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(平11.5.28裁決、裁決事例集No.57 543頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、石油類の輸入・販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対してなされた保税地域からの輸入貨物の引取りに係る揮発油税、地方道路税、消費税及び地方消費税の各更正処分に関し、〔1〕これらの更正処分が請求人の取引の安全を害する違法な処分であるのか否か(以下「争点〔1〕」という。)、〔2〕当該輸入貨物が原油であるのか否か(以下「争点〔2〕」という。)の2点が争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯等

イ 輸入申告及び納税申告
 請求人は、シンガポールの業者からの輸入貨物を関税法第29条《保税地域の種類》に規定する保税地域から引き取るため、平成9年3月26日及び同年4月18日に原処分庁に対し、当該輸入貨物がいずれも原油であり、関税定率法別表(以下「関税率表」という。)第2709.00号に該当するとして、請求人の代理人である通関業者を介して輸入申告をするとともに、別表1の「申告額」欄のとおりの納税申告をした(以下、平成9年3月26日申告と同年4月18日申告とを併せて「本件各申告」という。また、平成9年3月26日申告に係る輸入貨物を「3月分貨物」、同年4月18日申告に係る輸入貨物を「4月分貨物」といい、これらを併せて「本件各貨物」という。)。
ロ 輸入許可及びサンプルの提出
 原処分庁は、3月分貨物については平成9年3月28日に、4月分貨物については同年4月22日にそれぞれ輸入を許可したが、その際、本件各貨物の成分等を検査するため、上記イの通関業者を介して請求人からサンプルとして本件各貨物の一部(以下、3月分貨物に係るものを「3月分サンプル」、4月分貨物に係るものを「4月分サンプル」といい、これらを併せて「本件各サンプル」という。)の提出を受けた。
ハ 更正処分
 原処分庁は、本件各サンプルの成分等の分析結果に基づき、本件各貨物が原油とは認められず、関税率表第2710.00号の1の(3)の軽油に該当するとして、関税、石油税、揮発油税、地方道路税、消費税及び地方消費税について、別表1「原処分庁認定額」欄のとおり認定し、このうち申告額が原処分庁認定額に満たない関税、揮発油税、地方道路税、消費税及び地方消費税について、平成9年12月5日付で同欄のとおりの各更正処分をした(以下、関税、揮発油税、地方道路税、消費税及び地方消費税の各更正処分を順次「本件関税更正処分」、「本件揮発油税更正処分」、「本件地方道路税更正処分」、「本件消費税更正処分」、「本件地方消費税更正処分」といい、このうち、本件関税更正処分を除くその他の各更正処分を総称して「本件各更正処分」という。)。
ニ 不服申立て等
 請求人は、本件関税更正処分及び本件各更正処分を不服として、平成10年2月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月14日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後のこれらの処分に不服があるとして、本件関税更正処分については大蔵大臣に対して、本件各更正処分については当審判所に対して、いずれもその全部の取消しを求め、平成10年5月13日に審査請求をした。
 なお、本件関税更正処分については、平成10年7月31日付で大蔵大臣から棄却の裁決がなされ、現在G地方裁判所において取消訴訟(同裁判所平成10年(行*)第**号関税更正処分取消請求事件)が係属中である。

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2 主張

(1)争点〔1〕について

イ 請求人
 上記1の(2)のイないしハのとおり、原処分庁は、本件各貨物が原油であり、関税率表第2709.00号に該当するとする輸入申告に対して、これを前提とする納税をさせた上で輸入を許可したにもかかわらず、請求人が本件各貨物を引き取り、国内販売を終えた後に本件各更正処分を行った。
 このような本件各更正処分は、請求人の予測可能性を覆すものであり、請求人の取引の安全を害するから違法である。
ロ 原処分庁
 本件各更正処分は、国税通則法及び地方税法の規定に従って行われており、何ら違法なものではない。

(2)争点〔2〕について

イ 原処分庁
(イ)本件各貨物が原油に該当するか否か
 関税局長通達(昭和63年12月9日付蔵関第1246号、以下「関税率表解説」という。)は、原油の意義につき、天然の産品で、その組成を問わないものとし、簡単な処理で本質的な性質を変えないものも含まれる旨定めているが、本件各サンプルの成分等を分析したところ、〔1〕本件各サンプルには、原油にはほとんど含有されていないオレフィン系炭化水素が多量に含まれていること、〔2〕本件各サンプルには、原油において通常現れる灯油留分の分布パターンがみられないこと、〔3〕本件各サンプルの成分の分布パターンは、市販のレギュラーガソリンと軽油を一定の割合で混合したものの成分の分布パターンと極めて類似していることが認められ、これら〔1〕ないし〔3〕の分析結果からすると、本件各貨物は天然の産品である原油ではないと認められる。
(ロ)本件揮発油税更正処分及び本件地方道路税更正処分の適法性
A 揮発油税法第2条《定義》第1項及び地方道路税法第2条《定義》第1項の規定によれば、揮発油税及び地方道路税の課税物件である「揮発油」とは、温度15度において0.8017をこえない比重を有する炭化水素油(以下「本来の揮発油」という。)をいうが、揮発油税法基本通達(昭和52年4月1日付間消4―11ほか国税庁長官通達)第8条《揮発油に該当しないことに取り扱う炭化水素油》の定めによれば、本来の揮発油であっても、原油に該当し、かつ、90パーセント留出温度が267度を超えるもの(以下「軽質原油」という。)については、揮発油に該当しないことに取り扱うこととされている。
B ところで、本件各貨物は、本来の揮発油に該当するところ、上記(イ)のとおり、原油ではないと認められるから、揮発油に該当しないことに取り扱うこととされている軽質原油には当たらない。
C したがって、本件各貨物を課税物件として行った別表1の「原処分庁認定額」の「揮発油税及び地方道路税」欄のとおりの本件揮発油税更正処分及び本件地方道路税更正処分は、いずれも適法である。
(ハ)本件消費税更正処分及び本件地方消費税更正処分の適法性
A 上記(イ)のとおり、本件各貨物は、原油ではないと認められるから、関税率表第2709.00号には該当しない。
B そして、本件各サンプルの蒸留試験及び比重測定の結果は、別表2の「大蔵省関税中央分析所」欄のとおりであるから、本件各貨物は関税率表第27類備考1の(c)の規定により、同表第2710.00号の1の(3)の軽油に該当する。
C したがって、本件消費税更正処分及び本件地方消費税更正処分に係る税額算出の前提となる関税の税額は、別表1の「原処分庁認定額」欄のとおりとなる。
D そして、本件消費税更正処分及び本件地方消費税更正処分に係る税額算出の前提となる石油税、揮発油税及び地方道路税の税額は次のとおりとなる。
(A)石油税の税額は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、別表1の「申告額」欄のとおりである。
(B)揮発油税及び地方道路税の税額は、上記(ロ)のとおり、別表1の「原処分庁認定額」欄のとおりである。
E よって、上記C及びDの関税の税額等を前提に税額の算出がなされている別表1の「原処分庁認定額」の「消費税」及び「地方消費税」欄のとおりの本件消費税更正処分及び本件地方消費税更正処分は、いずれも適法である。
ロ 請求人
(イ)本件各貨物は、原油であり、揮発油に該当しないことに取り扱うこととされている軽質原油に当たる。
(ロ)したがって、本件各貨物を課税物件として行った本件揮発油税更正処分及び本件地方道路税更正処分は、いずれも違法である。
(ハ)また、本件各貨物は、関税率表第2710.00号の1の(3)の軽油ではなく、同表第2709.00号の原油に該当する。
 したがって、本件各貨物が関税率表第2710.00号の1の(3)の軽油に該当すること等を前提に税額の算出がなされている本件消費税更正処分及び本件地方消費税更正処分は、いずれも違法である。

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3 判断

(1)争点〔1〕について

 請求人は、本件各更正処分は請求人の取引の安全を害する違法な処分である旨主張する。
 しかしながら、税関長は、関税法第67条《輸出又は輸入の許可》に規定する輸入許可後であっても、申告額が調査したところと異なるときには、所定の制限期間内であれば更正処分を行うことができるとされているところ(国税通則法第30条《更正又は決定の所轄庁》第4項、同法第24条《更正》、同法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》及び地方税法第72条の100《貨物割の賦課徴収等》第1項)、本件各更正処分はこれらの規定に従って行われている。
 また、後記(2)のとおり、本件においては、結果的に、本件各貨物が原油であるとする請求人の申告は誤りであったと認められるところ、申告納税制度の下においては、課税の前提となる事実を最もよく熟知している納税義務者に適正な申告をなすべき義務があると解されるのであるから、請求人の取引の安全は請求人自身が正しい申告を行うことにより全うされるべきものと考えられる。
 加えて、輸入許可後に更正処分がなされる場合があることについては、請求人が原処分庁に提出した本件各申告に係る申告書(輸入申告と納税申告とを兼ねたもので、定型様式に必要事項を記入したもの。)の下部に「なお、輸入の許可後税関長の調査により、この申告による税額等を更正することがあります。」との注意書がなされていることからも、請求人の知るところであったと認められる。
 以上の諸事情を併せ考えれば、本件各更正処分が請求人の取引の安全を害する違法な処分であるとの請求人の主張には理由がない。

(2)争点〔2〕について

イ 本件各貨物が原油に該当するか否か
(イ)関税率表解説は、原油の意義につき、天然の産品で、その組成を問わないものとし、簡単な処理で本質的な性質を変えないものも含まれる旨定めているが、揮発油税法基本通達第8条及び関税率表第2709.00号にいう原油も、これと同義に解するのが相当であり、この点について、請求人と原処分庁との間に争いはない。したがって、本件各貨物が天然の産品である原油としての性質を有しているか否かが、本件各貨物が原油に該当するか否かの判断基準となる。
(ロ)そこで、検討するに、原処分関係資料(原処分庁の分析部門及び大蔵省関税中央分析所において本件各サンプルの成分等を分析した結果並びに文献等)を当審判所において調査審理したところ、次のA及びBのとおり、本件各サンプルは、天然の産品である原油が有する特徴的な属性を備えておらず、天然の産品である原油とは本質的な性質を異にするものであると認められる。
A 原油は様々な炭化水素の混合体であり、成分の分析を行った場合、揮発油留分から灯油留分へ、さらに灯油留分から軽油留分へ、というように軽質留分から重質留分までが連続的に現れる。
 しかしながら、本件各サンプルに関しては、原油において現れる灯油留分に該当する炭化水素の分布パターンがみられない。
B 炭化水素を大別すると、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、ナフテン(シクロパラフィン)系炭化水素及び芳香族炭化水素の4種に分類できるが、原油中には、パラフィン系炭化水素及びナフテン系炭化水素が最も多く、オレフィン系炭化水素は、石油を熱分解すると容易に生成するが、原油中にはほとんど含まれていない。また、原油中の芳香族炭化水素の含有量は比較的少ない。
 しかしながら、本件各サンプルに関しては、オレフィン系炭化水素が相当程度含まれており、かつ、芳香族炭化水素の含有量も多い。
(ハ)ところで、請求人は、当審判所において、本件各貨物が原油である旨申し述べているが、本件各貨物の産出油田名や引取り後の製造工程等について合理的な説明をしておらず、その信用性には疑問がある。
 他に、本件各貨物が原油であることをうかがわせる証拠はない。
(ニ)以上によれば、本件各貨物は原油ではないと認めるのが相当である。
ロ 本件揮発油税更正処分及び本件地方道路税更正処分の適法性
 本件各貨物が本来の揮発油に該当することは、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもそのとおりと認められるところ、本件各貨物は、上記イのとおり原油ではないと認められるから、揮発油に該当しないことに取り扱うこととされている軽質原油には当たらない。
 したがって、本件各貨物を課税物件として行った別表1の「原処分庁認定額」の「揮発油税及び地方道路税」欄のとおりの本件揮発油税更正処分及び本件地方道路税更正処分は、いずれも適法である。
ハ 本件消費税更正処分及び本件地方消費税更正処分の適法性
(イ)上記イのとおり、本件各貨物はいずれも関税率表第2709.00号の原油には該当しない。
(ロ)そして、原処分関係資料によれば、〔1〕輸入申告の際に請求人が依頼して、H協会が行った本件各サンプルの蒸留試験及び比重測定の結果は、別表2の「H協会」欄のとおりであり、また、〔2〕その後、原処分庁の依頼により、大蔵省関税中央分析所が行った本件各サンプルの蒸留試験及び比重測定の結果は、別表2の「大蔵省関税中央分析所」欄のとおりであることが認められ、これらの試験結果及び測定結果によれば、本件各貨物は関税率表第27類備考1の(c)の規定により、同表第2710.00号の1の(3)の軽油に該当すると認められる。
(ハ)したがって、本件消費税更正処分及び本件地方消費税更正処分に係る税額算出の前提となる関税の税額は、別表1の「原処分庁認定額」欄のとおりとなる。
(ニ)そして、本件消費税更正処分及び本件地方消費税更正処分に係る税額算出の前提となる石油税、揮発油税及び地方道路税の税額は次のとおりとなる。
A 石油税の税額は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、別表1の「申告額」欄のとおりであり、当審判所の調査によってもそのとおりと認められる。
B 揮発油税及び地方道路税の税額は、上記ロのとおり、別表1の「原処分庁認定額」欄のとおりである。
(ホ)よって、上記(ハ)及び(ニ)の関税の税額等を前提に税額の算出がなされている別表1の「原処分庁認定額」の「消費税」及び「地方消費税」欄のとおりの本件消費税更正処分及び本件地方消費税更正処分は、いずれも適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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