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(平11.3.25裁決、裁決事例集No.57 21頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年12月12日に死亡したFの相続人であるが、この相続開始に係る相続税について、納付すべき税額を627,207,600円と記載した申告書を法定申告期限までに提出し、また、同時にその納付すべき税額のうち現金で納付すべき税額40,000,000円を除く587,207,600円について別表1の「申請」欄のとおりの相続税延納申請書を提出したところ、原処分庁は、これを平成5年5月21日付で同表の「許可」欄のとおり許可した。
ロ 次いで、請求人は、平成6年9月5日に租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第70条の10《相続税の延納の許可を受けた個人の延納税額についての物納等の特例》(以下、この規定による特別措置を「特例物納」という。)第3項の規定に基づき、同日現在の延納税額のうち498,935,152円について特例物納の許可を求める別表2のとおりの相続税特例物納申請書を提出した。
ハ 原処分庁は、平成7年4月5日付で請求人が平成5年6月4日にした相続税に係る更正の請求に基づき、納付すべき税額を135,628,400円減額する更正処分をするとともに、減少する税額については、まず、請求人が平成6年4月11日にした相続税の修正申告により新たに納付すべきこととなった相続税28,008,800円に充当し、その残額につき請求人の指定により、特例物納申請後の分納税額42,904,848円を零円に、特例物納申請税額498,935,152円を434,220,400円に、それぞれ減額する処理をし、併せて分納期限が平成5年6月10日に到来している分納税額(以下「第1回分納税額」という。)29,367,600円に係る利子税27,598,400円を21,223,700円に訂正する処理をした。
ニ その後、請求人が平成9年7月8日に別表3のとおり特例物納申請税額の一部を取り下げる旨の相続税特例物納申請取下書(以下「本件一部取下書」という。)を提出したのを受けて、原処分庁は、国税通則法(以下「通則法」という。)第57条《充当》第1項の規定に基づき平成9年9月19日付で別表4のとおりの充当処分(以下「本件充当処分」という。)をするとともに「特例物納申請取下げに伴う利子税のお知らせ」と題する文書(以下「本件お知らせ」という。)を請求人に送付した。
ホ 請求人は、本件充当処分及び本件お知らせを不服として、平成9年10月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成10年1月12日に棄却の異議決定をしたので、同月30日に審査請求をした。
 なお、原処分庁は、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成6年10月21日にM国税局長に相続税の特例物納申請税額について徴収の引継ぎをした。

(2)原処分の概要

 原処分庁は、請求人が相続税として平成8年4月15日に納付した20,000,000円は、過誤納金であるとして、第1回分納税額に係る利子税の一部の591,300円に、また、その残額の19,408,700円を納期限が平成6年6月10日の分納税額(以下「第2回分納税額」という。)の9,760,248円及び納期限が平成7年6月12日の分納税額(以下「第3回分納税額」という。)の9,648,452円に、さらに請求人が平成7年分の所得税の修正申告に係る過少申告加算税(以下「本件過少申告加算税」という。)として平成9年7月15日に納付した19,000円は過誤納金であるとして、第2回分納税額に係る利子税2,238,300円の一部に、それぞれ充当するとともに本件お知らせを請求人に送付した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法、不当であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 本件充当処分について
 請求人は、平成8年12月頃にM国税局の担当官から本件一部取下書の提出のしょうようを受けたが、そのときは当該取下書に記載された未納税額414,811,700円が請求人が既に本税として納付した税額126,000,000円を控除した後の残額と合致しなかったので、当該取下書を提出をしなかった。しかしながら、原処分庁は、当該取下書を提出していない時期に請求人が相続税の本税として納付した額を、請求人に全く連絡することもなく、相続税に係る利子税に充当したのであるから、本件充当処分は違法である。
ロ 本件お知らせについて
 上記イのとおり本件充当処分が違法であるから、それに伴う本件お知らせは不当である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、本件充当処分の審査請求を棄却するとの裁決を、また、本件お知らせについては、審査請求を却下するとの裁決を求める。
イ 本件充当処分について
 本件充当処分は、次のとおり通則法第57条の規定に基づき、過誤納金を国税の未納税額に充当したもので適法である。
(イ)請求人が平成8年4月15日納付した20,000,000円を利子税591,300円に充当したのは、当該利子税は、本件一部取下書を提出したことに基づいて生じた利子税でなく、特例物納申請前の第1回分納税額に係る利子税の未納税額であり、既に納期限が到来していることから、過誤納金の20,000,000円のうち591,300円を当該利子税に充当したものである。
(ロ)また、上記(イ)の充当後の過誤納金19,408,700円を第2回及び第3回の分納税額に充当したのは、請求人が平成9年7月8日にM国税局長に対して本件一部取下書を提出した結果、特例物納申請取下税額に相当する税額が延納となることから、第2回及び第3回の分納税額としてそれぞれ9,760,248円及び9,648,452円が生じ、これらの分納税額が未納税額であったことから19,408,700円を当該分納税額に充当したものである。
(ハ)なお、請求人が平成9年7月15日に納付した本件過少申告加算税19,000円を利子税19,000円に充当したのは、請求人が本件一部取下書を提出したことに伴い、上記(ロ)のとおり第2回及び第3回の分納税額が生じ、これに伴って生じた第2回及び第3回分納税額に係る利子税が未納であったことから、平成8年12月15日と平成9年7月15日に二重納付されたことにより過誤納金となった本件過少申告加算税19,000円を、第2回分納税額に係る利子税の一部に充当したものである。
ロ 本件お知らせについて
 不服申立ての対象となる処分は、行政庁の公権力の行使に当たる行為であることを要するところ、本件お知らせは、単に通知書を送付したにすぎず、不服申立ての対象となる処分に該当しないので、本件お知らせに対する審査請求は、不適法なものである。

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3 判断

(1)本件充当処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、相続税を平成4年6月12日に40,000,000円、平成5年6月4日に30,000,000円、平成6年5月31日に16,000,000円、平成7年5月9日に20,000,000円及び平成8年4月15日に20,000,000円をそれぞれ納付し、原処分庁は、上記の納付額を別表5のとおり収納の処理をした。
(ロ)請求人は、本件過少申告加算税19,000円を平成8年12月18日及び平成9年7月15日に重複し納付した。
(ハ)請求人は、本件一部取下書を平成9年7月8日にM国税局長に提出した。
(ニ)原処分庁は、別表4のとおり本件充当処分を行ない、本件お知らせとともに、平成9年9月19日付で「国税還付金振込及び充当通知書」(以下「本件充当通知書」という。)により、上記充当内容を請求人に通知した。
ロ ところで、延納に係る国税の利子税の納付について、通則法第64条第1項は、延納に係る国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところにより、当該国税にあわせて利子税を納付しなければならない旨を、相続税法第52条《利子税》第1項は、延納の許可を受けた者は、分納税額を納付する場合においては、所定の計算方法により算出した金額に相当する利子税をあわせて納付しなれけばならない旨をそれぞれ規定している。
 また、税務署長がする充当について、通則法第57条第1項は、税務署長は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならないとし、この場合において、その国税のうちに利子税があるときは、その還付金等は、まず利子税の計算の基礎となる国税に充当しなれればならない旨を、同条第2項は、前項の規定による充当があった場合には、政令で定める充当をするに適することとなった時に、その充当をした還付金等に相当する額の国税の納付があったものとみなす旨を、国税通則法施行令第23条《還付金等の充当適状》第1項では、そのただし書きにおいて、通則法第57条第2項に規定する政令で定める充当をするのに適することとなった時とは、相続税法の規定による延納に係る国税につき、当該延納の申請があった日以後に生じた還付金等を充当するときは、当該延納に係る期限と当該還付金等が生じた時とのいずれか遅い日とする旨をそれぞれ規定している。
 そして、特例物納の申請をして、その許可を受けようとする者が特例物納の申請を取り下げた場合には、特例物納の申請前に許可を受けた延納の条件が継続すると解されるが、措置法第70条の10第8項において、特例物納の取下げの申請書の提出があった場合において、特例物納申請税額のうち、平成6年4月1日から当該申請を取り下げた日までの間に分納期限が到来する分納税額の納期限は、当該申請を取り下げた日の翌日から起算して1月を経過する日まで延長する旨規定している。
ハ これを充当処分ごとに判断すると、次のとおりとなる。
(イ)原処分庁が、平成8年4月15日に請求人が相続税として納付した20,000,000円を、第1回分納税額に係る利子税の未納税額591,300円に充当した処分について検討する。
 平成8年4月15日の請求人の相続税本税の未納税額は、別表5のとおり特例物納申請税額以外にないから、請求人が納付した20,000,000円は過誤納金となり、原処分庁が当該納付金額を過誤納金とした処理は相当と認められる。
 ところで、相続税の延納の許可を受けた者が分納税額を納付する場合には、利子税をあわせて納付しなければならないところ、請求人は、別表5のとおり本件一部取下書提出前の平成5年6月10日に納期限の到来した第1回分納税額に係る利子税の残額591,300円が未納となっているから、原処分庁は、過誤納金の20,000,000円を当該未納税額に充当処分をしなければならないこととなる。この場合の充当をするに適することとなった時(以下「充当適状日」という。)は、上記ロの規定のとおり延納に係る期限と還付金等の生じた時とのいずれか遅い日であるから、当該過誤納金の生じた平成8年4月15日が遅い日に当たり、原処分庁は、同日を充当適状日として充当処分をすべきこととなる。
 そうすると、原処分庁は、当該過誤納金20,000,000円を、法令の規定により平成8年4月15日を充当適状日として請求人に対する還付金に代えて当該利子税の未納税額に充当し、その充当の内容を本件充当通知書で請求人に通知しているから、当該充当処分は適法である。
(ロ)次に、原処分庁が、当該過誤納金20,000,000円のうち上記充当処分後の残額19,408,700円を第2回分納税額9,760,248円及び第3回分納税額9,648,452円に充当処分したことについて検討する。
 請求人が本件一部取下書を提出したことから、第2回分納税額の納期限(当初納期限平成6年6月10日)及び第3回分納税額の納期限(当初納期限平成7年6月12日)は、上記ロのとおり措置法第70条の10第8項の規定により本件一部取下書を提出した平成9年7月8日の翌日から起算して1月を経過する日まで延長され、いずれも平成9年8月8日となる。
 そうすると、当該過誤納金の残額19,408,700円を第2回分納税額9,760,248円及び第3回分納税額9,648,452円に充当する場合の充当適状日は、当該過誤納金の生じた平成8年4月15日と当該分納税額の納期限である平成9年8月8日のいずれか遅い日であるから、平成9年8月8日となり、原処分庁が平成8年4月15日を充当適状日とした当該充当処分は、充当適状日が法令の規定のとおり処理されていないこととなり、違法であるから取り消すことが相当である。
(ハ)さらに、原処分庁が、本件過少申告加算税19,000円を第2回分納税額に係る利子税の一部に充当処分したことについて検討する。
 本件過少申告加算税は、上記イの(ロ)のとおり二重納付されていることから、原処分庁が、請求人が平成9年7月15日に納付した本件過少申告加算税19,000円を、過誤納金と処理したのは相当と認められる。
 一方、上記ロのとおり延納に係る国税の納税者は分納税額にあわせて利子税を納付しなければならないから、請求人は、第2回分納税額にあわせて第2回分納税額に係る利子税を納付しなければならないところ、当該分納税額の納期限が、上記(ロ)で審理したように平成9年8月8日であるから、当該利子税も同様に同日が納期限となる。そうすると、本件過少申告加算税の過誤納金を第2回分納税額に係る利子税に充当する場合、その充当適状日は、過誤納金の生じた日と当該分納税額の納期限のいずれか遅い日であるから、平成9年8月8日となる。
 したがって、原処分庁が平成9年7月15日を充当適状日とした当該充当処分についても、充当適状日が法令の規定どおりにされていないから違法であり、当該充当処分は取り消すことが相当である。
(ニ)なお、請求人は、原処分庁が請求人に全く連絡もなく本税として納付したものを利子税に充当したのであるから本件充当処分は違法である旨主張するが、上記のとおり税務署長は、還付金等があり、かつ、その還付を受ける者に未納の国税がある場合には、還付金等を法令の規定により未納の国税に充当処分をすることが義務付けられており、また、延納に係る国税の納税者は当該国税にあわせて利子税を納付しなければならないところ、原処分庁は、請求人が相続税にあわせて利子税を納付しなかったことから、請求人が相続税として納付したことにより生じた過誤納金を法令の規定により利子税に充当したものであり、また、充当処分前に請求人に連絡すべきとする法令の規定もないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(2)本件お知らせについて

 不服申立ての対象となる処分は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項の規定により、「国税に関する法律に基づく処分」に限られているところ、利子税は、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項の規定により、特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であって、その確定に際し、国税に関する法律に基づく処分は何らされておらず、本件お知らせは、充当後の利子税の未納税額を明示し利子税の納付義務が存する旨を通知した文書にすぎないから、通則法第75条第1項に規定する処分に当たらないというべきである。
 そうすると、本件お知らせに対する審査請求は、その対象となる処分が存在しないにもかかわらずされた不適法なものということとなる。
 もっとも、本件お知らせは、充当適状日を前記(1)のハの(ロ)及び(ハ)のとおり誤った、違法な充当処分により算定された利子税の未納税額を通知した不適切なものといわざるを得ない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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