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(平13.10.18裁決、裁決事例集No.62 236頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、株式譲渡契約の締結に際し受領した申込証拠金を、同契約の不履行に基づく契約解除に伴い違約金として取得したとして、所得金額に加算した課税処分の適否が争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、保養施設の管理運営等を営む同族会社であり、平成10年5月1日から平成11年4月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、確定申告から審査請求(平成12年12月27日)に至る経緯及びその内容は、別表1に記載のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人、F及び有限会社G(以下、これら3者を併せて「請求人ら」という。)は、平成7年8月29日、株式会社H(以下「H社」という。)との間で、J株式会社(以下「J社」という。)の発行済株式(以下「本件株式」という。)200株を譲渡する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結し、株式譲渡契約書(以下「本件譲渡契約書」という。)を交わして、概略、次のとおり定めた。
(イ)株式の譲渡(第1条)
A 請求人らは、本件株式200株を総額2,000,000,000円(1株10,000,000円)でH社に譲渡する。
 なお、請求人は、本件株式200株のうち36株を所有している。
B H社は、申込証拠金(以下「本件申込金」という。)として、本件譲渡契約締結と同時に500,000,000円、平成7年11月30日までに500,000,000円の合計1,000,000,000円を、請求人らに支払う。
C H社は、平成10年8月29日までに本件株式の譲渡代金から本件申込金を差し引いた残代金を請求人らに支払い、引換えに本件株式200株を受け取る。
(ロ)保証債務等の消滅義務等(第3条)
 H社は、J社が負担するK信用金庫ほか3金融機関に対する債務合計5,390,000,000円を重畳的に引き受け、上記金融機関に対し、平成10年8月29日までに2,695,000,000円以上を弁済し、残債務を平成13年8月29日までに弁済する。
(ハ)運営資金等の調達(第11条)
 H社は、J社が本件譲渡契約締結日以降に必要とする運営資金、改修費用及び会員募集の費用を調達し、利息を付してJ社に貸し付ける。
(ニ)株式譲受人の不履行(第16条)
A H社に本契約の不履行があったときは、請求人らは、同社に対する書面による意思表示をもって、本契約を解除することができる。
B H社は、上記の契約不履行が、本件譲渡契約締結日から平成7年11月30日までの間にあった場合は500,000,000円、また、同年12月1日以降にあった場合は1,000,000,000円を違約金として、請求人らに支払わなければならない。
ロ H社は、請求人らに対し、平成10年8月28日付の「金融機関取引の弁済延期申入書」と題する書面において、債務弁済等が未だ決済を完了していないことから、この債務弁済を平成10年9月20日まで延期するよう請求人らに申し入れ、同人らはこれを了承した。
ハ 請求人らは、平成10年8月29日限りの本件株式の譲渡代金の残額の支払義務の履行がないことに加え、上記ロの猶予期限である平成10年9月20日までにH社による債務弁済等の履行がないことから、同社に対し、平成10年10月13日付の「催告書」と題する書面(以下「初回催告書」という。)を送付し、〔1〕本件株式の譲渡代金残額10億円の支払義務の履行、〔2〕J社の金融機関に対する債務額26億9,500万円の弁済義務の履行及び〔3〕同金融機関への担保の付け替えを本書到着後10日以内に実行するよう催告した。
ニ H社は、平成10年10月27日、上記ハの催告に対し、2億円を支払うことなどを請求人らに提案したが、請求人らは、これを了承せず、H社に対し、平成10年11月6日付の「最終催告書」と題する書面(以下「最終催告書」という。)を送付し、最終条件として、〔1〕未払いとなっている金融機関に対する利息及びJ社への経費の支払、〔2〕金融機関に対する10億円以上の弁済、〔3〕金融機関に対する保証の消滅及び〔4〕J社以外の物上保証の抹消を本書到着後2週間以内に実行することを催告し、また、この期限内に当該履行がない場合には本件譲渡契約を解除する旨通知した。
ホ 請求人らは、H社が本件譲渡契約に基づく債務を履行しないことから、同社に対し、本件譲渡契約書第16条第1項に基づき、同契約を解除し、本件申込金1,000,000,000円を違約金(以下「本件金員」という。)として没収する旨記載した平成11年1月13日付の「通知書」と題する書面(以下「本件解除通知書」という。)を発送し、同書面は、そのころ、H社に到達した。
ヘ 請求人らとH社は、平成12年8月10日、「覚書」と題する書面(以下「本件覚書」という。)を交わし、〔1〕本件解除通知書にかかわらず、本件譲渡契約の履行についての交渉が継続していたことを確認し、〔2〕本件譲渡契約を同日、合意により解除し、H社の指定する会社との間で本件株式の譲渡契約を締結すること及び〔3〕本件申込金を当該契約に基づく受領金でH社に返還すること等を合意した。
 また、同日、請求人らは、本件覚書に基づき株式会社L(以下「L社」という。)との間で本件株式の譲渡契約を締結した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 本件解除通知書の送付をもって本件譲渡契約が解除され、本件申込金が違約金として没収されたとして、本件金員に課税した平成12年7月7日付の本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)は、次の理由により、違法である。
(イ)請求人らは、譲渡契約実行という目的達成のため、平成11年1月13日以降、H社との間で次のような交渉を重ね、平成12年8月10日に本件覚書に基づき本件譲渡契約を双方の合意により解除した。
A 本件解除通知書の送付に対してH社から異議が出たため、請求人らは、度々同社と交渉し、請求人らは平成11年4月に本件申込金を同社に返還する旨合意した。
B その後、請求人らは、資金繰りの悪化から本件申込金の返還が困難となったため、H社との間で、請求人らが本件株式を第三者に転売し、その売却資金により本件申込金を返還することとし、H社の指定するL社との間で新たな株式譲渡契約を締結する旨合意した。
C 請求人らとL社との株式譲渡契約の時期は、当初、平成11年8月の予定であったが、契約内容の協議、L社の立ち上げなど、内部調整に時間がかかったため、平成12年8月10日となった。
(ロ)本件解除通知書には、株式譲受人の契約不履行を原因として本件譲渡契約を解除し、本件申込金を没収する旨記載しているが、これは株式譲受人に本件譲渡契約を実行させるための交渉手段として送付したものにすぎず、本件申込金の没収及び解除の意思表示をしたものではない。
(ハ)また、本件解除通知書送付後、H社が、本件申込金の没収を認めるとも、返還請求権を放棄するとも何ら意思表示をしていないことから見ても、交渉が継続していたことは明らかであり、本件金員が請求人らに帰属することは法的に確定していない。
(ニ)仮に、原処分庁が主張するように、本件解除通知書により請求人らに本件金員が帰属し、所得が発生したとしても、その後の本件覚書の締結により、請求人らには、本件金員をH社に返還しなければならないという同額の債務が同一事業年度に生じたことになることから、所得のみを認め債務を認めないのは誤りである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 平成12年7月7日付でされた本件事業年度の法人税の過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)については、その全部の取消しを求める。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり、適法に行われている。
イ 本件更正処分について
(イ)本件金員について
 本件金員は、次のとおり、本件譲渡契約が平成11年1月13日の本件解除通知書により解除されたことに伴い請求人らが違約金として取得したから、請求人の本件事業年度の収入として確定している。
A 本件譲渡契約の債務不履行に基づく約定解除権の行使として、請求人らは、H社に対して、本件解除通知書により本件譲渡契約を解除し、本件申込金を没収する旨の意思表示をしたから、当該契約に基づく債権債務は消滅し、請求人らは本件金員を取得した。
B 請求人は、H社が本件申込金の返還請求権を放棄するとの意思表示をしていないことから見ても、本件譲渡契約は本件覚書作成時まで継続しており、本件金員を請求人らは取得していない旨主張するが、本件譲渡契約書によれば、本件申込金の没収等について、H社の意思表示は特段必要とされていない。また、上記解除通知書の発送後、本件譲渡契約の当事者間で種々の交渉が行われていたことは否定しないが、そのことと本件譲渡契約の債権債務関係が継続していたか否かとは別問題であり、また、両者間で交渉が継続していたからといって解除等の意思表示がなかったものとはならないから、課税標準の計算に影響を及ぼすものではない。
C 請求人は、本件覚書で本件譲渡契約を合意解除し、その後本件申込金をH社に返還した旨主張するが、これらの事実は、本件金員が本件解除通知書により、請求人らの収入として確定した後に、請求人らが、H社の求めに応じて、「債務の履行」及び「H社の紹介する相手先との新規契約の締結」等を条件として、上記解除通知書による解除と本件申込金没収の意思表示を撤回したものと解されるから、本件事業年度の課税標準の計算に影響を及ぼすものではなく、本件更正処分を左右するものではない。
(ロ)所得金額の計算について
 本件事業年度の法人税の確定申告書の所得金額に加算、減算される金額は、別表2の「原処分庁主張額」欄に記載のとおりである。
 したがって、本件更正処分は適法に行われている。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ Fは、請求人の実質的な経営者であり、本件についての取引及び審査請求手続等の一切を、請求人らを代表して行った。
ロ 本件申込金1,000,000,000円は、〔1〕平成7年8月29日に500,000,000円、〔2〕平成7年11月30日に150,000,000円、〔3〕平成8年1月31日に150,000,000円及び〔4〕平成8年2月29日に200,000,000円が、〔1〕及び〔2〕についてはM信用金庫本店の、〔3〕についてはM信用金庫N支店の、〔4〕についてはK信用金庫本店の、いずれもF名義の普通預金口座に入金された。
ハ 平成11年1月13日現在におけるH社の請求人らに対する債務の履行状況等は、次のとおりである。
(イ)本件株式の譲渡代金2,000,000,000円から本件申込金1,000,000,000円を差し引いた残額1,000,000,000円は支払われていない。
(ロ)J社に対する保証債務の消滅等は実行されておらず、また、J社の運営資金等の調達も平成10年7月8日を最後に実行されていない。
ニ Fは、異議審理庁に対し、本件覚書を作成するに至った経緯について、おおむね次のとおり申述した。
 本件解除通知書送付後、H社からFに対し、謝罪とともに、1億5,000万円しか用意できないが、何とかならないかとの申し入れがあったので、このままいったら本件申込金を没収することになるが、そうならないためにも、新しい売却先を見つけてくるなりして、H社側で契約を履行するようにと伝えた。Fとしては、このやり取りは口頭で契約の続行を認めたものと認識している。平成11年4月初旬ころ、H社は、L社を相手先として紹介してきたが、Fは、H社の対応について不信感を持っており、また、L社の実態についても不明であったので、H社との間でやり取りを繰り返した。結果的に新しい売却先が見つからないまま平成12年になり、同年8月に本件覚書を作成することになった。
ホ H社から本件譲渡契約の交渉を委任された経営コンサルタントのP(以下「P」という。)は、異議審理庁に対し、本件解除通知書送付後の話合いについて、おおむね次のとおり申述した。
 本件解除通知書については、法的な手続としては有効であり、顧問弁護士も申込金はすべて没収になると回答したので、その受領から間を置かず、平成11年1月16日にFとの交渉を行った。自分としては、Fと従前交渉を続けてきた経緯から、Fはとにかくゴルフ場を経営させたいと思っており、またH社も絶対に買いたいとの気持ちを強く持っていると理解していたので、これで話が終わりになるという認識はなく、上記通知書はすべて「脅し」であると考えていた。Fは、その後の交渉において新しい譲渡先があるようなこともほのめかしていたが、既に20億円も投資したH社を無視して新たな契約を結ぶということは考えておらず、新しい譲渡先がだれであれ、その交渉の主導権はH社が取るべきものと考えていたと思う。そして、Fとの交渉の結果、H社が提案していた条件のうち、新しい買い手を同社が見つけ、その買い手が請求人らの担保及び保証人を付け替えるということで一致し、その条件に沿って更に話を進めた結果、平成12年8月10日にL社と請求人らで新たな契約を結ぶことになった。

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(2)本件更正処分について

イ 本件譲渡契約の解除の時期について
(イ)前記1の(3)の基礎事実及び上記(1)のロ、ハの事実によれば、請求人らは、H社が本件株式の譲渡代金等の支払を約定期限までに履行しなかったことから、初回催告書をもって履行の期限を定めて催告を行ったこと、その後も、最終催告書をもって改めて最終条件の提示と履行期限を定めて催告を行ったが、H社は上記最終期限(平成10年11月23日)までに債務を履行しなかったため、請求人らは、同社に対し、本件譲渡契約の定めに基づき、本件解除通知書をもって解除の意思表示をするとともに、10億円の違約金支払請求権を本件申込金返還債務と相殺する趣旨で、本件申込金を没収する旨の意思表示をし、この意思表示は、平成11年1月13日ころ、到達したことが認められる。そうすると、本件譲渡契約は、平成11年1月13日ころ譲受人H社の債務不履行に基づく約定解除権の行使により解除され、請求人らは相殺の効果として本件金員を取得したと認められる。
 この点に関して、請求人は、本件解除通知による解除や没収の効力が生ずるためには相手方の本件申込金返還請求権の放棄等の意思表示が必要であり、本件において、H社はかかる意思表示をしていないから、解除等の効果は発生していない旨主張する。
 しかしながら、本件譲渡契約書によれば、かかる譲受人の意思表示は約定解除権の行使又は本件申込金没収の条件となっておらず、解除権の行使及び違約金支払請求権を本件申込金返還債務と相殺するためには、権利者である請求人らの一方的な意思表示で足りることが明らかであるから、請求人の上記主張は理由がない。
(ロ)さらに、請求人は、本件解除通知書について、本件譲渡契約を実行させるための交渉手段として送付したものにすぎず、解除及び本件申込金没収の意思表示をしたものではなく、本件解除通知書の送付後もH社との間で交渉を継続していたことからも明らかなように、本件譲渡契約はその後も存続しており、その後、本件覚書の作成時に両者が合意して当該契約を解除した旨主張し、これを裏付ける資料として、〔1〕本件解除通知書送付後、本件覚書作成までの間に作成された各種契約書、合意書及び覚書等の原案、〔2〕H社のR及びJ社のSの両名が使用していた各手帳の写し、〔3〕「J株式会社の譲渡契約経過報告書」と題する書面並びに〔4〕平成11年2月2日にH社との間で取り交わしたとする金銭消費貸借契約証書及びこれに伴う平成11年3月31日付の「通知書」と題する書面の写し等を当審判所に提出した。
 確かに、上記〔1〕ないし〔3〕の書面によれば、上記解除通知書送付から平成13年3月22日までの間、請求人らがH社と交渉を継続していたことが認められ、また、前記(1)ニ、ホのとおり、F及びH社から交渉を委任されていたPの申述には、上記請求人の主張に沿う部分もある。
 しかしながら、上記〔1〕の契約書等の原案の記載内容及び上記Pの申述を総合すれば、当該交渉は、請求人らがH社との契約関係をそのまま維持するために継続されていたというよりも、同社に替わる譲受人に対して本件株式を譲渡するための新たな契約の締結準備として行われていたと見るのが合理的である。加えて、前記Pも、他方では、本件解除通知書は法律的には有効であり、これにより本件申込金没収の効果が生じると理解していたと申述していること並びに本件覚書には、本件解除通知書にかかわらず本件譲渡契約が継続していたとみなすとして、同通知書の効力を取り消した上、H社の指定する会社に請求人らが本件株式を譲渡する旨記載されていること及び請求人らは、本件覚書締結日と同日に、H社が指定したL社に本件株式を譲渡し、この譲渡代金で本件申込金を返還する旨約していることを総合すると、本件覚書による合意は、請求人らの本件解除通知書による解除権の行使及び相殺による本件金員の取得がいったん有効にされたことを前提として、請求人らが新たな譲受人から受領する本件株式の譲渡代金によって本件申込金を返還することが可能となる日まで本件譲渡契約を存続させることとして、上記解除に伴う本件金員の取得等の効果を遡及的に消滅させるため、上記解除及び相殺の意思表示を撤回したものと認めるのが相当である。
(ハ)そうすると、本件解除通知書の送付後の交渉継続の事実をもって、本件譲渡契約が本件解除通知書によっては解除されていないということはできず、本件解除通知書による解除や本件申込金没収の意思表示はない旨の請求人の主張は採用できない。本件金員は、前記解除通知書による解除権の行使に伴って、違約金請求権と相殺する旨の意思表示により、平成11年1月13日ころ、請求人らが取得し、その後、平成12年8月10日、上記解除及び相殺の意思表示が合意により撤回されたものと解される。
ロ 以上を前提に、本件金員のうち請求人が取得した金員(以下「本件違約金」という。)を収益として計上すべきか否か及びその時期について検討する。この点、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第4項は、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めているから、収益はその実現があった時、すなわちその収入すべき権利が確定した時の属する年度の益金に計上すべきものと解される。
 本件では、前記のとおり、平成11年1月13日ころ、本件解除通知書による解除及び本件申込金没収の意思表示が到達し、効力が発生しているから、この時点で、本件違約金を収入すべき権利が確定したというべきである。したがって、本件違約金については本件事業年度の収益として計上すべきである。
 これに対して、請求人は、本件解除通知書により本件違約金が本件事業年度に所得として発生したとしても、同年度に、H社に対する同額の金員返還債務が生じている旨主張する。
 しかしながら、前記のとおり、本件金員を返還する旨の合意は平成12年8月10日にされているから、返還義務はその時点で確定したというべきであり、本件全資料によっても、本件事業年度の終了日すなわち平成11年4月30日までの間において、この返還債務が確定していたと認めることはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ハ 所得金額について
 本件違約金の額は、本件金員1,000,000,000円に本件株式200株に占める請求人所有の36株の割合を乗じて算定した180,000,000円であり、この金額が本件事業年度の雑収入として益金の額に加算されるべきものであるから、原処分庁の判断は相当である。
 そうすると、本件事業年度の所得金額は、別表2の「審判所認定額」欄に記載のとおり113,676,333円となるところ、この金額は本件更正処分の額と同額であるから、同更正処分は適法である。

(3)本件賦課決定処分について

 上記のとおり、本件更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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