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(平13.8.23裁決、裁決事例集No.62 480頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、阪神・淡路大震災の被災者である審査請求人(以下「請求人」という。)が、新たに取得した居住用家屋の登記申請を行うに当たり、阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(以下「震災特例法」という。)第37条《阪神・淡路大震災の被災者が新築又は取得した建物に係る所有権の保存登記等の免税》第1項の規定(以下「本件免税規定」という。)による登録免許税の免税措置を受けるための書類を登記申請書に添付しなかったとしても、後日、当該書類を提出することにより本件免税規定の適用を受けることができるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年12月22日に、売買を原因として、Q市R町125番地5所在の区分所有建物について、登記の目的を共有者全員持分移転、課税標準の額を8,076,000円及び登録免許税の額を403,800円と記載し、当該登録免許税の額に相当する金額の印紙をちょう付した登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)を原処分庁に提出して、所有権移転の登記(以下「本件登記」という。)を受けた。
ロ 請求人は、平成12年3月24日に、原処分庁に対し、本件免税規定の存在を知らずに登録免許税を納付したから過誤納があるとして、S市長発行の被災者証明書を添付して、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定に基づき、所轄税務署長に還付通知すべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をした。
ハ これに対し、原処分庁は、平成12年4月27日付で還付通知すべき理由がない旨の通知処分をした。
ニ 請求人は、この処分を不服として平成12年5月8日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 請求人が、平成10年12月22日に原処分庁に提出した本件登記申請書には、本件免税規定の適用を受ける旨の記載がなく、かつ、阪神・淡路大震災の被災者であることの証明書(以下「被災者証明書」という。)の添付がないことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

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2 主張

(1)請求人

 請求人は、次の理由により、本件免税規定があることを知らずに登録免許税を納付したのであって、過誤納であるといえるから、原処分庁は所轄税務署長に対し還付通知すべきである。
イ 政府は国民に対し、震災特例法の周知徹底をしなかった。
ロ 請求人は、被災地から遠く離れたところに住んでいたため、人づてにも本件免税規定のことを耳にする機会がなかった。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 不動産登記を申請するには申請書の提出を要し(不動産登記法第35条第1項第1号)、申請書には登録免許税額を記載すべしと定められている(不動産登記法施行細則第38条第1項)。登録免許税法又は租税特別措置法等の規定により登録免許税が免除される場合には、その免除される場合の適用条項を登記申請書に記載する取扱いとされている(昭和42年7月26日民事三発794号法務省民事局第三課長依命通知の記の7)。登録免許税が免除される場合、登記官は登記申請書又は登記申請書に添付された証明書等で免除すべきかどうか審査した上、当該登記申請書を受理するかどうか決定することになる。
 なお、登記申請書に免除等の証明書類を添付しないで登記を受けた者は、その後にその書類を提出して登録免許税の還付を請求することはできない取扱いとされている(昭和42年7月22日民事甲第2121号法務省民事局長通達の記の第1の1の(7))。
ロ 請求人から提出のあった本件登記申請書には、本件免税規定の適用を受ける旨の記載もなく、かつ、適用を受けるものである旨の市町村長の証明書の添付もなかったのであるから、本件免税規定の適用による過誤納を理由とする登録免許税の減免措置は受けられないことは明らかである。
 したがって、本件は、登録免許税法第31条第1項第3号にいう「過大に登録免許税を納付して登記を受けたとき」に該当するものではないので、登記機関から過誤納金としての還付について所轄税務署長へ通知すべき事由はない。

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3 判断

(1)震災特例法第37条第1項は、阪神・淡路大震災の被災者であって政令で定めるもの又はその者の相続人その他政令で定める者が阪神・淡路大震災により滅失した建物又は当該震災により損壊したため取り壊した建物に代わるものとして新築又は取得をした建物で政令で定めるものの所有権の保存又は移転の登記については、大蔵省令で定めるところにより平成7年4月1日から平成17年3月31日までの間に受けるものに限り、登録免許税を課さない旨、また、阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令(以下「震災特例法施行令」という。)第29条《阪神・淡路大震災の被災者が新築又は取得した建物に係る所有権の保存登記等の免税》第1項は、震災特例法第37条第1項に規定する政令で定める被災者は、阪神・淡路大震災によりその所有する建物に被害を受けた者であることにつき、当該建物の所在地の市町村長から証明を受けた者とする旨、さらに、阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則第20条《阪神・淡路大震災の被災者が新築又は取得した建物に係る所有権の保存登記等の免税》第1項は、震災特例法第37条第1項の規定の適用を受けようとする者は、その登記の申請書に、震災特例法施行令第29条第1項の市長村長の証明に係る書類で阪神・淡路大震災によりその所有していた建物に被害を受けた者の氏名及び住所並びに当該建物の所在地の記載があるものを添付しなければならない旨それぞれ規定している。
(2)上記(1)の各規定によれば、被災者証明書を登記申請書に添付しなかった場合には、本件免税規定の適用は受けられないこととなるところ、本件登記申請書には、上記1の(3)のとおり、被災者証明書が添付されていなかったのであるから、本件登記については、本件免税規定の適用はないこととなる。
 そこで、本件登記に係る登録免許税の額を計算すると403,800円となり、この金額は、本件登記時に納付された登録免許税の額と同額であって、本件登記に係る登録免許税の額は適法に算出されていることが認められる。
(3)請求人は、本件免税規定があることを知らずに登録免許税を納付したのであって、過誤納であるといえるから、原処分庁は所轄税務署長に対し還付通知すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件免税規定について請求人が知らなかったとしても、震災特例法には登記申請時に被災者証明書の添付がなかった場合でも本件免税規定の適用を受けることができるとするゆうじょ規定は存在しないから、請求人の主張には理由がない。
(4)以上のとおり、本件登記に係る登録免許税の課税標準の額及び税額の計算は適法になされており、過誤納の事実はないから、本件還付通知請求に対して、還付通知をすべき理由がないとした原処分は適法である。
(5)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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