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(平13.7.24裁決、裁決事例集No.62 343頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第1項(以下「本件特例」という。)の適用を受けるため提出した「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請」(以下「本件承認申請」という。)が認められるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成6年9月26日に死亡した夫F(以下「被相続人」という。)の共同相続人の一人であるが、相続財産の全部が未分割であるとして、この相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書を法定申告期限である平成7年5月26日に提出した。
ロ 請求人は、平成11年9月10日に、本件承認申請に係る申請書(以下「本件申請書」という。)を嘆願書とともに、原処分庁に提出した。
ハ 原処分庁は、上記ロに対し、平成11年10月28日付で、本件承認申請を却下する旨の処分(以下「本件却下処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件却下処分を不服として、平成11年12月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成12年3月10日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年4月6日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
 本件承認申請の提出期限は、本件相続税の申告期限から3年を経過する日の翌日から1か月を経過する日である平成10年6月26日である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、本件却下処分の取消しを求める。
イ 被相続人の遺産分割については、その前提となる被相続人とG及びH間の養子縁組の有効、無効が争われ、その後被相続人の遺言書の有効、無効が争われるなど、争訟が長期にわたり継続していた。
ロ 請求人は、相続税の分納手続について、K税務署に行って職員と面接した際、担当職員に対して、上記イの事情を説明しているのであるから、職員は、本件特例が適用されること及び本件特例を受けるための手続について説明する義務があったにもかかわらず、その説明がなかった。そのため、請求人は、本件特例の適用を受けられなくなり、相続税を払えないようになったものであり、税務署は、納税者に対して努力(説明や指導)をするのは当然のことで、税務署として当然やらなければならないことをやらずに、申請の期限が切れているから申請を却下するというのは、違法であり、全くの不当である。
ハ また、請求人と原処分庁は、本件特例が適用されることを当然の前提として、暫定的に相続税を分納することを合意したのであるから、原処分庁は、本件承認申請についてあらかじめ了解していたものであり、本件却下処分は、既に承認していた内容を理由なく変更するもので、違法である。
ニ さらに、上記イの事情からすれば、未分割について、やむを得ない理由があるので、本件却下処分は裁量権を逸脱した違法がある。
ホ 被相続人の遺言書が存在したが、当該遺言書は、請求人が作成したものとして、無効である旨の判決がなされ、民法第891条第5号により、請求人は、相続欠格事由に当たる可能性があるところ、被相続人名義の土地のうち2分の1は、名義のいかんにかかわらず、もとから請求人の所有であることが明らかになったため、今般、遺産分割の方法で、請求人の所有権が確認されることになったのだから、本来、請求人には相続税を支払う理由がないし、請求人に相続税を全額課税した場合、請求人の今後の生活に著しい支障を来すから、本件特例が適用されるべきである。
ヘ 請求人は、高齢であり、法律に無知で、すべて弁護士に頼んであったので、落ち度はない。
ト 請求人の主張が認められない場合は、請求人は相続税全額についての債務不存在の訴えを提起せざるを得ないところ、そのような事態を避け、本件特例を適用して本件を解決することが合理的である。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件承認申請に関係する相続税法及び同法施行令の規定は、以下のとおりである。
(イ)相続税法第19条の2第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が被相続人の配偶者であるときは、一定限度のもとにその配偶者の相続税額が軽減される旨規定している。
(ロ)相続税法第19条の2第2項は、本件特例が適用される場合について規定しており、その内容は、原則として申告期限までに、当該相続又は遺贈により取得した財産の全部又は一部が相続人によって分割が行われている場合に限られている。
 ただし、その分割されていない財産について、申告期限から3年以内に分割された場合は、同項の適用が受けられる。
(ハ)そして、相続税法第19条の2第2項ただし書きのかっこ書きでは、申告期限から3年を経過するまでの間に当該財産の分割がされていない場合であっても、その分割されていないことについて、当該相続に関し、訴えの提起がされたこと等やむを得ない事情がある場合には、税務署長の承認を受けた場合に限り、分割できることとなった日の翌日から4か月以内にその分割した財産について本件特例の適用が受けられる旨規定している。
(ニ)さらに、相続税法施行令第4条の2《配偶者に対する相続税額の軽減の場合の財産分割の特例》第2項は、相続税法第19条の2第2項に規定する政令で定めるやむを得ない事情があることにより同項の税務署長の承認を受けようとする者は、当該相続又は遺贈に係る申告期限後3年を経過する日の翌日から1月を経過する日(以下「申請期限」という。)までに、そのやむを得ない事情の詳細等を記載した申請書を所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している。
ロ これを本件についてみると、本件相続税の申告期限は平成7年5月26日であるから、申請期限は、平成10年6月26日となる。
 そうすると、請求人が本件申請書を提出したのは、平成11年9月10日であり、その申請期限を過ぎていることから、本件申請書は、不適法なものとなる。
ハ なお、請求人は、上記(1)のロにおいて、原処分庁の職員から十分な説明がなかった旨主張するが、いつどのような趣旨のもとで同職員に回答を求めたのか具体的な主張はない。
 また、原処分庁の職員が本件特例の適用を受けるための手続を説明しなければならない旨を定めた規定はなく、その主張には理由がない。
ニ さらに、請求人は、上記(1)において、〔1〕職員から説明がなかったことにより相続税が払えないような状況になった、〔2〕請求人は高齢で、弁護士に依頼してあったので、請求人に落ち度はなかった、〔3〕原処分庁は裁量権を逸脱した違法があり、相続税を課税すると今後の生活に著しい支障を来すなどと主張するが、申請期限内に承認申請書の提出がなかった場合に、税務署長の裁量により申請を承認することができる旨を定めた法令の規定はなく、これらの主張にはいずれも理由がない。

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3 判断

 本件承認申請が認められるべきであるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
(1)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が本件承認申請の提出期限前にK税務署の職員と会った日は、平成9年4月10日であるが、同日、同署の職員2名は、請求人宅を訪れ、相続税の納付について相談をしている。
 その後、同署の職員は、平成10年2月25日に請求人に相続税の納付について電話をしている。
ロ また、請求人は、K税務署に本件相続税の納付の相談に、平成12年2月18日に訪れているが、平成12年2月18日以前には、本件相続税の申告又は納付の相談にK税務署を訪れたことはない。
ハ 請求人を当事者とする訴訟で、L地方裁判所に係属の平成7年(タ)第○○号養子縁組無効確認請求事件の判決が平成9年3月24日に言い渡され、被相続人とG及びH間の養子縁組の無効確認を求めた請求人が敗訴し、控訴したが、取下げにより養子縁組は有効であることが確定した。
 また、同裁判所に係属の平成9年(ワ)第○○号自筆証書遺言無効確認請求事件の判決が平成10年11月24日に言い渡され、被相続人の遺言書の効力はないものと判断された。
ニ 請求人とG及びHの間で、遺産分割に関する合意書が平成11年12月27日に作成され、その内容は、平成7年5月26日に提出した相続税の申告書のとおりとされた。
(2)ところで、相続税法第19条の2第2項及び同法施行令第4条の2第2項によれば、本件特例については、原則として、申告期限までに当該相続又は遺贈により取得した財産の全部又は一部が相続人によって分割が行われている場合に限られており、ただし、その分割されていない財産について、申告期限から3年以内に分割された場合には適用がある旨規定されている。そして、申告期限から3年を経過するまでの間に当該財産が分割されていない場合であっても、その分割されていないことについて、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたこと等やむを得ない事情がある場合には、税務署長の承認を受けた場合に限り、分割できることとなった日の翌日から4か月以内にその分割した財産について本件特例を受けられるが、その場合には、当該相続又は遺贈に係る申告期限後3年を経過する日の翌日から1か月を経過する日までに、そのやむを得ない事情の詳細等を記載した申請書を所轄税務署長に提出しなければならない旨規定されているところである。
 これを本件についてみると、上記1の(3)のとおり、本件承認申請の提出期限は、平成10年6月26日であるところ、上記1の(2)のロのとおり、請求人が本件申請書を原処分庁に提出したのは、平成11年9月10日であるから、本件承認申請が申請期限を徒過して提出されているのは明らかであり、また、申請期限内に本件申請書の提出がなかった場合に、税務署長の裁量により申請を認めることができる旨を定めた法令の規定もないことから、本件却下処分は適法であるといわざるを得ない。
(3)なお、請求人は、以下のとおり主張するので、それぞれ審理したところ、次のとおりである。
イ 上記2の(1)のロにおいて、請求人は、K税務署の職員は、本件特例が適用できること及び本件特例を受けるための手続について説明する義務があるにもかかわらず、その説明がなかったため、本件特例を受けることができなくなり、相続税が払えないような状況になった旨主張する。
 しかしながら、申告納税制度の下では、本件特例のような税法上の特典を受けるための手続は、原則として納税者自らの責任で行うべきであるから、税法に特段の定めがある場合は別にして、原則として、税法上の特典についての説明の有無が、本件特例の適否に影響を及ぼすことはないと解すべきであるところ、税務署の職員には、本件特例の適用を受けるための手続等を説明しなければならない旨を定めた法令の規定はない。したがって、この点に関する請求人の主張は、その基礎とされている事実の有無について検討するまでもなく、本件却下処分の取消しを求める理由としては、不相当というべきである。
ロ 上記2の(1)のハにおいて、請求人は、原処分庁は本件承認申請についてあらかじめ了解していたものであり、本件却下処分は既に承認していた内容を理由なく変更するもので違法である旨主張するが、このような主張は、原処分庁と納税者の合意によって本件承認申請についての法定期間を変更することを認めるものであって、税法の強行法規性に反し、採用することはできない。したがって、この点に関する請求人の主張は、その基礎とされている事実の有無について検討するまでもなく、本件却下処分の取消しを求める理由としては、不相当というべきである。
ハ 上記2の(1)のニにおいて、請求人は、争訟が長期にわたり継続しており、未分割について、やむを得ない理由があるので、本件却下処分は裁量権を逸脱した違法がある旨主張する。
 確かに、上記(1)のハ及びニのとおり、争訟が長期にわたり継続したことは明らかであるが、上記(2)のとおり、請求人は、本件特例の適用を受けるために、争訟の継続につき、税務署長に対し、承認申請書を提出しておらず、長期にわたり争訟が継続したことを理由として、相続税の申告書の提出期限から3年を経過する日の翌日から1か月を経過する日である本件承認申請の提出期限を更に延長する旨の規定がない以上、原処分庁に裁量の余地はなく、請求人の主張には理由がない。
ニ 上記2の(1)のホにおいて、請求人は、被相続人名義の土地のうち2分の1は、名義のいかんにかかわらず、もとから請求人の所有であり、請求人は相続税を支払う理由がないので、請求人に相続税を全額課税した場合、請求人の今後の生活に著しい支障を来すから、本件特例が適用されるべきである旨主張するが、本件特例の適用の有無とその前提である課税価格の適否の問題は、別個の問題であって、請求人が、相続税の申告に係る申告納税額に相当する租税債務を負うと生活に支障を来すからといって、本件特例の適用を認めることにはならないので、請求人の主張には理由がない。
ホ 上記2の(1)のヘにおいて、請求人は、高齢であり、法律に無知で、すべて弁護士に頼んであったので落ち度はない旨主張するが、請求人が、本件特例について知らなかった場合であっても、その知らなかった場合に本件承認申請の提出期限を延長する旨を定めた法令の規定はなく、請求人の主張には理由がない。
ヘ 上記2の(1)のトにおいて、請求人は、請求人の主張が認められない場合は、債務不存在の訴えを提起せざるを得ないところ、そのような事態を避け、本件特例を適用して本件を解決することが合理的である旨主張するが、請求人の債務不存在の訴えの提起の有無によって、国税不服審判所長の判断が左右されるものではない以上、請求人の主張には理由がない。
ト 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がないので、本件却下処分は適法である。
(4)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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