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(平11.3.23裁決、裁決事例集No.57 75頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産の賃貸を行っている者であるが、平成4年分の所得税について、租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第33条《収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例》第2項の規定(以下、当該規定を「本件法規定」といい、本件法規定による特別措置を「本件特例」という。)を適用し、確定申告書(分離課税用)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成6年12月13日に提出した。
 その後、請求人は、別表1の「更正の請求」欄のとおり記載して、平成7年9月8日に更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、平成9年3月13日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成9年5月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は平成9年7月8日付で別表1の「異議決定」欄のとおり原処分の一部を取り消す異議決定をし、その異議決定書謄本を請求人に対し同月9日に送達した。請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年8月11日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、平成4年にT県P市(以下「P市」という。)R町1丁目1700番5の宅地13.36平方メートル(以下「本件宅地」という。)をT県が行う補助第△△号線事業(以下、当該事業を「本件収用事業」という。)のために譲渡した(以下、当該譲渡を「本件譲渡」という。)ことから、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において本件特例の適用を受けて確定申告書を提出しており、しかも、代替資産としてP市R町1丁目1773番2の宅地10.21平方メートル(以下「甲宅地」という。)を取得済であるので、甲宅地を代替資産として計算すれば、譲渡所得の金額は算出されない。
ロ 請求人が平成4年中にW株式会社(以下「W社」という。)、H、J、K、L及びM(以下、これらの者を併せて「本件賃借人」という。)から受領した借地権の契約料等(以下「本件契約料」という。)及びN(以下、Nと本件賃借人を「本件賃借人ら」という。)から受領した金員(以下、当該金員と本件契約料を併せて「本件金員」という。)は、本件賃借人らが各々支払っている地代の年額の20倍に相当する金額を超えるものであるから、所得税法施行令第79条《資産の譲渡とみなされる行為》第3項の規定により、不動産所得の収入金額ではなく譲渡所得の収入金額に該当するものである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 甲宅地を代替資産とすることの可否
 請求人は、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、本件特例の適用を受けるため、平成5年2月18日に租税特別措置法施行規則第14条《収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例》第4項に規定する申請書(以下、当該申請書を「見積承認申請書」という。)を提出したことは認められるが、請求人が代替資産として取得したとする甲宅地は、請求人が平成4年2月27日に提出した平成2年分の所得税の修正申告書において、同年分の本件特例に係る代替資産として申告済である。
 したがって、同一の資産を二重に代替資産とすることはできないから、請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人には、他に租税特別措置法施行令第22条《収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例》第4項に規定する代替資産を取得した事実も認められない。
ロ 本件契約料の所得区分
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件金員の内訳は、次表のとおりである。

B 上表のうちNから受け取った金員は、上表の「賃貸物件の所在地」欄に所在する宅地に係る賃貸借契約の更新に伴って平成3年5月20日に受領したものである。
 なお、請求人は、当該金員3,375,000円のうち3,300,000円を平成3年分の不動産所得の総収入金額に算入して確定申告している。
C 平成4年におけるP市R町地域(以下「R町地域」という。)の平均的な土地の更地価額は、次表のとおりである。

(ロ)ところで、所得税法第33条《譲渡所得》第1項及び所得税法施行令第79条第1項には、建物若しくは構築物の所有を目的とする地上権若しくは賃借権(以下、これらを併せて「借地権」という。)又は地役権の設定のうち、当該設定が建物若しくは構築物の所有を目的とする借地権又は地役権の設定である場合には、その対価として支払を受ける金額が、その土地の価額の10分の5に相当する金額を超えるときは、当該対価の額を譲渡所得の収入金額に算入する旨規定されている。
 また、所得税法施行令第79条第3項には、借地権又は地役権の設定の対価として支払を受ける金額が当該設定により支払を受ける地代の年額の20倍に相当する金額以下である場合には、当該設定は、同条第1項の行為に該当しないものと推定する旨規定されている。この規定は、借地権又は地役権の設定の対価として受領した金額がその土地の価額の10分の5を超える金額であるか否か不明な場合において、支払を受ける地代の年額の20倍に相当する金額以下である場合には、当該設定の対価として受領した金員に係る所得を譲渡所得とはしないと推定したものであって、借地権の設定の対価が、支払を受ける地代の年額の20倍に相当する金額以上である場合には、その設定の対価が当該土地の価額の10分の5に満たない場合であってもこれをすべからく譲渡所得の収入金額に算入すると規定したものではない。
(ハ)上記(イ)のCのとおり平成4年におけるR町地域の平均的な土地の1平方メートル当たりの価額は1,400,000円を下回るとは認められないから、1,400,000円に本件契約料の受領に係る宅地(以下「本件貸宅地」という。)の面積を乗じて本件貸宅地の更地価額を算定し、更にその価額に10分の5を乗じると次表のとおりとなる。そうすると、本件金員のうち本件契約料は次表のとおりいずれも本件貸宅地の更地価額の10分の5以下となるので、本件契約料には所得税法施行令第79条第1項の規定は適用されない。

 なお、本件契約料が請求人の受領する地代の年額の20倍に相当する金額以上であったとしても、上記(ロ)のとおり、本件契約料に係る所得が譲渡所得に該当するというものではない。
 したがって、本件契約料は譲渡所得の収入金額に算入される旨の請求人の主張には理由がない。
(ニ)上記(イ)のBのとおり、請求人がNから受領した3,375,000円は、平成3年分の不動産所得の総収入金額に算入すべきものであるから、本件修正申告書に記載された不動産所得の金額(46,440,891円)から当該金員を減算すると、請求人の平成4年分の不動産所得の金額は、別表2の〔1〕欄のとおり43,065,891円となる。
ハ 原処分の適否
 以上の結果、請求人の平成4年分の所得金額等及び納付すべき税額は、別表2のとおりとなり、これらの金額は異議決定を経た後の原処分の額と同額となるから、原処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求における争点は、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において甲宅地を代替資産とすることの可否及び本件金員の所得区分であるので、以下審理する。

(1)事実関係

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人の申告関係
(イ)請求人は、平成4年5月16日に本件収用事業のために本件宅地を7,772,848円で譲渡している。
(ロ)本件宅地の取得費は388,642円であり、譲渡費用は零円である。
(ハ)請求人が本件宅地を所有していた期間は5年を超えている。
(ニ)平成4年分の不動産所得の収入金額(本件金員を除く。)、必要経費の額及び青色申告控除額は、別表3の〔3〕欄から〔5〕欄までのとおりである。
(ホ)請求人は、本件譲渡について本件特例を適用するため、平成5年2月18日に、〔1〕譲渡価額を7,772,848円、〔2〕代替資産の取得価額の見積額を7,772,848円及び〔3〕代替資産の取得予定年月日を平成6年5月16日と記載した見積承認申請書を原処分庁に提出している。
(ヘ)請求人は、本件譲渡について本件特例の適用を受ける旨及び譲渡所得金額を零円と記載した確定申告書を平成5年3月11日に提出している。
(ト)請求人は、甲宅地を平成2年に本件収用事業のために譲渡した資産の代替資産とする修正申告書を平成4年2月27日に提出している。
ロ 本件金員の受領関係
(イ)請求人が本件賃借人らから本件金員を受領するに至った経緯等は、次のとおりである。
A 請求人は、W社から7,500,000円受領しているが、これは、平成4年4月6日付の土地賃貸借承継契約書によって、P市R町4丁目951番1の宅地に係る賃借人の地位を、W社が、前賃借人から承継したことに伴い受領したものである。
B 請求人は、Hから3,100,000円受領しているが、これは、P市R町4丁目951番1の宅地のうち79.2平方メートル(以下「乙宅地」という。)の賃貸借契約の契約期間満了に伴い、平成4年9月30日付の土地賃貸借契約書によって、当該賃貸借契約を更新したことから受領したものである。
C 請求人は、Jから1,920,000円受領しているが、これは、平成4年1月17日付の土地賃貸契約書によって、P市Q町4丁目2067番の宅地のうち54.77平方メートル(以下「丙宅地」という。)の賃貸借契約を更新したことに伴い受領したものである。
 なお、Jは原処分庁に対し、上述の金員は建物の建替承諾料として支払った旨申述している。
D 請求人は、Kから10,000,000円受領しているが、これは、P市R町1丁目1765番の宅地のうち99.0平方メートル(以下「T宅地」という。)上に従来よりも堅固な建物を建てるため、賃貸借契約の条件変更を平成3年10月11日付の土地賃貸借契約書によって行ったことに伴い受領したものである。
 なお、Kは原処分庁に対し、土地賃貸借契約書にはその契約日が平成3年10月11日と記載されてはいるが、実際には、既に同日付が記載されていた当該契約書に平成4年2月1日になって署名押印した旨申述しており、また、上述の金員の授受に係る領収証も平成4年2月1日(1,000,000円)と同年12月31日(9,000,000円)となっている。
E 請求人は、Lから12,400,000円受領しているが、これは、P市R町1丁目1700番の宅地のうち102.0平方メートル(以下「戊宅地」という。)について、〔1〕賃貸借契約の期間満了に伴う更新、〔2〕従来よりも堅固な建物に建て替えるための条件変更及び〔3〕契約面積の減少を平成4年4月29日付の土地賃貸借契約書によって行ったことに伴い受領したものである。
F 請求人は、P市R町1丁目1817番所在の建物の無断使用に係る使用損害金を毎月末に支払うとの和解条項に基づいて、M、Y及びZ(以下、これらの者を併せて「Mら」という。)から618,000円を受領している。
G 請求人は、Nから、平成3年5月20日に3,375,000円受領しているが、これは、宅地の賃貸借契約の更新を同日付の土地賃貸契約書によって行ったことに伴い、受領したものである。
(ロ)請求人は、平成4年分の確定申告において、本件金員38,913,000円を不動産所得の総収入金額に算入している。
(ハ)請求人は、本件金員のうち、Nから受領した金員3,375,000円のうちの3,300,000円については、平成3年分の不動産所得の総収入金額に算入して同年分の確定申告を行っており、また、異議審理庁は別表1の「異議決定」欄のとおり、当該金員3,375,000円を平成4年分の不動産所得の総収入金額から除く異議決定をしている。
ハ 本件契約料の所得区分関係
(イ)乙宅地と用途地域(都市計画法(昭和43年法律第101号)第8条《地域地区》に規定する用途地域をいう。以下同じ。)、建ぺい率及び容積率が同一で、かつ、近隣に所在する宅地に係る売買実例は、次のとおりである。

 なお、乙宅地とA宅地とを比較すると、道路に関する条件及び地積の面で乙宅地の方がやや劣っているが、両宅地は極めて近くにある。
 また、両宅地の用途地域は準工業地域であり、建ぺい率は60パーセント、容積率は300パーセントとなっている。
(ロ)丙宅地と用途地域、建ぺい率及び容積率が同一で、かつ、近隣に所在する宅地に係る売買実例は次のとおりである。

なお、丙宅地とB宅地とは約70メートル程度離れているが、両宅地の周辺の土地の利用状況及び道路に関する条件に差異はない。
 また、両宅地の用途地域は準工業地域であり、建ぺい率は60パーセント、容積率は300パーセントとなっている。
(ハ)本件収用事業における底地と借地権の買取価額を比較すると4対6あるいは3.5対6.5となっている。
(ニ)P市内に所在する地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定により公示された標準地(以下「公示地」という。)のうち平成3年から平成6年までの間にいずれも公示価格(同条の規定により公示された公示地の1平方メートル当たりの価格をいう。以下同じ。)が付されている13地点について、平成3年から平成6年までの公示価格を比較すると、〔1〕平成3年と平成4年とでは、平成3年に比較して平成4年の方が5パーセントから10パーセント下落しており、〔2〕平成4年と平成5年とでは、平成4年に比較して平成5年の方が18パーセントから20パーセント下落し、そして、〔3〕平成5年と平成6年とでは、平成5年に比較して平成6年の方が5パーセントから15パーセント下落している。
(ホ)請求人は、その所有するP市R町1丁目所在の宅地(底地)を当該宅地の借地人と共に、本件収用事業のため次表のとおりT県へ譲渡している。

 なお、T宅地とC宅地とは、本件収用事業に係る公道(以下「E公道」という。)沿いに約30メートルの距離に所在しており、D宅地は戊宅地の隣接地である。また、丁宅地、戊宅地、C宅地及びD宅地は、その用途地域(近隣商業地域)、建ぺい率(80パーセント)及び容積率(300パーセント)が同一となっている。

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(2)甲宅地を代替資産とすることの可否

 請求人は、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、甲宅地を代替資産として計算すれば譲渡所得は算出されない旨主張する。
 確かに、請求人は本件譲渡について本件見積承認申請書を提出するなどして本件法規定を適用したことは認められるが、甲宅地は、請求人が平成4年2月27日に原処分庁へ提出した平成2年分の所得税の修正申告書において、同年分で適用した本件特例の代替資産として既に申告済であるから、甲宅地を本件譲渡に係る代替資産とすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
 なお、請求人は、本件法規定に規定する代替資産の取得期限までに代替資産を取得した事実は認められないから、本件譲渡には本件特例の適用はないこととなる。

(3)本件契約料の所得区分

 請求人は、本件金員は所得税法施行令第79条第3項の規定により、譲渡所得の収入金額に算入されるべきものである旨主張するので、以下検討する。
イ 所得税法第26条《不動産所得》の規定によれば、不動産所得とは、不動産等の貸付けによる所得をいい、不動産等の貸付けには、地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産を使用させることを含むとされている。また、所得税法第33条第1項及び所得税法施行令第79条第1項には、借地権又は地役権の設定のうち、当該設定が建物若しくは構築物の所有を目的とする借地権又は地役権の設定である場合において、当該設定の対価として支払を受ける金額がその土地の更地価額の10分の5に相当する金額を超えるときは、当該設定行為を資産の譲渡とみなす旨規定されている。
 なお、所得税法施行令第79条第3項では、借地権又は地役権の設定の対価として支払を受ける金額が、その設定により支払を受ける地代の年額の20倍に相当する金額以下である場合には、当該設定行為は資産の譲渡には当たらないものと推定する旨規定しているが、この規定は、同条第1項にいう資産の譲渡とみなされる行為に当たるか否かを判定する上での推定規定であるから、当該設定行為が資産の譲渡に当たるか否かを同条第1項により判定した場合には、同条第3項の規定を適用する余地はないと解される。
 したがって、借地権又は地役権の設定の対価が土地の更地価額の10分の5以下である場合には、たとえ当該設定の対価が地代の年額の20倍に相当する金額を超えていたとしても、当該設定の対価は不動産所得の総収入金額に算入されることとなる。
ロ 上記(1)の事実を上記イに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)本件金員のうち、〔1〕W社から受領した金員は、上記(1)のロの(イ)のAのとおり、賃借人の地位を承継したことによる名義書換料であり、〔2〕Mらから受領した金員は、上記(1)のロの(イ)のFのとおり、建物使用の対価であるから、いずれも不動産所得の総収入金額に算入されるべきものである。
 また、Nから受領した金員は、上記(1)のロの(イ)のG及び(ハ)のとおり、平成3年分の不動産所得の総収入金額に算入されるべきものである。
(ロ)そこで、本件金員のうち、H、J、K及びL(以下、これらの者を併せて「Hら」という。)から受領した更新料が、譲渡所得の収入金額に算入されるか否かについて検討する。
 ところで、請求人は、本件金員は本件賃借人らが支払っている地代の年額の20倍に相当する金額を超えるから、所得税法施行令第79条第3項の規定により、本件金員は譲渡所得の収入金額に該当する旨主張するが、上記イで述べたとおり、借地権又は地役権の設定の対価がその設定された土地の更地価額の10分の5以下である場合には、同項の規定を適用する余地はないこととなるから、Hらより受領した更新料については、当該更新料の受領に係る宅地の更地価額の10分の5を超えているか否かについて、以下検討する。
A Hから受領した更新料について
 請求人がHに賃貸している乙宅地と売買実例地であるA宅地とを比較すると、乙宅地はA宅地に比べ接面する道路に係る条件及び地積の面においてやや劣っていることは認められるものの、両宅地の用途地域、建ぺい率及び容積率は同一であり、しかも、両宅地は極めて近くにあることからすれば、その周辺の土地の利用状況に差異はないので、両宅地の更地価額にそれほどの差はないと認められ、さらに、〔1〕乙宅地の評価時期(平成4年9月30日)における両宅地の更地価額は、P市内の公示価格の推移からみるとA宅地の譲渡時点での更地価額よりも高いものと認められること、〔2〕本件収用事業における底地と借地権の買取価額の比は4対6程度であること及び〔3〕A宅地の譲渡価額は、更地価額ではなく借地人に対する底地の譲渡価額であることからすれば、乙宅地の更地価額は少なくともA宅地の当該譲渡価額を下回ることはないと認められる。
 そうすると、請求人がHから受領した更新料の1平方メートル当たりの対価39,141円は、A宅地(底地)の1平方メートル当たりの譲渡価額181,490円と比較しても21.5パーセントに過ぎないから、当該更新料は、乙宅地の更地価額の10分の5以下となることは明らかである。
 したがって、当該更新料は不動産所得の総収入金額に算入されるべきものである。
B Jから受領した更新料について
 請求人がJに賃貸している丙宅地は、〔1〕B宅地と70メートル程度離れてはいるが、両宅地の用途地域、建ぺい率及び容積率は同一であり、しかも、両宅地の周辺の土地の利用状況及び道路条件に差異は認められないから、両宅地の更地価額は同程度のものと認められること、〔2〕本件収用事業における底地と借地権の買取価額の比は4対6程度であること、〔3〕丙宅地の評価時点(平成4年3月12日)における両宅地の更地価額は、P市内の公示価格の推移からみると、B宅地の譲渡時点における更地価額よりも高いものと認められること及び〔4〕B宅地の譲渡価額は、更地価額ではなく借地権の譲渡価額であることからすれば、丙宅地の更地価額は、少なくともB宅地の当該譲渡価額を下回ることはないと認められる。
 そうすると、請求人がJから受領した更新料の1平方メートル当たりの対価35,056円は、B宅地(借地権)の1平方メートル当たりの譲渡価額368,649円と比較しても9.5パーセントに過ぎないから、当該更新料は丙宅地の更地価額の10分の5以下となることは明らかである。
 したがって、当該更新料は不動産所得の総収入金額に算入されるべきものである。
C Kから受領した更新料について
 C宅地は、請求人がKに賃貸しているT宅地とE公道沿いに約30メートルの距離に位置しており、また、C宅地はE公道の拡幅工事に伴う本件収用事業のため買い取られたものである。
 ところで、起業者が公共用地として土地を買い取る場合、その買取価額は、公共用地の取得に伴う補償の基準として定められている補償基準要綱(昭和37年6月29日に閣議決定された「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」をいう。)第7条《土地の補償額算定の基本原則》で「正常な取引価格」(合理的な市場があったならばそこで形成されるであろうと考えられる客観的な交換価値)による旨定められている。
 そうすると、〔1〕C宅地の譲渡価額(底地と借地権の譲渡価額の合計額をいう。以下同じ。)は当該宅地の更地価額として適正なものとみることができ、また、〔2〕J宅地とC宅地とは、その用途地域、建ぺい率及び容積率が同一であり、しかも、両宅地はE公道沿いに極めて近い位置にあることからすれば、両宅地の更地価額は同程度のものと認められるから、C宅地の譲渡時点(平成3年12月9日)におけるJ宅地の1平方メートル当たりの更地価額は、C宅地の1平方メートル当たりの譲渡価額1,409,000円と同程度のものとみるのが相当である。
 そして、評価時点(平成4年2月1日)におけるJ宅地の更地価額は、P市内の公示価格の推移からみると、C宅地の譲渡時点における価額より3パーセント程度下落しているものと解されるから、同時点におけるJ宅地の1平方メートル当たりの更地価額は、1,350,000円(1,400,000円×97パーセント)程度とみることができる。
 以上からすると、請求人がKから受領した更新料の1平方メートル当たりの対価101,010円は、J宅地の1平方メートル当たりの更地価額(1,350,000円)と比較すると7.5パーセントに過ぎないから、当該更新料がJ宅地の更地価額の10分の5以下となることは明らかである。
 したがって、当該更新料は不動産所得の総収入金額に算入されるべきものである。
D Lから受領した更新料について
 D宅地は、E公道の拡幅工事に伴う本件収用事業のため買い取られたものであるから、上記Cで述べたとおりその譲渡価額はD宅地の価額として適正なものと認めることができ、また、D宅地は、請求人がLに賃貸している戊宅地の隣接地であることからすれば、D宅地の譲渡時点(平成4年5月16日)における戊宅地の1平方メートル当たりの更地価額は、D宅地の1平方メートル当たりの譲渡価額1,454,500円と同程度のものとみることができる。そして、請求人とLが戊宅地の賃貸借契約を更新した時期とD宅地の譲渡時期との時期的な相違は1か月もないから、戊宅地の更地価額の算定に当たってはこの時期の相違を考慮する必要はないと解されるので、戊宅地の評価時点(平成4年4月29日)における1平方メートル当たりの更地価額は、1,450,000円程度のものとみるのが相当である。
 そうすると、請求人がLから受領した更新料の1平方メートル当たりの対価121,569円は、戊宅地の1平方メートル当たりの更地価額と比較すると8.4パーセントに過ぎないから、当該更新料は戊宅地の更地価額の10分の5以下となることは明らかである。
 したがって、当該更新料は不動産所得の総収入金額に算入されるべきものである。
ハ 上記ロのとおり、本件金員のうちNから受領した金員については、請求人の平成3年分の不動産所得の総収入金額に算入されるべきものであり、他の金員についてはいずれも請求人の平成4年分の不動産所得の総収入金額に算入されるべきものであるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

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(4)納付すべき税額等

 以上の結果、請求人の平成4年分の不動産所得の金額、分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額は、次のとおりとなる。
イ 不動産所得の金額
 請求人の平成4年分の不動産所得の金額は、上記(1)のイの(ニ)及び上記(3)に基づき計算すると、次表の「〔6〕」欄のとおり43,065,891円となる。

ロ 分離長期譲渡所得の金額
 甲宅地を平成4年分の代替資産として選択することができないことについては、上記(2)のとおりであるから、上記(1)のイの(イ)から(ハ)までの事実に基づき請求人の平成4年分の分離長期譲渡所得の金額を計算すると、次表の「〔6〕」欄のとおり6,384,206円となる。

ハ 納付すべき税額
 請求人の不動産所得の収入金額のうち、本件契約料の総額35,538,000円からMらに係る618,000円を減算した金額34,920,000円は、所得税法第2条《定義》第1項第24号に規定する臨時所得に該当すると認められるので、課税総所得金額に対する税額の計算においては同法第90条《変動所得及び臨時所得の平均課税》第1項の規定を適用して課税総所得金額に対する税額を算定すると、別表4の「〔8〕」欄のとおり11,594,640円となる。
 したがって、請求人の平成4年分の所得税の納付すべき税額は、別表4の「〔12〕」欄のとおり12,524,200円となる。

(5)原処分の適否

 上記(2)から(4)までのとおり、請求人の主張はいずれも採用することができず、また、請求人の平成4年分の所得税の納付すべき税額は、異議決定を経た後の原処分の額と同額となるから、原処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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