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(平13.10.23裁決、裁決事例集No.62 49頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が所有するP県Q市五丁目14番5号所在の賃貸マンション(以下「本件建物」という。)に係る減価償却費の額(以下「本件減価償却費の額」という。)の適否を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年分及び平成11年分(以下、併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、請求人の各年分の所得税について、平成12年10月31日付で、別表の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年11月24日に審査請求をした。

(3)基礎事実

イ 平成10年大蔵省令第50号により、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「耐用年数省令」という。)が改正され(以下、当該改正のことを「本件改正」という。)、本件建物の耐用年数が60年から47年に短縮された。
ロ 本件建物の耐用年数省令第4条《償却率》に定める償却率は0.048である。
ハ 本件建物の取得年月は平成元年7月で、取得価額は646,892,643円である。
ニ 請求人は、本件建物の94%を事業の用に供している。
ホ 原処分庁の調査担当者は、別紙1に記載した内容の書面を請求人の求めに応じ、請求人あて送付している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)原処分庁が、本件減価償却費の額の計算根拠を、耐用年数省令附則(平成10年大蔵省令第50号に係るもの。以下「改正省令附則」という。)のみに求めていることは、所得税法又は所得税法施行令の委任規定を欠く省令の拡大解釈であり、租税法律主義を待つまでもなく、法の基本原則を無視した誤った見解であり違法である。
(ロ)本件改正により、建物の耐用年数が短縮されたが、当該耐用年数の改正に係る減価償却費の処理方法については、明文の規定がないことから、理論により決するほかはない。
(ハ)請求人は青色申告者であることから、所得税法第148条《青色申告者の帳簿書類》第1項及び所得税法施行規則第57条《取引の記録等》第1項の規定に基づき、資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引を正規の簿記の原則に従い、整然と、かつ、明瞭に記録し、その記録に基づき、貸借対照表及び損益計算書を作成している。ところで、ここにいう「正規の簿記の原則」とは、企業会計原則第一「一般原則」の二において「企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。」と明記されているように、企業会計原則の一般原則の一つである。
 すなわち、青色申告者の帳簿作成原理を企業会計原則に求めることができる。
(ニ)しかも、企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書(以下、企業会計原則と併せて「連続意見書等」という。)は、第三「有形固定資産の減価償却について」の第一「企業会計原則と減価償却」の八「耐用年数の決定」において、「耐用年数が決定されたのちに、その耐用年数の前提条件となっている事項が著しく変化した場合には、これに応じて当該耐用年数を変更しなければならない。耐用年数の変更は、将来に影響するばかりでなく、原則として前期損益修正を必要ならしめる。」として、耐用年数の変更は、前期損益修正としての臨時償却費の計上が原則であることを明記している。
(ホ)さらに、所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第2項及び所得税法施行令第133条の2《陳腐化した減価償却資産の償却費の特例》第1項は、陳腐化による減価償却資産の償却費の額の計上を認め、これを受けて、所得税基本通達49−35《著しい陳腐化の意義》は、「著しく陳腐化した場合とは、……その減価償却資産の使用可能期間が‥‥耐用年数に比しておおむね10%以上短くなった場合をいう。」と定めている。したがって、本件改正により、本件建物の耐用年数が10%以上短縮されていることからすれば、陳腐化による耐用年数の短縮と本件改正による耐用年数の短縮とは原因は異なるものの、耐用年数の短縮という結果の面では同じなのであるから、本件改正に係る処理方法についての明文の規定がない以上、本件においても、所得税法第49条第2項及び所得税法施行令第133条の2第1項の規定の類推適用を排除する理由はない。
(ヘ)請求人は、商法第4条第1項に規定する商人であることから、同法第32条第1項に規定する「商業帳簿」を作成しているが、その作成に当たっては、同条第2項に規定する「公正ナル会計慣行」をしんしゃくしている。
 そして、商法第32条第2項に規定する「公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」とは、「公正ナル会計慣行」が存在する場合には、特別な事情がない限り、その慣行に従わなければならないということである。
 請求人は、連続意見書等(=公正ナル会計慣行)に基づき、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する本件減価償却費の額を算定しているのであって、原処分庁が、「連続意見書等は法的拘束力を持つものではない」と主張するがごときは、根本法規たる商法を無視するもので、法治国家の基盤を崩す極めて危険な思想であり、また、請求人が日本国民として根本法規たる商法を遵守している行為に対する無理解というほかなく、違法である。
(ト)請求人が、所得税法第49条第2項及び所得税法施行令第133条の2第1項並びに所得税基本通達49−35を引用しているのは、耐用年数の短縮があった場合の取扱いについて、所得税法自体が連続意見書等(=公正ナル会計慣行)を導入している証左として例示したのであって、原処分庁が、「所轄国税局長の承認を受けた場合に限り適用があるものである」と主張するがごときは、請求人の主論を傍論にすり替えるもので、極めて姑息な議論の展開であるというほかなく、違法である。
(チ)したがって、上記(イ)から(ト)までにより、平成10年分の本件減価償却費の額は、平成10年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)及び同決算書に添付した「耐用年数の改正」と題する書類(別紙2参照)に記載のとおり、期首帳簿価額470,866,363円から、改正後の耐用年数47年を適用して算出した平成10年12月末の未償却残高406,248,579円を差し引いた額に、本件建物の事業割合94%を乗じた60,740,716円となる。
 また、平成11年分の本件減価償却費の額は、上記の平成10年分の未償却残高406,248,579円を基に計算した18,329,935円となる。
(リ)以上のとおり、本件改正に伴う合理的処理方法を連続意見書等に求めて計算した各年分の本件減価償却費の額に誤りはないから、本件各更正処分は取り消されるべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であり、請求人の主張には理由がないから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ)請求人は、原処分庁が、本件減価償却費の額の計算根拠を、改正省令附則のみに求めていることは、所得税法又は所得税法施行令の委任規定を欠く省令の拡大解釈であり、租税法律主義を待つまでもなく、法の基本原則を無視した誤った見解であり違法である旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、本件減価償却費の額の計算方法について、原処分庁の調査担当者が請求人に対し資料として送付した別紙1の書面を基に、改正省令附則のみが本件各更正処分の処分理由であるとしているものであるが、本件各更正処分は、所得税法第49条、所得税法施行令第129条《減価償却資産の耐用年数、償却率及び残存価額》及び耐用年数省令を根拠とするものであって、改正省令附則のみを根拠として行われたものではないから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、本件改正に伴う減価償却費の処理方法については明文の規定がないことから、その処理を連続意見書等に求めたものであり誤りはない旨主張する。
 しかしながら、減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法は、所得税法第49条及びこれに関する所得税法施行令の規定に基づき行うべきであり、請求人が根拠としている連続意見書等は、法的拘束力を持つものではなく、請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、本件改正により、本件建物の耐用年数が10%以上短縮されたのであるから、所得税法第49条第2項及び所得税法施行令第133条の2第1項の規定の類推適用を排除する理由はない旨主張する。
 しかしながら、減価償却資産が陳腐化した場合の償却費に関しては、所得税法施行令第133条の2第1項に規定しているが、この償却費の特例は、納税地の所轄国税局長の承認を受けた場合に限り、その承認を受けた日の属する年分において適用があるものであるところ、請求人は、この承認を受けるための同条第2項に規定する申請書を請求人の納税地を所轄する原処分庁を経由してG国税局長に提出しておらず、したがって、G国税局長が請求人に対し、本件建物について同条第1項に規定する承認をした事実及び同条第3項に規定する承認の通知をした事実はなく、請求人の主張には理由がない。
(ニ)以上のことから、各年分の本件減価償却費の額は、次表のとおりとなる。

(ホ)上記(イ)から(ニ)までのとおり、請求人の主張には理由がなく、請求人の各年分の課税総所得金額は、次表のとおりとなり、本件各更正処分の額と同額であるから、本件各更正処分に違法はない。

 なお、各項目欄の内訳は、次のとおりである。
A 不動産所得の金額
 不動産所得の金額は、次表のとおりである。

(A)減価償却費否認額
 平成10年分の減価償却費否認額は、請求人が、本件減価償却費の額とした60,740,716円と、上記イの(ニ)により算定した本件減価償却費の額21,245,490円との差額である。
(B)減価償却費認容額
 平成11年分の減価償却費認容額は、上記イの(ニ)により算定した本件減価償却費の額20,225,706円と、請求人が、本件減価償却費の額とした18,329,935円との差額である。
(C)青色申告特別控除
 青色申告特別控除の額は、租税特別措置法(平成12年法律第13号による改正前のもの)第25条の2《青色申告特別控除》第3項に規定する金額である。
B 給与所得の金額及び雑所得の金額
 給与所得の金額及び雑所得の金額は、請求人が各年分の所得税の確定申告書に記載した金額である。
C 総所得金額
 総所得金額は、不動産所得の金額、給与所得の金額及び雑所得の金額の合計額である。
 なお、請求人は平成11年分について、所得税法第70条《純損失の繰越控除》に規定する純損失の繰越控除を適用しているが、上記Aにより、平成8年分から平成10年分までに生じた純損失の金額はないのであるから、この規定の適用はない。
D 所得控除の合計額
 所得控除の合計額は、次表のとおりである。

(A)社会保険料控除及び損害保険料控除
 社会保険料控除及び損害保険料控除の額は、請求人が各年分の確定申告書に記載した金額である。
(B)生命保険料控除
 請求人が、平成10年及び平成11年において支払った生命保険料は、いずれも所得税法第76条《生命保険料控除》第1項に規定する生命保険料であり、その支払額は、平成10年及び平成11年とも100,000円を超えることから、各年分の生命保険料控除の額は同項の規定により50,000円となる。
(C)基礎控除
 基礎控除の額は、所得税法第86条《基礎控除》に規定する金額である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件減価償却費の額の適否であるので、以下審理する。

(1)関係法令について

 減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法についての所得税法、所得税法施行令及び耐用年数省令の規定は、次のとおりである。
イ 所得税法第49条第1項は、居住者の減価償却資産につきその償却費として同法第37条《必要経費》の規定によりその者の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その者が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定し、これを受けて所得税法施行令第131条《減価償却資産の償却費の計算》第1項は、減価償却資産につきその償却費としてその者の各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、当該資産につきその者が採用している償却の方法に基づいて計算した金額とする旨規定している。
ロ また、所得税法第49条第2項は、選定をすることができる償却の方法の種類、その選定の手続その他減価償却資産の償却に関し必要な事項は、政令で定める旨規定し、これを受けて所得税法施行令第120条《減価償却資産の償却の方法》第1項は、平成10年3月31日以前に取得された建物について、減価償却資産の償却費の額の計算上選定をすることができる償却の方法は、定額法と定率法がある旨、そして、定率法とは、当該減価償却資産の取得価額(第2年目以後の償却の場合にあっては、当該取得価額から既に償却費として各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入された金額を控除した金額)に償却費が毎年一定の割合で逓減するように当該資産の耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額を各年分の償却費として償却する方法をいう旨規定している。
ハ そして、所得税法施行令第129条は、同令第120条第1項に規定する耐用年数、当該耐用年数に応じた償却率及び残存価額については、大蔵省令で定めるところによる旨規定し、これを受けて、耐用年数省令第1条《一般の減価償却資産の耐用年数》第1項は、減価償却資産の耐用年数は、資産の区分に応じ、同項各号に掲げる表(別表第一「機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表」から別表第四「生物の耐用年数表」まで)に定めるところによる旨、また、耐用年数省令第4条第1項は、減価償却資産の耐用年数に応じた償却率は、別表第九「減価償却資産の償却率表」に定めるところによる旨規定している。
ニ 本件改正に伴う耐用年数省令の適用関係について、改正省令附則第2項は、改正後の耐用年数省令の規定は、個人の平成10年分以後の所得税について適用し、平成9年分以前の所得税については、なお、従前の例による旨規定している。

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(2)本件各更正処分について

 上記(1)の各規定からすると、税法に規定する耐用年数とは、その期間内で償却を完了させるということを意味するものではなく、減価償却費の額を算定するために必要な償却率を算出するための基礎となるものにすぎないのであり、このことは、本件のように、税法の改正により耐用年数が短縮された場合においても何ら変わるものではない。
 したがって、定率法による場合は、期首帳簿価額に、改正後の耐用年数に対応する償却率を乗ずることによって減価償却費の額が算定されることになるから、原処分庁が、本件建物の期首帳簿価額に、本件改正後の耐用年数に対応する償却率を乗ずることによって本件減価償却費の額を算定したことは適法であり、当審判所の調査の結果によっても、その額は適正であると認められる。
 そうすると、本件減価償却費の額以外の事項については、請求人及び原処分庁双方ともに争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当と認められることから、各年分の不動産所得の金額は、平成10年分9,958,930円、平成11年分17,506,164円となる。
 その結果、請求人の各年分の総所得金額は次表のとおりとなり、これらの金額はいずれも本件各更正処分の金額と同額であるから、本件各更正処分は適法である。
 なお、原処分庁による上記2の(2)の(ハ)の主張は当を得ないものであり採用できないところではあるが、本件各更正処分が適法であることに変わりはない。

(3)請求人の主張について

イ 請求人は、原処分庁が本件減価償却費の額の計算根拠を、改正省令附則のみに求めていることは、所得税法又は所得税法施行令の委任規定を欠く省令の拡大解釈であり、租税法律主義を待つまでもなく、法の基本原則を無視した誤った見解であり違法である旨主張する。
 しかしながら、たとえ上記1の(3)のホの事実があったとしても、そのことをもって、原処分庁が本件減価償却費の額の計算根拠を改正省令附則のみに求めているとはいえないし、上記(1)のイからニまでのとおり、本件減価償却費の額の計算は、所得税法第49条を根拠とし、同条の委任を受けた所得税法施行令及び所得税法施行令の委任を受けた耐用年数省令に基づき行われていることが認められるから、請求人の主張には理由がない。
ロ さらに、請求人は、本件改正に伴う減価償却費の処理方法については明文の規定がないとの前提で、上記2の(1)のイの(ロ)から(リ)までのとおり主張するのであるが、本件改正に伴う減価償却費の処理方法に関する規定は、上記(1)のとおりであり、明文の規定が存するのであるから、請求人の主張はその前提を欠くものであって、いずれも理由がない。

(4)本件各賦課決定処分について

 以上のとおり、本件各更正処分は適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った平成10年分、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った平成11年分の本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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