ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.57 >> (平11.3.15裁決、裁決事例集No.57 224頁)

(平11.3.15裁決、裁決事例集No.57 224頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地、建物の譲渡所得につき、居住用財産として特別控除が認められるか否か、請求人の確定申告につき重加算税を賦課すべき事実があったか否かを主たる争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、P県Q市R町3丁目3番地2所在の居宅、木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建床面積200.88平方メートル(以下「本件家屋」という。)及び本件家屋の敷地の用に供していた宅地337.92平方メートル(以下、「本件家屋」と併せて「本件譲渡資産」という。)を所有していたが、平成7年8月21日に株式会社W(以下「譲受人」という。)に40,000,000円で譲渡した。
ロ 請求人は、本件譲渡資産の譲渡に係る所得(以下「本件譲渡所得」という。)について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定(以下、この規定による特例措置を「本件特例」という。)を適用し、課税長期譲渡所得金額が零円であるとする平成7年分の所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ハ 原処分庁は、本件譲渡所得に本件特例を適用することはできないとし、課税長期譲渡所得金額等について、平成9年11月12日付で別表1のとおり、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、上記の原処分について平成10年1月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月3日付でこれを棄却する旨の異議決定をし、その異議決定書謄本を請求人に対し同月9日に送達した。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成10年5月8日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)更正処分の手続について

イ 請求人の主張
 青色申告書以外の申告書に係る更正処分の場合であっても、更正通知書に更正の理由を附記すべきであるにもかかわらず、原処分庁は更正通知書に更正の理由を附記していず、このことは実質的に請求人の反論の機会を奪うものであり、違法である。
ロ 原処分庁の主張
 更正通知書に更正の理由を附記しなければならないのは、所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項の規定により青色申告書に係る事業所得等の金額を更正する場合に限られており、請求人が提出した本件申告書は青色申告書ではないから、請求人に対する更正通知書に更正の理由を附記していなくても何ら違法ではない。

(2)更正処分について

イ 請求人の主張
(イ)請求人は、昭和58年頃、本件家屋に請求人の長男であるE(以下「長男」という。)家族とともに入居し、平成7年9月30日まで居住していた。
 なお、請求人は、昭和61年頃までQ市S町2丁目1番地所在の店舗兼居宅(以下「S町の家屋」という。)において美容室を経営し、その後は美容室の経営を請求人の長女であるF(以下「長女」という。)に譲り、その手伝い等のために、S町の家屋と本件家屋を行き来していた。
(ロ)請求人あての郵便物は、S町の家屋に届いていたが、本件家屋にも届いていた。
(ハ)請求人は、年金生活者で本件家屋に一人で居住していたため、次の理由から本件家屋における電気及び水道の使用量が少なかった。
A 本件家屋にプロパンガスの炊事設備はあったが、一人で火気を使うことは危険であったことから、本件家屋ではほとんど食事をせず、長女の分も食事を作る条件で、S町の家屋で炊事し食事をしていたこと。
B 風呂は、銭湯に行ったり、長女等の家で入ったりしていたこと。
C 洗濯は、大きいものはクリーニング店に出し、小さいものはS町の家屋で洗っていたこと。
(ニ)本件家屋及びS町の家屋の近隣住民の申述は、具体性もなく事実に反し信用できない。
(ホ)以上のとおり、請求人は、本件家屋を主たる生活の本拠として居住の用に供していた本件譲渡資産を譲渡したものであるから、本件譲渡所得の計算に当たっては、本件特例を適用すべきである。
ロ 原処分庁の主張
 本件家屋における水道及び電気の使用量並びに本件家屋及びS町の家屋の近隣住民の申述等を総合すると、請求人は、本件家屋を真に居住の意思をもって客観的にも、ある程度の期間継続して生活の本拠としていたものと認めることはできず、S町の家屋が請求人の主たる生活の本拠であったものであり、本件特例を適用することはできない。

(3)重加算税の賦課決定処分について

イ 原処分庁の主張
 請求人は、本件申告書の提出に際して、本件譲渡資産に係る売買契約書の契約日を、平成7年8月21日から平成7年9月21日に変えた契約書の写しを作成し、これを添付して申告していること、さらに、本件家屋は主たる居住の用に供していた家屋でないにもかかわらず、本件家屋所在地に転居の届出をした上で、その旨が記載された住民票を添付して申告した。
 これらの行為は、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課要件に該当すると認められる。
ロ 請求人の主張
 上記(2)のイとおり、請求人は、主として本件家屋に居住していたことから、本件譲渡前に住民登録の住所を異動したものであり、事実の全部又は一部を隠ぺいし仮装した事実はない。

トップに戻る

3 判断

(1)更正処分の手続について

請求人は、原処分庁が更正通知書に更正の理由を附記しなかったから、更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、所得税法上、更正の理由を附記しなればならないのは青色申告書に係る所得金額等の更正処分に限られるのであって、請求人の提出した本件申告書は青色申告書ではないから、その更正通知書に更正の理由が附記されていなくても違法となるものではなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)更正処分について

イ 争いのない事実
 次のことについては、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人の住民登録の住所は、〔1〕昭和37年3月30日から平成7年8月9日まではS町の家屋の所在地、〔2〕平成7年8月10日から同年9月29日までは本件家屋の所在地、〔3〕平成7年9月30日から平成8年5月14日まではS町の家屋の所在地であった。
(ロ)本件譲渡資産に係る売買契約書に記載されている請求人の住所は、本件家屋の所在地であった。
(ハ)本件譲渡資産は、譲受人の代表取締役の知人である司法書士(以下「司法書士」という。)の仲介により譲渡された。
(ニ)請求人は、昭和37年にS町の家屋を購入し昭和60年まで同家屋において、美容室を経営していた。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の住所は、次の各種の書類上、S町の家屋の所在地となっていた。
A 請求人とa銀行b支店及びc信用組合との取引書類の住所
B 長女が、平成元年分ないし平成8年分の所得税の確定申告書に添付して提出した収支内訳書に記載されている地代家賃内訳欄の請求人の住所
C 平成5年4月5日現在及び平成6年10月24日現在の電話帳に登載の請求人の住所
D 請求人の三男であるG(以下「三男」という。)の平成4年分ないし平成6年分の所得税の確定申告書及び平成7年分の源泉徴収票に記載された住所は、S町の家屋の所在地で、請求人は同人の同居の老人扶養親族となっていた。
 また、三男の住民登録の住所は、昭和37年3月30日に出生してから平成8年5月14日までS町の家屋の所在地であった。
(ロ)長男及びその妻であるH(以下「長男の妻」という。)の住民登録の住所は、昭和57年11月30日から平成7年9月24日まで本件家屋の所在地であった。
 なお、長男は、当審判所に対し、長男及び長男の妻は株式会社Zに勤務し、M県及びN県で仕事をしているため、毎年のお盆及び正月の帰省時等のみ本件家屋に住んでいた旨を答述した。
(ハ)本件家屋における水道及び電気の使用量は、別表2及び別表3のとおりであった。
 なお、d電力株式会社e支店の営業部主査は、異議審理庁の調査を担当した職員(以下「異議調査担当職員」という。)に対し、〔1〕一般住宅における1か月当たりの使用量の標準点は230キロワットである、〔2〕1か月当たりの使用量60キロワットは、冷蔵庫を使用した程度である、〔3〕本件家屋における使用量は、一般的な生活をしている状況ではないと思われる旨を申述した。
(ニ)本件家屋における電話の利用料金は、別表4のとおりであった。
 なお、この利用料金をみると、基本料金のみである月が平成6年4月から平成7年10月までの19か月のうち8か月あり、また、これ以外の平成7年2月を除く他の月の利用料金は僅少であった。
(ホ)長女は、当審判所に対し、〔1〕請求人の洋服タンス、和タンスは、S町の家屋に置いてあった、〔2〕本件家屋に居住していた長男の妻が、昭和63年頃に長男と一緒に県外に仕事に行くことになり、長男家族の家財道具等のほとんどが本件家屋に置いたままであったため、請求人は、その管理等のため本件家屋に住むようになった、〔3〕仏壇は、請求人の夫であるJが死亡した頃からS町の家屋の2階にあった、〔4〕請求人は、長男がQ市に帰省したときには、三男とS町の家屋に泊まることがあった旨を答述した。
 なお、請求人の夫であるJは、昭和53年12月18日に死亡した。
(ヘ)長女の夫であるKは、当審判所に対し、請求人はS町の家屋及び本件家屋に住んでいたが、S町の家屋の方に多く住んでいたと思う旨を答述した。
(ト)本件家屋の近隣住民は、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、〔1〕本件家屋には、長男の表札があり、請求人とは年に1ないし2回程度会ったことがある、〔2〕平成7年9月の国勢調査時に本件家屋を訪問したところ、引っ越しの最中で長男には会ったが、請求人には会っていない、〔3〕請求人が本件家屋を売るまで居住していたかどうかは分からない、〔4〕「本件家屋には、時々掃除に来るくらいで住んでいる状態ではないんだね。人の影も見えない。」と死亡した母が話していたことを覚えている、〔5〕民生委員に老人等の届けが提出されるが、本件家屋の住人からは提出されていなかった旨を申述した。
(チ)S町の家屋の近隣住民は、調査担当職員に対し、〔1〕請求人は、S町2丁目の町内会に加入しており、町内会の総会に出席していた、〔2〕三男は、毎年、正月及びお盆に帰ってきていた、〔3〕請求人は、美容室の隣の出入口を使って生活していた、〔4〕請求人の夫が死亡してから、請求人を独居老人として取り扱っていたが、平成9年から三男と同居していたことから独居老人として取り扱っていない、〔5〕請求人がS町の家屋以外に住んでいたという話は、聞いたことがない旨を申述した。
ハ 本件特例の適用の可否について
(イ)本件特例の対象となる「居住用家屋」とは、真に居住の意思をもってその者がある程度の期間継続的に起居するなど、実質的に生活の本拠として利用している家屋をいい、一時的な目的で短期間、臨時に使用する家屋はこれに当たらないと解するのが相当である。
 また、租税特別措置法施行令第23条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定によれば、居住の用に供している家屋を二以上所有する場合には「その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」のみについて、本件特例が適用されるものとされている。
 いずれの家屋を主として居住の用に供していたものであるかについては、その者及び社会通念上その者と同居することが通常であると認められる配偶者等の日常生活の状況、入居目的、当該家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判断すべきものと解するのが相当である。
(ロ)上記イ及びロの事実によれば、請求人が本件家屋及び長男家族の家財道具の管理等のために、昭和63年頃から本件家屋を譲渡した直前までにおいて、時折本件家屋に住んでいたことを否定することはできないが、〔1〕請求人の住所が本件家屋の所在地となっていたものは、平成7年8月10日から同年9月29日までの住民登録及び本件売買契約書の請求人の住所のみで、他はすべてS町の家屋の所在地であったこと、〔2〕本件家屋における水道及び電気の使用量並びに電話の利用料金は、長男家族がQ市に帰省したお盆、正月の時期等はそれなりに使用されていたことは認められるが、その他の月のこれらの使用量及び利用料金は僅少又は使用されていなかった月があること、〔3〕本件家屋及びS町の家屋の近隣住民等の申述からすれば、請求人は、S町の家屋を生活の本拠としていたことがうかがえること、〔4〕仏壇は、生活の本拠である家屋に置き、先祖を供養するのが一般的であるが、請求人は、S町の家屋に置いていたこと、〔5〕三男の所得税の確定申告書及び源泉徴収票によれば、その住所は、S町の家屋の所在地と記載され、請求人は同人の同居の老人扶養親族となっていたことが認められ、これらを総合すると、請求人は、本件家屋及び長男家族の家財道具の管理等のために本件家屋を一時的に利用したにすぎず、請求人の生活の本拠はS町の家屋と認められる。
(ハ)なお、請求人は、平成7年9月30日まで本件家屋を、主として請求人の生活の本拠として居住の用に供していた旨主張し、これに沿う証拠として、請求人が檀家であるf寺住職L作成の証明書、本件家屋の近隣に居住する食料品小売業X作成の証明書及び長女作成の証明書を提出したが、これらの証拠は、いずれも次の理由により採用することができない。
A f寺住職L作成の証明書
 Lは、証明書に年に4回、先祖供養のため本件家屋を訪問しお参りしていた旨を記載していたが、当審判所に対し、請求人が本件家屋に居住していたかどうかはわからない、住職としては、仏さんがあるところに住んでいたと思う旨を答述したが、長女は、上記ロの(ホ)のとおり、仏壇はS町の家屋の2階にあった旨を答述しており、この証明書は信ぴょう性が認められない。
B 食料品小売業X作成の証明書
 Xは、証明書に請求人とその家族は本件家屋に居住しており、当店で買物をしていたことがある旨記載していたが、当審判所に対し、買物に来たのは年に1ないし2回程度で、買物に来た人は、昭和49年頃にQ市T町に住んでいた人であり、請求人だったとは言えない旨を答述し、同人の妻であるYは、当審判所に対し、買物に来た人について、正月等の間だけQ市にいるが、県外に行ったり来たりしているとの話を聞いたことを覚えている旨を答述した。
 また、長女は、当審判所に対し、請求人はQ市T町に住んだことはなく、長男家族が住んでいたことがあった旨を答述した。
 そうすると、買物に行ったのは長男の妻であると認められ、この証明書は信ぴょう性が認められない。
C 長女作成の証明書
 長女は、証明書に請求人は平成3年から本件家屋に住んでいた旨を記載しているが、上記ロの(ホ)のとおり、請求人が昭和63年頃に本件家屋に住んでいた旨を答述したことからすれば、請求人の生活状況を知り得る立場にあった反面、請求人の意図に応じた証明書を作成する可能性も否定できず、さらに、請求人が生活の本拠として本件家屋に居住していたことを証する客観的な資料等が提出されなかったことから、この証明書は信ぴょう性が高いものとはいえない。
(ニ)そうすると、請求人が、主として生活の本拠として居住の用に供していた家屋は、S町の家屋であったと認めるのが相当である。
ニ 本件更正処分の適法性
 以上のとおりであり、本件家屋は、本件特例の対象となる居住の用に供していた家屋に該当しない。
 したがって、原処分庁が、本件譲渡所得の計算に当たり、本件特例に基づく特別控除の額を控除しないで、措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項の規定による長期譲渡所得の特別控除額を控除して行なった更正処分は適法である。

トップに戻る

(3)重加算税の賦課決定処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成7年8月21日に、本件譲渡資産の売買契約を締結したが、売買契約書の契約日を、平成7年9月21日に変えた売買契約書の写しを作成して、これを本件申告書に添付して提出した。
(ロ)請求人は、上記(イ)の売買契約の直前の平成7年8月11日に、同月10日に本件家屋の所在地に転居したとして住民登録の届出をし、その旨が記載された住民票を本件申告書に添付して提出した。
 なお、請求人は、異議調査担当職員に対し、上記の届出は、司法書士に話をし、居住用であるので住民票を移しておいた方が良いとの指導を受けたためである旨を申述した。
(ハ)司法書士は、異議調査担当職員に対し、〔1〕譲受入から平成7年2月か3月頃に本件売買取引の交渉を依頼された、〔2〕私の記憶では、売買契約前の2回目の交渉のときに、請求人が晩は本件家屋に帰っていると言ったので、本件特例の適用についてアドバイスしたことがあった旨を申述した。
ロ 重加算税の賦課決定処分の当否
 通則法第68条第1項によれば、重加算税の賦課決定処分については、納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことが要件となっている。
 これを本件についてみると、請求人は、上記(2)のロの(ロ)のとおり、本件家屋に昭和57年11月30日から長男家族を居住させていたことは認められるが、上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人が住民登録を本件家屋所在地に転居の届出をしたときは、すでに本件譲渡資産を譲渡する認識をもっていたとみるのが相当であり、上記(2)のとおり、請求人が本件家屋を真に居住の意思をもって、生活の本拠として居住していたという事実及び請求人の住民登録の住所を異動しなければならなかった合理的な理由が認められない以上、この届出は、本件特例の適用を受けるための事実を仮装するためにあえて、届出をしたものと認められ、さらに、本件家屋の居住期間を少しでも長くするために、売買契約書の契約日を変えた写しを作成したものと推認され、この事実に反する住民票及び売買契約書の写しを本件申告書に添付して提出したことは、通則法第68条第1項の課税標準の基礎となるべき事実を仮装し隠ぺいしたことに該当し、同項の規定に基づいてされた重加算税の賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る