ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.57 >> (平11.3.30裁決、裁決事例集No.57 529頁)

(平11.3.30裁決、裁決事例集No.57 529頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は空き容器回収業を営む者であるが、平成6年1月1日から平成6年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、平成8年4月1日に本件課税期間の消費税について次表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

 原処分庁は、これに対し、平成9年6月30日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成9年8月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月19日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し、同月21日に送達した。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年12月22日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 本件通知処分は、次の理由により達法であるから、その全部の取消しを求める。
イ ビール及び飲料水メーカー(以下「メーカー」という。)がビールやジュース等(以下「ビール等」という。)を販売する際に買主に貸与する瓶・缶又は収納ケース等(以下「容器等」という。)に係る保証金(以下「容器等保証金」という。)は、メーカーに容器等が返却されることを担保するために授受するものであるから、容器等がメーカーに返却された時点で、容器等保証金の清算が完了するものであり、その容器等がどのような流通経路を経ようとも、容器等の所有権がメーカーにある以上、容器等保証金としての性格が変わるものではない。
 請求人は、メーカーの特約店(以下「特約店」という。)及び容器問屋(以下、「特約店」を併せて「特約店等」という。)に容器等を納入する取引(以下「本件取引」という。)を行っているが、その際に特約店等から受領する金額は、明確には区分されていないものの、容器等保証金に相当する部分の金額(以下「本件保証金相当額」という。)と容器等の納入の手数料からなっている。
ロ 原処分庁は、消費税法基本通達5―2―6《容器保証金等の取扱い》(以下「本件通達」という。)において、容器等保証金を資産の譲渡等の対価の額に該当しないものと取り扱われていることにつき、容器等保証金が、預り金の性格を有していることから、ビール等の売主と買主との間の取引において授受される容器等保証金に限り、本件通達の適用があるものとしている。
 しかし、本件取引について本件通達の適用がないという原処分庁の主張は、容器等の流通過程において消費税の取扱いが異なることとなり不合理である。
 したがって、本件取引のうち、本件保証金相当額を計算すると33,706,010円となり、当該金額は資産の譲渡等の対価の額に該当しない。
ハ なお、請求人は、酒類小売店及び同業者(以下「酒類小売店等」という。)から容器等の回収を行っているが、その際に支払う金額にも、本件保証金相当額が含まれている。この場合の本件保証金相当額は、本来メーカーが特約店及び酒類小売店を通じてビール等の最終消費者等に返還すべき預り金としての性格を有するものであり、請求人がメーカーに代わって支払ったにすぎない。
 そうすると、特約店等から受領する本件保証金相当額は、請求人が立て替えた容器等保証金をメーカーから回収したにすぎないのであるから、本件通達の適用を待つまでもなく、資産の譲渡等の対価の額に該当しないものである。
ニ 本件取引に係る納入の手数料に相当する部分の金額が課税資産の譲渡等の対価の額に該当することについては争わないし、また、メーカーに所有権がない一升瓶、ワイン及びウイスキー瓶(以下「一升瓶等」という。)は、請求人が仕入れて販売したものであり、特約店等から受領する金額の全額が、課税資産の譲渡等の対価の額に該当することについては争わない。
ホ 以上のことから、本件保証金相当額については、資産の譲渡等の対価の額に該当しないものであり、本件取引における本件課税期間の課税標準額は、本件更正の請求のとおりとなるから、これを認めないとした本件通知処分は違法である。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 異議申立てに係る調査(以下「本件異議調査」という。)によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、容器等を酒類小売店等から買い取り、それを特約店等に販売するという事業を営んでいる。
(ロ)請求人は、本件異議調査の調査担当職員に対して、酒類小売店等から買い取った容器等が破損等した場合の損失は、請求人の負担になる旨申述している。
ロ 消費税は、事業として対価を得て行われる資産の譲渡等を課税の対象としているが、容器等保証金について、資産の譲渡等の対価に該当しないものとして、消費税が課されないことと取り扱われている。
 容器等保証金は、例えば酒類小売店がビール等を販売する際に、買主からの容器等の返却を担保するために、ビール等の代金とともに買主からいったん受領するものであり、後日買主が容器等を返却した場合には、買主にこれを返還するものであって、一種の預り金としての性格を有するものであり、このため、消費税においては不課税とされるものである。
 したがって、この場合には、ビール等の売主と容器等保証金の受領者は同一であり、また、ビール等の買主と容器等保証金の差入者も同一であって、容器等保証金はこの両者の間において差し入れ、返還されることとなるが、これは、容器等保証金がもつ預り金としての性格を反映していることによる。
ハ しかしながら、請求人は、上記イのとおり、ビール等を販売している事業者ではなく、自己の責任と危険負担において容器等を酒類小売店等から買い取り、これを特約店等という他者に販売することを業とする事業者であることが認められる。そして、酒類小売店等、請求人及び特約店等という三者間の容器等の流通は、上記ロの容器等保証金の場合のように売主と買主という二者の間だけの相互の取引とは異なり、いわば一方通行の流通であって、この三者間の流通過程においてそれぞれ授受される「保証金」名目の金額には、容器等保証金のもつ預り金としての性格が存在する余地はないことになる。
 したがって、請求人の本件取引に係る容器等は、それ自体が商品であって、たとえ「保証金」名目の金額を受領するとしても、これは商品である容器等の売却代金というほかはなく、消費税法上は、課税資産の譲渡等の対価に該当することになる。
ニ また、請求人は、容器等の流通経路の違いにより取扱いが異なるのは不合理である旨主張するが、ある取引行為が事業として対価を得て行われる資産の譲渡等であるか否かは、個々の事業者ごとに、かつ、個々の資産の譲渡等ごとに判定すべきものである。
ホ 以上のことから、請求人の本件課税期間の課税標準額等については、次のとおり請求人の確定申告額と同額となるので、本件通知処分は適法である。
(イ)課税標準額
 本件課税期間の課税標準額は72,427,000円であり、この金額は、請求人の平成6年分の事業所得に係る総収入金額74,620,190円から雑収入の金額20,078円を控除した残額74,600,112円に103分の100を乗じた金額(1,000円未満の端数切捨て)であって、請求人が本件課税期間の消費税の確定伸告書に記載した金額と同額である。
(ロ)消費税額
 課税標準額に対する消費税額は、課税標準額に100分の3を乗じた金額2,172,810円となる。
(ハ)消費税額からの控除税額
 請求人は、課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額について、消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定の適用を受ける旨の届出書(以下「消費税簡易課税制度選択届出書」という。)を提出しているので、消費税額から控除すべき課税仕入れ等の消費税額は、同項の規定により1,955,529円となる。
 なお、請求人の営む事業は第1種事業に該当するので、消費税法第37条第1項で規定する率(以下「みなし仕入率」という。)は100分の90となる。
(ニ)納付すべき税額
 納付すべき税額は、上記(ロ)の消費税額から上記(ハ)の消費税額からの控除税額を差し引いた金額217,200円(100円未満の端数切捨て)となる。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件取引により特約店等から受領する金額のうち本件保証金相当額が資産の譲渡等の対価に該当するか否かであるので、以下審理する。

(1)資料及び調査に基づく事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が平成4年3月31日に原処分庁に提出した消費税簡易課税制度選択届出書の事業内容等の欄には、「酒販店等よりビール、日本酒等の空壜を購入回収し、製造メーカー、問屋等に販売する業務」と記載されている。
ロ 請求人が容器等を納入している特約店等のうちの株式会社Lが、平成6年1月15日及び同年5月17日付で請求人に対して発行した仕入明細書、下欄には、次のとおり記載がある。

ハ メーカーは、特約店との契約において容器等を貸与することとし、ビール等を販売する際には、ビール等の中身価格とは別に容器等保証金を特約店から預かっており、容器等が回収されなかった場合には、容器等保証金を損害賠償金に充当することができる。
ニ メーカーと特約店との間の契約では、容器等の所有権はメーカーにあるとしているものの、特約店自体はメーカーからビール等を仕入れた時点でその所有権も自己に帰属したものとして認識している。
 また、酒類小売店も、おおむね特約店からビール等を仕入れた時点で容器等の所有権も自己に帰属しているものと認識している。
ホ 特約店及び酒類小売店は、ビール等を販売する際には、ビール等の中身価格と容器等保証金とを区分することなく、おおむねその合計額を消費税の課税対象としている。また、容器等を回収する際には空瓶仕入れに計上し、その支払った全額を課税仕入れの対象としており、期末において未返還の容器等は棚卸資産に計上している。
ヘ 酒類小売店は、容器等を特約店に返還するか、空き容器回収業者(以下「回収業者」という。)に譲渡するかは自己の判断と責任に基づいて行っており、いずれの場合も、空瓶売上げに計上し、その受領した金額の全額を課税資産の譲渡等の対価の額に算入している。
ト 酒類小売店は、回収業者に容器等の納入先を指定することはなく、また、特約店等は、回収業者に容器等の回収先を指定することはない。

トップに戻る

(2)請求人の答述

 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
イ 請求人は、特約店等から委託を受けて酒類小売店等から容器等の回収を行っているが、容器等の納入先である特約店等から容器等の回収先を指定されることはない。
ロ 請求人が酒類小売店等から容器等を回収する際の価格については、請求人と酒類小売店等との間で決定する。
ハ 本件課税期間における請求人と酒類小売店等及び特約店等との取引については、次のとおりである。
(イ)請求人は、酒類小売店等から容器等を回収するに当たって、例えば、ビール1ケース大瓶20本について455円を支払っているが、その金額のうち300円については本件保証金相当額であり、残りの部分の金額155円が手数料であると認識している。ただし、特に本件保証金相当額と手数料とを区分して支払っているわけではない。
(ロ)請求人が酒類小売店等に支払う金額については、その総額が請求人の事業に係る仕入れに該当するものとして経理処理している。
(ハ)請求人は、ビール1ケース大瓶20本を特約店等に納入する場合、特約店等から530円あるいは527円の支払を受けており、当該金額の内訳は300円が本件保証金相当額であり、残りの部分の金額230円あるいは227円が手数料であると認識している。
(ニ)請求人が特約店等から受領する金額については、その総額が請求人の事業に係る売上げであるとする経理処理をしている。

(3)本件取引について

イ ところで、消費税の課税対象について、消費税法第4条《課税対象》第1項は、「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する」と規定し、更にこの「資産の譲渡等」とは、同法第2条《定義》第1項第8号において、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう」と規定しているところ、本件通達において、ビール等を販売する際に、容器等の保証金等を収受し、容器等が返却されたときは返還することとされている場合のその保証金等は、容器等の返却を担保するために受領する預り金としての性格のものであるから、資産の譲渡等の対価に該当しない旨の解釈を示している。
 そして、この場合の容器等保証金とは、あくまで容器等の返却を担保するためにビール等の売主が買主から預かり、容器等が現実に返却された場合に売主から買主に返還されるものであるから、ビール等の売主と買主の間(以下「取引当事者間」という。)においてのみ授受される保証金、つまりビール等の売主と容器等保証金の受領者が同一であり、また、ビール等の買主と容器等保証金の差入者が同一である場合において、その取引当事者間で授受される保証金と解される。
ロ そこで、本件取引について、上記(1)及び(2)の事実を基に検討すると、次のとおりである。
(イ)本件取引については、〔1〕請求人が容器等を回収するに当たって、容器等の回収先である酒類小売店から容器等の納入先を指定されることはないし、容器等の納入先である特約店等から容器等の回収先を指定されることもないこと、〔2〕請求人が容器等を回収する際に酒類小売店等に支払う金額については、酒類小売店等と請求人との間で自由に決定していること及び〔3〕請求人が容器等を納入する際に特約店等から支払われる金額については、特約店等と請求人との間で自由に決定していることからすると、請求人は酒類小売店からも特約店等からも独立した事業者として、酒類小売店等から容器等を買い取り、これを特約店等に売却しているものと認めるのが相当である。
(ロ)もし請求人が、特約店と酒類小売店との間に介在して、単なる運送業者として委託を受けた特定のものを運搬し、その運搬に係る労賃を手数料収入として得ているならば、取り扱う金額のうち本件保証金相当額は正に容器等保証金と解し得る余地はあるが、上記(イ)のとおり、請求人は、特約店等から回収先を指定されることもなければ、酒類小売店から搬入先を指定されることもなく、自己の判断において任意の酒類小売店等から容器等を引き取って、これを自己の判断において任意の特約店等に納入しているのであるから、単なる役務提供をしているのではなく、自己の計算において容器等の売買をしているのである。
 よって、本件取引は、本件通達の適用対象外の取引であり、受領する金額の全額が消費税の課税対象となる。
(ハ)なお、請求人は、容器等の所有権は常にメーカーにある旨主張するが、仮にそうであるとしても、メーカーと特約店、特約店と酒類小売店及び酒類小売店と消費者問の各取引の実態にかんがみれば、酒類小売店が容器等を請求人に引き渡す決意をした瞬間において、酒類小売店は特約店からの容器等保証金及び手数料を断念するかわりに、容器等の所有権を完全に取得し、これを請求人に譲渡しているものと認めるのが相当である。
 したがって、請求人の、容器等の所有権が常にメーカーにある旨の主張は採用することはできない。
(ニ)さらに、請求人は、本件保証金相当額は請求人が立て替えた容器等保証金をメーカーから回収したものであるから資産の譲渡等の対価の額に該当しない旨主張するが、上記のとおり、請求人は容器等を販売したものであり、特約店等から受領した金額のうちには、立替金の回収額が含まれている事実は認められず、他に認定するに足る証拠等もないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ハ 以上のとおり、請求人が主張する本件取引のうちの本件保証金相当額についても、課税資産の譲渡等の対価の額に該当することとなる。

トップに戻る

(4)本件課税期間の課税標準額等について

イ 消費税の課税期間における課税標準額の算定の基礎となる課税資産の譲渡等の対価の額については、消費税法第28条《課税標準》第1項において、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額に相当する額を含まないものとされている。
ロ そこで、本件取引における本件課税期間の課税標準額については、上記(3)で述べたとおり、本件保証金相当額は、課税資産の譲渡等の対価の額に該当することとなるから、容器等の譲渡の対価の額として請求人が特約店等から受領した総額を基礎として算定することとなる。
(イ)課税標準額
 本件課税期間の課税標準額は、請求人は税込経理方式を採用していることから、請求人の事業に係る総収入金額74,620,190円から雑収入の金額(K市からの補助金)20,078円を控除した残額74,600,112円に103分の100を乗じた金額72,427,000円(1,000円未満の端数切捨て)となる。
(ロ)消費税額
 課税標準額に対する消費税額は、課税標準額に100分の3を乗じた金額2,172,810円となる。
(ハ)消費税額からの控除税額
 課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額は、課税標準額に対する消費税額2,172,810円に、請求人が営む当該事業は第1種事業に該当することになるので、みなし仕入率100分の90を乗じた金額1,955,529円となる。
(ニ)納付すべき税額
 納付すべき税額は、上記(ロ)の消費税額から上記(ハ)の消費税額からの控除税額を差し引いた金額217,200円(100円未満の端数切捨て)となる。
(ホ)そうすると、請求人の本件課税期間の消費税の確定申告に係る課税標準額及び納付すべき税額と同額となるから、本件課税期間の課税標準額等は本件更正の請求のとおりとなるという請求人の主張には理由がない。
(5)なお、当審判所は、請求人の事業を上記(3)のとおり容器等の販売であり第1種事業(卸売業)に該当すると認定したのであるが、仮に、請求人が主張するように容器等の納入に係る役務提供であるとすると、これは卸売業ではないから第4種事業に該当し、みなし仕入率は100分の60に減少することとなる。
 そこで、本件更正の請求に係る課税標準額を基に納付すべき税額を算定すると、次表のとおり231,100円となり、この金額は請求人の確定申告の納付すべき税額217,200円を上回ることとなる。
 したがって、課税標準額が請求人の主張のとおりとしても、国税通則法第23条《更正の請求》に規定する「納付すべき税額が過大であるとき」に該当しないので、更正の請求をすることができないというべきである。

(6)以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、原処分庁が本件更正の請求に対して更正をすべき理由がないとして行った本件通知処分は適法である。
(7)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る