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(平11.10.29裁決、裁決事例集No.58 107頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、税理士業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が帳簿書類を提示しなかったとして青色申告の承認の取消処分をしたことの適否、請求人の事業所得の金額の多寡及び架空の必要経費を計上して多額の所得金額を脱漏したなどとして重加算税を賦課したことの適否を主たる争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、税理士業を営む者であるが、平成4年分、平成5年分、平成6年分、平成7年分及び平成8年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に別表1のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告をした。
ロ また、請求人は、平成4年1月1日から同年12月31日まで、平成5年1月1日から同年12月31日まで、平成6年1月1日から同年12月31日まで、平成7年1月1日から同年12月31日まで及び平成8年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下、これらを併せて「各課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に別表3のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告をした。
ハ これに対し、原処分庁は、平成10年3月11日付で、平成4年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分をし、同日付で別表2のとおり、各年分の所得税について更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに平成6年分、平成7年分及び平成8年分につき過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、同日付で別表4のとおり、各課税期間の消費税について更正処分をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として平成10年4月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月9日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成10年7月29日に審査請求をした。
 なお、請求人は、所得税法第16条《納税地の特例》第2項の規定に基づき、請求人の事業所のあるP市R町2丁目41番12号○○マンション801号を納税地としている。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由によりいずれも違法又は不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 青色申告の承認の取消処分について
 原処分庁は、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)に帳簿書類を提示しなかったことは、所得税法第148条《青色申告者の帳簿書類》第1項に規定する青色申告に係る帳簿書類の備付け、記録及び保存(以下「備付け等」という。)がなされていないことになるとするが、請求人は、各年分の総勘定元帳、振替伝票、領収書及び従業員の給料賃金に係る所得税の源泉徴収簿(以下「源泉徴収簿」という。)等を備え付けて記録し、これらを保存している。
 請求人が、本件調査において帳簿書類を提示しなかったのは、本件調査担当職員から一方的に調査を受けたため調査に協力し得なかったこと及び請求人の税理士事務所の会計データを保存していたフロッピーディスクに不具合が生じ、不可抗力でその内容を出力することができなかったことによるものであり、いずれにしても、異議審理庁による調査(以下「異議調査」という。)の際には上記フロッピーディスクを復旧してデータを出力し、各年分の総勘定元帳等の帳簿書類を提示しているのであるから、青色申告の承認の取消処分は違法である。
ロ 所得税の更正処分について
(イ)事業所得の金額について
A 総収入金額
 各年分の所得税青色申告決算書(一般用)(以下「青色決算書」という。)において、総収入金額に消費税の額に相当する金額が計上されていないことは争わない。
B 必要経費
 原処分庁は、請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、次の金額を必要経費として認めていないが、次の理由により必要経費に算入すべきである。
(A)租税公課
 租税公課については、更正処分により新たに賦課される事業税の額を見込みで認定し、この金額を必要経費に算入すべきである。
(B)給料賃金等
 請求人は、税理士業務の遂行のため、司法書士及び請求人の税理士事務所の従業員に対し、青色決算書に記載の金額を支払っており、これらについては、勘定科目が誤っているものがあったとしても必要経費に算入すべきである。
 なお、原処分庁は、請求人の税理士事務所の従業員であるGが請求人の税理士業務に従事した事実はないとするが、Gは、平成3年1月から請求人の税理士事務所で業務に従事しており、平成8年3月に病気のため自宅勤務となった後も顧問先に係る入出金、振替伝票の整理、科目印の記入及び資料の整理等、顧問先の会計データをコンピュータに入力するための前提となる作業に従事し、Gの毎月の給与に係る所得税の源泉徴収も行っており、同人に係るタイムカードも備わっている。
(C)利子割引料
 利子割引料の内、次表に記載の金額以外のものが家事上の借入金の支払利息であることは争わない。

(D)リース賃借管理料
 請求人は、税理士業務の遂行のため、リース賃借管理料として、青色決算書に記載の金額を支払っているところ、これらについても勘定科目の誤りの有無にかかわらず必要経費に算入すべきである。
(ロ)平成6年分の所得税の源泉徴収税額について
 請求人が顧問をしているHは、所得税の源泉徴収義務者ではないが、Hからは顧問料として所得税の源泉徴収税額を控除した後の金額が支払われているので、平成6年分の所得税の源泉徴収税額は、同年分の本件確定申告書に記載したとおりの金額となる。
(ハ)その他の点については争わない。
ハ 重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分について
 重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分について、原処分庁は、資産負債勘定の裏付けもなく必要経費を否認し、損益計算の結果のみを基に行ったものであり、また、仮装、隠ぺいの事実もないので違法である。
ニ 消費税の更正処分について
 各課税期間の消費税の納付すべき税額が、平成4年1月1日から同年12月31日までの課税期間905,900円、平成5年1月1日から同年12月31日までの課税期間549,700円、平成6年1月1日から同年12月31日までの課税期間758,300円、平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間534,900円及び平成8年1月1日から同年12月31日までの課税期間629,600円であるとする原処分庁の主張を認め、請求人は争わない。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 青色申告の承認の取消処分について
 本件調査において、本件調査担当職員が、平成9年9月8日、請求人に対し、各年分の事業所得に係る帳簿書類の提示を求めたところ、請求人は、帳簿書類は作成していない、収入に係る請求書控等も、請求人の次男で請求人の税理士事務所の従業員でもある税理士のJに渡し、コンピュータにデータを入力した後、すべて破棄している、必要経費に係る領収書等も同様に保存がないなどとして、各年分の事業所得に係る帳簿書類を提示しなかった。さらに、本件調査担当職員が請求人に対し、平成9年9月12日、同年10月13日及び同年12月24日に帳簿書類の提示を求めた際にも、請求人は、同年9月12日に平成8年分の顧問料の金額を月別に記載したとする固定摘要残高一覧表(以下「平成8年分の残高一覧表」という。)を提示したのみで、その他の帳簿書類を提示しなかった。
 このように、請求人は、継続して記録、保存すべき各年分の帳簿を提示せず、平成8年分の残高一覧表以外には各年分の請求書控及び領収書等の書類を提示しなかったのであるから、帳簿書類の備付け等が所得税法第148条第1項に規定するところに従っていなかったことになる。
 そして、これは所得税法第150条《青色申告の承認の取消し》第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するから、青色申告の承認の取消処分は適法である。
 なお、請求人は、帳簿書類を提示しなかったのは不可抗力によるものである等主張する。
 しかしながら、所得税法施行規則第63条《帳簿書類の整理保存》第1項は、青色申告者が保存すべき書類につき、取引に関して相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写しを保存しなければならない旨規定しており、青色申告者は、帳簿と併せて取引に関する書類を保存しなければならないところ、請求人は、上記のとおり、平成8年分の残高一覧表以外、取引に関する領収書等を提示していないのであって、いずれにしても青色申告の承認の取消事由に該当する。
ロ 所得税の更正処分について
(イ)事業所得の金額について
A 総収入金額等
 請求人は、事業所得の金額の計算に当たり、消費税の額を取引の対価の額に含めて経理する税込み経理方式を採用しながら、次表に記載の消費税の額に相当する金額を各年分の総収入金額に算入していない。
 この消費税の額に相当する金額を青色決算害に記載された総収入金額に加算すると、請求人の総収入金額は、別表5―1のとおり、平成4年分103,947,366円、平成5年分99,132,480円、平成6年分112,034,368円、平成7年分103,107,662円及び平成8年分105,481,539円となる。

 なお、請求人は、事業所得の金額の計算上、平成6年分の固定資産売却益として397,593円を計上しているが、これは車両の譲渡によるもので、所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する譲渡所得に該当し、同条第4項に規定する特別控除額が控除され零円となる。
B 必要経費
(A)租税公課
 租税公課については、次表に記載の金額は必要経費に算入すべきであるが、その他の金額は家事費に該当するもの、あるいは支出の事実がないものであり、必要経費に算入することはできない。

 なお、請求人は、更正処分により賦課される事業税の額を見込みで認定し、この金額を必要経費に算入すべきである旨主張するが、所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額について、減価償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除くと規定するところ、各年分の更正通知書は、平成10年3月12日に請求人に送達されたのであるから、更正処分により新たに賦課される事業税の額は確定していないものであり、これを必要経費に算入することはできない。
(B)外注費
 外注費については、次表に記載の金額は必要経費に算入すべきであるが、その他の金額は支出の内容、相手方も不明で、その事実が確認できないものであり、必要経費に算入することはできない。

(C)給料賃金
 給料賃金については、次表に記載の金額は必要経費に算入すべきであるが、その他の金額は支出の事実がなく、必要経費に算入することはできない。
 特にGについては、同人が請求人の税理士業務に従事した事実はない。

(D)利子割引料
 利子割引料については、上記(1)のロの(イ)のBの(C)の表に記載の金額は必要経費に算入すべきであるが、その他の金額は家事上の借入金の支払利息であり、必要経費に算入することはできない。
(E)リース賃借管理料
 リース賃借管理料については、次表に記載の金額は必要経費に算入すべきであるが、その他の金額は家事費に該当し、必要経費に算入することはできない。

C 事業所得の金額
 請求人の各年分の事業所得の金額は、別表5―1の「事業所得の金額」欄のとおり、平成4年分50,589,852円、平成5年分49,820,890円、平成6年分59,661,395円、平成7年分50,927,131円及び平成8年分59,722,961円となる。
(ロ)総所得金額について
 以上によれば、請求人の各年分の総所得金額は、別表5―2の「総所得金額」欄のとおり、平成4年分50,937,116円、平成5年分50,206,558円、平成6年分37,489,472円、平成7年分51,426,831円及び平成8年分60,227,061円となる。
(ハ)平成6年分の所得税の源泉徴収税額について
 請求人は、平成6年分の本件確定申告書にHに係る源泉徴収税額718,896円を控除して記載しているが、所得税法第204条第2項《源泉徴収義務》の規定により、Hは給与等につき所得税を徴収して納付すべき者ではなく、税理士への報酬について所得税を徴収して納付する義務はないから、同年分の源泉徴収税額は10,395,015円となる。
 なお、Hが請求人に対する税理士報酬について所得税を源泉徴収して、これを納付した事実はない。
(ニ)請求人の各年分の納付すべき税額は、別表5―2の「納付すべき税額」欄のとおり、平成4年分10,303,200円、平成5年分10,455,800円、平成6年分1,381,900円、平成7年分8,281,900円及び平成8年分12,448,100円であり、これらは各年分の更正処分の額(平成4年分7,177,700円、平成5年分7,675,800円、平成6年分還付金の額に相当する税額1,363,015円、平成7年分5,659,400円及び平成8年分9,815,600円)をいずれも上回るから、各年分の更正処分は適法である。
ハ 加算税の賦課決定処分について
(イ)重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、税務に関する専門家として、申告納税制度の理念にそって納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士でありながら、各年分において2,200万円から4,000万円に至る多額の所得金額を脱漏し、ことさら過少に申告しただけでなく、本件調査担当職員に対し、収入及び経費に係る書類は破棄した旨の虚偽の答弁を行い、平成8年分の残高一覧表を提示したのみで、その他の帳簿書類を提示しないなど本件調査にも協力せず、原処分庁による請求人の所得金額の確認を著しく困難にした。
 したがって、請求人は所得税の課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実について、隠ぺいしたところに基づき確定申告書を提出したものというべきであり、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に基づき各年分につき重加算税を賦課決定したことは適法である。
 なお、請求人は、重加算税の賦課決定につき資産負債の裏付けがなされていない旨の主張をするが、納税者の資産負債の確認は重加算税の課税要件ではなく、請求人の主張は理由がない。
(ロ)過少申告加算税の賦課決定処分について
 請求人の場合、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき平成6年分、平成7年分及び平成8年分の過少申告加算税の賦課決定をしたことは適法である。
ニ 消費税の更正処分について
 各課税期間の消費税の納付すべき税額は、平成4年1月1日から同年12月31日までの課税期間905,900円、平成5年1月1日から同年12月31日までの課税期間549,700円、平成6年1月1日から同年12月31日までの課税期間758,300円、平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間534,900円及び平成8年1月1日から同年12月31日までの課税期間629,600円であり、これらの金額は各課税期間の消費税の更正処分の額と同額か又はこれを上回るから、当該更正処分は適法である。

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3 判断

(1)青色申告の承認の取消処分について

イ 当審判所の調査によれば、青色申告の承認の取消処分につき、次の事実を認めることができる。
(イ)請求人は、P市R町2丁目41番12号○○マンション801号を事務所とする税理士であり、同804号に事務所を有するJとともに税理士業務を営んでいる。
(ロ)請求人に対する調査は、前納税地(Q市S町3丁目11番21号)の所轄のM税務署の調査担当職員が電話により平成7年11月9日に同年11月29日に調査を行う旨の予約を行ったことから開始され、同年11月29日は請求人の都合で中止となったが、その後、請求人は、平成8年1月になって突然上記調査担当職員に何の連絡もなしに上記(イ)の事業所の所在地に納税地を移した。
(ハ)納税地の異動に伴って調査を継続するために本件調査担当職員は、再度請求人に平成8年11月13日に調査をする旨の電話をし、以後再三にわたり調査に協力するよう依頼したが、請求人の都合により延期され、平成9年6月20日になってようやく請求人及びJの両名が所轄のN税務署に来署し、本件調査担当職員は両名に対し各年分の事業所得に係る帳簿書類の提示を求めたが、両名は帳簿はないし、全く保存していないと述べた。
(ニ)本件調査担当職員は、平成9年9月8日にも、Jの税理士事務所に臨場して、請求人に対し、各年分の事業所得に係る帳簿書類の提示を求めたが、請求人は事業所得に係る会計データの保存管理及び帳簿作成をすべてコンピュータで行っているところ、フロッピーディスクの不具合により帳簿を出力することができないとして、帳簿を提示せず、また、本件調査担当職員が各年分の売上げに係る請求書控及び領収書等の原始書類の提示を求めても、これらの書類はないとしてやはり提示しなかった。
(ホ)その後、請求人は、本件調査担当職員の求めに応じ、平成9年9月12日、Jを介し、平成8年分の残高一覧表並びに平成9年分の顧問報酬に係る領収書控用つづり及び同年分の源泉徴収簿を提出した。
 なお、請求人は、異議調査の際に、請求人の事業所得に係る会計データを記録、保存したフロッピーディスクを復旧することができたとして、請求人の事業所得に係る各年分の総勘定元帳、振替伝票、請求人の税理士事務所の従業員の源泉徴収簿、タイムカード及び領収書等を提出しているが、当該総勘定元帳は、現金科目及び預金科目がないなど所得税法施行規則第59条《仕訳帳及び総勘定元帳の記載方法》に規定するところに従っていない不十分なものである。
ロ ところで、所得税法第148条第1項は、青色申告の承認を受けている納税者は、大蔵省令で定めるところに従って帳簿書類の備付け等をしなければならない旨規定し、同法第150条第1項は、青色申告の承認を受けた納税者につきその帳簿書類の備付け等が同法第148条第1項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていない事実がある場合を青色申告の承認の取消事由として規定している。
 そして、この帳簿書類の備付け等が大蔵省令に従って行われていることを確認するためには帳簿書類の閲覧、検査が不可欠であるところ、これは納税者による帳簿書類の提示があって初めて可能となるものであるから、青色申告の承認を受けている納税者の帳簿書類の備付け等の義務は、税務職員の質問検査に応じてその帳簿書類を提示する義務をも当然に含むものと解するのが相当である。
 したがって、所得税法第148条第1項に規定する帳簿書類の備付け等があるというためには、単に帳簿書類が物理的に存在するということのみでは足りず、税務職員の求めに応じてそれを提示することを要するのであって、備付け等を義務付けられている帳簿書類の提示を税務職員から求められたにもかかわらず、正当な理由なくして提示しない場合には、同法150条第1項の規定による青色申告の承認の取消事由に該当するというべきである。
ハ 請求人は、上記イのとおり、本件調査担当職員から再三にわたり帳簿書類の提示を求められたにもかかわらず、帳簿書類はないとして、結局、平成8年分の残高一覧表しか提示しなかったのであるから、仮に請求人が、これらの帳簿書類を備え付け、かつ記録、保存していたとしても、また、その後の異議調査の際、帳簿書類の一部につき実際に提示がなされたとしても、これにより請求人が法令の規定に従って帳薄書類の備付け等を行っていたと解することはできない。
ニ なお、請求人は、帳簿書類を提示しなかったのは、本件調査担当職員の要求が一方的であったため調査に協力することができなかったこと及び請求人の税理士事務所の会計データを保存していたフロッピーディスクに不具合が生じ、会計データの出力が不可能となったという不可抗力によるものである旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、本件調査担当職員が帳簿書類の提示を求めたことに何らの違法、不当は認められないし、請求人が会計データをフロッピーディスクに保存していたとしても、それだけで帳簿書類の備付け等があることになるわけでもない。また、所得税法施行規則第63条第1項によれば、取引に関して相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類の写しについても帳簿と併せて保存すべきとされているところ、請求人はこれらの書類も十分には保存しておらず、一応保存のある書類についても、上記イの(ニ)及び(ホ)のとおり、平成8年分の残高一覧表のほかは本件調査担当職員に提示しなかったのであるから、いずれにしても請求人の主張には理由がない。
ホ 以上のとおり、請求人の平成4年分以後の青色申告の承認を取り消した原処分は適法であり、他にこれを不当とする事由は認められない。

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(2)所得税の更正処分について

イ 事業所得の金額について
(イ)総収入金額等
 事業所得の金額の計算に当たり、請求人が消費税の額を取引の対価の額に含めて経理する税込み経理方式を採用しながら、上記2の(2)のロの(イ)のAの表に記載の消費税の額に相当する金額を各年分の総収入金額に算入していなかったことは、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。
 したがって、上記の消費税の額に相当する金額を請求人の青色決算書に記載された総収入金額に加算すべきであり、これによると請求人の総収入金額は、別表6―1の「総収入金額」欄のとおり、平成4年分103,947,366円、平成5年分99,132,480円、平成6年分112,034,368円、平成7年分103,107,662円及び平成8年分105,481,539円となる,
 なお、請求人が平成6年分の固定資産売却益として計上している397,593円は車両の譲渡によるものであり、所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得に該当し、同条第4項に規定する特別控除額が控除され零円となる。
(ロ)必要経費
A 租税公課
 請求人は、更正処分により新たに賦課される事業税の額を見込みで認定し、この金額を必要経費に算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第37条第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額について、償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除くと規定するところ、各年分の所得税の更正処分は、平成10年3月11日付でなされ、同月12日に請求人に対し当該通知書が送達されたのであるから、更正処分後に新たに賦課される事業税の額は確定していないものであり、これを必要経費に算入することはできない。
 なお、その他の租税公課について、上記2の(2)のロの(イ)のBの(A)の表に記載の金額は税理士業務について生じた費用であり、これを必要経費に算入すべきであること、他方、請求人が青色決算書に記載したその他の租税公課の金額を必要経費に算入することができないことは、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。
B 外注費
(A)外注費について、上記2の(2)のロの(イ)のBの(B)の表に記載の金額を必要経費に算入すべきであることは、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。
(B)他方、請求人は、総勘定元帳上、外注費としている平成4年分の1,000,000円、平成5年分の800,000円及び平成6年分の300,000円の賞与(科目訂正後のものを含む。)につき、給料賃金であり必要経費に算入すべきである旨主張するが、当該賞与については、その支出の内容、支払の相手も分からず、仮に給料賃金であるとしても、源泉徴収簿等その支出を具体的客観的に証する証拠資料も何ら存在しないのであって、これを必要経費に算入することはできない。
(C)ところで、原処分庁は、請求人がW司法書士(以下「W司法書士」という。)に支払った金額についても必要経費に算入することはできないとする。
 しかしながら、請求人は、これは税理士事務所の顧客のためにW司法書士に登記手続等の業務を依頼した際、その報酬として支払ったもので、請求人からW司法書士宛に振込送金した旨答述するところ、当審判所の調査によれば、請求人は、W司法書士があて先を顧客として発行した領収書又は請求書(平成4年分合計73,240円、平成5年分合計312,740円、平成6年分合計797,010円及び平成7年分合計197,110円)を現に保管しており、当該領収書等の金額に振込手数料相当額を加算すると、請求人の総勘定元帳に記載されたW司法書士に係る外注費の額と一致すること、また、平成8年分について、請求人の税理士事務所である「請求人会計事務所」からW司法書士あてに合計362,130円が振込送金され、その際に振込手数料として合計5,047円を支出したことが認められる。
 以上の事実に照らすと、平成4年分73,961円、平成5年分315,315円、平成6年分798,864円、平成7年分198,552円及び平成8年分367,177円は、W司法書士に係る外注費というべきであり、これらの金額は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。
C 給料賃金等
(A)給料賃金のうち、上記2の(2)のロの(イ)のBの(C)の表に記載の金額を必要経費に算入すべきであることは、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。
(B)請求人は、上記(A)以外にも多数の従業員が請求人の税理士事務所の業務に従事していたとし、青色決算書にも、Jを含め平成4年分43名、平成6年分37名、平成7年分7名が、また、平成5年分及び平成8年分6名以上が従業員として業務に従事した旨記載されている。
 しかしながら、請求人の税理士事務所の従業員が短期間で交代することがあるとしても、請求人の税理士事務所の規模、現在の従業員の人数、そして従前請求人の税理士事務所の一部を使用していたY税理士(平成10年5月28日に死亡している。以下「Y税理士」という。)が、従業員は従前から2、3名であったと申述していたことに照らすと、上記のような多数の従業員が請求人の税理士事務所で業務に従事していたというのは不自然である。
 これらの従業員については、タイムカードや源泉徴収簿、その履歴書すらもないのであって、業務に従事した事実自体なかったものと考えざるを得ないし、短期間とはいえ一応タイムカードに記載のある者についても、請求人の総勘定元帳から給料賃金の支払の状況を確認することができないだけでなく、源泉徴収簿や履歴書等、業務に従事した事実や給料賃金が支払われた事実に係る証拠資料はなく、いずれにしても、これらの従業員に対する給料賃金を必要経費に算入することはできない。
 なお、請求人は、Gについて、同人は平成3年1月から平成8年3月まで請求人の税理士事務所で業務に従事しており、その後も自宅で業務に従事している旨主張する。
 確かに、Gについては、平成3年分から平成8年分までのタイムカード及び源泉徴収簿が残されているが、請求人自身、Gのタイムカードは、本人ではなく請求人の税理士事務所の従業員が、請求人及びJのタイムカードと一緒に打刻する取扱いであったとするのであって、タイムカードに記載があるからといってGが実際に業務に従事していたことを証するものではないし、かえって、Gが請求人の税理士事務所で業務に従事していたとされる時期に同事務所に勤務していた他の従業員は、「Gのタイムカードの打刻の取扱いは従前から慣例として行われてきたことで、架空人件費の計上のためだと思う、実際にはGは出勤しておらず、同人には特に仕事もなかった」旨述べているのである。
 これらに照らすと、請求人の税理士事務所の業務を自宅で行っているとする請求人の答述も、また信用し難いものといわざるを得ず、Gが請求人の業務に従事した事実はないというべきである。
(C)請求人は、Y税理士との間の業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)に基づき、同税理士から顧客を紹介してもらうなどする一方、毎月200万円程度の現金を同税理士に直接交付したのであるから、この支出については勘定科目は何であれ必要経費に算入すべきであるとする。
 しかしながら、請求人が本件業務委託契約に係るものであるとする平成3年1月10日付の覚書には、便せんに「請求人税理士事務所とY税理士事務所と業務提供を行うべく、税務に関する財務諸表及び損益計算に関する資料の作成と得意先の紹介及びこれらの一連の費用、交際費等の費用の限度範囲を年間3千万円以内の支払条件を定め、請求人、Y両税理士はその実行を覚書を以って行うものとする」とのみ記載されたもので、相当高額な負担が予定されているにもかかわらず、具体的な業務委託の内容や支払条件等については何ら触れていないし、請求人は、この覚書に添付された「給料の支払について」及び「リース料について」と題する各書面について、その記載内容からすれば本件調査開始後に作成されたものであることがうかがわれるのに、覚書と同じ平成3年1月10日に作成されたものであると答述するのであって、本件業務委託契約の締結の事実自体疑わしいものといわざるを得ない。そして、仮に実際、本件業務委託契約が締結されたとしても、当該契約に基づく支出の状況を請求人の総勘定元帳から確認することができないだけでなく、上記毎月200万円程度の現金の交付に係る領収書等も存在せず、さらに、当該金額はY税理士の確定申告において、少なくとも平成7年分及び平成8年分につき収入として申告されていないのであって、いずれにしても、その支出の事実を認めることはできない。
 なお、請求人は、本件業務委託契約に基づきY税理士が購入する商品の代金を負担したとして、これを必要経費に算入すべきであるとも主張するが、本件業務委託契約の締結の事実自体疑わしいものであることは上記のとおりであるし、請求人が負担したのは主に貴金属や毛皮等の衣服の購入代金と認められるのであって、いずれにしても、これらの支出を税理士業務による収入を得るために直接に要した費用あるいは業務について生じた費用ということはできず、やはり必要経費に算入することはできない。
D 利子割引料
 利子割引料について、上記2の(1)のロの(イ)のBの(C)の表に記載の金額を必要経費に算入すべきであること及び請求人が青色決算書に記載したその他の金額が、家事上の借入金の支払利息であり必要経費に算入することができないことについては、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。
E リース賃借管理料
(A)リース料等
 リース料等のうち、請求人の税理士事務所で使用するための事務機器等のリース契約に係る上記2の(2)のロの(イ)のBの(E)の表に記載のものについては、その支払金額を必要経費に算入すべきであることは、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。
 しかし、これ以外の金額については、支出の認められないもの、あるいは請求人の自宅用の家電製品等に係るもの、本件業務委託契約に基づく貴金属や毛皮等の衣服の購入代金の支払に係るもので、家事費というべきものであり、必要経費に算入することはできないし、業務用の資産の購入に係るものと認められるものでも既に別途減価償却費として算入されているものについては、リース料として必要経費に算入することはできない。
(B)賃借、管理料
a 賃借、管理料のうち、上記2の(2)のロの(イ)のBの(E)の表に記載のものについては、その支払金額を必要経費に算入すべきであることは、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。もっとも、請求人が、リース賃借管理料として計上していた事務所等の修繕積立金に相当する部分については必要経費に算入することはできない。
b 請求人は、T市U町3丁目3番32号マンション△△505号(以下「マンション△△505号」という。)の賃借料についても必要経費に算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、マンション△△505号は、請求人の自宅のあるQ市S町3丁目11番21号とさほど離れていないこと、請求人も、体調が悪いときに同所で仕事をすることがあるが、それ以外は同所を孫の勉強部屋として利用しており、内部には机がある程度である旨答述していること及び平成5年分の源泉徴収薄では、同所がGの住所として記載されていることに照らすと、マンション△△505号が税理士業務のために使用されているとは考えられず、その賃借料が税理士業務による収入を得るために直接に要した費用、あるいは業務について生じた費用であると認めることはできない。
F その他の必要経費の算入等については、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。
(ハ)事業所得の金額
 以上によれば、請求人の各年分の事業所得の金額は、別表6―1の「事業所得の金額」欄のとおり、平成4年分50,515,891円、平成5年分49,505,575円、平成6年分58,862,531円、平成7年分50,728,579円及び平成8年分59,355,784円となる。
 なお、上記(1)のとおり、青色申告の承認の取消処分は適法であるから、各年分の事業所得の金額の計算上青色申告特別控除額を控除することはできない。
ロ 総所得金額
 その他の雑所得の金額等については、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができるので、結局、各年分の総所得金額は、別表6―2の「総所得金額」欄のとおり、平成4年分50,863,155円、平成5年分49,891,243円、平成6年分36,690,608円、平成7年分51,228,279円及び平成8年分59,859,884円となる。
ハ 平成6年分の所得税の源泉徴収税額について
 請求人は、Hが源泉徴収税額を納付しているので、その額につき控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第204条第2項の規定により、Hは給与等につき所得税を徴収して納付すべき者ではなく、税理士への報酬について所得税を徴収して納付する義務もないことは、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができるので、Hが、請求人に係る税理士報酬について所得税を徴収し国に納付したか否かにかかわらず、源泉徴収税額を控除することはできない。
ニ 以上によれば、請求人の各年分の納付すべき税額は、別表6―2の「納付すべき税額」欄のとおり、平成4年分10,266,200円、平成5年分10,298,300円、平成6年分982,900円、平成7年分8,182,900円及び平成8年分12,264,600円となる。
 これらの金額は、いずれも更正処分に係る納付すべき税額を上回るので、各年分の更正処分は適法である。
 なお、請求人は、所得控除の合計額につき、平成6年分の本件確定申告書において、老年者控除として500,000円を控除しているが、請求人の合計所得金額は1,000万円を超え所得税法第2条《定義》第1項第30号に規定する老年者に該当しないので、同法第80条《老年者控除》第1項に規定する老年者控除は適用されない。

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(3)加算税の賦課決定処分について

イ 重加算税の賦課決定処分について
 通則法第68条第1項は、同法第65条の規定により過少申告加算税が課せられる場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、重加算税を課す旨規定している。
 ところで、請求人は、税務に関する専門家として、納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士であり、各年分の所得税の確定申告に当たっては、上記(2)のイの多額の事業所得を申告すべきであることは当然に承知していたものと認められるにもかかわらず、各年分の総勘定元帳及び青色決算書に多額の経費の支出があったかのように虚偽の記載をして本件確定申告書に真実の事業所得を記載しなかったばかりか、上記(1)のイの(ニ)及び(ホ)のとおり、会計データをコンピュータで管理保存していたとはいえ、その能力を有しながら青色申告者の義務である帳簿書類の備付け等をせず、保存があるものについても、帳簿書類の保存はない旨、本件調査担当職員に対して虚偽の答弁をし、異議調査の際にも、実際には何ら業務に従事していない従業員につき、従事しているかのように記載したタイムカード、源泉徴収簿等内容虚偽の資料を提出しているのである。
 これらの事情に照らすと、請求人は、国税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実を仮装し、その仮装したところに基づき本件確定申告書を提出したというべきであるし、少なくとも申告当初から、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺい行為をすることも予定しつつ、各年分の所得金額につき約2,200万円から4,000万円に至る多額の所得金額を脱漏し、所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したというべきであって、本件確定申告書の提出は、単なる過少申告行為にとどまるものではなく、所得税の課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実について、隠ぺいしたところに基づき確定申告書を提出した場合に該当する。
 したがって、通則法第68条第1項の規定に基づいてした重加算税の賦課決定処分は適法である。
 なお、請求人は重加算税の賦課決定に際し、資産負債の裏付けがない旨の主張をするが、資産負債の裏付けの有無は重加算税の課税要件ではなく、請求人の主張には理由がない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記(2)のとおり、各年分の更正処分は適法であり、また、請求人には、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、青色申告の承認の取消処分によって所得金額が増加することとなった部分を除き、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした平成6年分、平成7年分及び平成8年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(4)消費税の更正処分について

 各課税期間の消費税については、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によっても、消費税の更正処分は相当と認められる。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを違法、不当とする理由は認められない。

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