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(平11.7.5裁決、裁決事例集No.58 292頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの。以下「法」という。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項に規定する特例(以下、この規定による特例を「簡易課税制度」という。)の適用を受ける旨の届出書(以下「簡易課税制度選択届出書」という。)の効力は、その後、法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第1項第2号の規定に基づく課税期間の基準期間における課税売上高(以下、基準期間における課税売上高を「基準課税売上高」という。)が3千万円以下となった旨の届出書(以下「納税義務者でなくなった旨の届出書」という。)の提出により、失効するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成9年3月1日から平成10年2月28日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書(簡易課税用)に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、簡易課税制度を適用した確定申告は誤りで、仕入れに係る消費税額は実額により計算されるべきであるとして、平成10年7月31日に別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
 原処分庁は、これに対し、平成10年9月30日付で法第37条第2項に規定する簡易課税制度の適用を受けることをやめようとする旨の届出書(以下「簡易課税制度選択不適用届出書」という。)の提出がないため、仕入れに係る消費税額の計算は簡易課税制度が適用されるとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 その後の審査請求(平成11年2月10日)に至る経緯は、別表に記載のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成3年2月6日付で原処分庁に対し、法第57条第1項第1号に規定する課税期間の基準課税売上高が3千万円を超えることとなった旨の届出書(以下「課税事業者届出書」という。)及び簡易課税制度選択届出書を提出し、平成3年3月1日から平成4年2月29日までの課税期間以後の課税期間について、簡易課税制度による申告を選択した。
ロ 請求人は、平成5年3月1日から平成6年2月28日までの課税期間の基準課税売上高が3千万円以下となったため、平成5年4月23日に原処分庁に対し、納税義務者でなくなった旨の届出書を提出した。
ハ 次いで、請求人は、平成9年1月31日に法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第4項に規定する同条第1項本文の規定の適用を受けない旨の届出書(以下「課税事業者選択届出書」という。)を原処分庁に提出し、本件課税期間から課税事業者となることを選択した。
 なお、当該課税事業者選択届出書には、本件課税期間の基準課税売上高は10,603,240円と記載されている。
ニ 請求人は、簡易課税制度選択届出書を提出した日以降、簡易課税制度選択不適用届出書を原処分庁に対して提出していない。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 簡易課税制度は、法第37条第1項の規定により、法第9条第1項本文の規定による消費税を納める義務が免除される事業者(以下「免税事業者」という。)以外の事業者、すなわち課税事業者について、その者の基準課税売上高が4億円以下である課税期間において、簡易課税制度選択届出書を提出することにより適用されることとなるものであるから、基準課税売上高が3千万円以下となって納税義務がなくなり免税事業者となれば、同時に失効するものと解すべきであり、法第37条第2項ないし第4項の規定は、課税事業者のみについて適用されると解するのが正当である。
 このことは、納税義務者でなくなった旨の届出書を提出した後、再び基準課税売上高が3千万円を超えることになれば新たに課税事業者届出書の提出を求めていることからも明らかである。
ロ 原処分庁の主張の根拠となる、「消費税法基本通達の制定について」(平成7年12月25日付課消2―25国税庁長官通達。以下「基本通達」という。)13―1―3《簡易課税制度選択届出書の効力》及び同13―1―4《簡易課税制度選択届出書を提出することができる事業者》の定めは、法第37条の拡大解釈であり、租税法律主義に違反する。
ハ 仮に、原処分が正しいとしても、請求人が課税事業者選択届出書を提出した際に、原処分庁は、請求人に対し、簡易課税制度選択届出書の効力が継続しており、簡易課税制度の適用を受けない場合は、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しなければならない旨を教示すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 請求人は、納税義務者でなくなった旨の届出書を提出すれば簡易課税制度の適用に関する効力も同時に失効する旨主張するが、当該届出書は、事業者が基準課税売上高が3千万円以下となった場合に、当該基準期間に対応する課税期間において納税義務者でなくなった旨を当該事業者の納税地を所轄する税務署長(以下「税務署長」という。)に届け出るためのものであり、法第37条第2項において、簡易課税制度の適用を受けることをやめようとするときは、簡易課税制度選択不適用届出書を税務署長に提出しなければならない旨規定されていることからすれば、納税義務者でなくなった旨の届出書の提出に伴い簡易課税制度選択届出書の効力も同時に失効するとは解されない。
 なお、法第37条第2項ないし第4項の規定は、簡易課税制度選択届出書を提出している事業者がその適用をやめる場合に簡易課税制度選択不適用届出書の提出を義務づけているものであり、課税事業者のみでなく免税事業者にも適用される。
ロ 請求人は、基本通達13―1―3及び同13―1―4の定めについて、租税法律主義に違反する旨主張するが、同通達は、法律解釈についての留意事項を定めたものであり、何ら法律に反するものではない。
ハ 請求人は、課税事業者選択届出書を提出した際、原処分庁が簡易課税制度選択届出書の効力が継続している旨を教示すべきであると主張するが、そのような教示をしなければならないことを定めた法令の規定はない。

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3 判断

(1)簡易課税制度選択届出書の効力について

イ 法第37条第1項は、課税事業者が税務署長に基準課税売上高が4億円以下である課税期間について、簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以降の課税期間については、簡易課税制度の適用を受けることができる旨規定している。
 また、同条第2項及び第4項は、簡易課税制度選択届出書を提出した事業者が、簡易課税制度の適用を受けることをやめようとするときは、簡易課税制度選択不適用届出書を税務署長に提出しなければならないこと及び当該届出書の提出があったときは、その提出があった日の属する課税期間の末日の翌日以後は、簡易課税制度選択届出書はその効力を失う旨規定している。
ロ これを本件についてみると、請求人は、原処分庁に対し、平成3年2月6日に課税事業者届出書とともに簡易課税制度選択届出書を提出しているところ、その後、請求人から簡易課税制度選択不適用届出書が提出された事実は認められず、また、請求人は、平成9年1月31日に課税事業者選択届出書を提出しているから、請求人が本件課税期間においても簡易課税制度の適用を受ける事業者であることは明らかである。
 したがって、本件課税期間の課税仕入れに係る消費税額の計算は簡易課税制度が適用されるとした更正をすべき理由がない旨の通知処分は、適法である。
ハ 請求人は、同人が平成5年4月23日に納税義務者でなくなった旨の届出書を提出したことに伴い、簡易課税制度選択届出書の効力についても同時に失われる旨主張する。
 しかしながら、簡易課税制度選択届出書の効力は、上記イのとおり、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しなければ失効せず、納税義務者でなくなった旨の届出書は、法第57条に規定するとおり、事業者の基準課税売上高が3千万円以下となった場合にその旨を税務署長に届け出るもので、簡易課税制度選択不適用届出書とはその目的を異にし、納税義務者でなくなった旨の届出書の提出により当然に簡易課税制度選択届出書の効力が失われることを定めた法令の規定もないから、この点に関する請求人の主張は理由がない。
ニ さらに、請求人は、基本通達13―1―3及び同13―1―4の定めは、法第37条の拡大解釈であり、租税法律主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、基本通達13―1―3は、簡易課税制度選択届出書の効力がいったん生じた課税期間の後の課税期間において、基準課税売上高が4億円を超えた場合又は3千万円以下となり免税事業者となった場合であっても、その後の課税期間において基準課税売上高が3千万円を超え4億円以下となったときには、簡易課税制度選択不適用届出書を提出していない限り、当該課税期間について再び簡易課税制度が適用される旨を定めたもので、これは法文上当然に解釈され得る簡易課税制度選択届出書の効力について明らかにしたものにすぎない。
 また、基本通達13―1―4は、簡易課税制度選択届出書の効力は、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間から生ずるため、翌課税期間の基準課税売上高が3千万円を超え4億円以下であることが明らかな免税事業者が当該翌課税期間から簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、今課税期間中に簡易課税制度選択届出書を提出しなければならないことから、免税事業者でも当該届出書は提出できる旨定めたもので、これも法文の解釈上当然に導かれることを明らかにしたにすぎない。
 したがって、これらの通達が租税法律主義に違反する旨の請求人の主張は理由がない。
ホ 請求人は、仮に、原処分が適法であるとしても、請求人が課税事業者選択届出書を提出した際に原処分庁が請求人に対し、簡易課税制度選択届出書の効力がなお継続している旨を教示すべきである旨主張する。
 しかしながら、簡易課税制度選択届出書を提出した以降に当該届出書を提出した者が、免税事業者となり、その後課税事業者選択届出書を提出するに際し、簡易課税制度選択届出書の効力が継続していることを教示すべき旨を定めた法令の規定はないから、原処分庁がその旨教示しなかったとしても原処分が違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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