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(平11.12.22裁決、裁決事例集No.58 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、年金受給者である審査請求人(以下「請求人」という。)が雑所得の金額の計算上、原処分庁から送付された「平成9年分所得税の確定申告の手引き」に記載されている公的年金等に係る雑所得の速算表(以下「雑所得速算表」という。)の使い方を誤認して、雑所得の金額を算定し、所得税の確定申告書を提出したことについて、正当な理由があるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成9年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに提出した。
 その後、請求人は、原処分庁の指摘に基づき、次表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成10年5月22日に提出した。

 原処分庁は、これに対し、平成10年6月30日付で過少申告加算税の額を9,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成10年7月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年9月25日付で棄却の異議決定をしたので、原処分及び延滞税の全部の取消しを求め、同年10月12日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件確定申告書に公的年金等の収入金額3,302,530円、これに係る雑所得の金額750,000円と記載し、公的年金等の源泉徴収票のほか申告に必要な書類を添付して、平成10年1月30日に郵送により提出した。
ロ 原処分庁は、平成10年5月15日付の文書により雑所得の金額に計算誤りがあることを指摘し、修正申告書の提出をしょうようした。
ハ 請求人は、上記ロの指摘に基づき平成10年5月22日に本件修正申告書を提出した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件賦課決定処分について
(イ)請求人は、雑所得速算表を用いて雑所得の金額を計算した際、公的年金等の収入金額の合計額3,302,530円に75%の割合を乗じて得た金額から控除額750,000円を差し引き、雑所得の金額を1,726,897円とすべきところ、当該控除額750,000円を雑所得の金額と誤認してしまった。
 したがって、このような単純な誤りについて、過少申告加算税を賦課すべきではない。
(ロ)請求人は、自己の計算に基づいて作成した本件確定申告書に誤りがあってはいけないと考え、原処分庁の繁忙期を避けて申告期間前に郵送で提出した。本件確定申告書を早期に提出した理由は、その記載内容に誤りがあったら申告期限前に原処分庁の指導に基づき訂正するつもりでいたからである。
 平成7年分及び平成8年分の所得税の確定申告書については、申告期限前に原処分庁の指導に基づき記載誤りを訂正できたが、本件確定申告書の記載誤りについては、申告期限前に指導がなかったので、申告期限までに訂正することができなかった。
 したがって、過少申告加算税を賦課されたのは、原処分庁の事務処理が遅かったことが原因である。
ロ 延滞税について
 上記イの(ロ)の理由と同様に、原処分庁の事務処理が遅かったことが原因であるから、本件修正申告書に基づき納付した税額に係る延滞税(以下「本件延滞税」という。)についても取消しを求める。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 所得税法は、申告納税制度を採用しており、納税者自らの責任において課税標準等及び税額等を正しく計算し、申告しなければならないとされている。
 過少申告加算税は、当初から適法に申告した者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するため、適法な申告をしなかった納税者に対して課されるものであり、国税通則法第65条《に過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解される。
 請求人の場合は、「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないことから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件賦課決定処分について

 本件は、修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定の適否にあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 雑所得速算表によれば、日表の「昭和8年1月1日以前に生まれた人で公的年金等の収入金額の合計金額が2,600,000円から4,599,999円まで」の欄には、割合が75%及び控除額が750,000円と記載されており、また、注書きとして、同表を使用した場合における雑所得の金額を算出するための具体的な計算方法が例示されていることが認められる。
ロ ところで、所得税法は、いわゆる申告納税制度を採用し、納税者自らが課税標準を決定し、これに自らの計算に基づいて税率を適用して税額を算出し、これを申告して第一次的に納付すべき税額を確定させるという体系になっている。
 こうした申告納税制度の下では、当初から適正な申告をした者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、申告秩序の維持を図るための措置として、過少申告加算税が賦課されるものと解される。
 そして、国税通則法第65条第4項においては、修正申告に基づき納付すべきこととなった税額の計算の基礎となった事実のうちに、修正申告前の納付すべき税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合に限り、その正当な理由があると認められる事実に基づく税額を過少申告加算税の対象から除く旨規定しているが、ここにいう「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意過失に基づかずして過少申告となった場合のように、当初申告が真にやむを得ない理由によるものであり、こうした納税者に過少申告加算税を課することが不当又は酷になる場合を意味するものであり、単に過少申告が納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合には、これに該当しないものと解されている。
 また、同条第5項においては、修正申告書の提出があった場合に、その提出が、その申告について調査があったことにより更正を予知してされたものでないときには、過少申告加算税を賦課しない旨規定している。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、雑所得速算表を誤認したような単純な誤りについて、過少申告加算税を賦課すべきでない旨主張する。
 しかしながら、請求人のように公的年金等の収入があり、これに係る雑所得の金額を算出するに当たって雑所得速算表を用いて計算する場合であっても、上記イのとおり同表には注書きで雑所得の金額を算出するための計算方法が例示されているので、請求人が通常の注意を払えばその計算方法を認識できたものと認められる。
 そうすると、請求人が雑所得の金額を算出するための計算方法を誤認したのは、請求人の過失に基づくものであり、当初申告が過少申告となったことについて真にやむを得ない理由があるものとは認められない。
 したがって、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があるものと認められる場合」には該当しない。
(ロ)請求人は、原処分庁の事務処理が遅かったことが原因で過少申告加算税を課された旨主張する。
 しかしながら、申告納税制度の下における所得税の確定申告書は、本来、納税者自身の判断と責任において課税標準を正しく記載し、法定申告期限までに提出すべきものである。
 そうすると、原処分庁が請求人に対して、本件確定申告書に記載した雑所得の金額の誤りを法定申告期限内に指摘しなかったからといって、そのことを理由に原処分を不当とすることはできない。また、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」にも該当しない。
(ハ)本件修正申告書は、上記1の(3)のロのとおり、原処分庁から指摘を受けた後に提出されたものであることから、更正を予知して提出されたものと認められ、国税通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものではないとき」にも該当しない。
(ニ)以上のとおり、本件の場合は、国税通則法第65条第4項又は第5項には該当しないことから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分に対する審査請求には理由がないので、棄却すべきものである。
(3)本件延滞税について
 請求人は、本件審査請求において、原処分庁の事務処理が遅かったことを原因として本件延滞税の取消しを求めているが、不服申立ての対象となる処分は、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項の規定により「国税に関する法律に基づく処分」に限られているところ、延滞税は、同法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第8号の規定により、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であって、その確定に際し、国税に関する法律に基づく処分は何らされていないから、同法第75条第1項に規定する処分には当たらない。
 したがって、本件延滞税についての審査請求は、その対象となる処分の存在を欠いた不適法なものであるから、却下されるべきものである。

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