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(平11.12.6裁決、裁決事例集No.58 79頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の取得した死亡保険金が相続により取得するものとして非課税所得に該当するか否か、すなわち、当該保険金は請求人の長男のFが当該保険契約に係る保険料を負担しているから、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》に規定するみなし相続財産になり、所得税法第9条《非課税所得》第1項第15号に規定する非課税所得であるか(請求人)、それとも、請求人自身が保険料を支払っているから、所得税法第34条《一時所得》に規定する一時所得に該当するか(原処分庁)を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、会社員であるが、平成6年分の所得税について、確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成9年5月15日付で、別表1の「決定処分等」欄のとおりの決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成9年7月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月26日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年10月24日に審査請求をした。
 なお、原処分庁は、平成9年12月4日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの減額の更正処分及び無申告加算税の変更決定処分をした(以下、本件決定処分及び本件賦課決定処分は、いずれも、この減額の更正処分及び変更決定処分の後のものをいう。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 保険契約について
 請求人は、平成6年5月2日にG火災海上保険株式会社(以下「G火災」という。)と自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。本件保険契約の内容は別表2のとおりである。
 なお、本件保険契約は、平成6年11月15日に生じた交通事故以後も期間満了まで継続されている。
ロ 保険料の支払状況
 本件保険契約に係る保険料は、請求人がH株式会社(以下「H社」という。)から給与の支払を受ける際に、団体扱分割払保険料として平成6年7月から平成7年3月まで毎月5,650円ずつ差し引かれた上、H社からG火災へ支払われている。また、平成7年4月から同年6月までの3か月分は団体扱分割払を取り止め、請求人が一括して支払っている。
 なお、本件保険契約を締結した平成6年5月2日から保険金の支払事由が生じた平成6年11月15日までの払込み済保険料の合計額は、実際に支払が開始された平成6年7月から同年10月までの4回分で22,600円(以下「本件保険料」という。)である。
ハ 保険金の受取状況
 平成6年11月15日にFが交通事故により死亡したため、本件保険契約による保険金25,000,000円(以下「本件保険金」という。)が相続人である請求人と請求人の妻であるJに各2分の1支払われることとなり、請求人は、本件保険契約に関する保険金請求及び受領の権限を請求人に委任する旨のJの委任状を添付して、自動車保険金請求書をG火災あてに提出した。
 そして、本件保険金は、平成7年2月8日にG火災からK信用金庫L支店の請求人名義の普通預金口座へ振り込まれた。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 本件保険料の負担者は、次に述べるとおりFであるから、本件保険金のうち請求人が受領すべき金額12,500,000円(以下「請求人受取保険金」という。)はみなし相続財産に該当し、非課税所得に該当する。
イ 原処分庁は、保険契約者が請求人であり、本件保険料が便宜上、請求人の給与から天引きされていたことから、請求人が本件保険料の負担者であると判断しているが、保険契約者と保険料の負担者が一致するとは限らず、また、給与から保険料を天引きされている者以外の者が実際に保険料を負担している場合もあること及び法律上は一定の金銭の贈与等も認められることから考えると、原処分庁は、形式面だけをとらえて判断したものであり、事実を誤認している。
 また、原処分庁は、Fが支払ったという事実を確認できないことを根拠に、Fが本件保険料の負担者でないと断定しているが、本件保険料を誰が負担したかということを請求人及び原処分庁の双方が証拠書類を整えて完全な形で証明ができない場合、実質課税の原則からすれば、納税者の主張を信じることが本来の税務行政の在り方である。
 なお、本件決定処分について、平成9年12月14日付で一方的に減額の更正処分がなされたことは、原処分庁が、請求人の主張を全く取り上げず、事実関係の確認を行わないまま、本件決定処分をしたことを示すものである。
ロ 本件保険料の実際の負担者がFであることは、Fが死亡時に所持していた手帳(以下「本件手帳」という。)に記載されている「保健5,000円、車月ぷ30、000円、まわらねえ」というメモ(以下「Fメモ」という。)及びJの家計スケジュール帳(以下「本件スケジュール帳」という。)に記載されている「F¥10,000車保」というメモ(以下「Jメモ」という。)からも、FがJを通じて本件保険料を支払っていることが明らかである。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件保険料は、請求人がH社から給与の支払を受ける際に天引きされて、G火災へ支払われていたことに照らせば、本件保険料はすべて請求人が負担したものと認められるので、請求人受取保険金は、みなし相続財産ではなく、一時所得に該当することとなる。
 なお、Fメモ及びJメモの記載内容からは、Fが本件保険料に相当する金額をJに支払っていた事実を確認することはできない。また、本件スケジュール帳の他の記載内容からも、Fが本件保険料を負担したと認めるに足る事実を確認することもできない。
ロ 納付すべき税額について
(イ)給与所得の金額
 給与所得の金額は、請求人が原処分庁へ提出した請求人の平成6年分給与所得の源泉徴収票の写し(以下「請求人の源泉徴収票」という。)に記載された金額7,079,281円である。
(ロ)一時所得の金額
 本件保険金の受取人は、請求人及びJの2名であるから、請求人の平成6年分の一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、請求人受取保険金の12,500,000円となり、また、請求人受取保険金を得るために支出した保険料の金額は、本件保険料の2分の1に相当する金額11,300円となる。
 したがって、請求人の一時所得の金額は、総収入金額12,500,000円から収入を得るために支出した保険料の金額11,300円を控除した残額から、所得税法第34条第3項に規定する特別控除額500,000円を控除した金額11,988,700円となる。
(ハ)総所得金額
 総所得金額は、所得税法第22条《課税標準》第2項の規定により、給与所得の金額7,079,281円と一時所得の金額の2分の1に相当する金額5,994,350円との合計額13,073,631円である。
(ニ)所得控除の合計額
 請求人の場合、所得税法第2条《定義》第1項第30号に規定する合計所得金額が10,000,000円を超えており、同法第83条の2《配偶者特別控除》の配偶者特別控除は適用されないので、所得控除の合計額は、請求人の源泉徴収票に記載された所得控除の額1,731,529円から配偶者特別控除の金額350,000円を控除した後の金額1,381,529円である。
(ホ)課税総所得金額
 課税総所得金額は、総所得金額から所得控除の合計額を控除した後の金額11,692,000円(1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。
(へ)納付すべき税額
 以上の結果、請求人の平成6年分の納付すべき税額は、別表3のとおり1,605,900円となり、この金額は、本件決定処分に係る納付すべき税額と同額であるから、本件決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件決定処分について

イ 認定した事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)Fは、平成6年3月24日に20歳で専門学校を卒業し、平成6年4月1日にM美容室に就職した後、同年11月15日に交通事故で死亡するまでの間、同美容室に勤務しており、Fに係る平成6年分給与所得の源泉徴収票の写しによると、Fの給与収入金額は1,190,640円、源泉徴収税額は44,078円及び社会保険料等の金額は6,559円である。
 なお、Fは、平成6年4月1日のM美容室の入社式で新入社員代表としてあいさつをしている。
(ロ)本件手帳には、主としてFの行事予定などが記載されているほか、メモ欄には、Fメモ及びその横に「X3千、Y3千、Z4万、ベル3千」と友人に対する金銭の返済やポケットベル使用料の支払と認められる事項並びにFがM美容室の入社式において新入社員代表としてあいさつをするために用意したと認められるあいさつ文の下書きが記載されている。
 また、平成6年4月8日欄には「△△△△がくる日」と△△△△の納車予定日が記載されている。
(ハ)本件スケジュール帳には主としてJの行事予定や家族の用事が記載されており、Jメモ以外には本件保険料に関する記載はないが、Fに関係すると認められるメモが別表4のとおり記載されている。
 なお、Jは、平成8年11月3日に死亡している。
(ニ)本件保険契約の被保険自動車である△△△△は、FがP自動車株式会社(以下「P社」という。)から2,500,100円で購入したものであり、Jが立て替えた頭金500,100円を支払った後の残金は、Fが株式会社Qクレジットとクレジット契約(以下「本件クレジット契約」という。)を締結した上、毎月22,900円(初回は26,373円、8月及び12月のボーナス月は150,000円)を分割払いで支払うことになっていた。
 なお、この分割払金は、S銀行T支店のF名義の普通預金ロ座(以下「本件普通預金」という。)から別表5のとおり引き落とされているが、本件普通預金の通帳はJが管理し、キャッシュカードはFが管理していた。
(ホ)請求人が社宅に居住していることから、社宅敷地内での駐車場の車庫証明書は請求人名義でしか発行してもらえないため、やむを得ず、△△△△の使用者の名義を請求人名義とした。
 また、本件保険契約の契約者名義を請求人としたのは、△△△△の使用者の名義が請求人となったことのほかに、請求人が以前から加入していた自動車保険が団体扱いであり、この保険に加入した方が保険料が若干安くなるからである。
(へ)請求人及びJは、Fが△△△△を購入することに最初は反対していたことから、請求人は、Fに対して、毎月の分割払金の返済を間違いなくするように、また、Jが立て替えた頭金の500,000円についてもきちんと返済するように話している。
(ト)本件普通預金からは、上記(ニ)の分割払金のほかに、W生命保険相互会社(以下「W生命」という。)の保険料が別表6のとおり引き落とされている。
ロ 関係法令について
 被保険者の死亡に伴う生命保険契約又は損害保険契約による保険金を取得した場合において、当該保険金に係る相続税法及び所得税法の規定は、次のとおりである。
(イ)相続税法第3条第1項第1号は、被相続人(遺贈者を含む。以下同じ。)の死亡により相続人その他の者が生命保険契約の保険金又は損害保険契約の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人について、当該保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分、相続又は遺贈により取得したものとみなす旨規定している。
 この規定は、保険契約においては、商法第647条又は第683条の規定により、保険契約者には保険料を支払う義務が課せられており、保険契約者が保険料を負担するのが通例であるが、保険契約者以外の者が保険料を負担している場合があることから、相続税法においては保険料負担者と保険契約者が異なる場合があることを予定して受取保険金の課税関係を規定しているものであり、その保険料負担者とは、単に保険契約者をいうものではなく、実質上の負担者をいうものと解されている。
(ロ)また、所得税法第34条第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定しており、被保険者の死亡により生命保険契約又は損害保険契約による保険金を一時に取得した場合において、所得税法第9条第1項第15号又は第16号により非課税所得とされる場合を除いて、当該保険金のうち当該保険金を取得した者が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分は、一時所得に該当すると解されている。
 そして、生命保険契約又は損害保険契約に基づく一時金の収入すべき時期は、その支払を受ける事実が生じた日によることとされ、当該事実が生じた日とは、具体的には被保険者が死亡した日であると解されている。
ハ 本件手帳及び本件スケジュール帳について
(イ)本件手帳について
 上記イの認定事実によれば、本件手帳は入社式でのあいさつ文の下書きやFの行事予定、金銭の支払等に関することが記載されていること並びに本件手帳に記載されている平成6年4月1日の入社式及び平成6年4月8日の△△△△の納車予定などと、下記(ロ)においてその信ぴょう性を認めた本件スケジュール帳に記載されたこれらに関する日付、内容とは一致することから、本件手帳の記載内容には信ぴょう性が認められる。
 また、Fメモの「保健5,000円、車月ぷ30,000円」については、その金額は一致しないものの、本件保険料の毎月の分割払金5、650円及び本件クレジット契約の毎月の分割払金22,900円(初回のみ26,373円)のことを指しているものと認められる。この記載内容から、Fは本件保険料及び本件クレジット契約の分割払金を毎月負担しなければならないことを認識していたものと推認できる。
 なお、Fメモの最後に記載してある「まわらねえ」は、Fの毎月の給与からの本件保険料や本件クレジット契約の分割払金の支払が苦しいため、資金的に回らないという意味であると推測される。
(ロ)本件スケジュール帳について
A 本件スケジュール帳は、Jが自身の行事予定や家族の用事を記載していることから、J自身が作成したものであることが認められ、また、本件スケジュール帳に記載されている別表4の内容のうち、Fの入社式及び△△△△の納車予定については、上記(イ)で述べたとおり本件手帳に記載されている日付や内容と一致している。
B しかも、平成6年7月27日欄、同年9月欄外及び同年10月22日欄に記載されている「W」については、別表6に記載されている引き落とし年月日までに、W生命に対する保険料を本件普通預金へ入金しなければならないことをメモしたものと認められる。
C また、平成6年9月10日欄の「車入金(F)9/12」は、本件クレジット契約の分割払金を9月12日までに本件普通預金へ入金しなければならないことをメモしたものと認められ、別表5の引き落とし年月日とも対応していることが認められる。
D さらに、平成6年11月11日欄の「F24,000入」は、同日に本件普通預金へ23,000円が入金されていること及び本件預金通帳をJが管理していたことから、JがFから金員を預かった際のメモ若しくはJが本件普通預金に入金しなければならない金額のメモであったと認めることができる。
E そうすると、本件スケジュール帳は、Jが自身の行事予定や家族の用事を記載するとともに、家庭内における金銭の支払等に関する備忘録としても使用されていたものと認めるのが相当であり、本件スケジュール帳の記載内容には信ぴょう性が認められる。
(ハ)そこで、Jメモについて検討すると、「F¥10,000」はFから10,000円を受け取ったことを、また、「車保」は自動車の保険料のことを指しているものと認めるのが相当である。そして、本件保険料は、本件クレジット契約の分割払金やW生命の保険料の支払とは異なり、本件普通預金から引き落とされず、Jが本件保険料の支払のために本件普通預金へ入金する必要性がないことから判断すると、Jメモは、JがFから本件保険料の一部として10,000円を預かった際の備忘録であると認められる。
 以上のとおり、本件保険料のうち10,000円については、Jメモにより、FがJを通じて請求人に支払っていたものと認められるが、本件保険料のうちのその余の部分については、本件スケジュール帳にはJメモのほかには本件保険料の授受に関する記載が一切認められない。
ニ 本件保険料の負担者について
 上記イの認定事実並びに上記ハでその記載内容の信ぴょう性を認定したFメモ及びJメモによれば、Fは本件保険料を負担しなければならないことを認識していたものと認められ、本件保険料のうちJメモに記載された10,000円については、FがJを通じて請求人に支払っていたものと認めるのが相当である。
 しかしながら、本件保険料のうちのその余の部分12,600円については、Fの平成6年分給与所得の源泉徴収票の写しによれば、Fの平成6年4月1日から同年11月15日までの間の平均月収手取り額は約150,000円であり、Fが本件保険料のすべてを負担することが不可能であったとはいえないものの、Fは、本件クレジット契約の分割払金22,900円及びW生命の保険料9,013円を支払っていたこと、また、Jが立て替えた頭金500,100円についてもその返済を求められており、そのほかにもポケットベル使用料や友人等に対する支払等もあり、資金繰りに苦しんでいたこともうかがわれ、これらのことを考慮すると、本件保険料の全額を負担していたとまで認定することはできず、他にFが本件保険料の全額を支払ったと認めるに足る的確な証拠はない。
 したがって、本件保険料のうちのその余の部分12,600円については、請求人が実質的に負担していたものと認められる。
ホ 請求人主張の当否について
(イ)請求人は、本件保険契約の契約者が請求人であり、本件保険料が便宜上、請求人の給与から天引きされていることから、原処分庁が本件保険料の負担者を請求人であると判断したことは事実誤認である旨主張する。
 しかしながら、本件のように、保険料が請求人の給与から天引きされて支払われているような場合には、当該保険料の負担者は特段の事情がない限り当該給与の受給者であると解するのが相当であるところ、本件においては、上記ニで述べたとおり、本件保険料のうち10,000円についてはFが実質的に負担していたと認めることはできるが、それ以外の本件保険料についてFが負担していたことを認めることはできない。
 また、請求人は、Fに贈与されたとも考えられるとも主張するが、請求人からはFに本件保険料相当額が贈与されたことを裏付ける証拠資料の提出はなく、他にこれを認めるに足る証拠もない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、本件保険料を誰が負担したかということを双方が証明できない場合は、納税者の主張を信じることが本来の税務行政の在り方である旨主張する。
 ところで、本件においては、原処分庁は、請求人が本件保険契約の契約者となっていること及び本件保険料が請求人の給与から天引きされて支払われていることの客観的事実から、請求人が本件保険料の負担者であるとの推定をし、この推定に反する請求人の主張及び証拠資料によっても、Fが本件保険料を負担していることを認定できないとして、本件保険料を現実に支払っている請求人が負担していると認定していることが認められる。
 また、本件のように、保険料が請求人の給与から天引きされて支払われているような場合には、上記(イ)で述べたとおり、特段の事情がない限り、当該保険料の負担者は当該給与の受給者であると解するのが相当であるから、原処分庁の請求人から提出された証拠資料の評価はともかく、課税要件事実の認定に際して、その根拠が証明されていないとは認められない。
 なお、課税処分に際して、課税要件事実を立証すべき者が誰であるかは、個々の法条に基づいて判断されるべきでものであり、すべて納税者に有利に判断すべきものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)なお、請求人は、減額更正処分が一方的になされたことを本件決定処分の取消しの事由として主張するが、減額更正処分は、請求人が受領すべき本件保険金の金額に誤りがあることが原処分庁において確認されたことから、国税通則法第26条《再更正》の規定に基づいて行われたものであり、減額更正処分がなされたからといって、本件決定処分そのものが違法となるものではないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
へ 課税総所得金額について
(イ)一時所得の金額
 本件保険契約は、請求人と損害保険会社であるG火災との間で締結されているので、本件保険金は損害保険契約の保険金に該当し、上記ロのとおり請求人受取保険金のうち請求人が実質的に負担した保険料の金額の本件保険料に対する割合に相当する部分は、一時所得に該当することとなり、その金額は次のとおりである。
A 総収入金額
 請求人の一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、次のとおり6,969,027円となる。
12,500,000円(請求人の受取保険金)×(12,600円(請求人が実質的に負担した保険料の金額)÷22,600円(本件保険料》=6,969,027円(総収入金額)
 なお、本件保険金は、平成7年2月8日に請求人へ支払われているが、上記ロの(ロ)のとおり、損害保険契約に基づく一時金の収入すべき時期は、その支払を受ける事実が生じた日であると解されているところ、本件保険金を受け取るべき事実が生じた日は、Fが死亡した平成6年11月15日であるので、原処分庁が平成6年分の一時所得としたことは相当である。
B 収入を得るために支出した費用
 請求人が収入を得るために支出した保険料の金額は、次のとおり、請求人が実質的に負担した保険料の金額のうち、請求人の受取保険金に対応する金額である6,300円となる。
12,600円(請求人が実質的に負担した保険料の金額)×(12,500,000(請求人の受取保険金)÷25,000,000(保険金の総額》=6,300円
C 一時所得の金額
 請求人の一時所得の金額は、上記Aの総収入金額6,969,027円から上記Bの収入を得るために支出した費用6,300円を控除した残額から、所得税法第34条第3項に規定する特別控除額500,000円を控除した金額6,462,727円となる。
(ロ)総所得金額
 請求人の総所得金額は、請求人の源泉徴収票に記載された給与所得の金額7,079,281円と所得税法第22条第2項第2号の規定により一時所得の金額の2分の1に相当する金額3,231,363円の合計額10,310,644円となる。
(ハ)所得控除の合計額
 請求人の源泉徴収票に記載された所得控除の額1,731,529円は、当審判所の調査によっても相当と認められるが、請求人の場合、合計所得金額が10,000,000円を超えることとなったため、所得税法第83条の2第1項の配偶者特別控除は適用されないので、請求人の所得控除の合計額は、1,731,529円から配偶者特別控除の金額350,000円を控除した後の金額1,381,529円となる。
(ニ)課税総所得金額
 課税総所得金額は上記(ロ)の総所得金額10,310,644円から上記(ハ)の所得控除の合計額1,381,529円を控除した残額8,929,000円(1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額)となり、当該金額は、本件決定処分の金額に満たないから、本件決定処分はその一部を取り消すべきである。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分は、上記(1)のとおり、本件決定処分の一部が取り消されることに伴い、無申告加算税の基礎となる税額は800,000円となる。また、請求人には、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。したがって、無申告加算税の額は120,000円となり、本件賦課決定処分の金額に満たないので、本件賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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