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(平13.9.3裁決、裁決事例集No.62 249頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、タール、石油化学製品の販売業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地の取得の際に売主に支払った固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)に相当する金額を、当該土地の取得価額又は損金の額のいずれに算入するべきかを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 請求人の平成10年6月1日から平成11年5月31日の事業年度(以下「平成11年5月期」という。)の法人税の確定申告から審査請求(平成13年4月13日)に至る経緯及びその内容は別表に記載のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成10年11月18日にP市Q町3丁目1番の宅地192.25平方メートル(以下「本件土地」という。)を株式会社C(以下「本件売主」という。)から170,000,000円で購入する旨の不動産売買契約を同社との間で締結した。
 上記の契約の第10条において、本件土地に対する租税公課その他の賦課金は、引渡しの日をもって区分し、その前日までは売主の負担、その後は買主の負担とし、固定資産税等については、平成10年4月1日から翌年3月31日までを年額として日割り計算する旨を定めた。
ロ 請求人は、平成11年1月25日に、上記イで定めた本件土地の平成10年度の固定資産税等のうち引渡日以後の期間に対応する金額490,973円を本件売主に小切手で支払った。
ハ 請求人は、「平成11年1月26日売買」を原因とする所有権移転登記を同日に行った。
ニ 請求人は、平成11年5月25日に、本件売主に対して賦課された本件土地に係る平成11年度の固定資産税等の金額2,662,600円を本件売主から請求された。
ホ 請求人は、本件売主のために本件土地を整地する費用を負担していたことから、平成11年5月28日に当該費用の金額から上記ニの金額を相殺して決済した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、以下のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
 なお、別表の「更正処分等」欄に記載の更正処分(以下「本件更正処分」という。)に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)については争うが、修正申告書の提出に伴う過少申告加算税の賦課決定処分については争わない。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、前記1の(3)のイないしハのとおり平成10年度の固定資産税等について、不動産売買契約に基づき、平成11年1月26日から同年3月31日までの期間に対応する金額をあん分計算により負担した。
(ロ)平成11年度の固定資産税等については、前記1の(3)のニ及びホのとおり平成11年4月1日現在の所有者である請求人が当然に負担すべきものであるので、固定資産税等(不動産の維持管理費)と認識した上、同年5月28日に請求人と本件売主との間で相殺決済した。
(ハ)固定資産税等は、財産の所有者に対して課税する財産税という租税であるから、買主が所有期間に対応する固定資産税等を負担すべきことは当然であるにもかかわらず、現状では、市町村が課税の便宜上、各年の1月1日現在の所有者に対して課税しており、年の途中で所有権が移転しても、その固定資産税等の金額をあん分して徴収することなく、私法的に不動産業者又は売買の当事者にそのあん分をゆだねている。
 その結果、私人間では、地方税法上の納税義務者が固定資産税等を納付した場合、真実の所有者に対する不当利得返還請求により清算しており、P市方面では、不動産売買における商慣習に基づき、その年の4月1日から翌年3月31日までの期間を基礎としてあん分計算しているのが通例である。
 しかし、同じ地方税でも自動車税については、売買により名義が変われば、その都度税額の計算が行われているのであるから、固定資産税についても、名義が変われば市町村において税額の再計算を行うべきである。
(ニ)消費税法基本通達10−1−6《未経過固定資産税等の取扱い》は未経過固定資産税等についての取扱いを定めているが、その未経過分とは、固定資産の取得時に既に賦課決定がされていて月数あん分によって負担すべき部分のことをいい、その後に賦課決定される金額は、未経過固定資産税等には含まれていない。
(ホ)なお、原処分庁の主張は、現実の社会取引の実情を無視したもので、法人税基本通達7−3−16の2《減価償却資産以外の固定資産の取得価額》にも固定資産税に相当する金額を固定資産の取得価額に算入する旨の明示の定めはない上、企業会計原則の観点からも、平成11年1月26日から平成12年3月31日までの1年以上にわたる期間のすべての金額を損金の額に算入しないとするのは、請求人の事業年度が1年であることから見て不合理である。
 また、法人税法及び法人税基本通達にも、これを経費と認めないとする明文の規定はない。
 以上のことから、請求人が負担した本件土地の固定資産税等に相当する金額は、経済的な実質を考慮すると、まさに固定資産税等そのものであり不動産を維持管理するための経費であるので、損金の額に算入されるべきであり、法律上の納税義務者でないという理由だけで経費性のないものとして更正を行った原処分は、実質課税の原則に違背する違法な課税である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分が違法であることから、本件賦課決定処分も違法であるので、その全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)法人税法施行令第54条《減価償却資産の取得価額》第1項第1号によれば、購入した減価償却資産の取得価額は、当該資産の購入の代価及び当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とされ、また、法人税基本通達7−3−16の2では、減価償却資産以外の固定資産の取得価額についても減価償却資産と同様に取り扱うとされている。
(ロ)固定資産税等の納税義務者は、毎年1月1日現在の固定資産の所有者であり、1月2日以降に固定資産を売買した場合でも、固定資産税等は上記所有者に課される。実際の不動産の売買に当たっては、売主が買主に固定資産税の負担を転嫁する場合が多いが、この場合に買主が負担する税額は、税として市町村に納付されるものではなく、売買代金の別枠として表示された土地そのものの対価といえる。
 なお、固定資産税等は、前述のとおり毎年1月1日現在の所有者に全額が課されるものであり、4月1日から翌年3月31日までといった期間に対応するものではないから、本件土地に係る固定資産税等に相当する金額を算定するために日割計算をした期間については、本件売主と請求人との間の取決めにすぎない。
(ハ)したがって、請求人が負担した本件土地に係る平成10年度の固定資産税等に相当する金額490,973円及び平成11年度の固定資産税等に相当する金額2,662,600円は、固定資産の取得価額に算入すべき費用であるから、損金の額には算入できない。
 以上述べたとおり、原処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であるから、本件賦課決定処分も適法である。

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3 判断

 請求人が、本件土地を取得した後に、本件売主に支払った固定資産税等に相当する金額は、本件土地の取得価額又は損金の額のいずれに算入するべきかに争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 本件土地の取得価額について
(イ)土地の取得価額については、法人税法及び同法施行令に明文の規定がないが、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第4項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金又は損金の額に算入すべき金額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するものとしており、いわゆる公正処理基準を表したといわれる企業会計原則は、その第3の5において、有形固定資産の取得原価には原則として当該資産の引取費用等の付随費用を含めると定めている。
(ロ)ところで、法人税基本通達7−3−16の2では、減価償却資産以外の固定資産の取得価額については、別に定めるもののほか、法人税法施行令第54条及び第55条《資本的支出があった場合の減価償却資産の取得価額の特例》の規定並びにこれらに関する取扱いの例による旨定めている。
 これは、同法施行令第54条及び第55条において、減価償却資産の取得価額に関する規定が定められているが、減価償却資産以外の固定資産すなわち土地等の非減価償却資産の取得価額に関しては、法令上格別の規定が置かれていないので、非減価償却資産の取得価額に関しても減価償却資産に関する同施行令の規定及びこれらに関する取扱いが準用されてしかるべきであることを留意的に定めたものであると解される。
 なお、同法施行令第54条第1項は、購入した減価償却資産の取得価額は当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)及び当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とする旨規定しているが、これは固定資産のうちの減価償却資産の取得価額の範囲について、企業会計原則に定められた付随費用を具体化して明文化したものであり、会計慣行と異なる規定をしたわけではないと解される。
 したがって、土地等の非減価償却資産についても、企業会計原則に従い、また、これを具体化した同項を適用することになる。
(ハ)そうすると、資産の取得のために実質的に欠かせない費用と見られるものがあれば、これを「資産の購入のために要した費用」とするのが相当である。
(ニ)次に、地方税法第343条《固定資産税の納税義務者等》第1項は、固定資産税は固定資産の所有者に課するとし、また、同法第359条《固定資産税の賦課期日》は、固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とすると各々規定していることから、賦課期日現在において現に土地等を所有している者をもって固定資産税の納税義務者たる所有者としているものと解される。
(ホ)これを、本件について見ると、前記1の(3)のイのとおり不動産売買契約書には、本件土地の代価のほか、本件土地の引渡し後の固定資産税等についても買主が負担する旨が記載されているが、買主である請求人は、上記(ニ)のとおり地方税法上の納税義務者ではないから、固定資産税等として市町村に納付するのではなく、固定資産税等の負担なしに本件土地を所有することができる対価として、固定資産税等に相当する金額を本件売主に支払うものといえる。
 したがって、請求人が負担すべき本件土地に係る固定資産税等に相当する金額は、本件土地の取得のために実質的に欠かせない費用であるから、これを「資産の購入のために要した費用」として購入の代価に加算するのが相当である。
ロ 以上のことから、当該固定資産税等に相当する金額を損金の額に算入せず、本件土地の取得価額に算入すべきものとした本件更正処分は適法である。
ハ なお、本件は、法人税法の規定についての争いであり、他の租税法の規定についての争いではないが、請求人は、消費税法における固定資産税等に相当する金額についての取扱いとの均衡について主張するほか、所得税法に関する裁決要旨を反論書に添付して有利に援用している。しかし、これらの主張は、次のとおりいずれも採用できない。
(イ)消費税法基本通達10−1−6の定めは、上記の判断と軌を一にするものであって、これと矛盾するものではない。
 なお、固定資産の取得後に賦課決定される金額が未経過固定資産税等に含まれないとする定めはない。
(ロ)請求人が提出した裁決要旨は、所得税法において業務の用に供されている固定資産に係る固定資産税等の取扱いを記している所得税基本通達37−5《固定資産税等の必要経費算入》の定めに関する裁決であり、本件とは事情を異にするものである。
ニ 固定資産税の課税方法について
 請求人は、前記2の(1)のイの(ハ)のとおり固定資産税のあるべき課税方法について主張するが、国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であり、その処分の前提となった地方税法自体の適否又は合理性を判断することは、その権限に属さないことであるので、当審判所の審理の限りでない。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり本件更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分も適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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