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(平13.11.30裁決、裁決事例集No.62 435頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、過去に消費税の簡易課税制度選択届出書を提出していた免税事業者が、消費税等の還付を受ける目的で課税事業者選択届出書を提出し、本則課税を適用して提出した消費税等の確定申告書について、簡易課税制度を適用した更正処分及び賦課決定処分が適法であるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、駐車場業を営む同族法人であるが、平成10年5月1日から平成11年4月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項の規定(以下、この規定による消費税等の課税を「本則課税」という。)を適用し、別表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を、法定申告期限までに提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、本件課税期間の消費税等について、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項(以下、この規定による特例を「簡易課税制度」という。)を適用すべきとして、平成12年6月30日付で、別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年8月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月10日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年12月7日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成3年12月17日、原処分庁に対し、消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第1項第1号に規定する課税期間の基準期間における課税売上高が3千万円を超えることとなった旨を記載した届出書(以下「課税事業者届出書」という。)及び同法第37条第1項に規定する簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した届出書(以下「簡易課税制度選択届出書」という。)を提出している。
ロ 請求人は、上記イの各届出書に基づき簡易課税制度を適用して、平成4年5月1日から平成5年4月30日まで、平成5年5月1日から平成6年4月30日まで及び平成6年5月1日から平成7年4月30日までの各課税期間の消費税の確定申告書を提出している。
ハ 請求人は、平成7年5月1日から平成8年4月30日までの課税期間の消費税、平成8年5月1日から平成9年4月30日まで及び平成9年5月1日から平成10年4月30日までの各課税期間については消費税等の確定申告書を提出していない。
ニ 請求人は、平成9年12月1日に、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第4項に規定する納税義務の免除の規定を受けない旨を記載した届出書(以下「課税事業者選択届出書」という。)を原処分庁に提出している。
 なお、当該課税事業者選択届出書には、本件課税期間の基準期間の課税売上高は24,007,903円である旨及び適用開始課税期間は本件課税期間からとする旨が記載されている。
ホ 請求人は、平成12年4月28日に、消費税法第9条第5項に規定する課税事業者を選択することをやめようとする旨を記載した届出書(以下「課税事業者選択不適用届出書」という。)を原処分庁に提出している。
ヘ 請求人は、平成12年8月11日に上記ニの課税事業者選択届出書及び本件確定申告書を取り下げる旨の各取下書を、本件更正処分及び本件賦課決定処分に係る異議申立書に添付し、原処分庁に提出している。
ト 請求人は、簡易課税制度選択届出書を提出した日以降、消費税法第37条第2項に規定する簡易課税制度の適用を受けることをやめようとする旨を記載した届出書(以下「簡易課税制度選択不適用届出書」という。)を原処分庁に提出していない。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 請求人は、課税事業者選択届出書を提出した時点において、課税売上高が3千万円以下の消費税等の免税事業者であったが、本件課税期間に設備投資を予定していたので、当該設備投資に係る金額に対する消費税等の負担分の還付を受ける目的で、本則課税を適用して本件確定申告書を提出したものである。
 したがって、消費税等の還付を受けられないのであれば、この課税事業者選択届出書の提出は、自己の意図に反したものとなるので、当該課税事業者選択届出書及び本件確定申告書の取下げを認めるべきであり、これに伴い簡易課税制度を適用した本件更正処分は取り消されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
 請求人は、消費税法第37条及び同法第9条の規定により、簡易課税制度選択届出書及び課税事業者選択届出書を提出しているが、簡易課税制度選択不適用届出書の提出はなく、かつ、本件課税期間の基準期間の課税売上高は2億円以下であるので、簡易課税制度を適用した確定申告書を提出する必要がある。
 したがって、請求人は、本件課税期間の消費税等の確定申告書の提出義務に基づき、本件確定申告書を適法に提出したのであるから、本件確定申告書の取下げを認めることはできない。
 また、請求人が提出した課税事業者選択届出書も適法に提出されたものであるから、この取下げを認めることもできない。
 以上のとおり、本件課税期間の消費税等の本件確定申告書は、簡易課税制度を適用したところにより消費税等の納付すべき税額を計算することとなるので、これに基づき計算すると、次のとおり、本件更正処分の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
イ 課税標準額及び課税標準額に対する消費税額
 課税標準額及び課税標準額に対する消費税額は、本件確定申告書に記載された金額の11,980,000円及び479,200円である。
ロ 控除対象仕入税額及び納付すべき消費税額
 課税仕入れに係る消費税額は、簡易課税制度を適用して算定した金額であるところ、請求人の営む事業は駐車場業であるので、消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項第4号に規定する第五種事業に該当する。
 したがって、仕入れに係る消費税額とみなされる金額(以下「控除対象仕入税額」という。)は、課税標準額に対する消費税額479,200円に100分の50を乗じた金額239,600円であり、納付すべき消費税額は、課税標準額に対する消費税額479,200円から控除対象仕入税額239,600円を差し引いた残額の239,600円である。
ハ 差引納付すべき税額
 差引納付すべき税額は、上記ロの納付すべき税額239,600円に、本件確定申告書に記載された消費税等の控除不足額である還付税額2,431,412円を加算した合計額2,671,000円(百円未満の端数切捨て後)である。
ニ 地方消費税の課税標準となる消費税額
 地方消費税の課税標準となる消費税額は、上記ロの納付すべき税額239,600円と同額である。
ホ 地方消費税の譲渡割額
 地方消費税の譲渡割額は、上記ニの地方消費税の課税標準となる消費税額239,600円に100分の25を乗じて計算した金額59,900円である。
ヘ 差引納付すべき地方消費税の譲渡割額
 差引納付すべき地方消費税の譲渡割額は、上記ホの地方消費税の譲渡割額59,900円に本件確定申告書に記載された地方消費税の譲渡割額還付額607,853円を加算した合計額667,700円(百円未満の端数切捨て後)である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件課税期間の控除対象仕入税額について、簡易課税制度を適用して計算することの適否であるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が提出した課税事業者届出書、簡易課税制度選択届出書、課税事業者選択届出書及び本件確定申告書は、法令の規定に従い正しく記載されて提出されており、適法なものである。
ロ 請求人の本件課税期間の基準期間の課税売上高は、2億円以下である。

(2)関係法令の規定等

イ 消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項では、事業者は、消費税法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除き、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から2月以内に、各号に規定されている事項を記載した消費税等の確定申告書を税務署長に提出しなければならない旨を規定している。
 この確定申告は、租税債務を確定する効果を有するいわゆる私人の公法行為に該当し、いったんなされた以上、これを自ら自由に取り消し、撤回することは許されないと解される。
ロ 消費税法第9条第4項では、同条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる事業者が、その基準期間における課税売上高が3千万円以下である課税期間につき、課税事業者選択届出書を税務署長に提出した場合は、当該課税事業者選択届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間中に国内において行う課税資産の譲渡等については、同条第1項本文の規定は、適用しない旨を、同条第5項では、課税事業者選択届出書を提出した事業者は、同条第4項の規定の適用を受けることをやめようとするときは、課税事業者選択不適用届出書を税務署長に提出しなければならない旨を、同条第6項では、課税事業者選択届出書を提出した事業者は、同条第4項に規定する翌課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、課税事業者選択不適用届出書を提出することができない旨を規定している。
ハ 消費税法第37条第2項では、同条第1項の規定による簡易課税制度選択適用届出書を提出した事業者は、簡易課税制度の適用を受けることをやめようとするときは、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しなければならない旨を、同条第4項では、簡易課税制度選択不適用届出書の提出があったときは、その提出があった日の属する課税期間の末日の翌日以後は、簡易課税制度選択届出は、その効力を失う旨を規定している。

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(3)本件更正処分

 上記1の(3)の基礎事実及び上記(1)の認定事実を上記(2)の関係法令の規定等に照らして判断すると、次のとおりである。
イ 請求人が提出した課税事業者選択届出書及び本件確定申告書は、法令の規定に従い正しく記載され、提出された適法なものである。
 そして、課税事業者選択届出の効力は、課税事業者選択届出書を提出した日である平成9年12月1日の属する課税期間の翌課税期間、つまり本件課税期間から発生するのであり、上記(2)のロのとおり、課税事業者選択不適用届出書を提出しない限り、課税事業者選択届出の効力が失われないことから、消費税法第9条第4項の規定に基づき提出された当該課税事業者選択届出書を自ら自由に取り消し、撤回することは認められない。
 また、本件確定申告書は、租税債権を確定する効果を有する、いわゆる私人の公法行為に該当するので、いったん申告された以上、本件確定申告書を自ら自由に取り消し、撤回することは許されないものである。
 したがって、課税事業者選択届出書及び本件確定申告書の取下げを認めるべきであるとする請求人の主張は、採用することはできない。
ロ 請求人は、原処分庁に対し、平成3年12月17日に課税事業者届出書を提出するととともに簡易課税制度選択届出書を提出しているところ、その後、請求人から簡易課税制度選択不適用届出書が提出された事実は認められず、また、平成9年12月1日に課税事業者選択届出書を提出していることから、請求人が本件課税期間において、消費税等の課税事業者に該当することは明らかであり、かつ、本件課税期間の基準期間の課税売上高は2億円以下であるので、本件課税期間においても、簡易課税制度の適用を受ける事業者であるというべきである。
ハ 以上のとおり、原処分庁が、請求人の本件課税期間の消費税等につき簡易課税制度を適用したことは相当と認められ、かつ、原処分庁の課税標準額及び消費税額等について、上記2の(2)のイからヘの計算はいずれも適正であると認められるので、本件更正処分は適法である。

(4)本件賦課決定処分

 上記(3)のとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるものとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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