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(平11.6.28裁決、裁決事例集No.57 287頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、建設業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)がF遺跡調査会から請け負った遺跡発掘工事等の工事代金に係る未収入金の存否を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表1及び2のとおり(以下、法人税の平成5年10月1日から平成6年9月30日までの事業年度を「本件事業年度」といい、消費税の平成5年10月1日から平成6年9月30日までの課税期間を「本件課税期間」という。)。

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(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ P市の任意団体であるF遺跡調査会(発足当初は、G公園遺跡調査会と称した。以下「遺跡調査会」という。)は、昭和63年2月に発足し、平成9年3月末日に解散している。
ロ 遺跡調査会は、P市R町1641ほかに所在するF遺跡の発掘調査を行った。F遺跡の発掘調査は、G公園の造成工事に伴う埋蔵文化財の事前調査として、平成3年10月から平成7年8月にかけて行われたもので、P市都市緑政部の委託を受けて行われたものである。
ハ 遺跡調査会は、内部組織として発掘調査を担当するF遺跡調査団(設置当初は、G公園遺跡調査団と称した。以下「遺跡調査団」という。)を平成3年10月に設置した。
ニ 請求人は、遺跡調査会からF遺跡の発掘工事(以下「本件発掘工事」という。)及び現場倉庫の設置工事(以下「本件設置工事」という。)を請け負い、また、遺跡調査会に対して現場事務所の建物等の賃貸(以下「本件賃貸」といい、本件発掘工事及び本件設置工事と併せて「本件請負工事等」という。)を行った。
ホ F遺跡に係る発掘事業については、P市と遺跡調査会との間において毎年業務委託契約が結ばれており、当該業務委託契約に基づきP市から遺跡調査会に委託料が支払われ、遺跡調査団から遺跡調査会あての現場資金の振込依頼に基づき、遺跡調査会から遺跡調査団あてに現場資金が支払われ、遺跡調査団から現場費用の支払がなされていた。
ヘ 遺跡調査団の調査主任であるH(以下「H」という。)は、P市教育委員会の職員であり、遺跡調査会の事務局員を兼務し、本件発掘工事の指揮監督を担当していたが、平成7年9月30日にP市を退職している。
ト 請求人が本件事業年度中の日付で遺跡調査会あてに発行した本件事業年度分の本件請負工事等に係る代金を請求する請求書(以下「本件請求書」という。)及び領収証(以下「本件領収証」という。)の内容は、別表3及び4のとおりである。
チ 別表1の平成9年6月23日付法人税の修正申告書は、別表3の「請求書年月日」欄の平成6年9月30日請求に係る収入が請求人の益金から漏れていたとして請求人が提出したものである。
リ 別表3の「請求書年月日」欄の平成6年4月30日から平成6年8月31日までの5か月分に対応する金員2,758,800円は、平成6年11月25日、遺跡調査会から請求人のJ信用金庫K支店当座預金口座に、振込手数料721円を差し引かれた上で振り込まれている。
 なお、上記5か月分に対応する金員2,758,800円については、請求人が平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度(以下「平成7年9月期」という。)の法人税の所得の金額の計算上益金の額に算入していたことから、原処分庁は、当該金額が本件事業年度の収益に当たると認定し、平成9年7月8日付で平成7年9月期の法人税の所得の金額を減額する更正処分を行っている。
ヌ 原処分庁は、平成9年7月8日に行われた本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)において、別表5の本件請負工事等に係る請求金額86,089,396円(以下「本件認定金額」という。)が所得の金額の計算上益金の額に算入されていないとして、同額を請求人の所得の金額に加算している。
 また、原処分庁は、平成9年7月8日に行われた本件課税期間の消費税の更正処分(以下「本件消費税更正処分」という。)において、本件認定金額が課税資産の譲渡等の対価の額に算入されていないとして、同額を基に算定した金額を消費税の課税標準額に加算している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 本件法人税更正処分について
(イ)P市と遺跡調査会との間のF遺跡発掘に係る委託料は、P市から遺跡調査会の預金口座にすべて振り込まれており、P市の遺跡調査会に対する債務は存在しない。そして、遺跡調査会が平成9年3月末日に解散しており、本件法人税更正処分が行われた平成9年7月8日の時点では未収入金の相手方である遺跡調査会は存在していないのである。
 本件請負工事等の代金は、本件請求書及び本件領収証を悪用し、Hが個人的に費消しているにもかかわらず、遺跡調査会の帳簿上、請求人に対する支払が完了しているかのように仮装されており、その結果、遺跡調査会の請求人に対する債務がないこととなり、遺跡調査会は平成9年3月末日で解散できたのである。
 よって、P市は業務委託契約を正当に履行しており、また、遺跡調査会は請求人に対する本件請負工事等の代金について表面上正当に支払が完了して解散していることから、請求人の本件請負工事等に係る未収入金は存在しないこととなる。
 なお、原処分庁は、法人税法上益金の額に算入すべきものは、私法上の債権、債務の存在を前提としていない旨主張するが、法人税法上の課税所得は、正規の簿記の原則に沿った処理を行うことによって誘導されるもので、貸方科目に工事収入(売上)を計上するならば、当然借方科目が問題となるところ、原処分庁は借方科目は未収入金であると認定している。
 しかしながら、企業の費用及び収益が認識されるためには、私法上の権利が存在しなければならず、対価のない収益はあり得ないのであり、上記のとおり、工事代金を支払うべきP市などは未払金の存在を否定しているのであるから、原処分はその根底が否定されることとなる。
(ロ)請求人の代理人であるL弁護士(以下「L弁護士」という。)が、P市に対し、〔1〕平成10年3月31日現在の請求人に対する本件請負工事等に係る未払金の存否及び〔2〕請求人が平成5年10月1日から平成6年9月30日までの間に請け負った本件請負工事等に係る工事代金で、平成7年3月31日現在において未払となっているものの存否を、平成10年4月3日付で照会したところ、いずれも存在しない旨のP市教育委員会からの回答があった。
 そこで、L弁護士は、P市長に対し、平成10年4月20日付の内容証明郵便(以下「本件内容証明郵便」という。)で、請求人が遺跡調査会から請け負った本件請負工事等の工事代金を、H又は同人の関係者が個人的に費消したため、請求人は受け取っておらず、P市はH又は同人の関係者の業務上の行為について使用者として責任があるから損害賠償金を支払うよう請求したが、P市長は平成10年5月14日付で、請求には応じられない旨の回答をしたのである。
 このように、P市は未払金の存在を明確に否定していることから、請求人が本件請負工事等の代金を受け取るためには、Hに対して損害賠償請求権を行使するか、遺跡調査会又はHに対するP市の監督責任を追及して同市に対し損害賠償請求権を行使する以外に方法はないが、同市は損害賠償責任を否定しているので、請求人は遺跡調査会又は同市を相手に訴訟を提起するしか方法はない。
 したがって、請求人が本件請負工事等に係る収益を所得の金額の計算上益金の額に計上すべき時期は、法人税基本通達2―1―37《損害賠償等の帰属の時期》(以下「本件通達」という。)にも定めがあるように、損害賠償金の支払を受けるべきことが確定した日又はその支払を受けた日を含む事業年度である。
ロ 本件消費税更正処分について
 上記イのとおり、本件請負工事等に係る未収入金は存在せず、遺跡調査会又はP市に対する本件認定金額に相当する課税資産の譲渡等の対価の額は存在しないにもかかわらず、本件認定金額を基に算定された金額を消費税の課税標準に含めて行われた本件消費税更正処分は違法であるから、その全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件法人税更正処分について
(イ)上記1の(3)のニ及びトのとおり、請求人は本件請負工事等を現実に行っているのであって、請求人が本件請負工事等の代金を受け取っていない原因が、遺跡調査会の内部の者の行為によるものであり、遺跡調査会の帳簿上、本件請負工事の代金は請求人に対して支払われた形式が採られていたとしても、請求人が本件請負工事等の代金を受領していない以上、遺跡調査会の請求人に対する債務は履行されたことにならない。
 したがって、本件請負工事等の代金に係る請求人の未収入金が存在しないとする請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、請求人が本件請負工事等の代金を回収するにはP市に対して損害賠償請求権を行使するしか方法がなく、その場合には本件通達の定めにより、その支払を受けるべきことが確定した日又は支払を受けた日を含む事業年度の収益に計上すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記(イ)のとおり工事代金の請求権それ自体を有するものであって、損害賠償請求権を有しているのではないから、請求人の主張はその前提を誤ったものであり、本件請負工事等に係る収益を益金の額に計上する時期は、本件請負工事等に係る役務の提供が完了した日を含む事業年度である。
(ハ)仮に、請求人と遺跡調査会との間に本件請負工事等の代金について何らの債権、債務がないとしても、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項は、無償による役務の提供による収益を益金とする旨規定しているのであり、当該規定が私法上の債権、債務の存在を前提としていないことからすれば、請求人が受け取るべき本件事業年度の本件請負工事等の代金の額は、本件事業年度の益金の額に算入すべきこととなる。
ロ 本件消費税更正処分について
 本件消費税更正処分は、上記イで述べた理由と同様の理由により、適法である。

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3 判断

(1)本件法人税更正処分について

イ 認定事実
 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の作成した出面表、給料表、作業員等の出勤日数調べ、機械類などの使用状況等を記した計算明細書及び関係帳簿を検討した結果、請求人が行った本件請負工事等の内容は、次のとおりであった。
A 請求人が行った本件賃貸及び本件発掘工事は、平成3年10月ころから始まり、本件賃貸は本件事業年度終了後も引き続き行われていた。
 本件設置工事は、本件事業年度中に1回のみ行われている。
B 本件請負工事等の代金の中で請求人が収入として計上したものは、平成4年2月28日に入金された17,149,066円と平成6年11月25日に入金された2,758,800円のみである。
 なお、上記2件の入金の内容は、本件発掘工事及び本件賃貸に係る収入であるが、代金は数か月分がまとめて入金されているものの、その計算はいずれも月単位で行われている。
C 本件事業年度の工事原価の中には、本件事業年度分の本件請負工事等の人件費及び機械類の費用等の工事原価が算入されている。
D 請求人は、本件事業年度以前の事業年度においても他の発掘工事を請け負っているが、その計算は月単位で行われている。
(ロ)本件内容証明郵便によれば、L弁護士は、平成10年4月20日に、請求人を代理して、P市に対して本件内容証明郵便を送付しており、その内容は要旨次のとおりである。
A 遺跡調査会と請求人との間において、本件請負工事等に係る契約があり、平成3年9月から平成7年3月までの間、引き続き本件請負工事等を行い、完了した。
B 上記Aの期間に対する工事代金のうちの大部分(369,751,838円)は、遺跡調査会から請求人に対して支払われていない。
C 支払われなかった本件請負工事等に係る代金について、Hは、遺跡調査会の予算が減額執行されたため請負代金を支払うことができない旨説明した。
D その後、P市の担当職員と本件請負工事等の代金について話をしたところ、当該担当職員は、P市の予算は完全に執行されたが、予算として可決され執行された金員をH又はその関係者が個人的に費消したと考えられる旨の説明をした。
E P市はHの業務上の行為について使用者としての責任があり、「従って、当社はP市に対して、金369,751,838円の不法行為による損害賠償請求権」を有するから、その支払を請求する。
(ハ)本件内容証明郵便に対し、P市長Mは、平成10年5月14日付で、請求には応じられない旨の回答書をL弁護士に送付した。
(ニ)本件請求書及び本件領収証に記載された金額は、本件請負工事等の工事原価の金額からみても相当なものである。
(ホ)請求人の代表者であるN(以下「N」という。)は、本件法人税更正処分の基となった原処分庁所属の職員の調査の際、当該職員に対して、要旨次のように申述している。
A 本件認定金額のうち平成7年9月期の売上げとして計上した2,758,800円以外の金額を売上げに計上しなかった理由は、当該金額相当額を受領していなかったためである。
B 本件請負工事等に係る請求書及び領収証は、Hから発行を依頼されたため作成したもので、Hから発行依頼があるまで請求書を発行しなかった理由は、Hから、予算が遅れているとか予算が満額ついていないなどの説明があり、ずるずるとなってしまったからである。
 なお、本件請求書及び本件領収証に記載された金額は、実際の工事内容等に基づくもので正当なものである。
C 本件認定金額相当額について、Hは予算外の人件費に流用したと説明しているようだが、請求人の従業員以外の人が常時何人も現場にいたという事実はないので、それは違うと思うし絶対にあり得ない話である。
(ヘ)Hは、当審判所に対し、要旨次のように答述している。
A Hは、遺跡調査団の主任調査員として、遺跡発掘調査の指揮、監督をしていた。
B 遺跡調査団の出納責任者は、本来、調査団長のQ(S短期大学教授)であるが、同人は毎日現場に出るわけではないので、実質的にはHが責任者になっていた。
 T銀行W支店の「F遺跡調査団 団長Q」名義の普通預金通帳及び同印鑑は、いずれも現場の金庫に保管していたが、管理はHがしていた。
C 請求人と遺跡調査会との本件請負工事等に関する契約は、文書では何も作成していないが、請求人の前社長であるYに条件などを口頭で説明したと記憶している。
 その条件は、工事代金は出来高払いとし、請求人から請求書が来ればその金額を支払うというものであった。
D 本件請求書及び本件領収証は、Nに依頼し作成してもらったが、本件請負工事等の代金の大部分は、請求人に対して支払っていない。
 遺跡調査会の予算は、Hが遺跡調査に必要な金額を見積り、見積書を提出し、P市が決定する。P市に提出した見積金額では調査を進めることは困難であったが、予算の範囲で遺跡調査をするように指示があり、やむなく遺跡調査を行った。しかしながら、予算上の人件費では足りず、実際の人件費は、収支決算とはかなり相違した内容となってしまい、請求人から本件請負工事等の請求書が来なかったこともあり、請求人に対して支払うべき工事代を予算外の人件費の支払に充ててしまった。そこで、予算書と収支決算とを合わせるために、やむを得ず、Nに依頼して本件請求書及び本件領収証を作成してもらった。
 予算を超えて支払った人件費は、遺跡調査会の予算書及び収支決算報告書にない支払で、支払の事実を証明する領収証等は、Hが破棄してしまい、その事実を証明するものは何もない。
(ト)平成5年4月から遺跡調査会の事務主任として事務の取りまとめの仕事をしていたZは、本件法人税更正処分の基となった原処分庁所属の職員の調査の際、当該職員に対して、要旨次のとおり申述している。
A 請求人と遺跡調査会との間で交わされた本件請負工事等に関する契約書は、本件賃貸のうちの平成7年4月以降分のみで、それ以外はない。
 また、本件請負工事等に係る請求書及び領収書は、平成5年4月以降分のみでそれ以前のものはない。
B 自分は何回も現場に行っているが、F遺跡の発掘調査を行ったのは、請求人の従業員以外にはいなかった。
ロ 法人税法の規定について
 法人税法は、各事業年度の所得を法人税の課税の対象とし(第5条)、その所得の金額は「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」(第22条第1項)と規定している。そして、当該事業年度の益金の額に算入すべきものとして、「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」を挙げている(第22条第2項)。
 そして、請負による収益の額は、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部が完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の提供の全部が完了した日の属する事業年度の益金の額に算入することと解され、資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額は、前受けに係る額を除き、当該契約又は慣習によりその支払を受けるべき日の属する事業年度の益金の額に算入すると解するのが相当である。
ハ 本件請負工事等に係る収益について
 本件請負工事等については、〔1〕本件発掘工事及び本件設置工事は役務提供を目的とした請負契約であり、本件賃貸は現場事務所等の賃貸借を目的とした契約であると認められ、〔2〕本件事業年度分の本件請負工事等は、いずれも請求人において実際に行われ完了しており、〔3〕本件請負工事等に係る原価相当額が請求人の所得の金額の計算上損金の額に算入され、〔4〕本件請負工事等については出来高払いとすることとなっており、〔5〕本件請負工事等及び請求人が請け負った他の工事の状況を見ると、それらの工事代金等については、月単位で計算する商慣習となっていたことが認められる。
 また、法人の収益となるべき取引、請負契約及び賃貸借契約の収益の計上時期については、上記ロのとおりである。
 そうすると、本件事業年度分の本件請負工事等に係る代金相当額は、本件請求書の発行行為を請負工事代金の請求行為であったとみるか否かにかかわらず、また、本件請負工事等に対する工事代金が請求人のもとに入金されているか否かにかかわらず、本件事業年度の収益とすべきものであると解するのが相当である。
ニ 本件請負工事等に係る代金相当額について
 請求人は、遺跡調査会は既に解散して存在せず、また、P市は工事代金の未払金は存在しない旨の回答をしているのであるから、本件請負工事等に係る未収入金は存在しない旨主張するので、以下審理する。
(イ)上記ハのとおり、本件事業年度分の本件請負工事等の代金は本件事業年度の収益となるものであるが、本件事業年度分の本件請負工事等の代金額に相当する本件領収証が請求人から発行されており、遺跡調査会においては、請求人に対する支払を証するものとして本件領収証が使用されている。
 しかしながら、本件領収証は、Hからの依頼に基づいてNが発行したものであり、Hが本件領収証の発行を依頼した理由は、遺跡調査会の決算内容をつじつまの合うものにするためであったと認められ、NとHの両者とも、本件請負工事等の代金の大部分が請求人に対して支払われていないと認識していることが認められる。
 そして、P市長は支払を拒否しているものの、請求人は、P市に対して、本件内容証明郵便によって、本件請負工事等の代金相当額を請求していることが認められる。
 そうすると、本件領収証は、一般の商取引の際に作成されるような様式となっているものの、本件請負工事等の代金の受渡しが現に行われたとして発行されたものとは認められない。
(ロ)Hは、本件請負工事等の代金相当額を予算外の人件費に充てた旨答述するが、N及びZは、請求人の従業員以外に遺跡発掘の作業に従事した者はいなかった旨申述しており、また、Hの答述を裏付ける証拠も見当たらないことから、Hのこの点に関する答述は信用することができない。
 いずれにしても、本件請負工事等の代金相当額をH又はその関係者が個人的に費消したか否かはともかく、関係者の答述等を総合すると、本件認定金額相当額の大部分が請求人に対して入金されなかったと認めるのが相当である。
 また、請求人は、本件内容証明郵便によって本件請負工事等の代金相当額を本件請負工事等の発注者であるP市に対して請求しており、これは、本件請負工事等の代金に係る債権を請求人が放棄しておらず、その支払を求めていると解するのが相当である。
 さらに、上記1の(3)のリのとおり、本件請負工事等の代金のうち、平成6年4月分から同年8月分までの本件賃貸に係る収入2,758,800円が、平成6年11月25日に請求人の預金口座に入金されていることから、当該収入金額相当額は本件事業年度末において未収入金であったと認められる。
(ハ)そして、一般に、収入に対する代金相当額が未収入金であるか否かの判断は、あくまでも課税の対象となる事業年度の末日現在の状況で判断すべきものであると解される。
 そうすると、本件事業年度末において遺跡調査会は未だ解散していなかったのであり、本件事業年度分の本件請負工事等に係る代金は、本件事業年度の末日現在において未収となっていたと解するのが相当である。
 なお、遺跡調査会は平成9年3月末日に解散手続を了しているが、未払代金がある以上、その精算目的の限りでなお団体として存続すると解する余地がある上、元来、本件事業年度以降に生じた後発的事由によって本件事業年度の法人税額が当然に変動するものでもない。
 したがって、いずれにせよ遺跡調査会の解散を根拠とする請求人の主張には理由がない。
ホ その他の主張について
 請求人は、本件通達を引用し、請求人が本件請負工事等に係る収益を益金の額に計上すべき時期は、損害賠償金の支払を受けるべきことが確定した日又はその支払を受けた日を含む事業年度である旨主張する。
 しかしながら、本件事業年度において請求人が計上すべきか否かが問題となっている収入は、損害賠償金ではなく上記ニのとおり本件請負工事等の代金それ自体である。
 そうすると、本件請負工事等の代金の収益計上時期については、上記ハのとおりであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 本件法人税更正処分の金額について
 以上の結果、請求人の本件事業年度の所得の金額及び納付すべき税額は、本件法人税更正処分の額と同額となるから、本件法人税更正処分は適法である。

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(2)法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件法人税更正処分は適法であり、また、本件法人税更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた法人税の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)本件消費税更正処分について

 本件消費税更正処分について調査、審理したところ、本件認定金額を基に算定された金額は、消費税法第28条《課税標準》第1項に規定する課税資産の譲渡等の対価の額であると認められ、その結果、請求人の本件課税期間の課税標準額及び納付すべき税額は、本件消費税更正処分の額と同額となるから、本件消費税更正処分は適法である。

(4)消費税に係る過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件消費税更正処分は適法であり、また、本件消費税更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた消費税の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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