卸売業の用には供されていないのであるから、請求人は本件各事業年度において本件税額控除を適用することができない。
 なお、請求人は、本件機械装置を生産手段として、製造した製品を卸売りしているのであるから、これも卸売業の一環としての企業活動としてとらえるべきである旨主張する。
 しかしながら、前述のとおり、本件機械装置は、専ら製造業の用に供されているものであって、製造された製品が卸売業のために購入した商品と同様に卸売りされているからといって、卸売業を遂行するための方法や手段として使用されているとはいえないから、このような関係をもって、卸売業の用に供されているとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ホ また、請求人は、原処分庁が前回調査年度に係る本件税額控除の適用を認めながら、本件各事業年度に係る当該適用を認めなかったのは、納税者に無用の混乱を生じさせるものであり、行き過ぎた行政処分である旨主張する。
 ところで、請求人は、前回調査年度に係る本件税額控除については前記イの(ロ)のとおり、確定申告書に本件税額控除に関する明細書を添付して申告しており、原処分庁もこれを是正していないことは事実であるが、原処分庁が本件各事業年度における本件税額控除の適用誤りを指摘し、直ちにこれを是正したことは、税負担の公平を期する上においても当然の措置というべきであって、原処分庁が前回調査年度における本件税額控除の適用誤りを指摘、是正しなかったとしても、本件更正処分に何ら影響するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上のとおり、本件機械装置について、本件税額控除の適用は認められないとした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る