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(平10.11.5裁決、裁決事例集No.56 328頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人K、同L、同M及び同N(以下「請求人ら」という。)は、平成2年10月9日に死亡したH(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税について、申告書に別表1の「当初申告」欄のとおり記載して平成3年6月27日に申告した。
 次いで、請求人らは、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成4年4月22日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年4月1日付で別表1の「更正等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人らは、これらの処分を不服として、平成6年5月26日に異議申立てをした。
 その後、原処分庁は、平成7年4月7日付で無申告加算税の賦課決定処分の全部を取り消し、同日付で別表1の「加算税の賦課決定」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をしたが、請求人らは、当該賦課決定処分に対し、国税通則法(以下「通則法」という。)第77条《不服申立期間》第1項の規定による不服申立期間内に異議申立てをしなかった。
 請求人らは、異議審理庁が平成7年5月16日付で本件更正処分については棄却の異議決定をし、無申告加算税の賦課決定処分については却下の異議決定をしたので、同年6月15日に審査請求をしたが、無申告加算税の賦課決定処分に対する審査請求はこれを取り下げた。
 そこで、本件賦課決定処分についてもあわせ審理する。
 なお、請求人らは、Kを総代として選任し、その旨を平成7年6月15日に届け出た。

(2)原処分の概要

 原処分庁は、被相続人の株式会社J(以下「J社」という。)に対する貸付金456,693,446円は本件相続に係る相続財産(以下「本件相続財産」という。)に該当し、当該貸付金をYが遺贈により取得したとして、Yが本件相続の開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産の価額307,160,878円(以下「本件贈与財産の価額」という。)を本件相続に係る相続税の課税価格に加算し、また、F信用金庫Q支店(以下「F信金」という。)に仮名で預金されていた150,000,000円(以下「本件仮名預金」という。)及びP市R町709番1所在の田279平方メートル(以下「本件土地」という。)は本件相続財産に該当し、これらを請求人らが相続により取得したとして原処分をした。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

原処分は次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)課税価格について
A 本件贈与財産の価額の加算及びJ社に対する貸付金について
(A)原処分庁の調査によれば、(a)昭和62年第×××号遺言公正証書(以下「本件遺言書」という。)には被相続人がその所有する財産全部を包括してYに遺贈する旨記載されていること、(b)被相続人の死亡後、請求人らはYに対して遺留分減殺請求権を行使し、これに基づき平成3年6月17日にYと請求人らとの間で、被相続人の財産目録記載の財産及び同目録に記載のない相続財産全てが請求人らに帰属することをYが異議なく承認する旨記載された合意書(以下「本件合意書」という。)が作成されていること、(c)本件合意書と同日付で請求人らとYの間で作成された覚書(以下「本件覚書」という。)には、本件合意書の「被相続人財産目録に記載のない相続財産」のうちから、被相続人のJ社に対する貸付金は全て除外する旨記載されていること、(d)平成3年5月15日に開催されたJ社の取締役会の決議を基に作成されたと考えられる同年5月31日付の「土地引渡時の仕訳」と題する書面(以下「本件仕訳」という。)の借方には、被相続人からの長期借入金209,978,408円及び短期借入金280,285,545円が記載されていること、(e)本件仕訳の貸方には、請求人らが本件相続財産として申告したP市R町228番及び同町72番所在の各土地(以下「ボウリング場跡地」という。)の持分2分の1並びにP市R町641番1及び同所642番1所在の各土地(以下「R町の土地」といい、ボウリング場跡地と併せて「本件仕訳の土地」という。)の各価額が記載されており、その合計額は148,570,507円であること、(f)F信金の被相続人名義の定期預金3口の合計195,000,000円(以下「195,000,000円の定期預金」という。)のうち、15,000,000円が平成3年1月4日に同信金のJ社名義の普通預金口座に入金され、また、100,000,000円が同年4月5日にJ社の同信金に対する借入金の返済に充てられていることが認められる。
 なお、Yは本件相続開始前3年以内に被相続人から本件贈与財産の価額相当額の財産を贈与されている。
(B)ところで、相続税法第19条《相続開始前三年以内に贈与があった場合の相続税額》は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなす旨規定している。
(C)これを本件についてみると、本件合意書及び本件覚書の締結により、請求人らは被相続人のJ社に対する貸付金を除外した本件相続財産を取得し、Yは被相続人のJ社に対する貸付金を取得したものである。そして、この貸付金の額は、本件仕訳に記載されている長期借入金及び短期借入金の合計額490,263,953円に、195,000,000円の定期預金のうち被相続人からJ社に貸し付けられたものと解される115,000,000円を加算した額から、請求人らが本件相続により取得することになった本件仕訳の土地の価額の合計額148,570,507円を控除した額456,693,446円であると解するのが相当である。そうすると、Yは、相続税法第19条に規定する「相続又は遺贈により財産を取得した者」に該当し、本件相続に係る相続税の課税価格に本件贈与財産の価額が加算されることとなる。
(D)請求人らは、被相続人のJ社に対する長期貸付金及び短期貸付金はいずれも存在しない旨主張するが、(a)本件相続開始前のJ社の平成元年6月1日から平成2年5月31日までの事業年度(以下「平成2年5月期」という。)の法人税の決算書には、被相続人からの借入金として484,562,116円(平成2年5月31日の残高)が計上されていること、(b)本件覚書には、被相続人のJ社に対する貸付金は全て除外する旨記載されており、請求人らとYは当該貸付金が存在していたことを認識していたものと認められること、(c)請求人らは、原処分庁に対し当該貸付金が架空のものであるとする証拠資料等の提出をしていないことなどから、被相続人のJ社に対する貸付金が存在しないとは認められず、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
B 本件仮名預金及び本件土地について
 本件仮名預金及び本件土地は、いずれも本件相続財産を構成し、本件合意書及び本件覚書により請求人らに帰属するものと認められるから、これらを本件相続財産であるとした原処分庁の認定に誤りはない。
(ロ)課税処理の手続について
 請求人らは、申告漏れの財産については、まず包括受遺者であるYに対して課税処分をし、Yから更正の請求があった後に、請求人らに対する課税処分がされるべきであって、そのような手続を経ないでされた本件更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、請求人らは、Yに対する遺留分減殺請求の結果、本件合意書及び本件覚書の作成により遺産分割を行い、本件相続に係る相続税の申告書を適法に原処分庁に提出しているのであるから、原処分庁が、当該申告を基として申告漏れ財産について請求人らに課税処分を行ったとしても何ら違法となるものではない。
(ハ)以上のとおり、Yは、本件相続により被相続人のJ社に対する貸付金456,693,446円を取得したものであるから、本件贈与財産の価額は本件相続に係る相続税の課税価格に加算すべきであり、また、本件仮名預金及び本件土地はいずれも本件相続財産を構成し、請求人らが取得したものと解すべきであるから、これを基にされた本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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(2))請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)課税価格について
A 本件贈与財産の価額の加算及びJ社に対する貸付金について
 被相続人のJ社に対する貸付金は、次のとおり存在せず本件相続財産を構成しないから、これをYが遺贈により取得したと認定した上、相続税法第19条の規定により本件贈与財産の価額を本件相続に係る相続税の課税価格に加算し、また、当該貸付金を本件相続財産に加算した本件更正処分は誤りである。
(A)J社に対する貸付金のうち、長期貸付金は、従来、E株式会社(以下「E社」という。)がボウリング場跡地を購入するに当たり、被相続人からJ社を経てE社に融資された購入資金であり、その後、当該土地がE社からJ社に売却されたことに伴い、被相続人のJ社に対する貸付金に振り替えたものと解されていた。しかし、この土地はE社が銀行借入れを起こして購入したものであり、長期貸付金自体が架空のものであることが判明した。
 したがって、この土地の名義を登記簿上J社に移転し、長期貸付金の貸付先をE社からJ社に振り替えても、それが実態のないものであることに変わりはなく、長期貸付金は存在しないものである。
(B)また、短期貸付金は、被相続人がJ社名義で株式を購入するための帳簿上の処理であり、これにより購入した株式は本件相続開始前にJ社から被相続人に引き渡されたことから、その時点で短期貸付金は消滅したものである。
(C)本件覚書は、上記(A)及び(B)の事実が請求人らの調査によって判明する以前に作成されたものであるところ、これはJ社の平成2年5月期の法人税の決算書に被相続人からの借入金として計上されていた長期借入金及び短期借入金はその発生経過及び使途目的等全体から、被相続人とJ社との間の不動産の仮装譲渡に関するもので、形式上計上されたものと判断されたことから、請求人らとYはこれら被相続人のJ社に対する貸付金が本件相続財産ではないと確認したものであり、当該貸付金をYに取得させることを合意したものではない。
(D)原処分庁は、195,000,000円の定期預金のうち、115,000,000円が被相続人のJ社に対する貸付金である旨認定しているが、195,000,000円の定期預金はその全額が被相続人の生前にYへ贈与されたものであると解されるから、この点に関する原処分庁の認定は誤りである。
B 本件仮名預金及び本件土地について
(A)本件仮名預金は、本件相続開始前からYが通帳、印鑑等を保持するなどして管理支配し、本件相続開始直後の平成2年10月15日に同人によって解約されているものであって、当該預金は、被相続人が生前にYに対し贈与したものであることは明らかである。Y自身も平成6年3月24日に、本件仮名預金については被相続人から贈与されたものとして、修正申告しているところである。
 したがって、本件仮名預金は、本件相続開始時において本件相続財産を構成するものではないから、これを請求人らに帰属する相続財産であるとしてされた本件更正処分は明らかに違法である。
(B)本件土地については、その所有権をめぐって請求人らとJ社との間で係争中であり、いまだその帰属が確定していないものであって、これを本件相続財産であるとされた本件更正処分は違法である。
(ロ)課税処理の手続について
 仮に、Yが相続税法第19条に規定する相続又は遺贈により取得した者に該当するのであれば、請求人らに対して本件更正処分を行うこと自体誤りであるというべきである。
 すなわち、原処分庁は、本件合意書により本件相続財産は全て請求人らに帰属する旨主張するが、本件遺言書により被相続人の全財産がYに包括遺贈された以上、どのような合意書が作成されようとも、民法上請求人らが包括受遺者に対して主張し得る権利は遺留分減殺請求権のみであって、被相続人の財産が相続により請求人らに移転することはあり得ず、相続税法もこのような民法上の制度を踏まえて包括受遺者に対して全額相続税の納税義務を課しているところである。したがって、課税庁が申告漏れの相続財産について相続税を課税する場合には、包括受遺者であるYに対して課税処分がされるべきであって、Yが請求人らの遺留分減殺請求により相続財産を請求人らに移転させた事実に基づき更正の請求をした場合にのみ、課税庁は請求人らに対し修正申告のしょうようを行い、若しくは決定、更正により課税できるものである。
 したがって、上記の手続を経ずに請求人らに対して行われた本件更正処分は違法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算すべきか否か、J社に対する貸付金、本件仮名預金及び本件土地が本件相続財産を構成するか否か、さらには、本件更正処分の手続に違法があるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 課税価格について
(イ)本件贈与財産の価額の加算及びJ社に対する貸付金について
A 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(A)被相続人は、その妻であるVと昭和55年に調停離婚したが、それ以前から被相続人の身の回りの世話をし、昭和60年に被相続人が入院した際にも献身的に同人の看護にあたったYに対し、昭和62年8月11日に、被相続人の所有する財産全部を包括して遺贈する旨の本件遺言書を作成した。なお、本件遺言書には、遺言執行者としてT(以下「本件遺言執行者」という。)が指定されている。
(B)請求人らは、被相続人の死亡後の平成3年2月27日にY及び本件遺言執行者に対し遺留分減殺請求をし、被相続人の遺産の分配や被相続人が代表取締役を務めていたJ社の経営等について話し合いが行われた結果、平成3年6月17日に本件合意書及び本件覚書等が作成された。なお、上記の過程で請求人らの代理人であるW弁護士がYの代理人であるX弁護士及び本件遺言執行者にあてた平成3年4月23日付の提案書には、本件相続財産に被相続人のJ社に対する貸付金(平成2年5月31日時点でJ社の帳簿上に計上されていた長期借入金209,987,408円及び短期借入金274,583,708円の合計額484,562,116円)を計上するべきである旨記載されている。
(C)本件合意書は、Y、請求人ら及び本件遺言執行者との間で作成されたものであり、要旨次のことが記載されている。
a 本件遺言書による包括受遺者Yと請求人らは、請求人らの遺留分減殺請求に基づく双方の紛争に関し、再三協議した結果、以下のとおり円満解決を図ることとなったので本件合意書を作成した。
b 請求人らは、被相続人がY及びその親族に相応の財産を生前譲渡したこと並びにこの財産譲渡が請求人らの遺留分を侵害するものでないことを認め、今後とも何ら異議を述べない。
c Yは、請求人らに対し、本件遺言書による遺贈が減殺された結果、被相続人財産目録記載の財産及び同目録に記載のない相続財産全てが請求人らに帰属することを異議なく承認する。
d J社の経営はYが、E社の経営は請求人らが、それぞれ担当するものとし、両社間の不動産譲渡に関する紛争は、両社間にて別途協議する。
e 以上のほか、Y、本件遺言執行者及び請求人らとの間には何ら債権債務のないことを確認し、今後相互に金銭上、金銭外の請求をしない。
(D)本件覚書は、Y、請求人ら、本件遺言執行者、J社及びE社との間で作成されたものであり、要旨次のことが記載されている。
a Y、請求人ら、本件遺言執行者間の本件合意書について、次のとおり修正する。
b 本件合意書の「被相続人財産目録に記載のない相続財産」のうちから、被相続人のJ社に対する貸付金は全て除外する。
c 本件合意書及び本件覚書等に定めのない事項については、相互に誠意をもって協議解決するものとする。
(E)J社の平成2年5月期の法人税の決算報告書に添付の借入金及び支払利子の内訳書には、被相続人からの借入金が484,562,116円存在する旨記載されている。そして、同報告書の貸借対照表には、長期借入金として459,978,408円、短期借入金として274,583,708円がそれぞれ計上されているところ、上記内訳書によれば、長期借入金のうち250,000,000円は、F信金からの借入金であると解されるので、被相続人からの借入金484,562,116円の内訳は、長期借入金が209,978,408円、短期借入金が274,583,708円である。
(F)J社は、本件相続開始後の平成3年5月15日に取締役会を開催し、被相続人からの借入金490,000,000円について、ボウリング場跡地の持分2分の1、R町の土地ほか2筆の土地、G株式会社ほか11銘柄の有価証券並びにE社に対する貸付金及び未収入金等をもって弁済することを決議している。
(G)本件仕訳には、その借方に被相続人からの長期借入金が209,978,408円、短期借入金が280,285,545円、E社に対する未払金が480,000円であることが記載され、また、その貸方にボウリング場跡地の持分2分の1の価額が132,770,507円、R町の土地の価額が15,800,000円と記載されているほか、G社ほかの有価証券が184,332,504円、E社に対する未収入金が6,551,020円であることなどが記載されている。
(H)ボウリング場跡地は、いずれも昭和53年3月1日の売買を原因としてE社に所有権移転登記がされ、昭和56年3月31日の売買を原因として平成元年7月27日にJ社に所有権移転登記がされて、本件相続開始時点においてはJ社の名義になっていたものである。
 また、R町の土地は、いずれも昭和47年3月14日の売買を原因としてE社に所有権移転登記がされ、昭和56年3月31日の売買を原因として平成元年7月27日にJ社に所有権移転登記がされて、本件相続開始時点においてはJ社の名義になっていたものである。
(I)J社の関与税理士であるZ(以下「Z税理士」という。)は、Yが詐欺の疑いで起訴された事件(P地方裁判所平成8年(*)第**号)における平成9年9月30日の証人尋問で、要旨次のとおり供述している。
a 本件仕訳は、被相続人に係る相続問題の解決に当たり、J社の被相続人に対する借入金残高を全て消すため、本件仕訳のような形で処理するようにとの指示をYから受けて作成した。
b 本件仕訳の作成日付は平成3年5月31日であるが、実際にYから本件仕訳の作成の指示を受けたのは平成3年7月10日以降であり、J社の申告期限に間に合わせるために本件仕訳の作成日を平成3年5月31日とした。
(J)請求人らの代理人であるW弁護士が平成4年12月2日付でYにあてた「税金問題につき至急協議する件について」と題する書面には、要旨次のことが記載されている。
a 最近、課税庁から次の3点につき修正申告を強く求められている。
b その1は、J社に対する貸付金490,263,953円が本件相続財産であり申告漏れとなっているという点。
c その2は、J社に対する貸付金残金115,000,000円(死亡前7日前に解約されたF信金の定期預金195,000,000円の残金)が申告漏れになっている点。
d その3は、本件土地はJ社名義であるが、真実は、被相続人の所有であり、申告漏れになっているという点。
e 本件合意書及び本件覚書を作成したときの協議では第1の貸付金の存在は明らかであったが、相続財産として第2の貸付金と第3の土地の存在は隠されており、協議の対象になっていない。
f このときの協議の内容からすると、第1の貸付金はYに帰属させたことが明らかであるから、Yが遺贈を受けたとして申告すべきである。
g 第2の貸付金と第3の土地は、請求人らに帰属するとして請求人らが修正申告することもやぶさかではないが、その場合、Yに財産の移転をしてもらう必要がある。
(K)請求人らは、本件相続に係る相続税の申告(平成3年6月27日)において、本件仕訳の土地を本件相続財産として申告している。
B 上記各認定事実に基づき、被相続人のJ社に対する貸付金が存在するか否かについて判断するに、J社の平成2年5月期の決算報告書には、被相続人から209,987,408円の長期借入金及び274,583,708円の短期借入金が計上されていたこと、請求人らは、被相続人のJ社に対する貸付金が存在することを前提として、Yや本件遺言執行者と遺産の分配に係る協議をしていたこと、被相続人のJ社に対する貸付金についての合意事項を定めた本件覚書はそのような協議を経て作成されたものであること、J社は、本件相続開始後に、同社の財産をもって被相続人からの借入金490,000,000円を返済する旨の取締役会決議をしていること、当該取締役会決議に則した本件仕訳がJ社の関与税理士によって作成されていること、請求人らは、本件相続開始後に行われた税務調査で被相続人のJ社に対する貸付金490,263,953円が申告漏れになっているとの指摘を受けた際、Yに対し、当該貸付金は本件合意書及び本件覚書によりYに帰属させたものであるから、Yが申告するべきである旨要求していることなどを総合すると、被相続人のJ社に対する貸付金は存在していたものと解するのが相当である。
 そして、その貸付金の額については、本件相続開始前のJ社の平成2年5月期の決算報告書では484,562,116円と記載され、本件相続開始後の平成3年5月31日付の本件仕訳では490,263,953円と記載されているところであるが、平成2年5月31日から本件相続開始時までには4か月以上の期間があり、その残高には変動があり得ること、本件仕訳が被相続人からの借入金を消滅させるために作成されたものであり、本件相続開始時における借入金残高を比較的正確に反映しているものと解されることなどからすると、本件仕訳上に記載されている490,263,953円が被相続人のJ社に対する貸付金の額であると解するのが相当である。
C この点に関して、請求人らは、被相続人のJ社に対する貸付金は存在せず、また、本件覚書は当該貸付金が本件相続財産でないことを確認する趣旨で作成されたものである旨主張するが、上記認定のとおり、被相続人のJ社に対する貸付金は存在していると解するのが相当であって、この認定を覆すに足るような証拠の存在は認められないし、また、本件覚書は、請求人らが貸付金の存在を前提としてYと交渉した結果、作成されたものであって、当該書面の趣旨が請求人ら主張のようなものであると解することはできない。
D 次に、上記貸付金を請求人ら及びYのいずれが取得したのかについて判断する。
 前記各認定事実によれば、Yは本件遺言書により包括遺贈を受けた者であるから、相続人と同一の権利義務を有することになるところ(民法第990条)、請求人らの遺留分減殺請求に基づく、遺産分割協議が行われた結果、本件合意書及び本件覚書等が作成されたものと認められる。
 そして、本件合意書の内容からすれば、Yは、被相続人から生前に贈与された財産を除いて遺贈により取得する財産はなく、請求人らは、被相続人財産目録記載の財産及び同目録に記載のない財産、すなわち、本件相続財産を全て取得することになるが、この内容は本件覚書によって修正され、被相続人のJ社に対する貸付金が請求人らの取得することになった相続財産から除外されることになった結果、当該貸付金についてはYが取得することになったものと解される。
 もっとも、前記各認定事実のとおり、J社は、本件相続開始後に、同社の財産をもって被相続人からの借入金を返済する旨の取締役会決議をし、その決議に則した本件仕訳により被相続人からの借入金を消滅させているところ、当該借入金の返済に充てられた財産には請求人らが本件相続財産であるとして申告している本件仕訳の土地が含まれていること、本件仕訳はYの指示によって本件合意書の作成日以降に作成されたものであり、その内容は請求人らとYとの遺産分割に係る協議を前提としているものと推認されることなどからすると、請求人らとYとの間において、本件合意書及び本件覚書における合意のほかに、被相続人のJ社に対する貸付金のうち本件仕訳の土地の価額に相当する貸付金については、請求人らが取得する旨の合意がされたものと解するのが相当である。
E そうすると、請求人らは、被相続人のJ社に対する貸付金490,263,953円のうち、本件仕訳の土地の価額148,570,507円に相当する貸付金を取得し、Yはこれを控除した341,693,446円に相当する貸付金を取得したものと解すべきこととなる。
F なお、原処分庁は、被相続人のJ社に対する貸付金は、本件仕訳に記載されている借入金490,263,953円に、195,000,000円の定期預金のうち115,000,000円を加算した額から、本件仕訳の土地の価額148,570,507円を控除した額456,693,446円であると認定しているが、次の理由のとおり、115,000,000円を加算することは誤りであり、また、本件仕訳の土地の価額を控除することも誤りであるというべきである。
(A)原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、(a)195,000,000円の定期預金は、その全額が本件相続開始直前の平成2年10月1日に解約され、J社名義の定期預金に振り替えられた後、平成3年1月4日から同年4月5日にかけて、15,000,000円が同信金のJ社名義の普通預金口座に入金され、100,000,000円が同信金のJ社名義の借入金の返済に充てられ、更に80,000,000円が同信金のY名義の定期預金に振り替えられているところ、これら一連の手続はYにより行われたものであること、(b)P地方裁判所平成5年(*)第***号不当利得返還請求事件及び平成6年(*)第***号不当利得返還請求事件に係る平成9年*月*日の判決(以下「本件判決」という。)において、平成2年10月1日にされた195,000,000円の定期預金のJ社への名義変更は、被相続人、Y及びF信金支店長S(以下「S」という。)の三者の合意の下に行われたものであり、被相続人が将来、YあるいはJ社に対して当該預金の返還を求める意思を有していたとは認め難いので、当該名義変更はYあるいはYが主催するJ社に対する贈与の趣旨でされたものと解すべきである旨判断されていること、(c)J社は、法人税の決算において、当該預金の額に相当する受贈益を計上していないことなどの事実が認められ、これらを総合考慮すれば、平成2年10月1日に解約された195,000,000円の定期預金のうち115,000,000円は、名義上J社に振り替えられているものの、実質的には当該預金を管理運用していたYに対して贈与されたものと解するのが相当である。
 したがって、195,000,000円の定期預金のうち115,000,000円を被相続人のJ社に対する貸付金であるとした原処分庁の認定は誤りであるというべきである。
(B)また、原処分庁は、請求人らが本件仕訳の土地を本件相続財産であると申告していることから、当該土地の価額を貸付金から控除したものと解されるが、前記Cで認定したとおり、本件仕訳の土地は被相続人のJ社に対する貸付金を相殺するための勘定科目として本件仕訳の貸方に計上されたものであって、本件仕訳の土地自体が本件相続財産を構成するものではない。
 したがって、被相続人のJ社に対する貸付金の額自体が本件仕訳に係る処理によって変動することはあり得ず、本件仕訳の土地の価額を貸付金から控除する理由はないというべきである。
G ところで、相続税法第19条は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなす旨規定している。
H これを本件についてみると、前記Eのとおり、Yは、被相続人のJ社に対する貸付金のうち341,693,446円を遺贈により取得するのであるから、相続税法第19条の相続又は遺贈により財産を取得した者に該当することになる。
 したがって、請求人らと原処分庁との間で争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる本件贈与財産の価額は、本件相続に係る相続税の課税価格に加算されるべきこととなる。
(ロ)本件仮名預金及び本件土地について
A 本件仮名預金について
(A)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
a 本件仮名預金は、被相続人が生前、架空名義で設定していた500,000,000円の定期預金の一部であるところ、これは本件相続開始後である平成2年10月15日に解約され、100,000,000円は5口の仮名預金として預けられ、残額50,000,000円は現金で出金されている。なお、これら一連の手続はYにより行われている。
b 本件判決は、(a)S及びF信金の職員であるDが被相続人から生前、500,000,000円の仮名預金はYに贈与したということを聞かされ、被相続人が死亡するまでの段階において当該500,000,000円の仮名預金はYに帰属していたと認識している旨供述していること、(b)Yが当該500,000,000円の仮名預金については被相続人から○○建築資金として贈与された旨供述していることなどを根拠として、当該500,000,000円の仮名預金、ひいては、その残金である本件仮名預金については、その時期や目的はともかくとして、遅くとも被相続人の死亡前に同人からYに対し、生前贈与ないしは死因贈与がされたものと認められる旨判断している。
(B)上記各認定事実によれば、本件仮名預金は、被相続人の生前にYに対して贈与されたものと解するのが相当である。
 なお、原処分庁は、本件仮名預金は本件相続財産を構成し、本件合意書及び本件覚書により請求人らが取得すると認定しているが、上記のとおり、当該預金は被相続人の生前にYに対して贈与されたものと解すべきであるから、本件相続財産を構成するものではなく、この点に関する原処分庁の認定は誤りというべきである。
B 本件土地について
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件土地については、J社の帳簿には計上されていないものの、登記簿上はJ社名義となっていること、固定資産税はJ社が負担としてることなどが認められ、これらの事実によれば、特段の事情がない限り、本件土地の所有権はJ社に帰属すると推認するのが相当である。
 原処分庁は、本件土地が本件相続財産を構成するものと認定しているが、本件全資料によっても、かかる事実を認めるに足りる証拠はなく、当該認定は誤りであるといわざるを得ない。
(ハ)以上のとおりであって、請求人らが本件相続により取得した財産の価額は、原処分庁が認定した価額から、本件仮名預金の価額150,000,000円及び本件土地の価額3,715,722円を差し引き、さらに、本件仕訳の土地の相続税評価額139,035,167円に換えて、被相続人のJ社に対する貸付金148,570,507円を本件相続財産として計上したものとなり、請求人ら各人の本件相続に係る課税価格は、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 なお、Yの本件相続に係る課税価格の算定には、遺贈により取得した貸付金の金額に、相続税法第19条の規定により本件相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産の価額を加算すべきところ、Yが平成5年12月1日付の本件相続に係る相続税の申告で本件贈与財産の価額を申告し、平成6年3月24日付の本件相続に係る相続税の修正申告で、前記(イ)のFの(A)において被相続人が生前にYへ贈与したものと認定した195,000,000円の定期預金のうち115,000,000円(本件相続開始後にY名義となった残額80,000,000円は、当審判所の調査によれば、本件贈与財産の価額に含まれていることが認められる。)及び本件仮名預金を遺贈により取得したとして申告していることからすると、本件相続の課税価格に加算される贈与財産の価額は、本件贈与財産の価額、195,000,000円の定期預金のうち115,000,000円及び本件仮名預金の価額の合計額572,160,878円となる。
ロ 課税処理の手続について
(イ)請求人らは、仮にYが相続税法第19条が規定する相続又は遺贈により取得した者に該当するのであれば、申告漏れの相続財産については包括受遺者であるYに対して課税すべきであり、Yが遺留分減殺請求に基づいて相続財産を請求人らに移転させた事実に基づいて更正の請求をした場合にのみ、請求人らに課税処理ができるのであるから、これらの手続を欠いた本件更正処分は誤りである旨主張する。
(ロ)ところで、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》は、相続又は包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、いまだ財産の分割が確定していないときは、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って相続財産を取得したものとしてその課税価格を計算する旨規定している。
(ハ)これを本件についてみると、請求人らは、包括受遺者であるYに対し遺留分減殺請求をし、Yとの間で行われた遺産分割協議の内容に基づき、本件相続に係る相続税の申告書及び修正申告書を適法に原処分庁へ提出しているのであるから、相続税法第55条の適用はなく、原処分庁が本件相続財産については分割が確定したものとして請求人らの申告に係る相続税について本件更正処分を行ったことに何ら違法な点は認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ハ 以上のとおりであって、請求人ら各人の本件相続に係る相続税の納付すべき税額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、これは本件更正処分の金額を下回ることとなるから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。

(2)本件賦課決定処分について

 上記のとおり、本件更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は別表2の「審判所認定額」欄の「納付すべき税額」欄のとおりとなるが、この納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税の額を計算すると別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、これらの金額は本件賦課決定処分の金額を下回るから、本件賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。
(3)原処分その他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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