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(平13.11.13裁決、裁決事例集No.62 258頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、病院を経営する医療法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、死亡により役員を退任した前院長C(以下「前院長」という。)に係る役員退職慰労金及び弔慰金(以下「本件退職慰労金等」という。)を損金経理により未払金に計上したことに対して、その損金算入時期が争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成12年12月25日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年1月22日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、持分の定めのある社団法人であり、平成2年5月以降、Dを除く理事4名によって、その持分の全部が所有されていたところ、前院長は平成11年8月20日に死亡し、理事を退任した。
ロ 平成8年5月31日に開かれた請求人の理事会(以下「本件理事会」という。)の議事録(以下「本件理事会議事録」という。)には、役員規定導入に関する議案に対し、平成8年6月1日から当該規定を導入、適用することを満場異議なく承認した旨が記載されている。
ハ 本件理事会の決議に基づき、請求人が平成8年6月1日に制定した「役員規定」の第2条には、「役員とは、定款の定めにより社員総会で選任された理事及び監事をいう」旨が定められ、同規定の「第6章退職慰労金」の各条項(以下「本件役員退職金条項」という。)には、役員の退職慰労金等に関し、次のとおり定められている。
(イ)第42条(退職慰労金)
1.役員の退職慰労金は、役員が退任する場合に、その在任期間中の功労に報いる為に、社員総会の承認を得て支給する。
2.役員が死亡により退任する場合は、その遺族に対して弔意金を社員総会の承認を得て支給する。
(後略)
(ロ)第45条(金額の範囲)
 退職慰労金は、次の各号に定める金額のいづれかの範囲とする。
(1)この規定に基づき計算し、理事会の協議において決定のうえ社員総会において承認された額。
(2)この規定に基づき計算すべき旨の社員総会の決議に従い、理事会の協議において決定した額。
(ハ)第53条(支給方法等)
 役員の退職慰労金の支給期日及び支給方法等は次による。
(1)理事の退職慰労金は、社員総会の決議に従い理事会が決定する。
(2)監事の退職慰労金は、社員総会の決議に従い決定する。
ニ 本件事業年度中に、本件退職慰労金等に関し、社員総会又は理事会において何らかの決議がなされた事実はない。
ホ 請求人は、平成12年3月31日付で、本件退職慰労金等の額288,100,000円(内訳:役員退職慰労金271,000,000円、弔慰金17,100,000円)の全額を損金経理により未払金に計上した。
ヘ 本件事業年度後の平成12年5月8日に開かれた請求人の臨時社員総会(以下「本件社員総会」という。)の議事録(以下「本件社員総会議事録」という。)には、本件退職慰労金等の支払に関し、平成8年6月1日に制定した「役員慶弔見舞金規定第46条〜49条」(本件役員退職金条項の一部)に基づき、次のとおり承認可決された旨が記載されている。

1.金額の確定 退職慰労金2億7千百万円、弔慰金1千7百拾万円
1.支払期日平成12年6月10日
1.支払方法遺族代表者E殿の銀行口座へ振込む

ト 請求人は、平成12年6月19日に、本件退職慰労金等の全額を前院長の妻Eに支払った。

(4)関係法令

 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項本文及び同項第2号には、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべき費用の額として、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額が規定され、また、同条第4項には、当該費用の額の計算について、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」と規定されている。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、上記1の(3)のハないしトの各事実が認められる。
(ロ)また、法人税法第22条第3項には、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべき費用の額について、上記1の(4)のとおり規定されているところ、役員に対する退職給与の損金算入の時期については、法人税基本通達(以下「基本通達」という。)9−2−18《役員に対する退職給与の損金算入の時期》において、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする旨が定められている。
(ハ)本件の場合、本件退職慰労金等の額が具体的に確定した日は、社員総会においてその支払額を承認した平成12年5月8日であるから、本件退職慰労金等の額を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(ニ)ところで、請求人は、本件退職慰労金等は本件理事会の決議に基づき制定された本件役員退職金条項に依拠しているから、本件事業年度において既にその債務が確定している旨主張するが、本件理事会で可決したのは本件役員退職金条項を含む「役員規定」の導入についてであり、個々の役員退職金についてその支払額を具体的に確定させるのは、あくまでもその都度開催される社員総会における決議等である。
(ホ)また、請求人は、原処分が本末転倒した論理及びし意的な解釈によってなされたものである旨主張するが、原処分は税法・判例等に照らして正当であり、原処分庁は何らし意的な解釈をしていない。
ロ 賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)医療法人にとって、総会は必須の最高決定機関であり、そこでの決定(決議)は、強行法規に反すること及び医療法人の本質に反すること以外すべて有効であって、第三者がこれを否定すること又はこれに干渉することは許されないところ、本件役員退職金条項を包含する「役員規定」の導入決議は、民法第63条を準用する医療法第68条の規定に則して出資者により制定されたものであるから、役員の退職慰労金又は弔慰金の支給、すなわちその金額の確定とその支払については、本件役員退職金条項に従わなければならず、同条項は、以降退職慰労金等に関する取扱いを律するものである。
(ロ)したがって、請求人は、前院長が平成11年8月20日に死亡により理事を退任したことを踏まえ、本件事業年度末において本件役員退職金条項に基づいて本件退職慰労金等の額を算定し、これを支給金額として認識・確定して損金算入及び未払金計上したのであり、この意思決定は平成8年5月31日の総会の決議とそれに基づく理事長の業務執行権の行使によるものであるから、本件退職慰労金等の額は、本件事業年度において、既に債務として確定している。
(ハ)なお、本件退職慰労金等の支給、すなわち支払は、平成8年5月31日の総会の決議に基づいて制定された本件役員退職金条項の第53条に依拠するところ、平成12年5月8日の本件社員総会の決議は、既に本件事業年度において債務として確定していた本件退職慰労金等の支払承認決議であって、単に支払額を確認したものにすぎない。
(ニ)原処分庁は、法律の解釈通達である基本通達9−2−18をあたかも法律であるかのように機能させて、本件役員退職金条項をそれに重ね合わせ、同通達でいう「株主総会の決議」と「本件社員総会の決議」とを短絡的に結びつけて、本件社員総会の日をもって債務の確定の日としているが、これは、本件役員退職金条項に定める役員退職慰労金等の額の算出、決定及び支払の手順を無視し、それらを混同させた本末転倒した論理及びし意的な解釈によるものであり、事実関係の判断に重大な瑕疵がある。
ロ 賦課決定処分について
 上記イのとおり更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件退職慰労金等に係る債務確定の時期に争いがあるので、以下審理する。
イ 各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべき費用の額については、法人税法第22条第3項及び同条第4項に上記1の(4)のとおり規定されているところ、当該費用の額は、同条第4項の規定に基づき、原則として「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されることとなる。
 しかしながら、上記基準に従って計算される費用の中には、費用収益の対応という正確な損益計算を行う立場から、将来確実に発生する費用を各事業年度の収益に対応させて、企業が合理的に見積もって計上する引当金等もあるから、このような債務未確定の費用を実際の支払に先行して控除すること又は引当金の計上を企業の任意に任せるということになれば、その計算はし意に陥りやすく、法人税の所得金額の計算における客観性を担保し、課税の公平を維持することは困難となる。
 そこで、法人税法第22条第3項第2号において、原則として債務の確定した費用のみを損金の額に算入する旨規定し、引当金のような債務未確定の費用の計上を認めないとした上で、別途、同項本文に規定する「別段の定め」により、一定限度の引当金についてのみ、その損金算入を認めることとしたものと解される。
 したがって、このような趣旨に照らせば、債務が確定しているか否かは、当該事業年度の終了の日までに〔1〕当該費用に係る債務が成立し、〔2〕当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しており、かつ、〔3〕その金額を合理的に算定することができるか否かにより判断するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
 本件役員退職金条項第42条には、役員の退職慰労金等は社員総会の承認を得て支給する旨が、また、同条項第45条には、退職慰労金等の額は社員総会において承認された額とする旨がそれぞれ定められており、これらの条項によれば、退任役員に退職慰労金等を支給するか否か及び支給金額を幾らとするかについては、いずれも社員総会の承認の有無に依拠することは明らかであるから、役員の退任を原因として、当該役員に支給する退職慰労金等の額が自動的に決せられ、何らの手続を要することなく請求人がその支払義務を負うと解することはできない。
 したがって、請求人が、退任役員に退職慰労金等を支給しようとする場合には、その都度社員総会において承認又は不承認の手続を要すると解されるところ、上記1の(3)のニのとおり、本件事業年度中においては、本件退職慰労金等の支給に関し、社員総会で何らの決議もなされていないから、本件事業年度終了の日現在、本件退職慰労金等が支給されるか否かは定まっていないというべきである。
 そうすると、本件退職慰労金等に係る債権債務関係は成立しておらず、本件退職慰労金等は、法人税法第22条第3項第2号に規定する「債務の確定した費用」には当たらないと解するのが相当である。
ハ ところで、請求人は、本件退職慰労金等の額は、平成8年5月31日の総会の決議とそれに基づく理事長の業務執行権の行使により、本件事業年度において債務として確定している旨主張する。
 しかしながら、本件理事会議事録には、「役員規定」を平成8年6月1日から導入することを承認した旨が記載されているのみで、役員の退任を原因として本件役員退職金条項に基づき計算される退職慰労金等の額を自動的に支給する旨の決議がなされたとの記載はなく、また、本件理事会議事録は本件理事会における議事に係るものであって、請求人も最高決定機関であると自認する社員総会の議事に係るものでないことは明らかであるから、本件退職慰労金等の額が、平成8年5月31日の社員総会の決議に基づき確定しているとの請求人の主張は採用できない。
 また、仮に請求人の主張が、本件理事会に全社員が出席していることをもって、社員総会と同等の効力を有するとの主張であるとしても、本件理事会の決議が「役員規定」導入の承認にとどまるものであることは上記のとおりであり、また、本件役員退職金条項の定めが、役員の退任を原因として、退職慰労金等の額を自動的に確定するものでないことは上記ロのとおりであるから、本件退職慰労金等の額が、本件事業年度の債務として確定していたと解することはできない。
ニ さらに、請求人は、本件社員総会の決議は、本件役員退職金条項第53条に基づく支払承認決議である旨主張する。
 しかしながら、本件社員総会議事録には、上記1の(3)のヘのとおり、本件役員退職金条項中の第46条から第49条の定めに基づいて支給決定する旨が記載されており、本件社員総会の決議が同条項第53条に基づく支払承認決議でないことは明らかであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ホ 以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用できないものであり、本件退職慰労金等の額は、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することはできないとするのが相当と認められるところ、当審判所の調査によっても、他にこの認定を覆し、請求人の主張を採用するに足る証拠は認められず、本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、いずれも本件更正処分に係るこれらの額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(2)賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分について請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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