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(平10.8.6裁決、裁決事例集No.56 389頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和57年7月6日に死亡したM(以下「被相続人」という。)の共同相続人のうちの1人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)の開始に係る相続税について、申告書に次表の「当初申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、この申告を「当初申告」という。)。
 その後、請求人は、平成3年6月27日に次表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、平成5年12月14日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、本件通知処分を不服として、平成6年1月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成6年2月10日付で、棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分に不服があるとして、平成6年3月7日に審査請求をした。
 なお、原処分庁は、平成6年2月15日付で、次表の「減額更正」欄のとおり減額更正処分をした。

(単位 円)
区分項目金額
当初申告課税価格329,541,000
 納付すべき税額147,871,300
更正の請求課税価格234,918,000
 納付すべき税額81,676,400
異議決定課税価格棄却
 納付すべき税額棄却
減額更正課税価格287,546,000
 納付すべき税額123,761,800

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正の請求の期限について
 原処分庁は、本件における相続税法第32条《更正の請求の特則》に規定する「更正の請求のできる事由が生じたことを知った日」は、請求人が出席した上で訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した平成3年2月19日であるから、更正の請求の期間は、平成3年2月19日の翌日から4か月以内である同年6月19日までであるところ、本件更正の請求書は平成3年6月27日に提出されているため、更正の請求期間を経過しているとして、本件通知処分をした。
 しかしながら、本件和解が確定するときは、書記官が和解調書を作成し、署名した日であり、執行力を有するのは和解調書が各当事者に送達された時からである。
 したがって、相続税法第32条に規定する「更正の請求の事由が生じたことを知った日」とは、本件においては、各当事者に対する和解調書の送達日である平成3年3月5日であるから、平成3年6月27日に行った本件更正の請求は適法である。
ロ 更正の請求額について
 本件和解により請求人の相続財産が確定したことによって、請求人の課税価格及び相続税額が過大になっているにもかかわらず、これを認めなかった原処分は違法である。
ハ 法人税と相続税の二重課税について
 原処分庁は、合資会社K(以下「K社」という。)が被相続人から遺贈を受けたとして同社に対して、平成元年7月6日付で法人税の更正処分を行ったほか、同年11月16日付で被相続人Mに対するみなし譲渡に係る所得税の更正処分を行った。
 このことは、原処分庁が法人税と相続税が二重に課税されていることを承知していたことになるのであるが、K社に対する法人税の更正決定をする時点で、請求人に係る相続税を職権で減額更正すべきであり、それをしていないのは原処分庁の職務怠慢である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正の請求の期限について
 本件和解の当事者である請求人及び他の相続人8人(以下「他の相続人」という。)の出頭の下に平成3年2月19日に本件和解が成立していることが認められるから、同日が相続税法第32条にいう当該各号に規定する事由が生じたことを知った日となる。
 そうしてみると、相続税法第32条による更正の請求の期限は、本件和解が成立した日の翌日から4か月以内である平成3年6月19日となる。
 したがって、平成3年6月27日に行われた本件更正の請求は、その期限を経過した不適法なものである。
ロ 法人税と相続税の二重課税について
 請求人は、K社に対する法人税の更正決定をする時点で、職権で相続税の減額更正をすべきであり、それをしていないのは原処分庁の職務怠慢である旨主張するが、この主張は、本件更正の請求の理由には当たらない。

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3 判断

 本件更正の請求が所定の期間内になされたものかどうかについて争いがあるので、以下審理する。
(1)次の各事実については、請求人と原処分庁との間において争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件和解の成立は、相続税法第32条第1号及び第3号に規定する更正の請求ができる事由に該当すること。
ロ 本件和解は、請求人、K社及び他の相続人との間において、平成3年2月19日に請求人、請求人の訴訟代理人、他の相続人及び同人らの訴訟代理人の出頭の下に成立したこと。
ハ 請求人の訴訟代理人は、平成3年2月28日にS地方裁判所に本件和解に係る和解調書正本送達申請書を提出したこと。
ニ 平成3年3月4日付でS地方裁判所において本件和解に係る和解調書の正本の認証がされ、同日、請求人の訴訟代理人が同地方裁判所において当該和解調書正本を受領したこと。
(2)相続税法第32条の規定によれば、既に申告等により確定した課税価格及び相続税額が新たに生じた事由に基づき、過大となったときは、その「事由が生じたことを知った日」の翌日から4か月以内に更正の請求ができる旨規定されているところ、訴訟上の和解及び同条に規定する「事由が生じたことを知った日」については、次のとおりに解するのが相当である。
イ 訴訟上の和解とは、民事訴訟の係属中に裁判所で当事者が訴訟物である権利関係の主張について相互に譲歩することにより、訴訟を終了させることを約する民事訴訟法上の合意をいい、当事者(その代理人を含む。)双方が裁判官の面前で和解条項を確認し、これを双方が受け入れて、初めて成立するものである。
ロ そして、訴訟上の和解が成立すれば、これを調書に記載しなければならず、調書が作成されたときには確定判決と同一の効力が発生するとされているが、調書作成前に当事者が未だ調書が作成されていないことを理由に和解の効力発生前であるとして和解内容を変更することは許されていない。
ハ また、当事者に対する調書の正本の送達が意味をもつのは、具体的給付義務等が記載されているときに和解調書に基づき債権者が強制執行する場合であって、送達の有無は、和解の成立又は効力発生とは無関係といわざるを得ない。
 仮に、和解調書の送達日を相続税法第32条に規定する「事由が生じたことを知った日」とすると、訴訟上の和解については、判決と異なり調書の送達は必要的なものではないから、当事者が裁判所に和解調書の送達を申請しない限り、上記の「事由が生じたことを知った日」がいつまでも到来しないこととなり、不合理である。
ニ 以上のとおり、相続税法第32条に規定する「事由が生じたことを知った日」は、当事者が合意して和解が成立した日と解すべきであり、そうすると、本件においては、平成3年2月19日と解するのが相当であるから、その翌日から4か月を経過した日である同年6月20日を徒過した本件更正の請求は期限後になされた不適法なものである。
(3)以上によれば、請求人のその他の主張について判断するまでもなく、本件通知処分は、相当と認められる。

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