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(平11.1.28裁決、裁決事例集No.57 11頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年分の所得税の期限後申告書及び平成2年分(以下、平成元年分と併せて「各年分」という。)の所得税の確定申告書にそれぞれ別表1の「申告」欄のとおり記載して平成3年3月8日に申告したが、平成2年分の所得税については、給与所得の申告漏れがあったとして、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を同年8月8日に提出した。
 その後、請求人は、平成9年9月10日に原処分庁に対して、本件各年分の所得税について別表1の「更正の請求」欄に記載のとおり、雑所得の金額を零円とする各更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これらに対し、平成10年1月16日付で更正をすべき理由がない旨の各通知処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成10年2月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年4月24日付でいずれも棄却の異議決定をしたので、同月30日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人が各年分の雑所得の金額の計算の基礎に算入した収入27,500,000円(以下「本件収入」という。)の内訳は、別表2に記載のとおりであり、これらは、J株式会社(以下「J社」という。)が同表に掲げる者に対して支払った仲介手数料の一部で、同社の常務取締役であった請求人が同表に掲げる者から謝礼として受領したものである。
 ところが、P税務署長は、J社の法人税の計算に当たり、本件収入に相当する金額の仲介手数料については、損金に算入することができないとして、平成3年2月19日付で同社に対して更正処分(以下「法人税の更正処分」という。)を行っており、本件収入に関して、請求人の所得税とJ社の法人税において二重に課税された状態が続いていた。
ロ この点に関し、L地方裁判所は、平成9年9月4日、J社が法人税の更正処分を不服として提起していた法人税更正処分等取消請求事件(平成6年(行×)第xx〜xx号)の判決(以下「本件判決」という。)において、本件収入がJ社に帰属するものと判示し、本件判決は同月19日に確定した。
 本件判決により、本件収入がJ社に帰属することが明らかにされたことから、請求人は、二重課税の状態を解消するため本件更正の請求をしたものである。
ハ なお、原処分庁は、本件更正の請求は法定の期限を経過してされた不適法なものである旨主張するが、請求人は、当初、平成6年2月又は3月の所得税の確定申告時期に、また、それ以降も数回にわたりQ税務署等に赴いて、更正の請求の手続について相談をしたところ、いずれの時も、J社が提訴している訴訟の判決を待って更正の請求をするようにとの指導を受け、それらの指導に従って本件判決が下るのを待っていたのであるから、仮に期限を徒過したものであるとしても、それはQ税務署の職員等の誤指導が原因となるものであり、期限内の更正の請求として取り扱うべきである。

(2)原処分庁の主張

 本件更正の請求は、次のとおり法令に基づく適法な更正の請求ではなく、それらの請求に対して更正をすべき理由がないとした原処分は、いずれも適法であり、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号は、更正の請求ができる場合について、「その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」と規定しており、この規定にいう判決とは、自己の行った申告に係る課税標準や税額の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決を指すものであるところ、本件判決は、あくまでもJ社に対する法人税の更正処分の適否についての判断が示されたものであり、請求人が申告した課税標準や税額の基礎となった事実についての判断が示されたものではないから、本件判決をもって、本件更正の請求の理由とすることはできない。
ロ また、通則法第23条第2項第2号は、その申告をした者に帰属するものとされていた所得が他の者に帰属するものとして当該他の者に係る国税の更正があったときに、更正の請求をすることができる旨規定しているが、請求人は、J社に対する法人税の更正処分がされた平成3年2月の時点で当該更正処分があった事実を認知し得たと認められるにもかかわらず、同号に規定する更正処分があった日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をしていないから、本件更正の請求は、同号の規定に基づいた適法な更正の請求であるとはいえない。
ハ さらに、通則法第23条第2項第3号及び国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)第6条《更正の請求》は、官公署の許可その他の処分の取消しなど、やむを得ない場合を限定して更正の請求をすることができる旨を規定しているが、本件更正の請求がいずれの場合にも該当しないことは明らかである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件更正の請求に関して、通則法第23条第2項各号の規定の適用があるか否かであるので、以下審理する。
(1)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ P税務署の職員によるJ社の法人税に係る調査は、平成2年10月から平成3年2月に実施され、P税務署長は、同社の法人税の計算に当たり、本件収入に相当する金額の仲介手数料については損金に算入することができないとして、平成3年2月19日付で法人税の更正処分を行った。
ロ 請求人は、J社の法人税に係る調査期間中の平成2年12月3日付で29,100,000円を同社から借用した旨の借用証を同社に差し入れたが、法人税の更正処分が行われた後の平成3年3月8日に、本件収入が請求人に帰属するものとして雑所得として所得税の申告をした。なお、請求人は、当審判所に対して、当該29,100,000円には本件収入に相当する金額が含まれているものとして当該借用証を作成したものの、これはJ社に対する法人税の調査担当者の指示によって作成させられたものであり、請求人の真意に基づくものではなく、本件収入は請求人自身が取引先から謝礼として受け取ったもので、請求人としては同社から借入れをしたという認識はなかったと答述している。
ハ J社は、法人税の更正処分を不服として提訴し、本件判決において、本件収入は別表2に掲げる者からJ社が返還を受けたものと同視できるとして、同社の法人税の計算に当たり、本件収入が同社の収入となると判示された。
(2)ところで、更正の請求について、通則法第23条第1項は、「申告書に記載した納付すべき税額が過大であるときには、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる」旨規定しているが、後発的事由に基づくものとして、通則法第23条第2項は、〔1〕その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決や和解により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき(第1号)、〔2〕その申告に係る課税標準等の計算に当たってその申告をした者に帰属するとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又は決定があったとき(第2号)又は〔3〕その他当該申告書に係る国税の法定申告期限後に生じたやむを得ない理由があるとき(第3号)に、それぞれの事由が生じた日の翌日から起算して2月以内(ただし、この期間の満了する日が通則法第23条第1項に掲げる期間の満了する日以後に到来する場合に限る。)に、更正の請求をすることができる旨を規定している。
(3)これらの規定を、本件更正の請求に照らしてみると、次のとおりである。
イ 通則法第23条第1項の規定による本件各年分の所得税の更正の請求の期限は平成3年3月15日又は平成4年3月16日であるところ、本件各更正の請求は、いずれも平成9年9月10日に行われていることから、同規定の期限を経過した後にされた更正の請求であることは明らかである。
ロ 通則法第23条第2項第1号は、その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに更正の請求ができる旨規定しており、本件判決は本件収入が別表2に掲げる者からJ社が返還を受けたものと同視できるとして、同社の法人税の計算に当たっては本件収入が同社の収入となると判示しているが、同規定における判決とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実の得喪変更に関わる判決を意味するところ、本件判決は法人税の課税標準の適否をめぐってJ社から提訴された法人税更正処分等取消請求事件についてされた判決であり、この判決が、請求人の各年分の雑所得の金額の計算において、その基礎となった本件収入があったという事実そのものを左右するものではないから、本件判決を基として、同規定により更正の請求を行うことはできない。
ハ また、通則法第23条第2項第2号の規定は、申告等の後に、当該所得が他の者に帰属するとした国税の更正処分等があった場合のものであるところ、上記(1)のイ及びロのとおり、請求人は、一旦、本件収入をJ社に帰属することを前提とした借用証を作成しながらも、その後、本件収入が請求人自身のものとした各年分の所得税の期限後申告書又は確定申告書を、法人税の更正処分が行われた後に提出していることから、そもそも請求人は同規定に基づいた更正の請求を行い得ないこととなる。
ニ なお、通則法第23条第2項第3号に規定する「政令で定めるやむを得ない理由」とは、通則法施行令第6条第1項各号に限定して列挙された理由を指すものと解され、当該文言からして、本件更正の請求がこれらの規定のいずれにも該当しないことは明らかである。
 さらに、所得税法第152条《各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例》及び同法153条《前年分の所得税額等の更正等に伴う更正の請求の特例》にも更正の請求ができる場合の規定が存するが、本件更正の請求が、これらの規定のいずれにも該当しないことは明らかである。
ホ したがって、本件更正の請求に基づき、所得税の減額更正を求める請求人の主張には理由がない。
(4)ところで、請求人は、仮に、本件更正の請求が期限を徒過したものであるとしても、それはQ税務署の職員等の誤指導が原因であるから、期限内の請求として取り扱うべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のとおり、本件各年分の所得税について更正の請求ができるのは、通則法第23条第1項の規定による場合のみであり、その期限は平成元年分については平成3年3月15日まで、平成2年分については平成4年3月16日までであるところ、請求人の主張によると、請求人が最初にQ税務署で更正の請求の手続について相談したのは、平成6年2月又は3月であるとのことであるから、既にこれらの更正の請求ができる期限を経過した後のことであり、仮に請求人の主張するような誤指導があったとしても、そのことにより、本件更正の請求が期限徒過に陥ったとはいえないから、この点に関する請求人の主張は理由がない。
(5)以上のとおり、本件更正の請求は、いずれも不適法であり、本件更正の請求に対し更正をすべき理由がないとした原処分は相当である。

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