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(平11.9.1裁決、裁決事例集No.58 140頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、家屋の増改築につき、租税特別措置法(平成10年法律第23号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第41条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》第1項の規定(以下、この規定による特別措置を「住宅取得等特別控除」という。)を適用できるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 確定申告書提出の経緯
(イ)審査請求人(以下「請求人」という。)は、父であるF(以下「父F」という。)が昭和52年に新築した次表の建物(以下「本件家屋」という。)について、平成9年に住宅金融公庫から9,200,000円、G信用金庫から5,000,000円をそれぞれ借り入れ、その資金を基に増改築(以下「本件増改築」という。)を行った。

(ロ)請求人は、本件増改築につき、住宅取得等特別控除を適用して、源泉徴収税額の還付を受けるために、別表1のとおり住宅取得等特別控除額を計算し、平成9年分の所得税について、確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、「平成9年分住宅取得等特別控除チェック表(増改築等用)」(以下「本件チェック表」という。)及びその他大蔵省令で定める書類を添付し、平成10年2月16日に申告をした。
ロ 原処分及び不服申立ての経緯
(イ)原処分庁は、本件増改築は請求人が所有していない家屋について行われた増改築であるため、住宅取得等特別控除は適用できないとして、平成10年9月7日付で別表2の「更正処分」欄のとおりの更正処分をした。
(ロ)請求人は、上記処分について、平成10年11月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成11年2月3日付で棄却の異議決定をしたので、同年3月4日に原処分全部の取消しを求める審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 本件家屋について、昭和52年10月11日に父F名義の所有権保存登記がされている。
ロ 平成9年10月7日付で同年9月18日増築との本件増改築に伴う登記がされている。
ハ 平成9年9月26日付で錯誤を原因とする所有権更正登記(持分を請求人と父Fの各2分の1ずつとするもの)がされている。
ニ 請求人は、昭和61年12月に、200万円程度の費用で本件家屋の2階部分のリフォーム(以下「本件リフォーム」という。)を行い、その費用等を全額負担したとして、領収証等を原処分庁所属の職員に提示した。

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2 主張

(1)住宅取得等特別控除の法令解釈及び適用について

イ 請求人の主張
 本件チェック表には「増改築等をした家屋の所有者は申告者と同一ですか。」とのチェック項目が印字されており、その記載内容は増改築時点での家屋の所有の有無を確認しているものでないから、確定申告時点で家屋を所有していれば、増改築時点で家屋を所有していなくても、住宅取得等特別控除は適用されるべきである。
 すなわち、措置法第41条第3項に規定する「増改築等」には、既に所有している家屋に係る増改築のみならず、増改築後に当該家屋を所有するに至った場合も含まれると解すべきである。
 したがって、請求人が本件家屋の持分を本件増改築前に取得していたかどうかにかかわらず、確定申告時点では本件家屋に請求人と父Fとの共有持分登記がされているのであるから、住宅取得等特別控除を適用すべきである。
ロ 原処分庁の主張
 措置法第41条第3項は、住宅取得等特別控除の対象となる家屋の増改築等とは、「当該居住者が所有している家屋につき行う増築、改築その他の政令で定める工事」であると規定している。したがって、住宅取得等特別控除は、申告者が既に所有している家屋について行われる増改築に限り適用されるべきである。

(2)本件家屋の共有持分の取得について

イ 請求人の主張
(イ)請求人は、本件リフォームに係る資金の全額を負担し、その時以来、本件家屋に係る固定資産税、維持費等も負担しているから、本件家屋は、昭和61年12月以降、請求人と父Fの共有状態になっている。
(ロ)また、請求人は、本件家屋について、本件増改築の計画段階で父Fから2分の1の共有持分を譲り受けている。
ロ 原処分庁の主張
(イ)本件増改築前の本件家屋の所有者は、父Fであり、本件増改築前の昭和61年に本件リフォームがされていることは認められるが、請求人が本件増改築前に本件家屋の所有権(共有持分)を取得したとは認められない。
(ロ)請求人は、本件増改築後に至って初めて本件家屋の共有持分2分の1を取得したものであり、本件増改築は、請求人が所有していない家屋について行われたものである。

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3 判断

(1)住宅取得等特別控除の法令解釈及び適用について

 措置法第41条第3項は、住宅取得等特別控除の対象となる家屋の増改築等とは「当該居住者が所有している家屋につき行う増築、改築その他の政令で定める工事」であると規定しており、増改築時点で当該家屋を所有していることが住宅取得等特別控除の適用を受けるための要件であると解される。
イ この点、請求人は、確定申告時に所有(共有)名義があれば、住宅取得等特別控除が認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、措置法第41条は、税制上の優遇措置を設けることにより、住宅の取得等の促進を図る趣旨の規定であり、かかる趣旨からすれば、増改築後に初めて共有持分を取得するに至った場合にも住宅取得等特別控除の適用を認めるべきであるとの議論も成り立ち得るが、それはあくまで、立法上の議論であって、同条第3項の文言上かかる解釈は困難であり、一般に租税法規についてその記載の文言を離れてみだりに拡張解釈をすることは、租税法律主義の見地に照らし相当でないところ、特に措置法にあっては、国の一定の政策を推進するために定められた税負担の軽減の特則又は例外規定であるから、その解釈は厳格に行われるべきものである。
 したがって、増改築後に初めて共有持分を取得するに至った場合にも住宅取得等特別控除の適用を認めるべきであるとの請求人の見解は、現行法上採り得ないというべきである。
ロ また、請求人は、本件チェック表に「増改築等をした家屋の所有者は申告者と同一ですか。」とのチェック項目が印字されていることをもって、確定申告時点で家屋を所有していれば、増改築時点で家屋を所有していなくても住宅取得等特別控除を適用すべきである旨主張している。
 しかしながら、本件チェック表は、納税者に住宅取得等特別控除の制度を周知し自ら確認させ、その正しい理解を促すとともに、同制度の適用誤り並びにその手続及び添付書類の不備を防止し、この制度の円滑適正な運用を図るため、納税者の誤りやすい項目を簡潔に記載して各納税者に交付しているにすぎず、本件チェック表の記載内容いかんが措置法の解釈及び適用を左右するものではない。
 また、当審判所の調査によっても、本件チェック表の記載内容に誤りはなく、格別これが不相当であるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

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(2)本件家屋の共有持分の取得について

 上記(1)のとおり、増改築時点で当該家屋を所有していることが住宅取得等特別控除の適用を受けるための要件であると解されるところ、本件家屋について、本件増改築が行われた時点で請求人が共有持分を有していたか否かに争いがあるので、この点について以下審理する。
イ 認定事実
 原処分関係資料等及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、異議申立てに係る調査の担当職員及び当審判所に対し、本件家屋を新築したのは父Fであり、その当時請求人は学生であって、本件家屋の新築資金は出しておらず、本件家屋は父Fのものである旨申述している。
(ロ)請求人は、当審判所に対し、本件リフォーム時点で父Fから請求人が所有権(共有持分)を取得した原因について何ら説明していない。
(ハ)本件増改築前の家屋の登記簿甲区欄には、本件リフォームに関して何ら表示がなく、父Fから本件家屋を譲り受けたとする表示もない。
(ニ)請求人は、当審判所に対し、上記1の(3)のハの登記手続について、直接関与しておらず、土地家屋調査士Hに任せていた旨申述し、錯誤の理由及び持分を2分の1ずつとした経緯について合理的な説明をしていない。
ロ 所有権(共有持分)の取得について
 ところで、上記1の(3)のイの父F名義の所有権保存登記の存在及び上記イの(イ)の請求人の申述内容からすると、新築当時、本件家屋は父Fが単独で所有していたと認められるところ、他人の所有する不動産についての共有持分の取得は、売買(民法第555条参照)、贈与(同法第549条参照)、相続(同法第896条参照)、時効取得(同法第162条参照)といった所有権取得原因によってなされるのであるから、結局、本件増改築時点で請求人が本件家屋の共有持分を有していたか否かは、新築から本件増改築までの間に共有持分を取得すべき所有権取得原因が請求人に存したか否かにより判断すべきこととなる。
(イ)この点、請求人は、〔1〕本件リフォームにより共有状態となった旨及び〔2〕本件増改築の計画段階で父Fから2分の1の共有持分を譲り受けた旨主張する。
 しかしながら、いずれの主張も所有権取得原因の主張としては不明確である上、請求人の主張を裏付けるに足りる的確な証拠の提出もなされていない。
 また、他人の所有する不動産を増改築した場合には、原則として、その増改築部分の建物の所有権は建物に附合し、建物本体の所有者の所有に帰することとなるのであるから(民法第242条参照)、本件リフォームあるいは本件増改築を行ったこと自体から、当然に請求人に共有持分が発生すると解することはできない。
 さらに、上記1の(3)のハの錯誤を原因とする所有権更正登記については、上記イの(ニ)のとおり、請求人が、当審判所に対し、錯誤の理由及び持分を2分の1ずつとした経緯について合理的な理由を説明していないことからすると、この登記によっても、請求人が本件リフォーム時点あるいは本件増改築の計画段階で本件家屋の共有持分を取得していたことを認めるには足りないというべきである。
 以上に加え、上記イの(ロ)及び(ハ)の事実並びに当審判所の調査によっても、本件リフォーム時点あるいは本件増改築の計画段階で請求人に何らかの所有権取得原因があったとは認められないことからすると、請求人の上記〔1〕及び〔2〕の主張はいずれも採用できないというべきである。
(ロ)他に、新築から本件増改築までの間に本件家屋の共有持分を取得すべき所有権取得原因が請求人に存したことをうかがわせる事情は認められない。
(ハ)そうすると、請求人は、本件増改築時点では本件家屋につき共有持分を有していなかったものといわざるを得ない。

(3)本件更正処分の適法性

 以上のことから、本件増改築は、措置法第41条第3項が規定する住宅取得等特別控除の対象となる増改築に該当しないことは明らかであり、原処分庁が本件増改築につき住宅取得等特別控除を適用しなかったことは相当であり、原処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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