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(平13.12.21裁決、裁決事例集No.62 423頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、請求人が外国法人に支払った日本国内における独占販売権の取得に係る対価の額が、消費税法上の国内取引として課税仕入れに該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成10年7月28日から平成11年6月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成12年5月31日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり消費税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年6月21日に、別表の「異議申立て」欄のとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年9月19日付で棄却の異議決定をしたので、同年10月6日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、E(以下「E国」という。)F州に所在するGCorporation(以下「G社」という。)、P県Q市に所在するH株式会社(G社の100%子会社であり、以下「H社」という。)及びR県S市に所在するK株式会社との間で、平成11年6月21日にE国のサプライヤー(製造業者等)から日本市場向けに出荷される○○○○関連製品(以下「本件製品」という。)の独占販売店契約(以下「本件契約」という。)を締結し、「L」と題する英文の契約書(以下、この契約書の和訳文を「本件契約書」という。)を取り交わした。
 なお、H社は、G社が本件製品を日本国内で販売するために設立した法人であり、また、請求人は、K株式会社の代表者が下記ロの(ロ)の本件独占販売権に係る事業を行うために設立した法人である。
ロ 本件契約書には、要旨次の記載がある。
(イ)G社は、E国のサプライヤーから日本市場向けに出荷される本件製品の独占販売店の権利を保有している(前文の1)。
(ロ)G社は、請求人に日本市場において本件製品を販売する独占権(以下「本件独占販売権」という。)を付与、譲渡し、請求人は受諾する(第1条)。
(ハ)請求人の顧客がサプライヤーから本件製品の直接購入を望む場合は、G社と請求人は、サプライヤーからG社と請求人に均等に配分される当該直接販売に係る適正額のコミッションの支払を受けることを条件に、当該直接販売を認める(第3条)。
(ニ)本件製品に係るすべての注文は、請求人からG社に直接なされるものとする(第6条)。
(ホ)契約発行日現在、H社が受注し、納品未了の本件製品の受注残高(以下「国内受注残高」という。)から生ずるグロスマージン(G社と請求人との間で合意された本件製品の販売利益)及び本件契約後の本件製品の販売から生ずるグロスマージンについては、G社と請求人との間で均等に配分される(第8条)。
(ヘ)G社は、請求人の要請に基づき、本件契約に基づく請求人の義務を履行するために必要で有効とみなされるH社が所有する顧客リスト、納入記録、価格リスト、競合者動向、作業フォーマット・プログラム等の有用な市場情報、事業運営のデータ、資料の写し(以下、これらを併せて「H社のノウハウ等」という。)をH社から無償で請求人に提供させる(第10条)。
(ト)請求人は、G社に対して、本件独占販売権及び分配されるグロスマージンとコミッションの対価として、本件契約後5日以内に160万ドルを支払う(第11条)。
(チ)請求人は、自己の裁量で必要なH社の従業員を、当該従業員との間で合意された条件で新規に採用することができる(第16条)。
(リ)本件契約で特に認められている場合を除いて、いずれの当事者も、相手方当事者の事前の書面による同意なくして、本件契約を譲渡してはならない(第25条)。
ハ 請求人は、平成11年6月24日にG社に対して、本件契約書に基づき、本件独占販売権等の対価として195,760,000円(160万ドルの支払時の円貨換算額であり、以下「本件支払金」という。)を送金した。
ニ 請求人は、本件課税期間の確定申告において、本件支払金に係る消費税相当額7,457,524円を、消費税の控除対象仕入税額に含めて申告している。

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2 主張

(1)請求人

 請求人がG社に対して支払った本件支払金は、G社がH社に無償で与えていた本件独占販売権等を取得するための支払額、すなわち日本国内の営業権の譲受代金であり、次のとおり、消費税法上の国内取引として課税仕入れに該当することは明らかであるので、原処分庁が本件支払金に係る取引を国外取引であるとして行った本件更正処分等については、法律の解釈に誤りがあることになるから、本件支払金に関する部分については、取り消されるべきである。
イ 営業権の譲渡において、消費税法上の国内取引に該当するか、あるいは国外取引に該当するかの判定に当たって、消費税法施行令第6条《資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定》第1項第7号は、「これらの権利に係る事業を行う者の住所地」により判定する旨規定している。
 そして、本件の場合、G社が無償でH社に与えていた本件独占販売権等を請求人に譲渡したものであり、H社が本件独占販売権に基づき日本国内で営業活動を行い、種々の営業上のノウハウ等を有していたことからすると、「これらの権利に係る事業を行う者の住所地」は、H社の所在地である日本国内ということになる。
ロ また、本件契約書の解釈によれば、本件支払金は、〔1〕本件独占販売権、〔2〕H社のノウハウ等、〔3〕H社の国内受注残高、〔4〕H社の人員引継ぎによる人的価値から構成されるものの対価であるところ、これらの権利等に係る営業活動を実際に行っていた者はH社であることからしても、「これらの権利に係る事業を行う者の住所地」は、やはり日本国内であると解すべきである。

(2)原処分庁

 原処分はいずれも適法に行われているから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 国内取引・国外取引の判定
 請求人は、本件独占販売権が日本国内の営業権であるから、本件支払金に係る取引は課税仕入れに該当する旨主張するが、次のとおり、その主張には理由がない。
(イ)請求人は、本件支払金を営業権の対価として経理処理しているが、営業権が譲渡された場合、その譲渡が国内において行われたかどうかは、消費税法施行令第6条第1項第7号に規定する「これらの権利に係る事業を行う者の住所地」により判定されることになるところ、同号の趣旨は、営業権のような広範囲にわたる資産については、その所在場所が客観的に明らかとなる性質のものではないことから、「これらの権利に係る事業を行う者の住所地」により判定することとしたものであると解される。
(ロ)そうすると、これを本件についてみると、G社の保有する本件独占販売権に係る事業が、消費税法施行令第6条第1項第7号に規定する「これらの権利に係る事業」ということになる。
 そして、本件独占販売権を保有し、その権利に係る事業を行っていたのはG社であるから、「これらの権利に係る事業を行う者の住所地」は、G社の所在地であるE国国内となる。
 したがって、本件独占販売権の譲渡は日本国外で行われたことになるから、消費税法第4条《課税の対象》第1項、同法第2条《定義》第1項第12号の規定により、本件支払金に係る取引は課税仕入れに該当しない。
(ハ)請求人は、本件支払金は、本件独占販売権、H社のノウハウ等、H社の国内受注残高及びH社の人員引継ぎによる人的価値から構成されるものの対価である旨主張する。
 しかしながら、本件契約書によれば、H社の国内受注残高の所有者はH社である旨(第16条の1)、また、H社の人員引継ぎは請求人の裁量で新規に採用する旨(第16条の2)定められており、この2点については、本件支払金の対価を構成するものではない。
 また、本件支払金が、本件独占販売権の対価のほかに、H社のノウハウ等の対価から構成されるとしても、本件契約書上当該ノウハウ等は無償とされているのであるから(第10条)、そのことをもって、本件支払金に係る取引が消費税法上の国内取引に該当するかどうかの判定に影響を及ぼすものではなく、上記(ロ)のとおり、その判定は、「これらの権利に係る事業を行う者の住所地」が国内かどうかにより行うべきである。
ロ 本件更正処分
 上記イのとおり、請求人の主張には理由がないのであり、請求人の本件課税期間における消費税等の額を計算すると、本件更正処分と同額になるから、同処分は適法である。
ハ 本件賦課決定処分
 上記ロのとおり、本件更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)法令の規定等

 消費税法第2条第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供と規定し、同法第2条第1項第9号は、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものと規定している。
 そして、消費税法第4条第3項は、資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、それが資産の譲渡である場合には、当該譲渡が行われる時において当該資産が所在していた場所が国内にあるかどうかにより行う旨規定し、同法施行令第6条第1項第7号は、当該資産が営業権である場合には、営業権の譲渡が行われる時における営業権に係る事業を行う者の住所地により判定する旨規定している。
 また、消費税法第2条第1項第12号は、課税仕入れとは、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもの)と規定している。

(2)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件独占販売権は、本件契約書によれば、G社がE国のサプライヤーから取得、保有している本件製品の独占販売店の権利(前文の1)に基づくもので、日本国内で本件製品を独占して販売するために必要な権利(第1条)であり、請求人は、G社からこの権利を付与、譲渡されて、初めて日本国内で本件製品の営業活動及び販売をすることができるものであること。
ロ 請求人は、本件契約後、本件独占販売権に基づき、H社のノウハウ等の提供を受け、また、H社の従業員を新規に採用して事業を行っていること。
ハ H社の国内受注残高の処理等については、取引先との関係からやむなくH社名義で行われているものの、実際の営業活動は請求人が行っており、国内受注残高から生ずるグロスマージンについても、その他のグロスマージンと同様に、G社と請求人との間で均等に配分されていること。

(3)本件支払金の性格

イ 営業権の意義については、消費税法又は法人税法等の税法には規定されていないため、一般に会計学や商法等で用いられている概念によることになるが、そこでいう営業権とは、のれん、しにせ権などをいい、いわゆる法律上の権利だけではなく、財産的価値のある事実関係を含むものであって、企業の長年にわたる営業活動を通じて醸成される伝統、社会的信用、名声、立地条件、営業上の秘訣、特殊の技術及び特別の取引関係の存在等並びにそれらの独占性等の多様な諸条件を総合したものであり、将来にわたり他の企業を上回る企業収益を獲得することができるという超過収益力をその内容とするものと解される。
ロ そこで、これを本件支払金についてみると、本件契約書第1条及び第11条によれば、本件支払金は、本件独占販売権及びグロスマージンとコミッションの対価として、支払われるものとされているのであり、G社が保有している本件製品の独占販売店の権利に価値を認めて支払われていることは明らかである。
 また、本件独占販売権は、本件契約書に定める諸条件(第3条、第8条等)により、本件製品を日本国内で独占的に販売することにより稼得することができる将来の収益(グロスマージンとコミッションの配分)をその実質的内容とするものであることからすると、本件独占販売権は、G社が保有している本件製品の独占販売に係る超過収益力を含む権利であり、上記イの営業権(G社の営業権)と認められる。
 そうすると、本件支払金は、結局、消費税法施行令第6条第1項第7号に規定する営業権の取得のための支出金ということができる。
ハ 請求人は、H社が本件独占販売権に基づき、日本国内で営業活動を行い、種々の営業上のノウハウ等を有していたことからすると、本件支払金は、〔1〕H社が使用していた本件独占販売権、〔2〕H社のノウハウ等、〔3〕H社の国内受注残高、〔4〕H社の従業員の引継ぎによる人的価値から構成されるもの(H社の営業権)の対価である旨主張する。
 しかしながら、本件契約書において、H社のノウハウ等は無償で提供すること(第10条)、H社の従業員の採用は請求人の裁量とすること(第16条)で合意されているのであり、さらに、H社の国内受注残高は、将来の本件製品の販売を予定するだけのものであって、全体として、本件独占販売権に基づく超過収益力を構成するものと考えられることからすると、本件支払金は、本件独占販売権(G社の営業権)にその価値を認めて支払われたものであり、本件契約書第11条のとおり、本件独占販売権に係る対価として支払われたものというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(4)国内取引・国外取引の判定

 請求人は、本件独占販売権の取得のために支払った本件支払金は、日本国内の営業権の譲受代金であるところ、本件独占販売権に係る事業を行っていたのはH社であるから、消費税法上の国内取引として課税仕入れに該当する旨主張する。
 しかしながら、当審判所が調査した結果によれば、本件独占販売権は、G社がサプライヤーから取得し、保有している本件製品の独占販売店の権利に基づく一種の実施権を請求人が譲り受けたものであり、G社が本件独占販売権をH社又は請求人に付与することによって、G社自体が本件製品に係る事業を行っていると認められる。
 そうすると、本件独占販売権の譲渡者であるG社の所在地は、E国F州であり、「これらの権利に係る事業を行う者の所在地」はE国国内となるから、本件独占販売権の取得に係る取引は、消費税法上の国外取引となり課税仕入れに該当しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5)本件更正処分

 上記のとおり、請求人の主張には理由がないのであり、本件独占販売権の取得に係る取引が課税仕入れに該当しないなどとして、本件課税期間における消費税等の額を計算すると、次のとおり本件更正処分と同額となることから、同処分は適法である。
イ 課税標準額及び消費税額
本件課税期間の課税標準額は364,231,000円、課税標準額に対する消費税額は14,569,240円であり、請求人が確定申告した金額と同額である。
ロ 控除対象仕入税額
本件課税期間の控除対象仕入税額は、請求人が確定申告した金額20,921,435円から、課税仕入れに該当しないものとして、次の(イ)と(ロ)の額との合計額7,462,221円を差し引いた額13,459,214円である。
(イ)本件独占販売権の取得に係る本件支払金の額195,760,000円に105分の4を乗じて計算した額7,457,524円。
(ロ)課税仕入れの対象としていた商品券等の額123,312円に105分の4を乗じて計算した額4,697円。
ハ 納付すべき消費税額
上記イの課税標準額に対する消費税額14,569,240円から上記ロの控除対象仕入税額13,459,214円を差し引いた額1,110,000円(百円未満切捨て)である。
ニ 譲渡割額(納付すべき地方消費税額)
上記ハの納付すべき消費税額に100分の25を乗じて計算した額277,500円(百円未満切捨て)である。

(6)本件賦課決定処分

 上記(5)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないから、本件賦課決定処分は適法である。

(7)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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