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(平11.2.23裁決、裁決事例集No.57 306頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、紙類卸売業を営む同族会社であるが、平成2年11月1日から平成3年10月31日まで、平成3年11月1日から平成4年10月31日まで、平成4年11月1日から平成5年10月31日まで、平成5年11月1日から平成6年10月31日まで及び平成6年11月1日から平成7年10月31日までの各事業年度(以下、順次「平成3年10月期」、「平成4年10月期」、「平成5年10月期」、「平成6年10月期」及び「平成7年10月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、平成3年10月期の法人税について、別表1の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を平成4年7月1日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年7月7日付で別表1の「修正申告等」欄のとおりとする過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 その後、原処分庁は、平成9年3月28日付で平成3年10月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色申告取消処分」という。)をするとともに、同日付で本件各事業年度の法人税について、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)及び重加算税の各賦課決定処分(以下、本件法人税更正処分とこの重加算税の各賦課決定処分を併せて「本件法人税更正処分等」という。)をした。
 請求人は、本件青色申告取消処分並びに平成3年10月期、平成4年10月期及び平成5年10月期の法人税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分並びに平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分を不服として、平成9年4月7日付で異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月2日付でいずれも棄却の異議決定をした。
(2)請求人は、平成2年11月1日から平成3年10月31日までの課税事業年度(以下「平成3年10月期課税事業年度」という。)の法人臨時特別税について、青色の申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、平成3年10月期課税事業年度の法人臨時特別税について、別表2の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を平成4年7月1日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年3月28日付で別表2の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下、本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分とこの重加算税の賦課決定処分を併せて「本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分等」という。)をした。
 請求人は、本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分等を不服として、平成9年4月7日付で異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月2日付で棄却の異議決定をした。
(3)請求人は、平成3年11月1日から平成4年10月31日までの課税事業年度(以下「平成4年10月期課税事業年度」という。)の法人特別税について、申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成9年3月28日付で別表3の「決定処分等」の欄のとおりとする決定処分(以下、「本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下、本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分とこの重加算税の賦課決定処分を併せて「本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分等」という。)をした。
 請求人は、平成4年11月1日から平成5年10月31日までの課税事業年度(以下「平成5年10月期課税事業年度」という。)の法人特別税について、青色の申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年3月28日付で別表3の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下、本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分とこの重加算税の賦課決定処分を併せて「本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分等」という。)をした。
 請求人は、本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分等及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分等を不服として、平成9年4月7日付で異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月2日付でいずれも棄却の異議決定をした。
(4)請求人は、上記(1)ないし(3)の異議決定を経た後の原処分並びに異議申立てを経ていない平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に不服があるとして、平成9年7月10日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当、違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件青色申告取消処分について
 請求人が証券会社において行った株式の売買取引(以下「有価証券の売買取引」という。)により、平成元年11月1日から平成2年10月31日までの事業年度(以下「平成2年10月期」という。)に多額の有価証券売却損(以下「本件有価証券売却損」という。)が生じた。
 請求人は、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額を、同期において有価証券勘定を減額させるべきところ、これを減額させない方法による仮装経理いわゆる粉飾決算(以下「仮装経理」という。)を行い、同期の所得金額を過大に申告した。
 その後、請求人は、仮装経理の状況を正常に戻すために、平成3年10月期において、本件有価証券売却損の一部の額と平成3年10月期に生じた有価証券売却損との合計額30,212,420円を有価証券売却損として損金の額に算入し、法人税の申告をした。
 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の総勘定元帳等の帳簿調査及び証券会社に対する調査(以下「本件調査」という。)を基に、請求人の平成3年10月期における有価証券売却損の額は6,595,481円であり、その差額23,616,939円は有価証券売却損の額を仮装計上したものと認定し、このことは、青色申告の承認取消事由に該当するとして、本件青色申告取消処分をしたが、次に述べるとおり、本件青色申告取消処分は不当、違法である。
(イ)請求人は、上述したとおり、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額を平成2年10月期に仮装経理を行い、所得金額を過大に申告したものであるが、この仮装経理の状態を正常に戻すために、平成3年10月期において、修正経理をした本件有価証券売却損の一部の額と平成3年10月期に生じた有価証券売却損の額との合計額を損金の額に計上したものであり、有価証券売却損の額を仮装計上したものではない。
(ロ)請求人の有価証券の売買取引は、請求人が証券会社に銘柄、数量及び価格等取引に関する一切を委任して行ったものであり、受任者である証券会社から計算書類を受けた時点で、一括して会計処理を行ってきたものである。
 また、請求人の有価証券の売買取引に係る部分は、全営業に占める割合も少なく、かつ、紙類卸売業に係る部分とは資金面からも峻別されており、これらの両取引を混在しているものではないから、法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項第3号に規定するその他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があることに該当するものではない。
 以上のとおり、請求人が平成3年10月期において損金の額に算入した有価証券売却損の額は、仮装経理の状態を正常に戻すために修正経理したものであるから、法人税法第127条第1項第3号に規定するその事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいをし又は仮装して記載したものではない。
ロ 平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求について
 平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求については、異議申立てを経ていないが、当該審査請求の内容は、平成3年10月期ないし平成5年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求と同様であるから、これを認めるべきである。
ハ 法人税の更正処分について
(イ)平成3年10月期ないし平成5年10月期の法人税の各更正処分について
 請求人は、上記イで述べたとおり、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額を、仮装経理により平成2年10月期の所得金額を過大に申告したものであるが、その後、本件各事業年度において、本件有価証券売却損の額を修正経理をし、それぞれ有価証券売却損の勘定科目により損金の額に算入して申告した。
 原処分庁は、これに対し、本件各事業年度において計上した有価証券売却損の額は、仮装計上したものと認められるから、損金の額に算入することができないとして、本件各事業年度に係る法人税の更正処分をしたが、次に述べるとおり、不当、違法である。
A 請求人は、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額を、仮装経理により平成2年10月期の所得金額を過大に申告したものであり、その後、本件各事業年度において修正経理を行い、損金の額に算入したものであり、仮装計上したものではない。
B 仮に、平成元年6月以降平成8年6月までの間に税務調査が行われていれば、法人税法第129条《更正に関する特例》第2項、同法第70条《仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除》の規定の適用及び法人税法第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》の規定による青色申告の特典である繰越欠損金の控除の適用等による税務署長の更正処分がなされ、その時点で解決されていたものである。
C また、原処分庁には、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が調査によったものと異なるときは、国税通則法(以下「通則法」という。)第24条に《更正》の規定により更正する義務がある。
 請求人の場合、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額が事実としてあるのであるから、原処分庁は、請求人の仮装経理した額を平成2年10月期の損金の額として認容し、正当な所得金額とする減額更正をすべきである。
 以上のとおり、請求人が行った経理処理は、仮装経理による所得金額の過大申告の状態を正常に戻すために行った修正経理である。
(ロ)所得金額について
 請求人の本件各事業年度の所得金額は、それぞれ別表1の「確定申告」欄及び「修正申告」欄に記載したとおりである。
ニ 法人税に係る重加算税の賦課決定処分について
 原処分庁は、請求人が本件各事業年度において、有価証券の売買取引を行っていないにもかかわらず、架空の有価証券売却損の額を損金の額に算入し、また、有価証券の売買取引を公表外の会計帳簿で行い、その売買損益を除外している事実が認められるとして、本件各事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分をしたが、次に述べるとおり、不当、違法である。
(イ)請求人は、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損が金融筋に露見し、信用不安が起こることを極度に恐れた結果、平成2年10月期において仮装経理を行って所得金額を過大に申告し、その後、本件各事業年度において、仮装経理した本件有価証券売却損の額を修正経理をし、それぞれ損金の額に算入したものである。
(ロ)請求人は、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額を、同期において有価証券勘定を減額させるべきところ、これを減額させない方法により仮装経理を行ったことから、平成2年10月期における貸借対照表上の有価証券勘定の残高は、実際のその残高と乖離したものである。
 請求人は、この状況を憂慮し少しでも実数に近づけるため、本件各事業年度において、有価証券勘定をそれぞれ減額させる方法により修正経理をしたものであり、仮装、隠ぺいをしたものではない。
ホ 本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分等について
(イ)本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分について
 上記ハのとおり、平成3年10月期の法人税の各更正処分は、不当、違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分はその全部を取り消すべきである。
(ロ)平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税に係る重加算税の賦課決定処分について
 上記(イ)のとおり、本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分は、不当、違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税に係る重加算税の賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
ヘ 本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分等及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分等について
(イ)本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分について
 上記ハのとおり、平成4年10月期及び平成5年10月期の法人税の各更正処分は、いずれも不当、違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。
(ロ)本件平成4年10月期課税事業年度及び本件平成5年10月期課税事業年度の法人特別税に係る重加算税の各賦課決定処分について
 上記(イ)のとおり、本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分は、いずれも不当、違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件平成4年10月期課税事業年度及び本件平成5年10月期課税事業年度の法人特別税に係る重加算税の各賦課決定処分についても、いずれもその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件青色申告取消処分について
 請求人は、平成3年10月期において、有価証券売却損として30,212,420円を計上しているが、本件調査によれば、請求人の平成3年10月期における有価証券の売買取引により生じた有価証券売却損の額は、次表の有価証券売買損益等の明細表のとおり6,595,481円であり、その差額23,616,939円は、有価証券売却損の額を仮装計上したものと認められる。
 このことは、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するものであるから、本件青色申告取消処分は適法である。

ロ 本件法人税更正処分について
(イ)本件調査によれば、請求人の本件各事業年度において損金の額に算入した有価証券売却損の額について、次の事実が認められる。
A 有価証券売却損の額は、本件各事業年度末日にそれぞれ振替伝票を起票し、次表のとおり「有価証券売却損」の勘定科目で計上していること。

B 上記Aの表の有価証券売却損に係る有価証券の売買取引に関する書類の保存がないこと。
C 請求人の代表取締役であるJ(以下「J」という。)は、調査担当職員に対し、上記Aの表に掲げる有価証券売却損に係る有価証券の実際の売買取引はないが、自分が仮決算の段階で損金の額に計上する金額を算定し、この金額を請求人の経理課長であるM(以下「経理課長」という。)に指示して、上記Aの表のとおり本件各事業年度の損金の額に算入して処理させていた旨を述べていること。
D 請求人の取引先であるa証券○○支店(以下「a証券」という。)、b証券××支店(以下「b証券」という。)及びc証券△△支店(以下「c証券」という。)に対する調査においても、上記Aの表に掲げる有価証券売却損に係る有価証券の売買取引の事実は認められないこと。
(ロ)ところで、請求人は、有価証券売却損の計上は、有価証券の売買取引により平成2年10月期に多額の損失を蒙ったことから、その本件有価証券売却損の額を同期において仮装経理を行い、平成3年10月期以降の決算において、貸借対照表上の有価証券勘定の残高が実際のその残高と乖離している状況となったことを憂慮し、少しでも実数に近づけるために修正経理を行ったものである旨主張するが、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項によれば、法人の各事業年度の所得金額は、その事業年度の益金の額からその事業年度の損金の額を控除した金額と規定されているところ、請求人が本件各事業年度の損金の額に算入した有価証券売却損は、本件各事業年度に生じた損金でないことは上記(イ)の認定事実より明らかであり、本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。
 また、請求人は、有価証券の売買取引により、平成2年10月期に多額の損失を蒙った旨主張するが、この点に関することについて、請求人から具体的な説明又は書類の提示等もないことから、その事実を確認できないし、仮に確認できたとしても、当該損失はその生じた事業年度の損金の額になるものであり、本件各事業年度の損金の額となるものではないので、請求人の主張には理由がない。
(ハ)所得金額について
A 加算事項について
(A)有価証券売却損
 請求人が本件各事業年度において損金の額に算入した次表の有価証券売却損は、上記(イ)のとおり、本件各事業年度に生じた損失とは認められないから、本件各事業年度の損金の額に算入することはできないので、本件各事業年度の所得金額にそれぞれ加算する。

(B)有価証券売買益
 請求人は、有価証券の売買取引を行い、本件各事業年度において次表のとおり、その売買益を得ていたにもかかわらず、これを隠ぺいしているので、本件各事業年度の所得金額にそれぞれ加算する。

B 減算事項について
(A)有価証券売却損
 請求人は、有価証券の売買取引を行い、平成3年10月期において7,289,932円の有価証券売却損が生じているにもかかわらず、損金の額に算入していないので、同期の所得金額から減算する。
(B)有価証券売買手数料等
 平成3年10月期ないし平成5年10月期における上記Aの(B)及び上記(A)の有価証券の売買取引に係る売買手数料及び有価証券取引税の額(以下「有価証券売買手数料等」という。)は次表のとおりであるが、当該金額については、損金の額に算入していないので、平成3年10月期ないし平成5年10月期の各事業年度の所得金額から減算する。

(C)支払利息
 請求人は、平成2年9月21日に、S証券金融株式会社(以下「S証券金融」という。)から20,000,000円を公表外で借入れしており、この借入金に係る支払利息の額は次表のとおりであるが、当該金額については、損金の額に算入していないので、平成3年10月期及び平成4年10月期の各事業年度の所得金額から減算する。

(D)雑損
 b証券における有価証券の売買取引に関して支払った平成3年10月期及び平成4年10月期の名義書換料並びに平成6年10月期及び平成7年10月期の口座管理料は次表のとおりであるが、当該金額については、損金の額に算入していないので、平成3年10月期、平成4年10月期、平成6年10月期及び平成7年10月期の各事業年度の所得金額から減算する。

(E)消費税
 上記(B)の有価証券の売買取引の売買手数料並びに上記(D)の名義書換料及び口座管理料に係る消費税は次表のとおりであるが、当該金額については、損金の額に算入していないので、本件各事業年度の所得金額から減算する。

(F)有価証券評価損
 請求人は、有価証券の評価方法について、低価法を採用する旨の届出書を昭和60年4月30日付で原処分庁に提出しているので、本件各事業年度末日の終値を採用し評価すると、次表のとおり評価損が生じるので、当該金額については、本件各事業年度の所得金額から減算する。

(G)事業税
 本件各事業年度の所得金額が、上記A及びBの(A)ないし(F)の加算、減算事項により増加することに伴い、平成4年10月期ないし平成7年10月期の各事業年度の事業税の額は次表のとおり増加するので、当該金額については、平成4年10月期ないし平成7年10月期の各事業年度の所得金額から減算する。

(H)寄附金
 本件各事業年度の所得金額に、上記のA及びBの(A)ないし(G)の事項を加算又は減算したところで寄附金の損金算入限度額を再計算すると、次表のとおり損金算入額が増加するので、当該金額については、平成4年10月期ないし平成7年10月期の各事業年度の所得金額から減算する。

C 所得金額
 以上の結果、本件各事業年度の所得金額は、次表のとおりとなる。

 これらの金額は、いずれも本件各事業年度の本件法人税更正処分に係る所得金額と同額であるから、本件事業年度の本件法人税更正処分はいずれも適法である。
 なお、平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求については、異議申立ての前置がなく、また、異議申立てをしないで審査請求できる場合にも該当しないことから、不適法なものであり、請求人の主張は認められない。
ハ 法人税に係る重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、上記イ及びロのとおり、実際に有価証券の売買取引を行っていないにもかかわらず、架空の有価証券売却損の額を損金の額に算入し、また、有価証券の売買取引を公表外の帳簿で行い、その売買損益を除外している事実が認められる。
 請求人のこれらの行為は、通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当するので、同項の規定に基づき行った法人税に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
ニ 本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分等について
(イ)本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分について
 上記ロのとおり、平成3年10月期の法人税の更正処分は適法であり、同更正処分に基づいて行った本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分は適法である。
(ロ)本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税に係る重加算税の賦課決定処分について
 上記(イ)のとおり、本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分は適法であり、また、上記ハのとおり、請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する仮装、隠ぺいに該当することから、同項の規定に基づき行った本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税に係る重加算税の賦課決定処分は適法である。
ホ 本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分等及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分等について
(イ)本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分について
 上記ロのとおり、平成4年10月期及び平成5年10月期の法人税の各更正処分は適法であり、同更正処分に基づいて行った本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分はいずれも適法である。
(ロ)本件平成4年10月期課税事業年度及び本件平成5年10月期課税事業年度の法人特別税に係る重加算税の各賦課決定処分について
 上記(イ)のとおり、平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分は適法であり、また、上記ハのとおり、請求人の行為は、通則法第68条第1項及び第2項に規定する仮装、隠ぺいに該当することから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った平成4年10月期課税事業年度及び平成5年10月期課税事業年度の法人特別税に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、青色申告の承認の取消処分の適否、有価証券売却損の額を本件各事業年度の損金に算入できるか否か及び重加算税の各賦課決定処分の当否にあるので、以下審理する。
(1)次のことについては、請求人及び原処分庁との双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の商業登記簿謄本によれば、請求人の代表取締役は、平成8年12月13日現在でJ及びKとなっていること。
ロ 請求人は、有価証券の評価方法について、低価法を採用する旨の記載をした届出書を昭和60年4月30日付で原処分庁に提出していること。
(2)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額について、同期において有価証券勘定を減額させるべきところ、これを減額させない方法により仮装経理をしたが、その後、Jは、平成2年10月期に仮装経理した本件有価証券売却損の額を請求人の本件各事業年度の決算が欠損とならないように、それぞれの仮決算の段階で所得金額の状況を勘案しながら損金の額に算入する金額を算定し、その算定した金額を経理課長に指示し、次表のとおり、本件各事業年度末日において振替伝票を起票し、有価証券売却損の勘定科目により、本件各事業年度の損金の額に計上したものであること。

ロ 上記イの本件各事業年度において損金の額に算入した有価証券売却損に係る有価証券の売買取引は、請求人の取引先であるa証券、b証券及びc証券において、本件各事業年度においてはその取引がなかったこと。
ハ 請求人は、有価証券売却損の額を、本件各事業年度に係る損益計算書の営業外費用の有価証券売却損の勘定科目に、平成3年10月期は30,212,420円、平成4年10月期は36,209,679円、平成5年10月期は37,632,353円、平成6年10月期は35,851,438円及び平成7年10月期は18,800,621円とそれぞれ記載していること。
ニ 請求人の平成3年10月期ないし平成7年10月期における有価証券の売買取引の状況は、次表のとおりであるが、請求人は、これを会計帳簿に記載していないこと。

ホ 請求人は、平成2年9月21日付で請求人の取引先であるa証券の要請により、S証券金融から20,000,000円を借入れしているが、これを会計帳簿に記載していないこと。
ヘ 請求人から提出された本件各事業年度に係る法人税の確定申告書の別表(四)には、修正経理に係る部分の金額の記載がないこと。
(3)J及び請求人の代理人は、当審判所に対し、次の旨答述している。
イ 有価証券の売買取引は、各証券会社に一切を委任していたこと。
ロ 本件有価証券売却損に係る当該売買取引の状況については、損失が多額に生じるようになって、公表の会計帳簿及び手控え等に記帳しなくなったことから、平成2年10月期及び平成3年10月期における当該売買取引の詳細は分からないが、本件有価証券売却損の額は、有価証券の実際の残高からみると、約2億4千万円であったこと。
ハ 上記ロのとおり、本件有価証券売却損の額が多額であったことから、平成2年10月期において、これを正当に損金の額に計上すると当社の決算が欠損となることが予想されたため、平成2年10月期においてこれを仮装経理したものであり、その後、本件各事業年度の仮決算の段階で所得金額の状況を勘案しながら、仮装経理した本件有価証券売却損の額を、本件各事業年度末日において振替伝票を起票し、本件各事業年度の有価証券売却損の勘定科目により、損金の額に算入したものであること。
ニ 平成3年10月期に損金の額に算入した有価証券売却損の30,212,420円は、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の一部の額と平成3年10月期に生じた有価証券売却損の額の合計額であるが、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額及び平成3年10月期に生じた有価証券売却損の額については、上記ロのとおり、その内訳についてはわからないこと。
(4)本件青色申告取消処分について
イ ところで、青色申告制度は、誠実かつ信頼性のある記帳をすることを約した納税義務者が、これに基づき所得金額を正しく算出して申告納税をすることを期待し、係る納税義務者に特典を付与するものであり、青色申告書の承認の取り消しは、この期待に沿わない納税義務者には、一旦与えた特典を取り消すことによって青色申告制度の適正な運用を図ろうとするものとされている。
 法人税法第126条《青色申告法人の帳簿書類》は、青色申告書を提出している法人は、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺい又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合には、同法第127条の規定により、その承認を取り消すことができる旨規定している。
 この場合における隠ぺいとは、売上除外、証拠書類の破棄等課税要件に該当する事実の全部を又は一部を隠すことをいい、事実の仮装とは、架空仕入、架空経費の計上若しくは、他人名義を装うなど事実を歪曲する等、存在しない課税要件を存在するかのように見せかけることをいうものと解されている。
ロ そして、法人税法は、期間損益を課税の前提としており、法人の各事業年度の所得金額の計算に関し、法人税法第22条第1項は、各事業年度の所得金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額と規定され、同条第4項では、当該事業年度の収益の額及び費用等の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるべきものとする旨規定している。
ハ また、仮装経理とは、一般に、法人が実際の状況をよりよく見せるため事実を仮装し、これに基づいて所得金額を過大に申告納付した場合をいうものとされており、そして、法人が仮装経理に基づく過大申告をした場合におけるその是正については、法人税法第129条第2項は、内国法人の提出した確定申告書に記載された各事業年度の所得金額を超えている場合において、その超える金額のうち事実を仮装して経理したところに基づくものがあるときは、税務署長は、当該事業年度の所得に対する法人税につき、その内国法人が当該事業年度後の各事業年度の確定決算において、当該事実に係る修正経理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出するまでの間、更正をしないことができる旨規定している。
 一般に、納税者が課税標準等又は税額等を誤って過大に申告した場合には、課税庁は、正しい税額を納付させるために更正処分を行い、過大に納付されている税額は還付することとされているところ、仮装経理に基づく過大申告の是正については、上述のとおり、積極的に正当な所得金額に減額更正をするのではなく、法人がその後の事業年度の確定した決算において、前期損益修正損等として損金の額に算入し、そして、仮装経理は、当期の営業活動に基づく損失ではないことから、確定申告に当たっては、修正経理をした金額を確定申告書の別表(四)の「加算」欄において加算したところにより、確定申告書が提出されるまでの間は、課税庁は減額更正をしないものと解されている。
 このことからすると、修正経理の方法は、確定決算の損益計算書の特別損益の項目において、前期損益修正損等と計上して仮装経理の結果を修正し、その修正した事実を明示するとともに、上記ロで述べたとおり、法人税法は、期間損益を課税の前提としているところ、仮装経理は、当期の営業活動に基づく損失ではないことから、法人税確定申告書においてはこれを調整し申告すべきであると解すべきである。
ニ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額を同期に仮装経理したもので、この仮装経理の状況を正常に戻すために、これを修正経理をした本件有価証券売却損の一部の額と平成3年10月期に生じた有価証券売却損の額との合計額30,212,420円を有価証券売却損として損金の額に算入したものであり、仮装計上したものではない旨主張する。
 しかしながら、請求人が、本件各事業年度で損金の額に算入した有価証券売却損に係る有価証券の売買取引は、上記(2)のロのとおり、実際に行った事実は認められない。
 そして、Jは、上記(3)のロ及びニのとおり、平成3年10月期における有価証券の売買取引の状況について、公表の会計帳簿及び手控え等も記帳していないことから、同期に生じた損失の具体的な金額については、わからない旨答述している。
 また、上記(3)のハのとおり、請求人が平成3年10月期において損益計算書の営業外費用の項目に計上した30,212,420円については、Jが本件各事業年度の仮決算の段階で所得金額の状況を勘案し、それぞれ本件各事業年度の決算が欠損とならないよう、有価証券売却損の額を算定したものであり、算定した同額を振替伝票を起票し、これに基づいて損金の額に計上したものであることが認められる。
 さらに、当審判所の調査によれば、上記(2)のニのとおり、請求人が平成3年10月期おいて公表外の会計帳簿により行った有価証券の売買取引の状況は、〔1〕その売買益が1,903,511円、〔2〕売却損の額が7,289,932円、〔3〕有価証券売買手数料等の額が1,158,788円、〔4〕名義書換料が500円、〔5〕消費税が50,272円及び〔6〕支払利息が43,561円であり、請求人の同期の有価証券の売買取引による損失の金額は6,639,542円であることが認められる。
 そうすると、請求人は、平成3年10月期において、同期に生じた有価証券売却損の額が6,639,542円であるにもかかわらず、上記(3)のハのJの答述のとおり、同期の所得金額の状況を勘案しながら、修正経理をしたとして振替伝票を起票し、有価証券売却損の科目により30,212,420円を損金の額に計上したものと認められ、その差額23,572,878円は、架空の損失を損金の額に算入したものと判断するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、平成3年10月期において損金の額に算入した有価証券売却損の額は、本件有価証券売却損の一部の金額について、修正経理をした金額である旨主張する。
 しかしながら、修正経理の方法については、上記ハで述べたとおり、確定決算の損益計算書の特別損益の項目において、前期損益修正損と計上して仮装経理の結果を修正し、その修正した事実を明示するとともに、法人税の確定申告書の別表(四)の「加算」欄において加算するなど、申告調整をして申告すべきであると解されているところ、請求人は、上記(イ)のとおり、Jが平成3年10月期の決算が欠損とならないよう仮決算の段階で所得金額の状況を勘案しながら、損金の額に算入する有価証券売却損の額を算定し、上記(2)のイのとおり、振替伝票を起票して、有価証券売却損の勘定科目により損金の額に計上したものと認められ、請求人は、これに基づき損益計算書の営業外費用の項目に記載し、平成3年10月期の確定申告書を提出していることが認められる。
 また、平成3年10月期の確定申告書の別表(四)の「加算」欄には、上記(2)のヘのとおり、仮装経理に基づく過大申告をした場合における修正経理に関する記載は認められない。
 そうすると、請求人が修正経理をしたとして本件有価証券売却損の一部の金額とする金額を平成3年10月期の損金の額に算入した会計処理は、平成2年10月期において仮装経理をしたとする損失の金額を消去するためのJの独自の解釈に基づく会計処理と認められ、この修正経理の会計処理は、上記ハで述べた修正経理とは認められないと判断するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)以上のとおり、法人税法は期間損益を課税の前提としているところ、請求人は、これを無視し、修正経理をしたとして、本件有価証券売却損の一部の金額とする架空の有価証券売却損の額を振替伝票を起票し、平成3年10月期の有価証券売却損の勘定科目により損金の額に計上したものと認められ、この請求人の行為は、事実を仮装したものであり、また、平成3年10月期において公表外の会計帳簿で行った有価証券の売買取引による売買益を益金の額に計上しなかった行為は、事実の隠ぺいをしたものとそれぞれ判断するのが相当である。
 そうすると、これらの請求人の行為は、法人税法第127条第1項第3号に規定するその事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる相当の理由があることに該当するものと判断するのが相当である。
 したがって、原処分庁が行った本件青色申告取消処分は適法である。
(5)平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求について
 請求人は、平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求については、異議申立てを経ていないが、当該審査請求の内容は、平成3年10月期ないし平成5年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求と同様であるから、これを認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求は、請求人が自認するとおり、異議申立てを経ることなく直接審査請求をしている。
 そうすると、平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第3項に規定する異議申立てについての決定を経たものではなく、また、同条第4項に規定する異議申立てを経ないで審査請求をすることができる場合にも該当するものではないことから、不適法なものである。
 したがって、平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に対する審査請求は、却下相当である。
(6)本件法人税更正処分について
 請求人は、本件各事業年度の本件法人税更正処分は違法であるから、その全部の取消しを求めるが、上記(5)のとおり、平成6年10月期及び平成7年10月期の法人税の各更正処分に係る審査請求は却下相当であるから、審理の限りではなく、以下、平成3年10月にないし平成5年10月期の法人税の各更正処分の違法性の存否について検討する。
イ 平成3年10月期ないし平成5年10月期の法人税の各更正処分について
(イ)請求人は、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損の額を仮装経理により、平成2年10月期の法人税の所得金額を過大に申告し、その後、本件各事業年度において、本件有価証券売却損の額を修正経理をし、それぞれ有価証券売却損の勘定科目により損金の額に計上したものであり、有価証券売却損の額を仮装計上したものではない旨主張する。
 しかしながら、上記(4)のロで述べたとおり、法人税法第22条第1項は、各事業年度の所得金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額と規定されているところ、請求人は、上記(2)のイのとおり、平成2年10月期に仮装経理をしたとする本件有価証券売却損の額の一部の金額を、平成3年10月期ないし平成5年10月期において振替伝票を起票し、それぞれ有価証券売却損の勘定科目により損金の額に計上し、本件申告をしていることが認められる。
 そして、上記(4)のニの(ロ)で判断したとおり、請求人が平成3年10月期ないし平成5年10月期の各事業年度において行った修正経理の方法は、Jの独自の解釈に基づく会計処理と認められ、この修正経理の会計処理は、上記(4)のハで述べた修正経理には当たらないものと認められる。
 そうすると、本件有価証券売却損の額は、上記(4)のロのとおり、本件有価証券売却損が生じた平成2年10月期において損金の額に算入すべきものであり、平成3年10月期ないし平成5年10月期の各事業年度の損金とは認められないものと判断するのが相当である。
 また、上記(2)のロのとおり、請求人が平成3年10月期ないし平成5年10月期の各事業年度の損金の額に算入した有価証券売却損に係る有価証券の売買取引の事実は認められないことから、請求人は、平成3年10月期ないし平成5年10月期の各事業年度において、架空の有価証券売却損の額を損金の額に計上したものと判断するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、仮に、平成元年6月以降平成8年6月までの間に税務調査が行われていれば、法人税法第129条第2項、同法第70条の規定の適用及び法人税法第57条の規定による青色申告の特典である繰越欠損金控除の適用等による税務署長の更正処分がなされ、その時点で解決されていたものである旨主張する。
 しかしながら、税務調査は、法人税法第153条《当該職員の質問検査権》の規定により行われるものであり、質問検査の範囲、程度、時期、場所、手段など実定法に特段の定めのない実施細目については、これを担当する原処分庁の職員の合理的な判断にゆだねられているものと解されているところ、原処分庁が平成元年6月以降平成8年6月までの間に、税務調査を行わなかったとしても、これを不当、違法とすることはできない。
 また、請求人が平成3年10月期ないし平成5年10月期の各事業年度において、本件有価証券売却損の額の一部の金額とする金額を有価証券売却損として、それぞれ損金の額に算入したことは、上記(4)のニの(ロ)で判断したとおり、修正経理とは認められない。
 そして、原処分庁が行った本件青色申告取消処分は、上記(4)のニの(ハ)で判断したとおり、適法と認められるから、請求人の確定申告はいわゆる白色申告となり、青色申告の特典である繰越欠損金控除の適用は認められない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、税務署長は法人が確定申告書に記載した課税標準等又は税額等が調査したところと異なるときは、通則法第24条の規定により更正処分をする義務があるところ、請求人の場合、平成2年10月期に生じた本件有価証券売却損という仮装経理した損失の金額が事実としてあるのであるから、原処分庁は、請求人の仮装経理した損失の金額を損金の額に算入し、正当な所得金額とするための減額更正をすべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(4)のハで述べたとおり、法人が仮装経理に基づく過大申告をした場合の是正については、税務署長が積極的に正当な所得金額に減額更正をするのではなく、法人がその後の事業年度の確定した決算において、前期損益修正損等として損金の額に算入し、修正経理をした金額を確定申告書の別表(四)の「加算」欄において加算したところにより、確定申告書が提出するまでの間は、減額更正をしないものと解されているところ、請求人が本件有価証券売却損の額の一部の金額とする金額を平成3年10月期ないし平成5年10月期の各事業年度において、振替伝票を起票し、それぞれ有価証券売却損の勘定科目により損金の額に算入した会計処理は、上記(4)のニの(ロ)で判断したとおり、修正経理とは認められないから、原処分庁が減額更正することができないと認めるのが相当である。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、平成3年10月期ないし平成5年10月期の法人税の各更正処分は適法であり、請求人の主張にはいずれも理由がない。
ロ 所得金額について
 以下、請求人の平成3年10月期ないし平成5年10月期の法人税の所得金額を検討する。
(イ)加算額は、次のとおりである。
A 有価証券売却損
 原処分庁は、請求人が平成3年10月期ないし平成5年10月期において、損金の額に算入した次表の有価証券売却損の額は、平成3年10月期ないし平成5年10月期の各事業年度に生じた損失とは認められないとして所得金額に加算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。

B 有価証券売買益
 原処分庁は、請求人が平成3年10月期ないし平成5年10月期において、有価証券の売買取引を行い、次表の売買益を得ていたとして所得金額に加算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。

(ロ)減算額は、次のとおりである。
A 有価証券売却損
 原処分庁は、請求人が平成3年10月期において有価証券の売買取引を行って生じた有価証券売却損の額を上記2の(2)のロの(ハ)のBの(A)のとおり7,289,932円と計算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。
B 有価証券売買手数料等
 原処分庁は、平成3年10月期ないし平成5年10月期に係る有価証券売買手数料等の額の加算額を次表のとおり計算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。

C 支払利息
 原処分庁は、平成3年10月期及び平成4年10月期に係る支払利息の加算額を次表のとおり計算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。

D 雑損
 原処分庁は、平成3年10月期及び平成4年10月期に係る雑損の額の加算額を次表のとおり計算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。

E 消費税
 原処分庁は、平成3年10月期ないし平成5年10月期に係る消費税の額の加算額を次表のとおり計算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。

F 有価証券評価損
 原処分庁は、平成3年10月期ないし平成5年10月期に係る有価証券評価損の額の加算額を次表のとおり計算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。

G 事業税
 原処分庁は、平成4年10月期及び平成5年10月期に係る事業税の額の加算額を次表のとおり計算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。

H 寄附金
 原処分庁は、平成4年10月期及び平成5年10月期に係る寄附金の額の加算額を次表のとおり計算しているところ、当審判所の調査によっても原処分庁の計算額は相当と認められる。

(ハ)所得金額
 上記(イ)及び(ロ)に基づき、請求人の平成3年10月期ないし平成5年10月期の所得金額を計算すると、次表のとおりとなる。

 以上の結果、請求人の平成3年10月期ないし平成5年10月期の所得金額は、いずれも平成3年10月期ないし平成5年10月期の法人税の各更正処分に係る額と同額となる。
 したがって、原処分庁が行った平成3年10月期ないし平成5年10月期の法人税の各更正処分はいずれも適法である。
(7)法人税に係る重加算税の賦課決定処分
イ 通則法第68条第1項によれば、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対して、過少申告加算税に代えて重加算税を課すこととされている。
 この場合、事実の隠ぺいとは、売上除外、証拠書類の破棄等、課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠匿することをいい、事実の仮装とは、架空仕入れ、架空経費の計上若しくは他人名義の利用等、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることをいうものと解されている。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
 上記(6)のイの(イ)で判断したとおり、請求人は、平成3年10月期ないし平成5年10月期において、架空の有価証券売却損の額を損金の額に計上したものと認められ、また、上記(2)のニのとおり、請求人は、平成3年10月期ないし平成5年10月期において、有価証券の売買取引を行い、その取引及び売買損益等を公表の会計帳簿に記載せず、その売買損益等を益金又は損金の額に算入していないことが認められる。
 そして、平成6年10月期及び平成7年10月期においても、平成3年10月期ないし平成5年10月期と同様、有価証券売却損を上記(2)のハのとおり、平成6年10月期は35,851,438円及び平成7年10月期は18,800,621円をそれぞれ損金の額に計上していることが認められる。このことは、上記(6)のイの(イ)で判断したとおり、架空の有価証券売却損の額を計上したものと認められ、また、上記(2)のニのとおり、請求人は、平成6年10月期及び平成7年10月期において、有価証券の売買取引を行い、その取引及び売買損益等を公表の会計帳簿に記載せず、その売買損益等を益金又は損金の額に算入していないことが認められる。
 そうすると、平成3年10月期ないし平成5年10月期の法人税の各更正処分は、上記(6)のとおり、いずれも適法であり、請求人が上述の事実に基づき平成3年10月期ないし平成5年10月期の各事業年度の所得金額を過少申告し、また、平成6年10月期及び平成7年10月期の各事業年度においても、上述の事実に基づき所得金額を過少申告した行為は、通則法第68条第1項の規定にする課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出したときに該当するものと判断するのが相当である。
 したがって、原処分庁が通則法第68条第1項に基づき行った本件各事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
(8)本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分等について
イ 本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分について
 上記(6)のとおり、平成3年10月期の法人税の更正処分は適法であり、それに伴って行った本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税更正処分は適法である。
ロ 本件平成3年10月期課税事業年度法人臨時特別税に係る重加算税の賦課決定処分について
 上記(7)のとおり、請求人の行為は、法人臨時特別税の課税標準等の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装した行為に該当するので、通則法第68条第1項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。
(9)本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分等及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分等について
イ 本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分について
 上記(6)のとおり、平成4年10月期及び平成5年10月期の法人税の各更正処分は適法であり、それに伴って行った本件平成4年10月期課税事業年度法人特別税決定処分及び本件平成5年10月期課税事業年度法人特別税更正処分はいずれも適法である。
ロ 本件平成4年10月期課税事業年度及び本件平成5年10月期課税事業年度の法人特別税に係る重加算税の各賦課決定処分について
 上記(7)のとおり、請求人の行為は、法人特別税の課税標準等の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装した行為に該当するので、通則法第68条第1項及び同条第2項の規定に基づき行った重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
(10)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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