ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.57 >> (平11.3.19裁決、裁決事例集No.57 50頁)

(平11.3.19裁決、裁決事例集No.57 50頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件の争点は、法定申告期限から3年を経過してされた更正処分及び重加算税の賦課決定処分の適否にある。

(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成4年分及び平成5年分(以下、これら2年分を併せて「前2年分」という。)並びに平成6年分及び平成7年分(以下、これら2年分を併せて「後2年分」といい、「前2年分」と併せて「各年分」という。)の所得税について、青色申告書以外の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した上、これをいずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 次いで、請求人は、不動産所得について原処分庁所属職員の調査を受け、後2年分について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書をいずれも平成10年2月2日に原処分庁に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成10年2月26日付で、修正申告により納付すべき税額を基礎として、別表1の「原処分」欄記載のとおり、後2年分の重加算税の賦課決定処分をするとともに、前2年分の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下、各年分の重加算税の賦課決定処分を併せて「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、上記の原処分について平成10年3月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年6月30日付でこれを棄却する旨の異議決定をしたので、同年7月29日に審査請求をし、原処分全部の取消しを求めた。

トップに戻る

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、税理士であるH(以下「H税理士」という。)が作成した各年分の本件確定申告書にいずれも署名、押印している。
ロ 請求人は、毎年、確定申告時期に各年分の本件確定申告書及び収支内訳書(不動産所得用)(以下「内訳書」という。)の控えを、H税理士から渡されて保管していた。
ハ 請求人が保管していた、各不動産貸付先との間の不動産賃貸借契約書によると、不動産賃貸借契約書を作成した各不動産賃貸借契約の締結日及び賃貸料は、次表のとおりである。

ニ 上記ハの各不動産賃貸借契約書には、その賃貸料について、3年毎に3パーセントずつ値上げする旨の記載がある。
ホ 請求人の各年分の不動産賃貸料収入は、すべてP信用金庫R支店の請求人名義の普通預金口座(以下「本件預金」という。)に振込入金されている。
ヘ 請求人の各年分の本件確定申告書には、いずれも不動産所得の総収入金額は840,000円、不動産所得の金額は740,000円と記載されている。
ト 請求人の各年分の内訳書には、いずれも収入先はK社、収入金額は840,000円、所得金額は740,000円と記載されている。
チ 請求人の平成3年分の本件確定申告書には、上記へと同様に不動産所得の総収入金額は840,000円、不動産所得の金額は740,000円と記載されていた。
リ 請求人の各年分の真実の不動産所得の総収入金額は、次表のとおりである。

ヌ 請求人の前2年分の不動産所得の金額は、平成4年分が5,451,741円、平成5年分が6,191,961円である。

トップに戻る

2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 申告納税制度の下における所得税の確定申告は、本来、納税者自身の判断と責任においてなされるべきであるから、請求人が確定申告書の作成を税理士に依頼するのであれば、不動産所得の金額を算定するのに必要な不動産賃貸借契約書や領収書等の証拠書類を自主的に税理士に提示するか、自ら責任をもって所得計算を行った上でその結果を税理士に報告すべきである。
ロ ところが、請求人は、自ら管理していた本件預金の入金状況により、各年分の不動産所得の総収入金額が本件確定申告書に記載されている収入金額840,000円をはるかに上回ることを十分認識していたにもかかわらず、各年分の確定申告に当たり、H税理士に対し、K社以外の収入先及び収入金額について明らかにせず、また、K社からの収入金額も偽って月額70,000円と説明し、さらに、H税理士から要請があったにもかかわらず、K社との不動産賃貸借契約書等を提示せず、収入金額の大部分を隠ぺいして、不動産所得の金額を過少に申告していたことが認められる。
ハ 国税通則法(以下「通則法」という。)第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項は、偽りその他不正の行為があった場合は、法定申告期限から7年を経過する日まで更正することができる旨規定しているところ、上記ロの請求人の行為は、偽りその他不正の行為に該当するので、本件更正処分は正当である。
ニ また、上記ロの請求人の行為は、通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」にも該当するので、本件賦課決定処分は正当である。

(2)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人には脱税の意思はなく、請求人が偽りその他不正の行為をした事実もない。
(ロ)請求人は、本件確定申告書の作成をH税理士に依頼し、これを原処分庁に提出したが、その際、H税理士に脱税を依頼したことも、所得を故意に隠したこともない。
(ハ)原処分庁は、H税理士から不動産賃貸借契約書や領収書の提示を求められたにもかかわらず、請求人がこれを提出しなかったと主張しているが、そのような事実はない。
(ニ)請求人は、前2年分の本件確定申告書をいずれも法定申告期限までに原処分庁に提出しており、原処分庁が本件更正処分をした平成10年2月26日は、法定申告期限から3年を経過している。
(ホ)したがって、請求人は、偽りその他不正の行為に基づき税額を過少に記載した確定申告書を提出したものではないから、原処分庁が、通則法第70条第5項の規定を適用して、法定申告期限から3年経過後に本件更正処分をしたことは違法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、請求人は、通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装したことはなく、したがって、隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときには該当しないので、本件賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

トップに戻る

3 判断

(1)更正処分について

 請求人が通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為により、一部の税額を免れていたか否かについて、以下審理する。
イ 認定事実
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件預金を管理し、本件預金からの現金の払戻しを自ら行っていた。
B 請求人による本件預金からの現金の払戻し回数及びその金額は、平成4年中に14回6,000,000円、平成5年中に24回12,407,200円、平成6年中に24回10,981,200円及び平成7年中に17回7,143,700円である。
C 請求人は、各年分の確定申告に際し、不動産賃貸借契約書や領収書等の書類をH税理士に提示していない。
D 請求人の各年分の本件確定申告書に記載した不動産所得の総収入金額及び所得金額を本来申告すべき金額と比べると、別表2及び別表3のとおりである。
(ロ)H税理士は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
A 請求人の確定申告書を作成したのは、各年分のみであり平成3年分以前は関与していない。
B 請求人との関係は、年に1回確定申告書を作成するだけのものである。
C 各年分の本件確定申告書の署名押印及び各年分の内訳書の押印は請求人が行った。
D 各年分の本件確定申告書に記載した不動産所得の総収入金額及び所得金額は、請求人に確認した金額である。
 平成4年分の不動産所得の総収入金額及び所得金額については、請求人宅で、同席していたSから「前年と同様だ」との発言があったため、同じく同席していたTが持っていた請求人の前年分の確定申告書の作成の基となった資料から、収入金額はK社からの月70,000円だけであり、固定資産税が年間100,000円であることを確認した。その時、請求人はその内容に異議を唱えなかったので、その内容を承知しているものと理解した。
 平成5年分以降の不動産所得の総収入金額及び所得金額についても、請求人から「前年と同じで変更はない」と言われた。
E 各年分の本件確定申告書を作成する際、請求人に不動産所得に関する不動産賃貸借契約書や領収書等の資料の提示を求めたが、いずれの年分についてもその提示はなかった。
F 各年分の本件確定申告書及び内訳書の控えは、請求人が確定申告書に署名押印する際に請求人に渡した。
G 請求人に最初に会った年に、不動産所得の計算方法について請求人に説明をしたが、請求人がどの程度理解したかは分からない。
(ハ)請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
A 請求人は、不動産賃貸借契約書の内容を承知し、各貸付先に各物件を貸し付けたという事実も承知していた。また、契約書を作成していないSに対する不動産の貸付けについても貸付けの事実は承知していた。
B 本件預金の入出金の内容については、その現金の払戻しを請求人自身が行っていたので承知していた。また、払い戻した現金は、生活費や借入金の返済に充てていた。
C H税理士からどこからいくらの収入があるかについて質問を受けたが、請求人が答える前に、同席していたSが、不動産所得の総収入金額はK社からの月額70,000円だけである旨発言した。請求人はその発言内容を特に否定しなかった。
D 請求人は、平成5年分以降の各年分の確定申告に際して、H税理士に対し、不動産所得は前年と同様である旨申し述べた。
E K社以外の収入先についても確定申告されていると思っていた。
F H税理士から不動産賃貸借契約書、領収書及び預金通帳の提示要求はなかった。
G H税理士からは、本件確定申告書の内容の説明はなかった。
ロ ところで、通則法第70条第1項は、更正は、国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができない旨規定し、同条第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税についての更正は、同条第1項の規定にかかわらず、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
 ここでいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為を行うことをいうのであって、単なる不申告や過少申告行為は含まれないが、名義を仮装、二重帳簿を作成する等して法定の申告期限内に申告せず、あるいは税務調査に際し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作出した虚偽の事実を呈示したりして正当に納付すべき税額を過少にしてその差額を免れた場合はもちろん、真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、当初から所得を過少に申告する意図の下、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした上、所得金額をことさら過少にした内容虚偽の確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足額を免れたような場合は、これに該当するものと解するのが相当である。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)まず、請求人が、上記イの(ハ)のAのとおり、各年分の不動産所得を生ずべき各貸付先に対する不動産貸付けの内容を認識し、上記1の(3)のホ並びに上記イの(イ)のA及びBのとおり、その不動産所得の総収入金額のすべてが入金されている本件預金を自ら管理等していたことからすれば、請求人は、その総収入金額のすべてを把握し、各年分の確定申告に当たり多額の不動産所得を申告すべきことを認識していたものと認められる。
(ロ)それに加えて、請求人が、上記1の(3)のイ及びロのとおり、各年分の本件確定申告書に自ら署名押印し、毎年の確定申告時期にH税理士からその控え及び内訳書の控えを受領していたことからすれば、請求人は当該確定申告書の不動産所得の金額が真実の所得金額よりも過少であることを認識していたものと認められる。
(ハ)次に、請求人が、上記(イ)のとおり、多額の不動産所得を申告すべきことを認識しながら、上記イの(ロ)のD並びに同(ハ)のC及びDのとおり、H税理士が初めて請求人の申告手続を行った平成4年分の確定申告書を作成する際、不動産所得の金額等を尋ねた同税理士に対して、同席したSが前年と同様である旨の内容虚偽の説明をしたのに、あえてこれを否定せず、多額の不動産所得のあることを同税理士に対して秘匿し、さらにその後も、平成5年分から平成7年分の3か年分の確定申告に当たって、自ら同税理士に対し、不動産所得は前年と同様である旨の説明を続けていたことからすれば、請求人は当初から不動産所得をことさら過少に申告することを意図していたものと推認できる。
(ニ)この点、請求人は、上記イの(ハ)のEのとおり、K社以外の収入先についても確定申告されていると思っていた旨答述するが、上記(ハ)の認定事実に加え、上記イの(ロ)のBのとおり、請求人とH税理士とは年に1回確定申告書を作成するだけの関係であるところ、上記イの(イ)のCのとおり、請求人が、各年分の確定申告に際し、不動産所得の総収入金額及び所得金額の算定に必要な不動産賃貸借契約書や領収書等の書類をH税理士に提示していないことからすれば、同税理士において、請求人の真実の不動産所得の総収入金額及び所得金額を知る由もないというべきで、そのようなことは請求人も当然に承知していたと考えられるから、この点に関する答述は信用できない。
(ホ)また、上記イの(ロ)のEのとおり、請求人は、各年分の本件確定申告書を作成する際、H税理士から不動産所得の金額の算定に必要な不動産賃貸借契約書及び領収書等の提示を求められたにもかかわらずこれを提示しなかったことが認められるから、これに反する請求人の答述は信用できない。
(ヘ)そうすると、請求人は、平成4年分から平成7年分の4か年分にわたって、所得税の確定申告をするに当たり、多額の不動産所得を申告すべきことを認識しながら、各年分の確定申告書の作成をH税理士に依頼した際、同税理士から、その都度、不動産所得の金額等について質問を受け、資料の提示を求められたにもかかわらず、当初からこれをことさら過少に申告する意図の下、多額の不動産所得のあることを同税理士に対して秘匿し、何らの資料をも提示せず、そのため同税理士が請求人の各年分の不動産所得の総収入金額をK社からの年間840,000円のみであると思い込んでいることを奇貨として、同税理士に極めて過少な申告を記載した確定申告書を作成させて提出し、よって、上記イの(イ)のDの別表3のとおり、真実の所得金額の大部分を申告しなかったものと認められる。
 そして、請求人のこのような行為は、上記ロの、納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、当初から所得を過少に申告する意図の下、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした上、所得金額をことさら過少にした内容虚偽の確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足額を免れた場合として通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為をした場合に当たるというべきである。
 したがって、本件については、更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日までは適法に更正をすることができたものである。なお、請求人は、脱税の意思はなく、また、H税理士に脱税を依頼した事実も、偽りその他不正の行為をした事実もない旨主張するが、上記のとおり、請求人は当初から所得を過少に申告することを意図していたものと認められ、また、積極的に脱税の依頼をしていないとしても、それと同等の評価を受けるべき行為をしたもので、それは、偽りその他不正の行為に当たるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、原処分庁が本件更正処分をしたことは適法である。

トップに戻る

(2)重加算税の賦課決定処分について

イ 通則法第68条第1項は、納税者が国税の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定している。
 この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて、隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものであるから、重加算税を課するためには、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものとされている。
 しかし、重加算税制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課するためには、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした上、その意図に基づきことさら過少な申告をしたような場合には、重加算税の要件が満たされるものと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、上記(1)のハで認定したとおり、請求人は、当初から不動産所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした上、その意図に基づきことさら過少な申告をしたものと認められ、かかる請求人の行為が所得税の税額計算の基礎となる所得の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づいて納税申告書を提出していた場合に該当することは明らかであるから、原処分庁が通則法第68条第1項の規定に基づいて行った各年分の本件賦課決定処分はいずれも適法である。
 そうすると、この点に関する請求人の主張にも理由がない。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る