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(平11.7.14裁決、裁決事例集No.58 339頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年1月17日に死亡したDの共同相続人の一人であるが、この相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、請求人の課税価格を2,313,438,000円及び納付すべき税額を1,293,413,200円と記載した申告書及び延納を求める税額を1,100,000,000円(以下「本件延納申請税額」という。)と記載した相続税延納申請書を法定申告期限内の同年7月15日にE税務署長に提出した。
 E税務署長は、これに対し、請求人から本件延納申請税額に相当する延納担保物件(以下「本件延納担保物件」という。)の提供を受けたことから、平成3年10月14日付で延納を許可したところ、請求人が第1回の分納税額(以下「第1回分納税額」という。)を分納期限の平成4年7月17日までに完納しなかったため、同年8月12日付で督促処分をした。
 次いで、E税務署長は、請求人が平成5年7月13日に延納条件変更申請書を提出したので、同年7月30日付で延納条件変更を許可したが、請求人が平成6年7月15日に提出した相続税特例物納申請書については、当該申請に係る特例物納土地は国が管理又は処分をするのに不適当な財産であるとして、同年9月26日付で特例物納土地変更要求通知処分をしたところ、請求人からこれに代わる他の土地による相続税特例物納申請書の提出がなかったため、同年11月9日付で特例物納申請みなす取下げ通知をした。
 更に、E税務署長は、別表1のとおり、請求人が滞納した第1回分納税額及び第2回以降の分納税額(以下、「第2回以降分納税額」といい、第1回分納税額と併せて「本件滞納国税等」という。)を最終分納期限が経過してもなお完納しなかったので、本件滞納国税等を徴収するため、国税通則法(以下「通則法」という。)第52条《担保の処分》第1項の規定に基づき、平成8年7月31日付で本件延納担保物件の差押処分をした(以下、差押処分後の本件延納担保物件を「本件差押物件」という。)。
 その後、原処分庁は、本件差押物件では本件滞納国税等を十分に担保していないとして、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第86条《参加差押の手続》に基づき、平成10年6月29日付で別表2に記載する土地(以下「甲土地」という。)の参加差押処分(以下「本件参加差押処分」という。)をした。
 請求人は、本件参加差押処分を不服として、平成10年8月31日に審査請求をした。
 次に、原処分庁は、第2回以降分納税額について、平成10年10月26日付で督促処分をする一方、本件差押物件及び本件参加差押処分だけでは本件滞納国税等になお不足であるとして、第1回分納税額について、同年11月4日付で別表3に記載する土地(以下「乙土地」という。)の差押処分を、本件滞納国税等について、同月11日付で別表4に記載する土地の差押処分及び別表5、別表6に記載する土地の参加差押処分をするとともに、第2回以降分納税額について、同月12日付で乙土地の参加差押処分(以下、同月4日付の差押処分を除く、これらの差押処分及び参加差押処分を併せて「本件差押処分」といい、本件参加差押処分と併せて「本件差押処分等」という。)をした。
 請求人は、本件差押処分を不服として、平成11年1月20日に審査請求をした。
 そこで、これらの審査請求を併合審理する。
 なお、E税務署長は、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成8年8月28日に本件滞納国税等について原処分庁に徴収の引継ぎをした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、E税務署長が本件延納担保物件を適当と認めて延納を許可したにもかかわらず、本件差押物件の処分予定価額では本件滞納国税等を十分に担保していないとして本件差押処分等をしているが、担保不足の原因は、いわゆるバブル経済の崩壊による地価下落にあるのであって、これを請求人の責任にするのは不合理であるから、本件差押処分等は納得できない。
ロ 請求人は、平成8年8月28日に自宅に臨場したF国税局の徴収職員に対して、本件滞納国税等につき請求人所有のP市R町の土地全体(甲土地を含む。以下「本件土地」という。)を差し押えるように申し入れたが、法律上できないと言って聞き入れてもらえなかった。また、本件相続税の納税資金を捻出するために本件土地の売却交渉を進めていたが、原処分庁が平成10年6月29日に本件参加差押処分をしたため、その売却が困難となった。
 このように、原処分庁は、請求人の財産について早期に滞納処分ができたにもかかわらず、平成10年6月29日に至って行った本件参加差押処分は不当である。
ハ 原処分庁は、甲土地をQ市が既に差し押えていること及び甲土地が公売された場合は配当が見込めないことを知りながら本件参加差押処分をしているが、これは無益な処分というべきであるから、本件参加差押処分は不当である。
ニ 本件土地のうち公売に付された土地(以下「本件公売物件」という。)は、魅力的な物件であり、平成4年末から平成5年初めにかけては8億円の取引価格であったにもかかわらず、原処分庁は、第1回目の公売予定価額を6億4千万円としているが、本件公売物件の見積価額を算定する場合は十分審査して、公売予定価額を決定すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 通則法第52条第1項は、担保の提供されている国税がその納期限までに完納されないときは、その担保として提供された金銭をその国税に充て、若しくはその提供された金銭以外の財産を滞納処分の例により処分してその国税及び当該財産の処分費に充てる旨、同条第4項は、担保として提供された財産の処分の代金を滞納国税に充ててなお不足があると認めるときは、当該担保を提供した者の他の財産について滞納処分を執行する旨規定している。
 また、徴収法第98条《見積価額の決定》は、税務署長は、公売に付する財産(以下「公売財産」という。)の見積価額を決定しなければならず、必要と認めるときは、鑑定人にその評価を委託し、その評価額を参考とすることができる旨規定している。
ロ これを本件についてみると、原処分庁は、E税務署長が本件滞納国税等を徴収するため、本件延納担保物件の差押処分をした後、本件差押物件の処分予定価額では本件滞納国税等(利子税及び延滞税を含む。以下同じ。)を十分に担保することができず、徴収不足となるため、本件差押処分等をしたものであり、本件差押物件の処分代金を本件滞納国税等に充ててもなお不足があると認めるときは、請求人の他の財産について滞納処分を執行するのであるから、本件差押処分等は適法である。
ハ また、請求人は、本件参加差押処分は無益な処分であり、不当である旨主張するが、甲土地は、平成8年8月16日付でQ市が既に差押えをしていたため、原処分庁が徴収の引受けをした時点では差押えができず、徴収の引受後も本件滞納国税等の納付が全く無かったことから、平成10年6月29日付で本件参加差押処分をしたものである。
ニ 更に、請求人は、本件公売物件の見積価額を算定する場合は十分審査して、公売予定価額を決定すべきである旨主張するが、本件公売物件の見積価額の決定に当たっては、すべての公売財産について不動産鑑定士に評価を委託し、その評価額を参考として適正に算定している。

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3 判断

(1)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ E税務署長は、請求人から延納に対する担保として申し出があった物件につき平成3年10月28日付で担保変更要求を行うとともに、担保変更の申し出があった本件延納担保物件を1,320,219,403円と評価し、必要担保額1,317,800,000円を充足する適当な担保物件であるとした。
ロ 甲土地は、平成6年6月24日にGが仮差押後、Q市が平成8年8月16日に差し押さえてから本件参加差押処分までの間にQ市及びP市が参加差押えを6回行っている。
ハ 原処分庁は、不動産鑑定士に本件公売物件の評価を委託し、その鑑定評価額を参考に公売の特殊性を考慮し、当初見積価額を649,494,000円と決定して公売に付したが、換価するに至らなかったことから、平成10年6月に公売の特殊性を考慮して見積価額を612,284,000円と改定した。
ニ 原処分庁は、当審判所に対し、次のとおり答述した。
(イ)F国税局の徴収職員は、平成8年9月24日に請求人の自宅に臨場した際、請求人から本件土地を差し押えるよう申し出があったが、甲土地は同月18日にH地方法務局J支局及びP市役所において確認したところ、Q市が既に差し押えていたので、差押えはできない旨説明するとともに、本件公売物件の現況確認調査をした。
(ロ)本件参加差押処分は、本件差押物件の処分予定価額を見積もったところ、約7億9千万円となり徴収不足が明らかになったこと、本件公売物件について平成8年12月3日から平成10年6月9日までの間に11回にわたって公売に付したが、甲土地が含まれていないため入札が無かったこと及び甲土地はQ市の差押え及びP市の参加差押えがあるため現状では換価権及び配当の見込みは無いものの、将来的に換価権が発生した場合は本件公売物件の換価に有利に働くことが期待できたことから、平成10年6月29日に執行した。
(2)ところで、通則法第52条第1項は、税務署長等は、担保の提供されている国税がその納期限までに完納されないときは、その担保として提供された金銭をその国税に充て、若しくはその提供された金銭以外の財産を滞納処分の例により処分してその国税及び当該財産の処分費に充てる旨、また、同条第4項は、第1項の場合において、担保として提供された金銭又は担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税及び処分費に充ててなお不足があると認めるときは、税務署長等は、当該担保を提供した者の他の財産について滞納処分を執行する旨規定しているところ、ここでいう「不足があると認めるとき」の判定は、必ずしも担保財産を現実に滞納処分の例により換価した結果により行う必要はなく、判定しようとする時の現況における価額により判定すればよいと解される。
 徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない旨規定しているところ、滞納者の財産を差し押さえる場合の時期及び財産の選択は、徴収法等に定めた手続きによるほかは、徴収職員の合理的な裁量に委ねられていると解される。
 次に、徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第2項は、差し押さえることができる財産の価額がその差押に係る滞納処分費及び徴収すべき国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の金額の合計額をこえる見込がないときは、その財産は、差し押さえることができない旨規定しているところ、財産の差押えは、その強制換価により租税債権を満足させるために行われるものであるから、配当を受けることが見込めないような差押えが許されないことは当然というべきであるが、交付要求としての効力を有する参加差押処分には同条は適用されないものと解される。
 また、徴収法第86条は、税務署長は、同法第47条の規定により差押えをすることができる場合において、滞納者の財産で動産及び不助産等につき既に滞納処分による差押えがされているときは、当該財産についての交付要求は、同法第82条《交付要求の手続》第1項の交付要求書に代えて参加差押書を滞納処分をした行政機関等に交付してすることができる旨規定している。
 更に、徴収法第98条は、税務署長は、公売財産の見積価額を決定しなければならず、この場合において、必要と認めるときは、鑑定人にその評価を委託し、その評価額を参考とすることができる旨規定しているところ、ここでいう「見積価額」とは、財産の公売に際し、税務署長が公売財産の客観的な時価を基準とし、公売の特殊性を考慮して見積もった価額をいい、公売財産の最低公売価額としての意義を有し、「その評価額を参考とすることができる」とは、単純に、鑑定人の評価額をもって見積価額とすることなく、税務署長が、その評価額を参考として見積価額を決定することをいうものと解される。
(3)これを本件についてみると、前記各認定事実のとおり、E税務署長は、本件延納担保物件の価額は必要担保額を充足するものとして延納を許可したものの、請求人が本件滞納国税等を最終分納期限が経過してもなお完納しなかったので、本件滞納国税等を徴収するため、平成8年7月31日付で本件延納担保物件の差押処分をしたものであり、また、原処分庁は、本件差押物件では本件滞納国税等を十分に担保していないとして、本件差押処分等をしたものであることが認められる。
 本来、延納担保物件であった本件差押物件は、本件滞納国税等を確実に徴収することができる金銭的価値を有するものでなければならないが、本件差押物件の処分の代金を本件滞納国税等及びその処分費に充ててもなお不足があると認めるときは、請求人の他の財産について滞納処分を執行することができるのであるから、原処分庁が本件差押物件の評価額では本件滞納国税等を十分に担保していないことは明らかであるとして、請求人所有の別表2ないし別表6の財産につき参加差押処分及び差押処分を執行したことに違法な点は認められず、当審判所の調査によっても、原処分庁の本件差押物件の評価額が低廉であるとする理由もないから、本件差押処分等は適法というべきである。
 また、請求人は、本件差押物件の評価額が下落した原因はバブル経済の崩壊によるものであるから、これを請求人の責任にするのは不合理である旨主張するが、通則法第51条《担保の変更等》によれば、税務署長等は、延納許可に際し徴した担保物件について、担保提供後に事情の変動があったとして、当該担保物件の財産の価額が減少し、その国税の納付を担保することができないと認められるときは、増担保の提供等を命じることができる旨規定していることからすれば、延納制度の下においても何らかの事情の変動によって、延納に係る税額を担保できなくなる事態の生じることは法律上予定されているといえるものであって、本件差押物件の評価額が下落した原因に関係なく、原処分庁が本件滞納国税等の担保不足分を徴収するため、本件差押処分等を執行したとしても、その処分に違法又は不当な点は認められない。
 なお、請求人は、原処分庁が早期に請求人の財産について滞納処分ができたにもかかわらず、平成10年6月29日に至って行った本件参加差押処分は不当である旨主張するが、原処分庁は、平成4年8月12日に第1回分納税額に係る督促処分をしてから10日を経過した日以後に本件延納担保物件の差押処分をしていること、本件公売物件を平成8年12月3日から平成10年6月9日までの間に11回公売に付したが、買受希望者がなく、換価するに至らなかったこと及び甲土地につきQ市が既に滞納処分による差押えをしていたことから、平成10年6月29日に至って本件参加差押処分をしたことが認められる。
 そうすると、原処分庁が請求人の所有する財産のうちいかなる財産を差し押さえるか又は参加差押えをするかは、徴収法等に定めた手続によるほかは、徴収職員の合理的な裁量に委ねられているところ、原処分庁は、請求人の要望に沿って相当の換価努力をした後、本件参加差押処分をしたものであり、同処分を行った時期について特に不当な点は存しない。
 また、請求人は、本件参加差押処分は無益な処分である旨主張するが、本件参加差押処分は、滞納処分による差押えの要件を充たす参加差押えであって、交付要求としての効力を有するから、無益な処分ということはできない。
 したがって、本件参加差押処分が無益な処分であり、不当であるとする請求人の主張には理由がない。
 更に、請求人は、本件公売物件の見積価額を算定する場合は十分審査して、公売予定価額を決定すべきである旨主張するが、原処分庁は、本件公売物件の現況確認調査をした後、不動産鑑定士に本件公売物件の評価を委託し、その評価額を参考に本件公売物件の当初見積価額を649,494,000円と決定して公売に付したが換価するに至らなかったため、改めて公売の特殊性を調整する方法により見積価額を612,284,000円と改定していることが認められる。
 そもそも、見積価額は、売却予定価額ではなく、これを下回る価額での売却は許されないという最低公売価額の性質を有する法定売却条件であって適正な売却価額を担保するものにすぎず、かつ公売物件という特殊性を考慮した減価がされるべきものであるから、一般の取引価額よりも相当程度低廉な価額であると認められるところ、本件公売物件の見積価額は公売の特殊性による減価を考慮すると、客観的な時価に比して著しく低廉とは認めらない。
 そうすると、本件公売物件の見積価額の決定に違法、不当な点は認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。したがって、本件差押処分等は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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