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(平13.12.21裁決、裁決事例集No.62 462頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が課税仕入れ等に係る消費税額(以下「仕入控除税額」という。)の計算において採用した消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第2項第1号に規定する方法(以下「個別対応方式」という。)の適用の可否を主な争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成8年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成12年3月13日付で本件課税期間の消費税について別表1の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年5月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月11日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年9月11日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、消費税法第5条《納税義務者》第1項に規定する納税義務者であり、本件課税期間の課税売上割合は、95%未満である。
ロ 請求人及び請求人の子であるHは、Q市R町4丁目33番10のF株式会社に依頼してQ市S町一丁目7番2所在の土地上に地上8階建ての鉄骨造りの建物(以下「本件建物」という。)を建築した。
ハ 本件建物は、平成8年7月27日に新築登記されており、請求人の持分が100分の22、Hの持分が100分の78である。
ニ 本件建物の各部屋は、すべて賃貸を目的としたものであり、その用途は1階から5階までの各階及び8階の一部が店舗又は事務所(以下「事務所等」という。)用、6階及び7階の各階並びに8階の残りの部分がワンルームタイプの共同住宅用である。
ホ 本件建物の貸付けのうち、上記ニの共同住宅の貸付けについては、消費税法第6条《非課税》第1項に規定する別表第1の13の「住宅の貸付け」に該当する。
ヘ 請求人が本件課税期間に行った消費税法第4条《課税の対象》に規定する資産の譲渡等は、本件建物の貸付けのうち、事務所等の貸付けに係るもののほか、Q市T町1丁目19番27に所在する貸ビルのLほかの賃貸収入及び農業収入である。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分
(イ)原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人の関与税理士であるM(以下「M税理士」という。)は、原処分庁所属の調査担当職員に対し、本件建物の建築費(以下「本件建築費」という。)について、〔1〕課税資産の譲渡等にのみ要するもの、〔2〕課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの及び〔3〕課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「共通の資産の譲渡等に要するもの」という。)の区分(以下「本件区分」という。)が明確にできなかったので、本件建物の総床面積に事務所等の床面積が占める割合(以下「本件使用面積割合」という。)により、課税資産の譲渡等にのみ要するものとその他の資産の譲渡等にのみ要するものに区分(以下「課非区分」という。)をした旨述べている。
B 本件建物の設計概要書及び各階平面図によれば、事務所等と共同住宅の構造及び設備には明らかな差異が認められる。
C 本件建物の見積書からは、事務所等と共同住宅の内部造作、駆体、電気設備及びその他の共通設備の課税仕入れについて本件区分を明らかにすることができない。
(ロ)ところで、消費税法第30条第2項は、課税仕入れ等について本件区分が明らかにされている場合には、個別対応方式により課税仕入れ等に係る消費税額を算出することができ、また、課税仕入れ等について本件区分が明らかにされていない場合には、同項第2号に規定する方法(以下「一括比例配分方式」という。)により課税仕入れ等に係る消費税額を算出する旨規定している。
 そして、消費税法基本通達11−2−18《個別対応方式の適用方法》によれば、個別対応方式による仕入れに係る消費税額を計算する場合には、その課税期間中において行った個々の課税仕入れ等について、必ず、本件区分をしなければならない旨定めている。
(ハ)本件建築費の場合、上記(イ)の事実から本件区分が明らかにされているとは認められないので、課税仕入れ等に係る消費税額の計算について個別対応方式により仕入控除税額の計算を行うことはできず、一括比例配分方式によって計算することになる。
(ニ)そうすると、請求人の本件課税期間の消費税の還付金の額に相当する税額は、別表1の「異議決定」欄の「消費税の還付金の額に相当する税額」のとおり737,594円であり、この金額は本件更正処分の消費税の還付金の額に相当する税額782,978円を下回ることから、本件更正処分に違法はない。
ロ 本件賦課決定処分
 上記イで述べたとおり、本件更正処分は適法であり、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないので、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税を賦課決定したことは適法である。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分
(イ)本件建築費については、共通の資産の譲渡等に要するものに該当する課税仕入れ等であるので、消費税法基本通達11−2−19《共通用の課税仕入れ等を合理的な基準により区分した場合》に定める「合理的な基準」として本件使用面積割合により、課非区分した。
 したがって、請求人は本件区分を明らかにしており、個別対応方式により仕入控除税額を計算すべきである。
(ロ)また、本件使用面積割合を用いた場合、本件建物のすべての部屋の床面積の合計に占める事務所等に係る部屋の床面積の合計の割合は73.2%となり、これは本件建物がすべて賃貸された場合の見込み月額賃料の総額のうちに事務所等の貸付けに係る見込み月額賃料が占める割合(72.3%)とほぼ同水準であることから、本件使用面積割合による区分は合理的といえる。
ロ 本件賦課決定処分
 上記イで述べたとおり、本件更正処分はその全部が取り消されるべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその全部が取り消されるべきである。

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3 判断

(1)本件更正処分

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件建築費について、その課非区分を明らかにするために作成した請求人備付けの消費税の計算書類において、本件使用面積割合により課非区分を明らかにしており、これを本件課税期間に係る消費税の確定申告書に添付して原処分庁に提出している。
(ロ)請求人は、本件課税期間における上記(イ)以外の課税仕入れである修繕費、管理費及び雑費についても、本件区分を明らかにしている。
(ハ)また、M税理士は、当審判所に対し「本件建築費のうち、1階から5階までと8階の一部の事務所等の部分は、明らかに、課税資産の譲渡等に要するものと考えていたが、建築代金は請負契約により課税資産の譲渡等に要するものとその他の資産の譲渡等に要するものとを区分して支払っていないことから、本件建築費を課非区分するためには賃貸面積によるあん分が合理的と考え、本件使用面積割合により課非区分をした」旨答述している。
ロ ところで、消費税法第30条第2項は、課税期間における課税売上割合が100分の95に満たない場合において、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れ等につき、本件区分が明らかにされている場合には、仕入控除税額の合計額は、個別対応方式により計算した金額とし、課税仕入れ等につき、本件区分が明らかにされていない場合には、仕入控除税額の合計額は、一括比例配分方式により計算した金額とする旨規定している。
 さらに、消費税法基本通達11−2−19では、共通の資産の譲渡等に要するものに該当する課税仕入れ等であっても、合理的な基準により課非区分することが可能なものについて、その合理的な基準により区分している場合には、その区分計算を認め、それに基づいて個別対応方式が適用できる旨定めている。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は個別対応方式を適用するに当たって、本件建築費について、消費税法基本通達11−2−19に定める合理的な基準として本件使用面積割合で課非区分すべきである旨主張する。
 これについては、請求人が本件建築費の課非区分に当たって採用した本件使用面積割合は、以下の理由により、消費税法基本通達11−2−19に定める合理的な基準であると認められる。
A 事務所等用及び共同住宅用の用途(以下「各用途」という。)に共通して利用される建物については、各用途の使用面積に応じて利用されるので、その建物の利用の実態に応じた、各用途ごとの使用面積割合により、当該建物の建築費を課非区分することは、各用途ごとの建築単価がほぼ同一であれば合理的と認められる。
B 建物の建築費のうち大部分を占める基礎工事、駆体工事、外装工事等の費用については、各用途に共通してかかる費用であり、その1平方メートル当たりの建築単価は同一と認められるので、これらの費用については、各用途ごとの使用面積割合による課非区分が合理的と認められる。
C 原処分庁は、本件建物の設計概要書及び各階平面図によれば、事務所等と共同住宅の構造及び設備には明らかな差異が認められる旨主張する。
 しかしながら、本件建築費の見積額を基に、当審判所において試算したところ、別表2のとおり、〔1〕課税資産(事務所等)の譲渡等にのみ要する金額(31,774,984円)とその他の資産(共同住宅)の譲渡等にのみ要する金額(20,579,609円)との割合(およそ6:4)は、各用途ごとの使用面積(事務所等681.99平方メートル、共同住宅248.75平方メートル)の割合(およそ7:3)と比較して、さほど明確な差異はなく、かつ、〔2〕共通の資産の譲渡等に要する金額(263,745,407円)が、本件建築費の見積額(316,100,000円)のうちの大部分を占めることから、本件建物の建築費全体に対して、本件使用面積割合に基づいてした本件の課非区分は合理的と認められる。
(ロ)原処分庁は、請求人が課税仕入れ等について本件区分を明らかにしていないことを理由に、一括比例配分方式を採用するべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人は、本件建築費を共通の資産の譲渡等に要するものに該当する課税仕入れとした上で、本件使用面積割合により課非区分をしており、本件使用面積割合は上記(イ)のとおり、消費税法基本通達11−2−19に定める合理的な基準と認められることから、本件建築費について、本件区分は明らかにされているものと認められる。
 また、請求人は、上記イの(ロ)のとおり、本件課税期間において本件建築費以外の課税仕入れについても本件区分を明らかにしているので、消費税法第30条第2項第1号の要件に該当し、請求人が、消費税の仕入税額控除の計算において、個別対応方式を適用することは相当と認められる。
ニ 以上のとおり、請求人が採用した個別対応方式は適法と認められ、原処分庁の主張は認められないので、本件更正処分はその全部を取り消すベきである。

(2)本件賦課決定処分

 本件賦課決定処分については、本件更正処分の全部の取消しに伴い、その全部を取り消すベきである。

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