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(平11.2.19裁決、裁決事例集No.57 583頁)

《裁決書(抄)》

第一 平成9年9月19日付換価代金の配当処分について

1 事実

(1)原処分庁は、審査請求人(以下「請求人」という。)の次表記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人所有の別表1記載の不動産について平成6年5月10日付で差押処分(以下「第一次差押処分」という。)をし、平成8年4月4日付で第一次差押処分を解除するとともに、同日付で別表2記載の不動産(以下「本件土地」という。)について差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。

(2)原処分庁は、本件土地について平成9年9月9日を公売期日として公売処分(以下「本件公売処分」という。)に付し、平成9年9月19日付で換価代金の配当処分(以下「本件配当処分」という。)をした。
(3)請求人は、本件配当処分に不服があるとして、平成9年9月22日に審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。

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2 主張

(1)請求人

 本件滞納国税のうち、平成5年1月5日から平成7年12月25日までの間の延滞税については、平成7年12月19日付遺産分割調停で決定したとおり、他の相続人が負担すべきものであるにもかかわらず、本件土地の公売代金から当該延滞税に配当することは違法であるから、本件配当処分の取消しを求める。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第60条《延滞税》の規定によれば、納税者は、期限内申告書を提出した場合において、当該申告書の提出により納付すべき国税をその法定納期限までに完納しないときは、延滞税を納付しなければならないとされている。
ロ 請求人は、平成4年12月28日付で、納付すべき税額を24,269,600円とする相続税の申告書を法定申告期限内にF税務署長に提出したが、法定納期限である平成5年1月4日までに納付しなかったことから、本件滞納国税が発生した。
ハ 本件滞納国税については、その後4回にわたって一部納付があり、最終的には平成9年9月16日に換価代金の配当をもって本税が完納となり、同時に延滞税も完納となった。
ニ 第一次差押処分及び本件差押処分をしていた平成6年5月10日から平成9年9月16日までの期間の延滞税については、通則法第63条《納税の猶予等の場合の延滞税の免除》第5項の規定により、滞納国税の全額を徴収するために必要な財産を差し押さえていることを理由として延滞税を免除すること(以下「充足差押えによる延滞税の免除」という。)ができる場合に該当することから、同条の規定に基づき免除することができる金額については、平成9年9月16日付及び平成10年1月5日付で免除している。
ホ 請求人は、遺産分割協議での決定により、平成5年1月5日から平成7年12月25日までの期間の延滞税については、他の相続人が負担すべきものであると主張するが、平成7年12月19日付のH家庭裁判所平成×年(家×)第××××号遺産分割事件(以下「本件遣産分割調停事件」という。)の調停条項1の(4)(以下「本件調停条項」という。)には、他の相続人の一人が請求人に対して延滞税相当額45万円を支払うと定めており、請求人が国に対して延滞税を支払わなくてもよいとは定めていない。
ヘ 以上のとおり、請求人は、通則法の規定により、本件滞納国税のうちの延滞税についても納税義務を負っていたものであり、本件配当処分は、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第128条《配当すべき金銭》から同法第134条《換価代金等の供託》までの規定に基づいて適法に行われている。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件配当処分の適否にあるので、以下審理する。
(1)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成4年6月13日に死亡したKの共同相続人の一人であるところ、この相続開始(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、課税価格85,962,000円、納付すべき税額24,269,600円とする相続税の申告書を平成4年12月28日にF税務署長に提出した(以下「当初申告」という。)が、法定納期限である平成5年1月4日までに納付しなかったことから本件滞納国税が発生した。
ロ 原処分庁は、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定により、平成6年2月22日付でF税務署長から本件滞納国税について徴収の引継ぎを受けた後、本件滞納国税を徴収するため平成8年4月4日付で本件差押処分をした。
ハ その後、共同相続人間で争われていた本件遺産分割調停事件について平成7年12月19日に調停が成立し、調停条項の一つとして、「甲(L)は、有価証券の相続税申告にかかる延滞税として、乙(M)、丙(請求人)に対し、各金45万円を、平成7年12月末日限り、持参又は送金して支払う。」とする本件調停条項が定められた。
 なお、請求人は、上記調停の成立により相続財産が確定したとして、本件相続に係る相続税の修正申告書を平成7年12月20日にF税務署長に提出し、同税務署長は、当該修正申告に対して、平成7年12月26日付で過少申告加算税の賦課決定処分を行っているが、その結果新たに納税義務が確定した税額(以下「修正申告等により生じた税額」という。)の徴収は同税務署長において所轄し、原処分庁に対する徴収の引継ぎはされてない。
 また、同税務署長は、請求人からの更正の請求に基づき、平成8年2月28日付で減額更正処分及び加算税の変更決定をしており、その結果修正申告等により生じた税額が一部減額となったが、当初申告により生じた本件滞納国税の額には変動は生じてない。
ニ 原処分庁は、平成9年9月9日を公売期日として本件土地を公売に付し、徴収法第113条《不動産等の売却決定》の規定に基づき、公売期日から起算して7日を経過した日である同月16日午前10時00分に最高価申込者である株式会社S(以下「買受人」という。)に対する売却決定を行い、買受人は、原処分庁が同法第115条《買受代金の納付の期限等》第1項の規定に従って定めた買受代金の納付の期限(売却決定の日である同月16日午後3時00分)までに買受代金53,000,000円を原処分庁の徴収職員に納付した。
ホ 徴収法第129条《配当の原則》第1項の規定により本件配当処分において配当を受けるべき債権者は、原処分庁のみであった。
 また、本件滞納国税については、平成7年12月25日に10,000,000円、平成8年3月21日に2,000,000円、平成8年4月11日に1,000,000円、平成8年5月7日に1,000,000円の計4回にわたって納付がなされ、本件配当処分の時点においては、本税10,269,600円及び延滞税が未納であった。
ヘ 原処分庁は、徴収法第131条《配当計算書》の規定に基づき、買受人が納付した買受代金53,000,000円の中から22,170,100円を原処分庁に配当し、30,829,900円を残余金として請求人に交付する旨の配当計算書を作成した上、同条の規定に基づき、買受代金の納付の日(平成9年9月16日)から3日以内である同月19日に請求人に対して配当計算書謄本を発送した。
 また、原処分庁は、同法第132条《換価代金等の交付期日》第2項の規定に基づき、配当計算書謄本を発送した日(平成9年9月19日)から起算して7日を経過した日である同月26日午前11時00分を換価代金等の交付期日と定めた上、同条第1項の規定に基づき配当計算書謄本に当該交付期日を附記した。
ト 原処分庁は、上記への原処分庁に対する配当金22,170,100円のうち、10,269,600円を本件滞納国税のうちの本税に充当し、11,900,500円を本件滞納国税のうちの延滞税に充当しているところ、当該本税の額10,269,600円は、上記ホのとおり本件配当処分の時点における未納額として適正な数額であり、また、延滞税の額11,900,500円は、本件滞納国税に係る法定納期限(平成5年1月4日)の翌日から本税が完納となった日(徴収法第116条《買受代金の納付の効果》第2項の規定により、買受代金が納付された平成9年9月16日に本税が完納となったものとみなされる。)までの期間につき通則法第60条の規定に基づいて計算した額から、本件差押処分がされていた期間(平成8年8月4日から平成9年9月16日まで)における充足差押えによる延滞税の免除額を控除した額であり、適正に計算されていることが認められる(なお、原処分庁は、本件配当処分が行われた後の平成10年1月5日付で、第一次差押処分がされていた期間(平成6年5月10日から平成8年4月3日まで)についても充足差押えによる延滞税の免除を行い、その結果還付金が生じたことが認められるが、通則法第63条第5項は「免除することができる」と規定しており、当該免除をするかどうかは税務署長等の裁量に委ねられていると解するのが相当であるから、本件配当処分の時点で当該免除がなされていなくても、当該時点における延滞税の計算が違法であったということにはならない。)。
(2)本件配当処分の適否について
イ 以上の事実によれば、配当すべき債権者の決定、配当金額及び滞納者に交付すべき残余金の計算、換価代金等の交付期日の決定、配当計算書の作成並びに滞納者に対する配当計算書謄本の発送のいずれについても、徴収法の規定に基づいて適正に行われており、本件配当処分は何ら違法又は不当なものではない。
ロ 請求人は、本件調停条項を根拠として、本件滞納国税のうち平成5年1月5日から平成7年12月25日までの期間の延滞税は他の相続人が負担すべきものであるから、当該延滞税に配当したことは違法であると主張するが、本件調停条項の文言によれば、国に対する乙及び丙の延滞税の納税義務を甲が引き受けるという趣旨ではなく、延滞税相当額の金員を甲から乙及び丙に支払うという趣旨にすぎないと解するのが相当であり、また、仮に国に対する乙及び丙の納税義務を甲が引き受けるという趣旨であるとしても、納税義務の存否は法律の規定により定まるものであるところ、遺産分割調停における調停条項のような私人間の合意により納税者の国に対する納税義務が消滅すると解すべき法律の規定は存在しないから、請求人の主張には理由がない。
ハ 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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第二 平成9年8月4日付公売通知及び同年9月10日付不動産等の最高価申込者決定通知について

 請求人は、本件公売処分に係る平成9年8月4日付の公売通知(以下「本件公売通知」という。)及び同年9月10日付の不動産等の最高価申込者決定通知(以下「本件最高価申込者決定通知」という。)について、何ら催告がないまま突然なされたものであるとして、その取消しを求めている。
 ところで、徴収法第96条《公売の通知》に規定する公売通知は、税務署長が同法第95条《公売公告》に基づき公売公告をした場合において、滞納者に対して最後の納付の機会を与え、抵当権者等の第三者に対して公売への参加の機会を与えるために、公売の日時、場所等公告すべき事項とほぼ同一の事項を通知するものにすぎず、また、徴収法第106条《入札または競り売りの終了の告知等》第2項に規定する最高価申込者決定通知は、同法第104条《最高価申込者の決定》の規定により徴収職員が最高価申込者を定めた場合において、その事実を通知するものにすぎないものであって、これらの通知自体は、滞納者の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼすものではない。
 したがって、本件公売通知及び本件最高価申込者決定通知は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に当たらないというべきであるから、本件審査請求は、その対象となる処分を欠く不適法なものである。
 なお、不動産等についての徴収法第95条から同法第113条までの処分についての異議申立ては、同法第171条《滞納処分に関する不服申立て等の期限の特例》第1項第3号の規定により、換価財産の買受代金の納付の期限まででなければすることができないとされており、同法第2項において、前項の規定は、通則法第75条第1項第2号ロ若しくは第4項(始審的審査請求)の規定による審査請求について準用する旨規定されている。
 そして、本件公売処分に係る換価財産の買受代金の納付の期限は、上記第一の3の(1)ニのとおり平成9年9月16日午後3時00分とされており、かつ、当該期限は徴収法第115条第1項の規定に従った適法なものであることが認められるところ、本件審査請求書が提出された日は平成9年9月22日である。
 したがって、本件審査請求が本件公売通知及び本件最高価申込者決定通知自体の取消しを求めるものではなく、これらの通知の対象となった本件公売処分及び最高価申込者の決定処分の取消しを求める趣旨であるとしても、不服申立ての期限を徒過していることから、やはり不適法なものである。

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