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(平11.2.8裁決、裁決事例集No.57 342頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、△△業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成5年10月1日から平成6年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において譲渡した株式について、その評価方法及び評価額の適否を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり。

(3)基礎事実

イ 請求人は、平成5年11月4日に請求人の保有する株式会社G(以下「G社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)3,000株をG社の代表取締役J(以下「J」という。)に一株当たり500円(額面金額)で譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。
ロ 本件株式は、非上場株式であり、かつ、登録銘柄として登録されている株式以外の株式である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により不合理であるから、その一部の取消しを求める。
イ 株主の権限について
 G社は、請求人の子会社であり、請求人は取引関係と持株割合によって実質的にW株式会社の支配力に従属するという企業グループの重畳的支配関係が形成されていることから、その企業グループの末端の一株主たるJは、株主権行使の権能が大幅に制限されており、G社は世間一般の個人的同族会社と大きく相違する。
 また、G社の経営の実権は請求人の代表者が握っており、Jの発言権は皆無に近いのが実情である。さらに、本件譲渡により、JのG社の持株割合は40パーセントに増加したが、請求人のG社の持株割合からみて、請求人はG社に対する支配権を依然留保しており、Jの持株割合の増加は配当金の受領権の増加にすぎない。
 なお、会社財産に対する株主の権利は、会社解散という特殊な場合において株主に帰属する権利でもあるが、G社においては、上記の支配従属関係が切断されない限り会社解散は考えられないから、株主に与えられる真の財産は利益配当請求権に他ならない。
ロ 株式の客観的価値について
 株式を譲渡した場合のその株式の客観的価値については、売主と買主の共通認識を尊重すべきである。このことから、本件株式の譲受人であるJは「売買価額が3,000万円を超えるような高額であれば、買取りの意思はなかった」と明言している。
 また、本件株式のように市場流通性のない株式については、流通性の障害要因をある程度ディスカウントして流通すべき価額を求めるのは、至極当然の理である。
ハ 法人税基本通達の適用について
 非上場株式で、かつ、気配相場のない株式(以下「取引相場のない株式」という。)の評価についての取扱いを定めた法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25の国税庁長官通達をいう。以下同じ。)9―1―14《非上場株式で気配相場のないものの価額》の(4)では、純資産価額その他を参考にして客観的な交換価値により評価する旨定められており、株式の評価について画一的適用を排除している。
 また、上記通達の特例である法人税基本通達9―1―15《気配相場のない株式の価額の特例》は、課税上弊害がない場合において、評価会社の純資産価額により評価する方法(以下「純資産価額方式」という。)による評価を認めているものであって、本件株式を同通達により純資産価額方式のみの評価とすることは請求人にいわれなき多額の税負担を課すもので課税上弊害があるから、同通達により本件株式を評価することはできない。
ニ 本件株式の評価額について
 本件株式の評価額は、上記のように企業系列下に組み込まれた末端株主の買取価額であることから、企業清算的な正味分配価値のみを基礎とするよりも、将来の配当期待権の価値を資本還元した価額により評価する方法(以下「配当還元方式」という。)により評価した価額に重点を置き(ウエート付けして)、市場流通性の欠如を考慮した純資産価額方式との併用により算出するのが合理的な算定方法であると考える。
 それにより本件株式を評価すると、次のとおり一株当たり3,219円となり、寄付金の損金不算入額は5,641,999円となるので、これを上回る原処分の一部の取消しを求めるものである。
(イ)配当還元価額 657円・・・・・・A
(ロ)純資産価額 10,088円・・・・・・B
(ハ)市場流通性欠如による減額後の割合 0.7・・・・・・C
(ニ)本件株式の一株当たりの価額
 A×0.6+(B×C)×0.4=3,219円
(注)Aのウエートを6割とする。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 通常取引されると認められる価額の算定方法について
 取引相場のない株式の通常取引されると認められる価額(以下「通常取引価額」という。)については、法人税法上、具体的に規定されていないが、資産の評価損を計上する場合の期末の時価については、法人税基本通達においてその取扱いが定められている。すなわち、取引相場のない株式については、〔1〕期末前6か月間に売買実例がなく、〔2〕公開途上にある株式でもなく、さらに、〔3〕発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額もない場合には、発行法人の事業年度終了の時における一株当たりの純資産価額等を参酌した通常取引価額を時価とし(法人税基本通達9―1―14)、また、客観的な通常取引価額を算定する方法が他にないような場合には、課税上の弊害がない限り、一定の留保条件付で財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成6年2月15日付課評2―2ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)の178から189―6まで《取引相場のない株式の評価》の例により算定した評価額を時価とすることができる(法人税基本通達9―1―15)というものである。
 これらの法人税基本通達の趣旨・目的は、株式はその性格上、価格形成には極めて複雑な要素が絡み合うため、実際問題として株式の時価を算定することは難しく、特に取引相場のない株式については、具体的にその時価を算定することは極めて困難であること並びに相続税及び贈与税における取引相場のない株式の評価については、評価通達によりその方法が定められ実務に定着していることから、取扱いを統一して、納税者の申告・納税の便に供するとともに、課税の公平を図り、法人がこれらの通達の定めによって取引相場のない株式の期末時価を算定しているときは、法人税の計算においても原則としてこれを認めることとしたものであり、取引相場のない株式の時価の算定についての一つの具体的な基準を示したものと解される。
 そして、この法人税基本通達9―1―15の取扱いは、取引相場のない株式について評価損を計上する場合の期末時価の算定についてのものではあるが、合理的な時価の算定と認められることから、関係会社間等において取引相場のない株式の売買を行う際に他に適当な時価の算定方法がないような場合には、この通達を準用して株式の通常取引価額を算定することが合理的であり相当であると解される。
 ところで、法人税基本通達9―1―15の(1)では、評価通達に定める評価方法を法人税における非上場株式の評価に援用する場合には、評価通達188《同族株主以外の株主等が取得した株式》の(2)に定める「中心的な同族株主」が所有する株式は、常に同通達でいう小会社(以下「小会社」という。)の株式に該当するものとし、原則として純資産価額方式によって評価すべきこととしている。
 これは、相続税又は贈与税に関する取扱いである評価通達を法人税に関してそのまま適用することには問題があることから、法人税の立場から留保条件を加えたものであり、この留保条件は、一般に特定の株主が一人で法人の株式を100パーセント保有するような場合には、その法人の経営形態は法人の規模にかかわらず実質的に個人経営と異ならないと考えられるように、特定の株主及び同人と密接な関係を有する者の持株割合が高ければ高いほどその法人の経営形態は個人的色彩が強まり、さらに、その特定の株主の持株は法人の財産と密接に結びついていくと考えられることから付されているものと解される。
ロ 株主の権限について
 本件株式は、JのG社における経営責任をより明確にするために譲渡されたものであり、その結果、JはG社の発行済株式数の40パーセントを占める株主となっている。
 そもそも株式の所有者たる株主は、法律により付与された様々な権利(株主権)を行使することができるとともに、その行使につき何ら制限を受けることはなく、さらに、Jの持株割合40パーセントの株主権は、株主総会における特別決議等に大きな影響力を持つものである。
 そして、Jは、G社の業務執行において代表者として影響力を持つ株主で、G社の一切の業務について自ら決定し執行する権限を有している。
 これに対し請求人は、G社の業務執行の権限は請求人及び請求人の代表者が有しJは何ら業務執行の権限は有していないと主張するが、仮にJがG社の業務を請求人の代表者からの指示に基づいて行ったとしても、その効力と責任は、Jに帰せられるものである。
 また、Jは自らの意思でG社を解散させることは困難であるとしても、G社の株式を所有することによってG社の純資産の株主持分を有することとなるから、Jが本件株式を取得することによって得る権利は配当期待権にとどまる旨の請求人の主張には理由がない。
ハ 株式の客観的価値について
 法人税法上、売買取引における取引価額については、それが純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた価額であれば、一般には常に合理的なものとして是認されるが、本件譲渡のように、親会社と子会社の代表者との譲渡で純然たる第三者間の取引ではなく、かつ、その合意価額が合理的に算定されていないと認められる場合には、当事者間の合意があったとしてもその合意価額は客観的交換価値を示すものとは認められない。
ニ 法人税基本通達の適用について
 本件株式は、〔1〕証券取引所に上場されていないことはもとより、気配相場もなく、取引の実例もない株式であること、〔2〕請求人の関係会社の代表者に譲渡されたもので、通常取引価額の合理的な算定方法が他に見当たらないこと、さらに、〔3〕請求人及びJが評価通達に定める中心的な同族株主に該当することは明らかであるところ、請求人がG社の支配権を持つことは請求人が自認するところであり、また、JがG社の株主として大きな影響力を持ち、G社の代表者としてG社の業務を決定、執行していることは上記ロのとおりであることから、法人税基本通達9―1―15に定める純資産価額方式により通常取引価額を算定することが上記イのとおり、最も妥当と判断されたので当該方式を援用したものである。
 したがって、画一的又は単純に純資産価額方式を適用したものではなく、また、本件株式の通常取引価額を請求人の譲渡価額又は請求人の主張する算定方式による価額とすることは、請求人の税負担を理由なく軽減して他の納税者との衡平を失し、課税上の弊害が生ずることになる。
ホ 本件株式の評価額について
 本件譲渡が、通常取引価額でなされたものとは認められないことから、法人税基本通達9―1―15を援用し評価通達の例により計算した本件株式3,000株の通常取引価額30,264,000円と本件譲渡に係る価額1,500,000円との差額28,764,000円については、請求人がJに寄付をしたものと認められるので、法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《寄付金の損金不算入》第2項の規定に基づき寄付金の損金不算入額を計算すると、請求人の法人税の所得金額は212,322,378円、納付すべき税額は77,572,900円となり、これらの金額は更正処分(異議決定による一部取消し後のもの。以下同じ。)の額と同額となるから、更正処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件審査請求の争点は、取引相場のない株式の評価方法及び評価額の適否にあるので、以下審理する。
イ 争いのない事実
 次のことについては、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人の取締役会議事録によれば、本件譲渡は、平成5年10月25日開催の取締役会において、JのG社における経営責任をより明確にすることを目的として承認可決されていること。
(ロ)本件株式の純資産価額方式による一株当たりの価額は、別表2の〔6〕のとおり10,088円となること。
ロ 認定事実
 当審判所が、請求人提出資料及び原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)本件株式は、本件譲渡の日前6か月間において、本件譲渡と同様の条件の下での適正と認められる売買実例がないこと。
(ロ)G社と事業の種類、規模、収益の状況等が類似すると認められる他の法人の株式の価額が見当たらないこと。
(ハ)本件譲渡により譲渡後のG社の発行済株式の持株割合は、請求人が42.5パーセント、Jが40.0パーセントとなり、それぞれが、評価通達上の「同族株主」となること。
(ニ)原処分庁は、本件譲渡が通常取引価額でなされたものとは認められないとして、本件株式の通常取引価額を法人税基本通達9―1―15を援用し、純資産価額方式により算定したこと。
ハ ところで、株式の時価とは、正常な取引において形成された価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解されることから、一般的には市場を通じて不特定多数の当事者間における自由な取引により市場価格が形成されているような場合は、これを時価とするのが相当であるが、本件株式のように取引相場のない株式にあっては、市場価格が形成されていないからその時価を容易に把握することは困難である。
 したがって、合理的と考えられる評価方法によってその時価を評価するほかはなく、評価方法が合理性を有する限り、それによって得られた評価額をもって「時価」とすることに妨げはないというべきである。
 また、株式が会社資産に対する持分としての性質を有することからすると、理論上は、純資産価額方式が株式評価に関する基本的方式であると位置づけることが可能であり、特に業績が順調に推移している会社の支配株主の保有する株式については、その最低限の価格を把握する方式と考えられる。
 これに対し、配当還元方式は、特に同族会社の場合には、支配株主の意向により、そうでない会社に比べて配当が著しく低く抑えられる傾向があるので、評価額が実態よりも低く算出される結果を招きやすく、少なくとも支配株主の保有する株式の評価方法としては妥当ではないというべきである。
 そして、取引相場のない株式の評価として、評価通達の定めるところは、会社の規模等の実態に即した評価とするため、会社資産の割合的持分という株式の性質に応じた純資産価額方式を基本として、会社の規模により、事業内容が類似する業種目の上場株価に比準して株式の価値を評価する方法(類似業種比準方式)による評価を加味し、さらに、株式取得者の会社経営への影響力等による株式取得利益の大小を考慮して、一定割合以下の株式取得者に対しては、配当還元方式という簡便な評価方式を採用し得ることを定めたものであり、法人税基本通達においてもこれを援用することとしたものであるから、かかる基準そのものは一般的な合理性を有するものということができる。
ニ 上記イ及びロの事実を上記ハに照らして本件株式の評価方法及び評価額の適否を判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件株式は親会社の支配従属関係にあり市場流通性のない株式であるから、その客観的価値については、配当還元方式により評価した価額に重点を置き純資産価額方式との併用により、流通性の障害要因をある程度ディスカウントして流通すべき価額を求めるのは至極当然の理である旨主張する。
 しかしながら、本件株式は、上記イの(イ)のとおり、Jの経営責任をより明確にするために譲渡されたものであり、その結果、JはG社の発行済株式の40パーセントを占める同族株主となっていることから、いわゆる従業員株主のような零細株主とは異なり、責任と権限を有する株主である。
 このことから、上記ハで述べたとおり、本件譲渡について配当還元方式を採用することは、少なくとも責任と権限を有する株主の保有する株式の評価方法としては妥当ではない。
 また、請求人は、市場流通性のない株式についてはディスカウントすべきであるとして減額計算を主張するが、請求人の主張する減額計算には具体的、合理的な根拠がない。
 したがって、請求人の主張する算定方法には合理性が認められないことから、これを採用することはできない。
(ロ)本件株式は、上記1の(3)のロ並びにロの(イ)及び(ロ)のとおり、取引相場のない株式で売買実例もなく、発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する法人も他にないことから、市場性がなく、その時価が明らかでないため客観的な通常取引価額を算定する方法が地にないことから、原処分庁が法人税基本通達9―1―15の評価方式を援用して本件株式の通常取引価額を純資産価額方式により算定したことは、法人税基本通達の定めが上記ハのとおり一般的に合理性を有すると認められる以上、これを不相当とする理由はない。
 なお、請求人は、上記2の(1)のハのとおり、法人税基本通達9―1―15によって本件株式を評価することはできない旨主張するが、上記(イ)のとおり、請求人の譲渡価額及び請求人の主張する価額には合理性が認められないことから、原処分庁が現実的な対応として同通達の評価方式を援用し、純資産価額方式により本件株式の通常取引価額を算定したことは、株式が会社資産に対する持分としての性質を有するものであり、また、G社のように業績が順調に推移している法人の株式の評価については純資産価額方式が最低限の価額を把握する方式であることからすれば、不合理ということはできず、適正である。
(ハ)以上を総合して判断すると、請求人の主張はいずれも採用することができず、原処分庁が本件株式の通常取引価額を法人税基本通達9―1―15を援用し評価通達の例により算定したことは相当である。
 そうすると、本件株式の一株当たりの通常取引価額は、別表2のとおり10,088円(同表の〔6〕の金額)となり、当該金額に3,000株を乗じた30,264,000円が本件株式の通常取引価額となる。
 請求人は、通常取引価額30,264,000円の本件株式をJに対し1,500,000円で譲渡したことから、この通常取引価額と譲渡価額との差額28,764,000円は、法人税法第37条第7項の規定により、請求人がJに対し無償の贈与すなわち寄付をしたものと認められる。
 このことから、法人税法第37条第2項の規定に基づき寄付金の損金算入限度額の計算を行うと、別表3のとおり25,991,411円(同表の8の金額)が寄付金の損金不算入額となる。
 その結果、請求人の本件事業年度の法人税の所得金額は212,322,378円、納付すべき税額は77,572,900円となり、これらの金額は更正処分の金額と同額となるから、更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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