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(平11.12.14裁決、裁決事例集No.58 188頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、土木建築工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、他の建築工事業者とともに共同企業体を組織して建築工事等を施工した際に外注費の名目で支出した金額が、租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前のもの)第62条《交際費等の損金不算入》第3項に規定する交際費等(以下「交際費等」という。)に該当するか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり(以下、平成5年8月1日から平成6年7月31日までの事業年度を「平成6年7月期」という。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人、F株式会社(以下「F社」という。)及び株式会社G(以下「G社」といい、
請求人、F社及びG社を併せて「本件3社」という。)は、H特定建設工事共同企業体(以下「本件共同企業体」という。)を組織して、P市R町(以下「R町」という。)の(〔1〕平成4年度R町庁舎建設工事並びに〔2〕平成5年度R町庁舎外構及び厚生棟改修・車庫棟建築工事(以下、これらを併せて「本件工事」という。)を落札し、同町との間で平成4年12月15日付及び平成5年11月19日付でそれぞれ工事請負契約を締結した。
ロ 上記イの工事請負契約に係るそれぞれの工事請負契約書(以下「本件工事請負契約書」という。)には、請負者の欄に本件共同企業体及び代表者F社の記載があり、工事完成保証人の欄にJ株式会社(以下「J社」という。)の記載がされている。
ハ 本件工事に関して、本件共同企業体はJ社に対する外注費293,200,000円を計上し、J社は当該金額を売上げに計上するとともに当該売上げに対する原価として252,702,670円を計上している。
ニ 上記ハの金額は、本件工事に係る粗利益の20%相当額をJ社が得ることができるようにするため算出された金額である。
 すなわち、本件工事に係る総売上高1,466,000,000円の20%相当額293,200,000円をJ社に対する外注費とし、総原価11,263,513,352円の20%相当額252,702,670円を同社の負担原価とすることにより、同社は本件工事に係る粗利益の20%相当額である40,497,330円(293,200,000円−252,702,670円=40,497,330円。以下、この金額を「本件利益金」という。)の利益を得ている。

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2 主張

(1)請求人の主張

イ 更正処分について
 原処分庁は、本件利益金は本件工事の受注の際のいわゆる降り賃として、本件共同企業体の入札を有利に進めるための請託に関連して支出された金員であり、建築業者等が工事の入札等に際して支出するいわゆる談合金その他これに類する費用(以下「談合金等」という。)に該当するとし、本件利益金に本件共同企業体における請求人の出資持分割合(責任割合)30%を乗じた金額(以下「本件外注費」という。)12,149,199円を交際費等の額と認定して更正処分を行っている。
 しかしながら、本件工事は、以下のとおり、実質的に本件3社にJ社を加えた4社(以下「本件4社」という。)を構成員とする共同企業体で施工されたものであり、J社が得た本件利益金は、同社が本件共同企業体の実質上の構成員として共同事業に参加したことの対価として得た利益の分配金であって、いわゆる降り賃として本件共同企業体の入札を有利に進めるための請託に関連して支出された金員ではなく、談合金等には該当しない。
 したがって、本件外注費を交際費等の額と認定してなされた更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
(イ)本件工事は、その規模・内容から判断して、当初から本件4社を構成員とする共同企業体として入札への参加を予定していたものであるが、本件工事の発注者であるR町が入札への参加の指名条件を3業者の構成員による共同企業体に限定したため、やむを得ずJ社を除く本件共同企業体を発足させ、入札に参加したものであり、形式的には本件3社を構成員とする本件共同企業体として本件工事を落札しているが、実質的にはJ社を加えた本件4社を構成員とする本件共同企業体として本件工事を施工したものである。
 すなわち、本件4社は各構成員の出資持分割合(責任割合)を請求人24%、F社32%、G社24%、J社20%とする旨合意して本件工事を施工しており、次の(ロ)のとおりJ社も本件共同企業体の実質上の構成員として本件工事に係る共同事業に参加していたものであるが、発注者との関係では、本件工事の請負当事者はあくまでも本件共同企業体であるため、各構成員の出資持分割合(責任割合)を形式上は請求人30%、F社40%、G社30%とした上、J社に対して本件工事の一部を下請発注する形式を採ることにより、前記1の(3)のハ及びニのとおり、本件工事に係る粗利益の20%相当額をJ社が得ることができるようにしたものである。
(ロ)J社は、以下のとおり、本件共同企業体の実質上の構成員として本件工事に係る共同事業に参加している。
A 本件工事に係る本件共同企業体の意思決定は、各構成員から派遣された運営委員によって構成される運営委員会においてなされ、運営委員会の決定を円滑に実施するための現場の業務運営は、各構成員から派遣された施工委員によって構成される施工委員会においてなされているところ、J社も本件3社と同様に運営委員及び施工委員を派遣し、本件共同企業体の業務運営に参加している。
 J社から派遣された運営委員は同社常務取締役のKであり、施工委員は同社工事課長のLである。
B 施工委員に関する人件費は、運営委員会で決定された上、各構成員に支給されているが、Lの人件費に関しても、本件3社から派遣された施工委員と同様に、運営委員会で定められた金額がJ社に支給されている。
 また、Lは、本件3社から派遣された施工委員と同様に、本件工事の着工から完成までの全過程において、現場監督等の業務に従事した。
C 本件工事に瑕疵があった場合には、J社もその責任を分担することとされており、実際にも、本件工事の完成から約1年5か月後に雨漏りが発生した際の補修工事について、同社は、これに要した費用の20%相当額を負担している。
ロ 重加算税の賦課決定処分についで
 上記イのとおり、更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

イ 交際費等について
(イ)上記1の(3)のイないしニの事実及び次の(ロ)の本件共同企業体の関係者の原処分に係る調査の担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対する申述を総合すれば、
J社は、形式上本件共同企業体の構成員となっていないというだけではなく、実質的にも本件工事に係る共同事業に参加していたものではないと認められ、同社が得た本件利益金は本件工事の受注の際のいわゆる降り賃として、本件共同企業体の入札を有利に進めるための請託に関連して支出された談合金等であって、本件外注費は交際費等の額に該当すると認められる。
(ロ)本件共同企業体の構成員である本件3社の社員のうちの1名(以下「本件申述人」という。)は、調査担当職員に対して、要旨次のとおり申述している。
A 本件工事については、当初本件4社で入札に参加する予定であったが、最終的にはJ社が降りることになった。
B 本件共同企業体からJ社に発注された工事については、その後、同社から本件共同企業体の選定した業者に下請させており、同社は実際の施工を行っていない。
C 本件利益金は、J社が本件共同企業体から降りることに対するいわゆる降り賃として供与したものであり、その額は粗利益の20%相当額となるよう算定した。
D J社から派遣されたLは、本件共同企業体の施工委員として、本件工事の進行状況の報告や意見を述べることはあっても、それは同社を代表して本件共同企業体の意思決定に参加したものではない。
ロ 更正処分について
 請求人の平成6年7月期の所得金額は、請求人が原処分庁に提出した平成6年7月期の法人税の確定申告書の所得金額194,906,647円に、次の(イ)及び(ロ)の金額を加算し、次の(ハ)及び(ニ)の金額を減算した206,887,562円となり、これと同額でなされた更正処分は適法である。
(イ)交際費等の損金不算入額
 本件外注費12,149,199円は交際費等の額と認められることから、交際費等の損金不算入額を計算すると、更に12,149,199円が損金不算入となる。
(ロ)受取利息の計上漏れ
 請求人は、M銀行N支店におけるS名義の口座番号******の普通預金(以下「本件預金」という。)について、請求人が入出金、通帳及び印鑑を管理し、請求人に帰属することを認めているので、平成6年7月期に発生した本件預金に係る利息209円は、受取利息の計上漏れとして所得金額に加算される。
(ハ)給与の過少計上
 請求人が外注費として工事原価に算入した金額のうち、屋号「T組」に対する支払額6,861,413円は、その金額の算定根拠及び支払形態から判断してSらに対する給与の支給と認められるので、当該支払額から消費税199,846円を控除した6,661,567円とSらに支給した額6,830,006円との差額168,439円は給与の計上が過少であったこととなる。
(ニ)雑損失の計上漏れ
 本件調査後の正当な仮払消費税額に基づいて未払消費税額との調整を行ったところ、未払消費税額の調整額54円(消費税の修正申告による納付税額199,900円と本件調査後の正当な仮払消費税額199,846円との差額)は、雑損失の計上漏れとなる。
ハ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件利益金はJ社が本件工事の受注から降りることに対するいわゆる降り賃として、本件共同企業体の入札を有利に進めるための請託に関連して支出された談合金等であって、本件外注費は交際費等に該当する費用であるにもかかわらず、請求人は、あたかも外注工事を行ったごとく仮装してこれを外注費として損金に計上していたことが認められる。
 また、請求人は、上記ロの(ロ)のとおり、本件預金が請求人に帰属するにもかかわらず、本件預金の利息を益金に計上していない。
 これらのことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、同項の規定に基づいてした重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件の争点は、本件外注費が交際費等に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)交際費等について

イ 交際費等とは、租税特別措置法第62条第3項で、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいうと規定されており、交際費等に該当するか否かの一般的判断基準は、〔1〕得意先、仕入先、その他の事業関係者を対象として、〔2〕これらの者の接待、供応、慰安、贈答、その他これらに類する行為のために支出する費用であるか否かであるところ、建設業者等が工事の入札等に際して支出する談合金等は、相手先で収益に計上されているといっても、自己に有利に入札を進めるため不正の請託に関連して支払うものであり、いわば一種のわいろのごときものであるから、贈答その他これに類する行為のための支出として、交際費等に該当すると解されている。
 このような交際費等の意義及び談合金等が交際費等に該当すると解されている趣旨に照らせば、本件のように複数の建設業者が共同企業体を組織して工事を受注した上、当該共同企業体の利益の一定割合が建設業者に支払われる場合の支出については、〔1〕支出の相手方が当該共同企業体の構成員であったとしても、当該構成員が実際には当該共同企業体が行う共同事業に参加していない名目上の構成員にすぎない場合には、当該支出の趣旨いかんによっては当該支出が交際費等に該当することとなるが、反面、〔2〕支出の相手方が契約書等における形式上は当該共同企業体の構成員となっていない建設業者であったとしても、当該建設業者が当該共同企業体の実質上の構成員として共同事業に参加している場合には、当該支出は、特段の事情のない限り、当該共同事業に参加したことに対する対価としての利益の分配金であると推認され、交際費等には該当しないと解するのが相当である。
ロ ところで、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、本件4社は、当初、本件4社を構成員とする共同企業体として本件工事の入札に参加する予定であったが、本件工事の発注者であるR町においては、入札に参加する共同企業体の参加条件を原則として2業者ないし3業者の構成員による共同企業体に限定していたため、最終的にはJ社を除く本件3社で本件共同企業体を組織して本件工事を受注したことが認められ、本件工事請負契約書等における形式上J社が本件工事に係る本件共同企業体の構成員となっていないことについては請求人と原処分庁との間に争いはないところ、本件において請求人と原処分庁との間で争われているのは、J社が本件共同企業体の実質上の構成員として共同事業に参加していたか否かである。
 そこで、以下、この点について検討する。
(イ)認定事実
A 本件申述人は、調査担当職員に対して、上記2の(2)のイの(ロ)のとおり申述しているが、当審判所において本件申述人を含む本件共同企業体の構成員である本件3社の社員3名から聞き取りを行ったところ、要旨次のとおり答述した。
(A)本件共同企業体は、当初は本件4社を構成員とする共同企業体として入札に参加する予定でいたが、R町が入札の参加条件を3業者の共同企業体に限定したため、本件4社の協議によって、Q市に所在するJ社を除く地元業者3社による本件共同企業体で入札することとした。
(B)本件工事を請け負うには、J社の過去の建築実績から、その技術力を必要としたので、本件共同企業体としては、当初から同社に対して、本件工事に係る本件共同企業体の実質的な構成員になるように依頼しており、本件工事を落札した後の本件共同企業体は、J社をも実質上の構成員とする本件4社による共同企業体として本件工事を施工した。
(C)本件共同企業体の意思決定は、すべて運営委員会で決定し、施工委員会としては、工事に関することを取り決め、運営委員会の承認を得て施工した。
(D)J社からは、常務取締役のKが運営委員として、Lが施工委員として派遣されていた。
(E)調査担当職員に対して、上記2の(2)のイの(ロ)のDのとおり申述したが、これは、Lはあくまで施工委員であり運営委員ではないため、その立場上の話として、運営委員会の意思決定には参加していないという意味である。
B 上記Aの(C)の答述並びに本件共同企業体が作成した協定書及び協定書細則によれば、本件工事に係る本件共同企業体の意思決定は、各構成員から派遣された運営委員によって構成される運営委員会においてなされ、運営委員会の決定を円滑に実施するための現場の業務運営は、各構成員から派遣された施工委員によって構成される施工委員会においてなされていることが認められる。
C 請求人がJ社から派遣された運営委員であると主張する同社常務取締役Kは、当審判所に対して、同人が運営委員として本件共同企業体の運営委員会に出席し、本件共同企業体の意思決定に参加していた旨答述しているところ、この答述は上記Aの(D)の本件共同企業体関係者の答述と符合する上、当審判所において運営委員会の議事録である△△運営委員会議事録及びKが所持していた手帳を確認したところ、平成5年1月から平成6年4月までの間に11回にわたり同人が運営委員会に出席していたことがうかがわれるから、同人の上記答述には信ぴょう性があると認められる。
D 原処分関係資料、上記Aの(D)及び(E)の答述、本件共同企業体が作成した協定書及び協定書細則等を総合すれば、J社からは同社工事課長のLが施工委員として派遣されているところ、施工委員に関する人件費は、運営委員会で決定された上、各構成員に支給されており、Lの人件費に関しても、本件3社から派遣された施工委員と同様に、運営委員会で定められた金額がJ社に支給されていることが認められる。
 また、R町役場における当審判所の調査結果等からすると、Lは、本件3社から派遣された施工委員と同様に、本件工事の着工から完成までの全過程において、現場監督等の業務に従事したものと認められる。
E 請求人が提出した請求書等の証拠資料を当審判所において調査したところ、本件工事の完成(平成6年3月ころ)から約1年5か月後に雨漏りが発生した際の補修工事について、J社は、これに要した費用の20%相当額を負担していることが認められ、同社は、上記1の(3)のニのとおり本件工事に係る粗利益の20%相当額の利益を受けただけではなく、20%の割合で本件工事に伴う責任も負担していたものと認められる。
(ロ)そこで判断するに、上記(イ)の事実からすると、J社は、K及びLをそれぞれ運営委員及び施工委員として派遣し、本件3社と同様の立場で本件工事に係る本件共同企業体の意思決定及び現場の業務運営に参加していたとみることができる上、J社は、20%の割合の利益を受けただけではなく、20%の割合で本件工事に伴う責任も負担していたものと認められるのであり、これらの事実を総合すれば、同社は、本件3社と同様、本件共同企業体の実質上の構成員として本件工事に係る共同事業に参加していたと認めるのが相当である。
(ハ)この点、原処分庁は、上記2の(2)のイの(ロ)の調査担当職員に対する本件申述人の申述を根拠に、J社は実質的にも本件工事に係る共同事業に参加していたものではない旨主張するが、本件申述人の調査担当職員に対する申述は、上記(イ)の各事実に照らして採用できず、他に上記(ロ)の認定を覆すに足りる証拠資料は存しないから、原処分庁の主張は採用できない。
ハ 上記ロの認定を上記イに照らして判断するに、J社が本件共同企業体の実質上の構成員として本件工事に係る共同事業に参加していたと認められることからすると、J社が得た本件利益金は、同社が本件工事に係る共同事業に参加したことに対する対価として得た利益の分配金であると推認される。
 そして、原処分関係資料及び当審判所の調査によってもこの推認を左右するに足りる事情は存しないから、本件外注費は交際費等には該当しないと認めるのが相当である。

(2)更正処分及び重加算税の賦課決定処分について

 以上の結果、請求人の平成6年7月期の所得金額は、更正処分における交際費等の損金不算入額を取り消すことによって更正処分前の所得金額を下回ることとなる。
 したがって、平成6年7月期の法人税の更正処分はその全部を取り消すべきであり、これに伴い、重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すのが相当である。

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