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(平11.3.26裁決、裁決事例集No.57 504頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人E、F及びG(以下「請求人ら」という。)は、平成6年4月12日に死亡したHの共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税について、申告書に別表の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年12月10日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人らは、これらの処分を不服として平成10年2月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年5月8日付で棄却の異議決定をしたので、同年6月5日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Eを総代として選任し、その旨を平成10年6月5日に届け出た。

(2)原処分の概要

 請求人らは、本件相続の申告に際し、本件相続により取得した財産のうち、K株式会社(以下「K社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)6,000株及びL株式会社(以下「L社」という。)の株式2,450株は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第70条《国等に対し相続財産を贈与した場合等の相続税の非課税》第1項に規定する財産であるとしてその価額を本件相続に係る課税価格の計算の基礎に算入しなかった。
 これに対し、原処分庁は、これらの株式について措置法第70条第2項に規定する事由が生じたとして、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成6年6月27日付課評2―8ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)179《取引相場のない株式の評価の原則》の定めにより、本件株式の1株当たりの価額をK社の1株当たりの純資産価額で評価した142,595円、L社の株式の1株当たりの価額をL社の1株当たりの純資産価額で評価した零円とし、それらにそれぞれの株式数を乗じて算定した価額を本件相続に係る課税価格の計算の基礎に算入して本件更正処分をした。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 原処分庁がした本件株式の価額の評価は、次の理由により誤りである。
(イ)本件株式の価額については、次のとおり評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》を適用し1株当たりの価額を零円、総額零円と評価すべきである。
A 本件株式の1株当たりの価額を、評価通達179に定めるK社の1株当たりの純資産価額に基づく評価額により142,595円として行った原処分は、本件株式が課税時期から5か月余り経過後に行われた合併法人であるL社と被合併法人であるK社ほか8社(以下、これらを併せて「被合併法人各社」という。)の合併(以下「本件合併」という。)により存続会社となったL社の株式となり、当該株式の本件合併直後の1株当たりの純資産価額に基づく評価額が零円であることからすれば、本件合併の事実を無視し、評価通達を形式的かつ画一的にしたもので、その価額は時価である客観的交換価額と乖離した実態にそぐわない著しく公平を失する不適当なものである。
B 上場株式の株価は、実例にも見られるように、合併契約締結前であっても合併という要素を反映してその合併後の状況を想定したものとなるところ、合併契約締結後であればなおさらのことである。
 このことからすれば、本件の課税時期においては、本件合併契約は既に締結されその後の合併諸手続を終え合併期日を待つ段階にあるから、本件株式の価額には合併という要素が反映されてしかるべきであるところ、本件株式の価額は、本件合併がM株式会社における多額の簿外債務発覚に端を発したグループ救済のためにされたものであることなどの特殊性及び個別性が大変強いものであることを併せて考慮すれば、評価通達179に定めるK社の1株当たりの純資産価額に基づく評価額では実態にそぐわず著しく公平を失するものであるから、評価通達6を適用し、課税時期においてL社と被合併法人各社の純資産価額を算出し、その純資産価額を加算(債務超過の場合にはその債務超過価額を控除)した純資産価額により算定する、すなわち課税時期において本件合併後の法人を想定し、その純資産価額により算定するのが合理的であり、その価額は1株当たり零円である。
(ロ)原処分庁は、請求人らが本件株式を取得した時点ではまだ本件合併が行われておらず、請求人らの主張する本件株式の価額は合併直後のL社の株式の見込評価額にすぎない旨主張するが、本件においては、L社と被合併法人各社がそれぞれの臨時株主総会で本件合併契約に係る承認決議を終え商法第408条の3《株式買取請求権》の規定による期限も過ぎて株主にとって有効に成立した合併契約があることから、土地の売買契約が締結された後、当該土地の所有権移転登記又は引渡しが行われる前にその売主が死亡した場合の当該土地の価額については土地譲渡対価請求権という債権的請求権として評価されるのと同様に、本件株式の価額は、合併後のL社の新株式交付請求権として評価するのが適当であり、その価額は課税時期において合併後の法人を想定し、その純資産価額により算定した1株当たり零円である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 本件株式の価額については、次のとおり評価通達179を適用し、1株当たり142,595円、総額855,570,000円と評価すべきである。
(イ)相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、そして当該時価については評価通達の定めによって評価した価額によることとされているところ、請求人らが本件株式を取得した時点ではまだ本件合併は行われていないことから、合併直後のL社の株式の見込評価額に影響されることなく、本件株式及びL社の株式それぞれの価額について評価通達179の定めに基づき算定することとなり、そうすると本件株式の1株当たりの価額は142,595円となる。
(ロ)請求人らは、原処分は、本件合併の事実を無視し、評価通達を形式的かつ画一的に適用したもので、その価額は時価である客観的交換価額と乖離した実態にそぐわない著しく公平を失する不適当なものであるとし、本件株式の客観的交換価額は、評価通達6を適用し課税時期において合併後の法人を想定し、その純資産価額により算定するのが合理的で、その価額は1株当たり零円である旨主張するが、本件株式は市場性のない株式で、具体的な取引事例がなく客観的な交換価値は明らかでないので、原処分の価額と客観的交換価額とが著しく乖離するか否かの判断はできず、また、請求人らが本件株式を取得した時には、まだ本件合併は行われていないことから、本件株式の価額は、合併後のL社の株式の評価額に影響されることなく、評価通達179の定めに基づき評価することとなり、評価通達6を適用する理由はない。
(ハ)なお、請求人らが主張する売買契約中の土地の価額の取扱いは、最高裁判所の判決を踏まえ、売買契約中の土地等については残代金請求権として相続税評価額によらず実際の取引金額によるべきとしたもので、合併を予定している本件株式の価額の評価とは別異のことであり、本件株式の価額について、合併後のL社の新株式交付請求権として評価するのが適当である旨の請求人らの主張には理由がない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)L社と被合併法人各社が取り交わした平成5年12月18日付の合併契約書(以下「本件契約書」という。)には、おおむね次のことが記載されている。
A 本件合併契約は、L社と被合併法人各社との個別合併契約であり、その合併期日は平成6年9月21日である。
B 本件合併によりL社が存続会社となり、被合併法人各社は解散する。
(ロ)L社及びK社は、ともに平成6年1月8日の臨時株主総会で、本件契約書承認の件について承認決議されている。
(ハ)L社は平成6年1月19日付の官報に「合併並びに資本減少公告」を、また、被合併法人各社は、平成6年1月19日付の官報に「合併並びに資本減少公告」及び同月21日付の官報に「合併につき株券提出公告」を掲載している。
(ニ)公正取引委員会は、L社と被合併法人各社が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第15条第2項の規定により平成6年6月6日に提出した合併届出書を同月10日付で受理している。
(ホ)運輸大臣は、L社と被合併法人各社からの平成6年7月4日付の一般貨物自動車運送事業者たる法人の合併の申請については同年9月7日付で認可し、同年7月8日付の利用運送事業者たる法人及び利用運送事業に該当する事業について確認を受けた者たる法人の合併の申請については、貨物運送取扱事業法第17条第2項及び同法附則第10条第4項において準用する同法第17条第2項の規定に基づき同年9月7日付で認可している。
(ヘ)L社の商業登記簿謄本には、平成6年9月27日付でL社が被合併法人各社を合併した旨記載されている。
(ト)請求人らが当審判所に提出した1株当たりの純資産評価額(相続税評価額)の計算明細書には、課税時期現在における1株当たりの純資産価額はK社が142,595円、L社が零円である旨記載されている。
 なお、これらの価額は、当審判所が評価通達179の定めに基づきK社及びL社を大会社として評価した額と同額である。
(チ)相続税の申告書第14表には、本件株式の株数は6,000株でその価額は855,570,000円と記載されている。
ロ 上記認定事実に基づき、本件株式の評価方法につき、以下検討する。
(イ)相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは、課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値を示す価額であると解されるところ、相続税等の課税対象となる財産は多種多様であり、客観的な交換価値を示す価額というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税庁は評価通達を定め、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法を明らかにし、これによって課税庁内部の取扱いを統一し課税の公平を保つとともに、これを公開することによって納税者の申告及び納税の便に供していることが認められる。
 そうすると、特に租税平等主義という観点からして、評価通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平を実現できるものと解される。
 そして、評価通達179では、評価通達178《取引相場のない株式の評価上の区分》により区分された各会社の株式の価額について、〔1〕大会社に該当する会社の株式の価額は、類似業種比準価額又は1株当たりの純資産価額、〔2〕小会社に該当する会社の株式の価額は、1株当たりの純資産価額及び〔3〕中会社に該当する会社の株式の価額は、大会社の評価方式と小会社の評価方式との併用方式により評価する旨定めているところ、この定めは取引相場のない株式を会社の規模等に関係なく同一の方法によって評価することは適当ではないことから、それぞれの会社の規模等の実態に即した評価を行うこととした妥当かつ合理的なものであり、本件株式の価額の評価に適用すべきものであると認められる。
 また、会社の合併とは二以上の会社が合併契約により商法等に定められている一定の手続を経て一つになることをいい、その法律上の効力は商法第102条《合併の効力発生時期》の規定により、合併会社がその本店所在地において合併の登記をすることによって生じ、そして、当該一定の手続としては、合併契約書の作成、株主総会の承認決議、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第15条第2項の定めに基づく公正取引委員会への届出などがあり、さらに業種によっては主務大臣の認可を要する場合があるが、これを本件合併についてみると、前記イの(イ)ないし(ヘ)のとおり、これらの手続が終了し本件合併が登記されたのは平成6年9月27日であることから、法律上の合併の効力の発生の日は平成6年9月27日と認められる。
(ロ)これを本件についてみると、本件株式は取引相場のない株式で、当該株式の価額はその発行会社であるK社が評価通達178に定める大会社に該当することから評価通達179に定める大会社として評価すべきところ、請求人らが本件株式を取得した課税時期である平成6年4月12日は本件合併の効力の発生日の同年9月27日前でまだその合併の効力が生じておらず、また、本件合併契約が締結されたことによる影響を本件株式の評価に反映させるとする定めもないことから、本件株式の価額については、合併後のL社の株式の評価額に影響されることなく課税時期である平成6年4月12日現在におけるK社の1株当たりの純資産価額により評価するのが相当であり、その1株当たりの価額は142,595円である。
(ハ)請求人らは、原処分は、本件株式の価額の評価に当たり、本件合併の事実を無視し評価通達を形式的かつ画一的に適用したもので、その価額は時価である客観的交換価額と乖離した実態にそぐわないものであるから評価通達6を適用し、課税時期において本件合併後の法人を想定し、その純資産価額により算定するのが合理的であり、その価額は1株当たり零円である旨主張する。
 しかしながら、本件株式の課税時期における価額は、上記のとおり本件合併とは関係なく1株当たり142,595円であり、このことについて請求人らは前記イの(ト)及び(チ)のとおり自認しているにもかかわらず、この価額が適正な時価評価ではないとする請求人らの主張の根拠は、課税時期におけるK社の1株当たりの純資産価額に基づく1株当たりの評価額142,595円と課税時期から5か月余り経過した本件合併直後におけるL社の1株当たりの純資産価額に基づく1株当たりの評価額零円とを比較したものであり、これは相続財産の評価の原則が相続税法第22条で規定するとおり、当該財産の取得の時における時価、すなわち課税時期における時価であることからして到底認め難く、また、上記(イ)のとおり評価通達に定められた評価方式が合理的である限り原処分に違法、不当があるとは言えず、当該評価通達を形式的かつ画一的に全ての納税者に適用することによって租税負担の実質的な公平の実現が図られるものであると解されることから、本件株式の価額は合併後のL社の1株当たりの純資産価額に影響されることなく、課税時期である平成6年4月12日現在のK社の1株当たりの純資産価額に基づき評価することとなり、本件株式の価額の評価に当たり、評価通達6を適用すべきである旨の請求人らの主張は失当といわざるを得ない。
(ニ)また、請求人らは、土地の売買契約が締結された後、当該土地の所有権移転登記又は引渡しが行われる前にその売主が死亡した場合の当該土地の価額について、課税庁が残代金請求権という債権的請求権として評価しているのと同様に、本件株式の価額は、本件合併契約は有効に成立しているから合併後のL社の新株式交付請求権として評価するのが適当である旨主張するが、当該土地の価額の取扱いは、実際の取引金額が判明していることから相続税の評価額によらず残代金請求権によるべきものとしたものであり、本件株式については、株式の取引事実が認められず実際の取引金額が明らかでないことから、本件株式の価額を合併後のL社の新株式交付請求権として評価することはできず、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
(ホ)したがって、本件株式の1株当たりの価額は評価通達179の定めにより課税時期におけるK社の1株当たりの純資産価額により評価した142,595円とするのが相当である。
ハ 以上のとおり、本件株式の価額は1株当たり142,595円で、その総額はこれに株式数(6,000株)を乗じた855,570,000円であり、この価額をもってした原処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人らには、本件更正処分により納付すべき税額に計算の基礎となった事実が更正処分前の税額に計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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