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(平11.6.17裁決、裁決事例集No.57 192頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、特別養護老人ホーム及び保育所等の福祉事業を営む社会福祉法人であるが、平成5年3月、同年8月、平成6年8月、同年11月、平成7年2月、同年5月、同年6月、同年8月、同年9月、平成8年3月及び同年4月の各月分の源泉所得税についての審査請求(平成10年7月22日請求)に至る経緯及びその内容は、別表1に記載のとおりである。

(2)原処分の概要

 原処分庁は、E(以下「E」という。)が、請求人の理事長又は理事在任中及び会長と称していた間に、請求人の営む事業に係る人件費及び給食材料費等を架空及び水増し計上するなどの方法によりねん出した資金(以下「本件簿外資金」という。)を預金口座(以下「本件薄外口座」という。)に預け入れた上、さらに本件簿外口座からE名義の個人預金口座(以下「E口座」という。)に入金した別表2の1の(1)欄に記載した金員(以下「本件金員」という。)及び本件簿外資金を帳簿上では、Eに対する立替金勘定に計上した後、雑費勘定等に振替計上した別表2の1の(2)欄に記載した金員(以下「本件立替金」という。)は所得税法第28条《給与所得》に規定するEの給与所得に該当するとして、また、F(以下「F」という。)が、請求人の専務理事であった間に、別表2の2に記載したG証券株式会社の転換社債(以下「本件転換社債」という。)及び××ファンド(以下「本件ファンド」といい、本件転換社債と併せて「本件証券」という。)と請求人振出の小切手2通(計60,000,000円)を取得し、これらを換金してF名義の個人預金口座に入金した金員は所得税法第30条《退職所得》第1項に規定するFの退職所得に該当するとして、別表1の「原処分」欄に記載のとおり源泉所得税の納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 異議審理庁は、Fが平成10年2月26日に上記の60,000,000円を請求人に返還したことから、別表1の「異議決定」欄とおり原処分の一部を取り消す異議決定をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件納税告知処分について
(イ)給与所得について
 本件金員及び本件立替金は、Eがその地位を利用して請求人の資金を不正に引き出したものであり、請求人が賞与として支給したものではない。
 また、請求人は、不正経理に関する調査の結果、Eのほか、請求人の元理事長2名及び元理事4名らの不正行為により請求人の資金を総額約14億円流出させていたことが判明したことから、当該不正資金の返還を求めて平成10年4月15日に損害賠償請求訴訟(H地方裁判所平成10年(△)第△△△△号)を提起した。
(ロ)退職所得について
 Fが引き出した金員は、学校法人J学園(以下「J学園」という。)及び学校法人K学園(以下「K学園」という。)名義の本件証券を換金した金員であるから、それぞれの法人から流出したものと推定されるもので、請求人が退職金として支給したものではない。
 また、仮に、本件証券の取得原資が請求人から流出したものであったとしても、Fが請求人の資金を不正に引き出したのであるから、請求人が退職金として支給したものではない。
ロ 本件賦課決定処分について以上のとおり、本件納税告知処分は違法であるから、それに伴う本件賦課決定処分も違法である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件納税告知処分について
(イ)給与所得について
 本件金員は、Eが請求人の会長と称していた間に、本件簿外口座からE口座に入金されたものであること、また、本件立替金は、Eが請求人の理事長在任中及び会長と称していた間に、本件簿外資金からEの個人的費用を支出して、請求人が負担したものであることから、これらの金員を所得税法第28条第1項に規定する給与(賞与)所得と認定したものであり、請求人には所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項に規定する源泉所得税を徴収する義務がある。
 また、請求人が提起した前記訴訟(平成10年(△)第△△△△号)は、H地方裁判所で係属中であり、横領等の不正行為の事実は確定しておらず、かつ、本件金員及び本件立替金を返還した事実もないから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)退職所得について
 原処分庁の調査の際、Fは、本件証券はJ学園及びK学園の名義を借用しただけで本件簿外資金を原資として取得したものであること及びこれを換金した金員を退職金として受け取った旨申述したことから、当該金員は、所得税法第30条に規定する退職手当等に該当すると認められるので、請求人には所得税法第199条《源泉徴収義務》第1項に規定する源泉所得税を徴収する義務がある。
 なお、J学園は、Fが本件転換社債の売却代金を着服横領したとして、平成6年11月1日に損害賠償請求訴訟(H地方裁判所平成6年(◇)第◇◇◇◇◇号)を、また、K学園は、Fが本件ファンドの売却代金を着服横領したとして、同年1月25日に損害賠償請求訴訟(同裁判所平成6年(☆)第☆☆☆号)をそれぞれ提起したが、いずれもH地方裁判所で係属中であり、請求人が主張する不正支出の事実は確定していない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件納税告知処分は適法であり、また、請求人が源泉所得税を納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書きに規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件納税告知処分について

 本件審査請求の争点は、〔1〕本件金員及び本件立替金が給与(賞与)所得に該当するか否か及び〔2〕本件証券を換金した金員が退職所得に該当するか否かにあるので、以下審理する。
イ 給与所得について
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A Eは、昭和44年12月に請求人を設立し、その時以来わずかの期間を除き理事長又は理事の職にあったが、平成5年7月に理事を退任した後も会長と称していた。
B 請求人は、本件金員及び本件立替金を含む総額約14億円の損害賠償を求めて、Eのほか元理事長であったL(Eの三女)及びM並びに元理事であったF(Eの先妻の娘婿)、N(Eの長男)、P(Lの元夫)及びQら7名を被告として前記訴訟(平成10年(△)第△△△△号)を提起したが、現在H地方裁判所で係属中であり、本件金員及び本件立替金は、未だEから請求人に返還されていない。
C 本件金員の内容等は、次のとおりである。
(A)j銀行k支店のE口座(当座預金、口座番号◎◎◎◎◎◎◎)の入金内容は、次のとおりである。
a 平成6年8月9日の8,500,000円は、本件簿外口座であるm信用金庫n支店のR名義の定期預金15,213,710円を同日付で解約した解約払出金の一部である。
b 平成6年11月28日の11,500,000円は、本件簿外口座であるm信用金庫n支店の請求人名義の当座預金(口座番号●●●●●●●)の同日付の払出金である。
c 平成7年2月13日の7,500,000円は、本件簿外口座であるp銀行q支店の請求人名義の普通預金(口座番号▲▲▲▲▲▲)の同日付の払出金である。
d 平成7年5月10日の10,000,000円は、本件簿外口座であるj銀行k支店の学校法人S学園(以下「S学園」という。)名義の定期預金20,363,724円を同日付で解約した解約払出金の一部である。
e 平成7年6月7日の2,500,000円及び同年8月10日の6,151,712円は、本件簿外口座であるj銀行k支店のS学園名義の普通預金(口座番号★★★★★★★)の同日付の払出金である。
f 平成7年9月20日の20,000,000円は、本件簿外口座であるm信用金庫n支店のS学園名義の当座預金(口座番号★★★★★★★)の同日付の払出金である。
g 平成8年3月29日の11,000,000円は、本件簿外資金である現金を入金したm信用金庫n支店のE口座(普通預金、口座番号◆◆◆◆◆◆◆)の同日付の払出金である。
h 平成8年3月29日の5,000,000円は、本件簿外口座であるj銀行k支店のJ教育福祉基金名義の普通預金(口座番号★★★★★★★)からm信用金庫n支店の上記gのE口座に入金した後、同日付で払い出された金員である。
i 平成8年4月11日の7,566,771円は、本件簿外口座である前記dのS学園名義の普通預金から前記gのE口座に入金した後、同日付で払い出された金員である。
(B)Eは、本件金員をEが所有するr市s町の土地購入に係る借入金の返済資金及び株式購入資金等として支出したほか、K学園の名義を借用してE個人に帰属する定期預金としていた。
D 本件立替金の内容等は、次のとおりである。(A)平成5年3月31日の85,420,432円は、Eが所有するt市u町の土地(v荘)の購入資金として支出したものである。
(B)平成5年3月31日の31,958,964円は、Eが所有するw市y町の土地(z荘)の購入資金として支出したものである。
(C)平成5年3月31日の50,000,000円及び5,000,000円は、Eが負担すべき和解金及び和解に要した弁護士費用として支出したものである。
(D)平成5年3月31日の12,880,192円及び同年8月2日の1,246,300円は、平成2年度及び平成5年度の税務調査の際に、Eに対して課税された源泉所得税を納付したものである。
(ロ)ところで、所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
 また、所得税法上の所得とは、これを専ら経済的面から把握すべきものであり、経済的にみて利得者がその利得を現実に支配管理し、自己のために享受する限りその利得は所得を構成すると解されているところ、所得税基本通達36―1《収入金額》が所得税法第36条第1項に規定する「収入金額とすべき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない旨定めているのは相当である。
(ハ)これを本件についてみると、前記各認定事実のとおり、Eは、請求人の設立者として理事長に就任し、理事長及び理事を退任後も自らを会長と称していたこと、また、自らの親族等を理事長及び理事に就任させていたことからすれば、設立以来、請求人の全運営についての権限を有し、その地位等を利用することにより本件簿外資金をねん出し、本件簿外口座により管理していたと認められる。
 そして、本件金員は、本件簿外口座からE口座に入金され、E個人の借入金の返済資金等に支出されたと認められるほか、これが請求人の事業遂行のために使用されたとする証拠もないことからすれば、Eが本件金員を現実に支配管理し、これを個人的費用に費消していたと認められる。
 また、本件立替金は、Eが本件簿外資金を個人的な目的のために費消していたことは明らかであるから、原処分において、本件金員及び本件立替金を給与(賞与)所得と認定したことは相当である。
 なお、請求人は、本件金員及び本件立替金はEが請求人の資金を不正に引き出したものであるとして、Eらを被告とする訴訟(H地方裁判所平成10年(△)第△△△△号)を提起した旨主張するが、仮に、本件金員及び本件立替金が不正に引き出されたとしても、所得税基本通達36―1が給与所得として収入すべき金額は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない旨定めており、その取扱いが相当であること、また、返還義務があるとしても所得税法上の所得とは、これを専ら経済的面から把握すべきであると解されるところ、実際に返還されない限り本件金員及び本件立替金は所得を構成するのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、本件金員及び本件立替金は、所得税法第28条第1項に規定する給与所得と認められるので、請求人には同法183条第1項に規定する源泉所得税の徴収義務がある。
 したがって、本件金員及び本件立替金の支出方法が定期定額でないことから賞与に該当するとして、所得税法第186条《賞与に係る税額》の規定に基づき計算した本件納税告知処分は適法である。
ロ 退職所得について
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A Fは、請求人においては昭和44年から、J学園及びS学園においては昭和45年から並びにK学園においては昭和58年から理事の職にあり、一部の期間を除き経理責任者であった。
 また、Fの「平成5年分の所得税の確定申告書」に添付された上記各法人の「平成5年分給与所得の源泉徴収票」には、Fに対して平成5年3月まで給与を支給していたこと及び同年3月31日に退職したことが記載されていた。
B 原処分庁の調査に際して、Fは、平成5年3月31日まで請求人の専務理事(経理責任者)であったこと及び同日付で正式に請求人を退職したこと、また、同月23日には、EとL理事長及びN理事により退職金として1億6千万円を支給することが承認されたこと並びに実際に退職金として受領した金員は、本件証券の売却代金を含む総額150,601,292円であった旨申述した。
C また、Fは、K学園が提起した訴訟(H地方裁判所平成6年(☆)第☆☆☆号)における平成6年3月3日付の答弁書及び同年5月31日付の準備書面の中で、上記Bのとおり、退職金の額がEらにより承認されたこと、また、本件ファンドは、Eの指示で構築した「裏金」をもって取得したものであり、これをE個人の名義で売買すれば課税されることから、非課税法人であるK学園の名義を使用したものに過ぎず、同学園が所有するものではない旨主張した。
D 別表2の2に記載した1,949,942円は、本件転換社債を昭和62年6月25日にJ学園名義で丁証券株式会社W支店に預け入れ、平成5年3月5日に換金し、同月9日にm信用金庫n支店のF名義の普通預金(口座番号▼▼▼▼▼▼▼)に入金した金員であり、また、同40,320,000円は、本件ファンドを昭和63年11月29日にK学園名義で同支店に預け入れ、平成5年3月15日に売却した代金を同日付でm信用金庫n支店のF名義の定期預金とした金員である。
(ロ)ところで、所得税法第30条第1項は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」という。)に係る所得をいう旨規定しているところ、ある金員が退職手当等に該当するためには、〔1〕退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること、〔2〕従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること及び〔3〕一時金として支払われることの3要件を備えていること又は実質的にこれらの要件の要求するところに適合することが必要であると解すべきである。
 また、所得税法第6条《源泉徴収義務者》は、退職手当等に係る源泉徴収義務者はその退職手当等の支払をする者である旨規定している。
(ハ)これを本件についてみると、前記各認定事実のとおり、Fは、〔1〕平成5年3月31日に請求人を退職したこと、〔2〕長年にわたり請求人において理事として経理責任者であったこと及び〔3〕本件証券を換金した金員を一時金として退職日の直前に受け取っていたことが認められるから、当該金員は、退職手当等としての3要件を備えており、所得税法第30条第1項に規定する退職所得に該当し、また、Fに対する退職金の支給及びその額を承認したのはEとL理事長及びN理事であると認められるから、所得税法第6条に規定する退職手当等に係る源泉徴収義務者は請求人であると認定するのが相当である。
 なお、請求人は、本件証券の名義がJ学園及びK学園であるから、それぞれの法人から流出したものと推定できるから、請求人が退職金として支給したものではないと主張するが、Fは、本件ファンドの名義は単に課税上の理由からK学園の名義を借用しただけで、同学園が所有していたものではない旨の答弁書をH地方裁判所に提出したこと及び前記イの(イ)のBの(A)のとおり、本件簿外口座の名義をR、S学園及びJ教育福祉基金としていたことからすると、本件転換社債もJ学園の名義を借用したものに過ぎず、同学園が所有していたものでないと推認することができるから、請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、本件証券の取得原資が請求人の資金であったとしても、Fがこれを不正に引き出したのであるから、請求人が退職金として支給したものではない旨主張するが、本件証券を換金した金員は、Fがこれを受け取り、現実に支配管理しているのであるから、仮に、不正に引き出されたとしても、前記イの(ロ)で述べたとおり、所得税基本通達36―1が退職所得の金額の計算上収入すべき金額は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない旨定めているのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、本件証券を換金した金員は、所得税法第30条第1項に規定する退職所得と認められるから、請求人には所得税法第199条に規定する源泉徴収義務がある。
 したがって、所得税法第201条《徴収税額》第1項の規定に基づき計算した所得税の源泉徴収に係る本件納税告知処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件納税告知処分は適法であり、請求人が源泉所得税を納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書きに規定する正当な理由があるとは認められないので同条同項の規定によりされた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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