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(平11.6.4裁決、裁決事例集No.57 371頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、写真器材の販売を営む同族会社であるが、平成5年4月1日から平成6年3月31日まで及び平成7年4月1日から平成8年3月31日までの各事業年度(以下、それぞれ「平成6年3月期」及び「平成8年3月期」といい、これらを併せて「各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に、別表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、H国税局の職員の調査を受け、創業者である故J(以下「J」という。)の配偶者であるK(以下「K」という。)に対して支給している終身年金(以下「本件終身年金」という。)の支給累計額が12,000,000円を超過する部分の金額(以下、この超過する部分の金額を「本件超過支給金額」という。)は、寄付金に該当するとの指摘を受けた。
 請求人は、当該指摘に従い、各事業年度について、本件超過支給金額を寄付金の額に含めて、法人税法第37条《寄付金の損金不算入》第2項の規定に基づき計算した寄付金の損金不算入額を当期利益の額に加算したほか、その他の修正すべき事項と併せて、平成9年2月24日に別表の「当初修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「当初修正申告書」という。)を提出した。
 当初修正申告書を提出した後、請求人は、本件超過支給金額は寄付金には該当しないものと判断を改め、その判断に基づき課税標準等の再計算を行なうと、法人税法第67条《同族会社の特別税率》第3項に規定する留保控除額が減少することにより、同条第1項に規定する課税留保金額が増加することに伴い、税額が増加することとなる平成6年3月期及び平成8年3月期について、平成9年6月30日に別表の「再修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「再修正申告書」という。)を提出した。
 これに対して、原処分庁は、当初修正申告書に記載された寄付金の損金不算入額の金額が正当であるとして、平成10年6月30日付で別表の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
 請求人は、本件更正処分を不服として、平成10年7月7日に異議申立てを経ずに審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件更正処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分に係る理由附記について
 本件更正処分に係る理由附記(以下「本件理由附記」という。)は、法人税法第130条《青色申告に係る更正》第2項の規定が要求している理由附記を欠いているので、本件更正処分は違法である。
 すなわち、青色申告に係る更正処分に更正の理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重及び合理性を担保して、そのし意を抑制するとともに、処分の理由を相手方納税者に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨であり、また、更正の理由とは、〔1〕更正の原因となる事実、〔2〕この事実に対する法の適用及び〔3〕結論の3つを含むものであるので、更正の理由附記には、法的判断について、その結論のみを示したのでは十分ではなく、結論に至った理由を附記する必要がある。
 しかしながら、本件理由附記には、「平成9年2月24日に提出した修正申告が正しい。」と記載されているのみであって、単なる計算過程を示しているにすぎず、本件超過支給金額がなぜ寄付金に該当するのか、Jに対する退職慰労金318,166,665円(以下「本件退職慰労金」という。)が過大な役員退職給与に該当するか否か等、肝心な点についての理由が記載されていない。
ロ 本件超過支給金額等について
(イ)本件超過支給金額
 終身年金契約は、受給者の生存中、定期に、金銭その他の物を給付することを約する契約によって成立するものであり、受給者が死亡しない限り終了するものではなく、終身年金の支給総額は、受給者の生存年数のいかんによって増減することが当然予定されている。
 また、退職給与とは、退職に伴って支給される一切の給与をいい、退職年金をも含むものである。
 請求人は、本件退職慰労金の一部を終身年金として支給することを決定し、本件退職慰労金から本件終身年金の金額を12,000,000円と評価してこれを控除した残額を退職一時金として支給しているのであるから、本件終身年金は、あくまで退職給与の一部であり、本件終身年金の支給累計額が12,000,000円を超過したからといって、超過した時点から、超過した部分の金額が直ちに寄付金に変化するというものではない。
 したがって、本件超過支給金額の損金算入を否認する場合には、受給者の平均余命に基づいて算定される本件終身年金の複利年金原価と退職一時金の額を合計した金額が法人税法第36条《過大な役員退職給与の損金不算入》の規定により、過大な役員退職給与に当たるか否かを判定して行うべきである。
(ロ)更正すべき事業年度について
 本件更正処分がなされた日は、平成9年6月30日であるが、終身年金を含む役員退職給与の額が過大であるかどうかを判定すべき時期は、株主総会の決議によって役員退職給与の支給を決議した日の属する事業年度である。
 請求人が本件退職慰労金の支給を定めた日は、平成3年6月27日であり、同日の属する事業年度の法人税の法定申告期限は平成4年6月30日であるから、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項第1号の規定により、法定申告期限から3年を経過した日の平成7年7月1日以降は、本件終身年金に係る更正はすることができない。

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(2)原処分庁の主張

イ 本件更正処分に係る理由附記について
 青色申告書に係る更正の理由附記の程度は、帳簿の記載事項を否認して更正する場合には、理由附記において、更正をした根拠を具体的に明示し、かつ、認定に係る過程で収集された帳簿の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することが要求されているが、帳簿に記載された事実に対して法的評価を加えて否認する場合には、更正の根拠を理由附記制度の趣旨・目的を充足する程度に具体的に明示すればよいと解されている。
 本件更正処分は、Kに対する終身年金の支給という帳簿記載の事実を否認したものではなく、この事実に対して法的評価を加えて否認したものにすぎない。
 そうすると、本件理由附記は、各事業年度においてKに対して支給した年金の支給額6,000,000円が寄付金に該当するとの判断を明示しているので、以後の不服申立てに便宜を与えており、理由附記として不足はない。
ロ 本件超過支給金額等について
(イ)本件超過支給金額
 請求人には、終身年金の支給について定めた規定はなく、終身年金の支給対象者は、Jの配偶者のみであり、年金の支給は生命保険会社等へ委託されておらず請求人自身が行っている。このような支給方法が容認されると、退職給与の支給に限度が無くなるという事態が発生することとなり、請求人自らが定めた支給限度額の定めを反ごにしてしまう結果となる。
 また、請求人は、取締役会及び株主総会において、役員退職慰労金規定に基づき、創業者に対する本件役員退職給与の支給限度額を318,166,665円と決議していることから、当該金額が役員退職給与の適正額であることは明らかである。
 しかも、取締役会及び株主総会は、本件終身年金について、単に、退職慰労金の支給方法として決議したにすぎない。
 にもかかわらず、請求人が本件超過支給金額を支払っていることからすると、本件超過支給金額は、無償の年金契約に基づいて支給されたものと認めるのが相当であるので、本件超過支給金額は寄付金に該当する。
(ロ)更正すべき事業年度について
 本件更正処分は、役員退職慰労金規定に基づいて計算された支給限度額を超えて支給した金額が、税務上寄付金に該当するという理由によるものであって、本件退職慰労金の額が過大であるとの理由によるものではないから、過大な役員退職給与に係る判定等は、本件更正処分とは関係がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件更正処分に係る本件理由附記が適法か否か及び本件超過支給金額が寄付金に当たるか否かにあるので、はじめに、本件理由附記の適否について、以下審理する。
(1)平成6年3月期の更正通知書には、次のとおりの更正の理由が附記されている。
 なお、平成8年3月期の更正通知書の更正の理由に附記されている文言は、平成6年3月期の更正通知書の更正の理由に附記されている文言と同じであるが、金額については、それぞれ異なるので、平成8年3月期に係るものをそれぞれ括弧書きで示すこととする。
イ「加算」欄の記載
 寄付金の損金不算入額……………………2,810,262円(3,203,248円)
 貴法人は、平成9年6月30日に提出された修正申告書において、平成9年2月24目に貴法人提出の修正申告における寄付金の損金不算入額2,810,262円(3,203,248円)を所得金額に加算していません。
 貴法人が平成9年2月24日に提出された修正申告書に添付した「寄付金の損金算入に関する明細書」の「その他寄付金」に記載している6,000,000円は、貴法人が雑費に計上しているKに対する支給額を同人に対する寄付金とした金額で、法人税法第37条第2項の規定により算出された寄付金の損金不算入額2,810,262円(3,203,248円)を修正申告したものであり正当と認められます。
 しかし、当該金額が加算されていませんので所得金額に加算しました。
ロ「その他」欄の記載
(イ)同族会社の留保金額に対する税額の減少額…………………147,600円(168,150円)
 本件更正による寄付金の損金不算入額2,810,262円(3,203,248円)を、貴法人が平成9年6月30日に提出された修正申告に添付した「同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書」の所得金額総計に加算し、留保金に対する税額を再計算すると、税額は、5,077,350円(12,671,100円)となり、当該修正申告書に記載された留保金額に対する税額5,224,950円(12,839,250円)との差額147,600円(168,150円)の留保金額に対する税額が減少しました。
(ロ)翌期へ繰り越す欠損金の過大額…………2,810,262円(11,275,035円)
 貴法人は、平成9年6月30日に提出された修正申告において、翌期へ繰り越す欠損金を274,473,884円(125,283,442円)と記載していますが、平成9年2月24日に提出された貴法人の修正申告における翌期へ繰り越す欠損金271,663,622円(114,008,407円)が正当と認められますので、差額2,810,262円(11,275,035円)が過大となります。
(2)請求人は、本件理由附記は、単なる計算過程を示したにすぎず、本件超過支給金額がなぜ寄付金に該当するのか判断の根拠を示していないから違法である旨主張し、これに対し、原処分庁は、本件理由附記は、本件超過支給金額が寄付金に該当する旨の原処分庁の見解を明らかにしているので、理由附記として不足はない旨主張する。
 ところで、法人税法第130条第2項において、青色申告に係る法人税につき更正をする場合には、更正の理由を附記すべき旨規定している趣旨は、処分庁の判断の慎重及び合理性を担保してそのし意を抑制するとともに、処分の理由をその相手方である納税者に知らせて不服申立てに便宜を与えることにあると解されている。
 この趣旨からすると、処分の理由は、他の事情から納税者がこれを了知していたか否かに関わりなく、更正の通知書に附記された更正の理由の文面から明らかであることが必要であり、記載すべき理由附記の程度は、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合においては、そのような更正をした根拠を帳簿書類以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示する必要があり、また、帳簿書類の記載自体を否認するのではなく、事実に対する法的評価の相違による更正処分の場合には、帳簿書類以上に信ぴょう力のある資料を摘示する必要はないにしても、なぜそのような判断に至ったのかという原処分庁の判断過程については、これを省略することなく具体的に記載する必要があると解するのが相当である。
 これを、前記(1)に記載した本件理由附記についてみると、更正の理由の「加算」欄に記載された文言からは、原処分庁が当初修正申告書に係る寄付金の損金不算入額の計算が正当であるとの結論に至った判断過程、すなわち、なぜ本件超過支給金額が寄付金に当たると判断したのか具体的な理由の記載が認められず、その理由を知ることはできないので、本件理由附記は、法人税法第130条第2項に規定する要件を満たさない不適法なものといわざるを得ない。
 したがって、本件更正処分は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも取り消すのが相当である。

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