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(平14.12.2裁決、裁決事例集No.64 17頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、医療法人の理事長であって不動産貸付業等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が提出した消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書に基づき、原処分庁が消費税等をいったん還付した後に増額の更正処分をしたことが信義誠実の原則(以下「信義則」という。)に反するか否か並びに当該申告書に記載した税額が過少となったことに国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があったか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年1月1日から平成10年12月31日までの課税期間の消費税等について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までに申告した。
 これに対し、原処分庁は、平成13年3月9日付で、次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

ロ 請求人は、本件更正処分等について、平成13年5月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月30日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年8月30日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成元年9月29日、「消費税課税事業者届出書」及び「消費税簡易課税制度選択届出書」を原処分庁に提出し、その後、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」は提出していない。
ロ 請求人は、昭和64年1月1日から平成元年12月31日まで、平成2年1月1日から平成2年12月31日まで及び平成3年1月1日から平成3年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成元年課税期間」、「平成2年課税期間」及び「平成3年課税期間」という。)については、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定(以下、同項に規定する控除の方法を「簡易課税」という。)を適用した確定申告書を原処分庁に提出した。
ハ 請求人は、平成4年1月1日から平成4年12月31日まで、平成5年1月1日から平成5年12月31日まで、平成6年1月1日から平成6年12月31日まで及び平成7年1月1日から平成7年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成4年課税期間」、「平成5年課税期間」、「平成6年課税期間」及び「平成7年課税期間」という。)については、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定により、消費税の納税義務が免除され、確定申告書を提出していない。
ニ 請求人は、平成8年1月1日から平成8年12月31日まで、平成9年1月1日から平成9年12月31日まで、平成10年1月1日から平成10年12月31日まで及び平成11年1月1日から平成11年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成8年課税期間」、「平成9年課税期間」、「平成10年課税期間」及び「平成11年課税期間」という。)については、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する控除の方法(以下「本則課税」という。)により計算した確定申告書を原処分庁に提出した。
ホ 請求人は、平成8年課税期間について、還付すべき消費税額を1,598,964円と記載した確定申告書を原処分庁に提出し、原処分庁は、同申告書に基づいて、1,598,964円を還付した。
ヘ 請求人は、平成9年課税期間について、消費税等の合計納付税額を3,169,000円と記載した確定申告書を原処分庁に提出した。
ト 請求人は、平成10年課税期間について、消費税等の合計還付税額を17,912,053円と記載した確定申告書を原処分庁に提出し、原処分庁は、同申告書に基づいて、17,912,053円を還付した。
チ 請求人は、平成11年12月28日に「消費税簡易課税制度選択届出書」を原処分庁に提出した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)調査手続
 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)において、本件調査に係る担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、何ら調査の終了の意思表示を行わず、修正申告のしょうようを示す言葉もなく、かつ、電話での態度からもしょうようの感じは全く受けなかったのに、突然本件更正処分を行ったことは、納税者の税務当局への信頼を裏切る行為であり違法である。
(ロ)信義則の法理の適用
 次の事実から、本件更正処分は信義則に反する。
A 平成9年2月初めころ、請求人の関与税理士であるK税理士(以下「K税理士」という。)事務所の事務員が、請求人の消費税の申告方式について、原処分庁の総務課に電話で確認したところ、原処分庁が本則課税である旨答えたことは、公的見解を表示したことになる。
B 請求人は、申告方式が不明のままの消費税の申告は不可能であり、絶対にあり得ないことから、原処分庁の本則課税である旨の回答により、本則課税の申告を行ったものであり、請求人が本則課税であることを信じたことに対し、責められる事由はない。
C 請求人は、原処分庁からの本則課税である旨の回答に基づき、平成8年課税期間から平成11年課税期間までの4年間連続して、本則課税により消費税等の申告を行ってきた。
 原処分庁は、平成8年課税期間及び平成10年課税期間に消費税等の還付を行っているが、税額の還付という行為は、納税額の収納という事実と違って税務官庁の能動的立場となり、少なくとも還付請求に対する形式的な審査、他の国税への充当の可否等を検討した上で、慎重に支払決定がなされるものである。つまり、還付の事実は、少なくとも納税者の本則課税による申告に強い確信を与えるものであり、原処分庁の納税者に対する公的見解と同じ重みを持つものである。
D 原処分庁は、平成8年課税期間及び平成10年課税期間について申告どおりに還付を行い、また、本件調査の中途まで本則課税を前提とした質問を行いながら、それに反する本件更正処分等を行った。
E 請求人が本則課税であると確信した次の事実がある。
(A)消費税等においては、還付申告に対して、本則課税の選択が絶対的前提条件であるのに、請求人が提出した平成8年課税期間の本則課税に基づく還付申告に対し、原処分庁は何らチェックもせず還付している。
 また、この時点で、原処分庁から本則課税方式は誤りで簡易課税方式が正しいとの指摘があれば、この年に「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出することで、平成10年以降、本則課税が選択でき、請求人の利益は守られたはずである。
(B)請求人は、その後の平成9年課税期間から平成11年課税期間まで連続して本則課税で申告しているにもかかわらず、原処分庁からは簡易課税であるとの指摘がなかった。
 特に、平成10年課税期間は17,912,053円の高額な還付申告であったにもかかわらず、平成8年課税期間の還付より10日程度早く振り込まれている。
(C)通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項には、更正や賦課決定は3年間という期間制限が定められているにもかかわらず、原処分庁は更正の期間制限を超える4年間も放置した結果、請求人の平成8年課税期間の消費税の還付額を回収できなくなった。このことは、原処分庁が請求人の申告方式を本則課税と認識していたことを意味するものである。
(D)調査担当職員は、本件調査初日に、平成8年課税期間に関して本則課税を前提とした質問を行っており、ここでも本則課税を認めている。
F 請求人には何ら責めに帰すべき事由がないから、課税の公平・平等の点から、請求人の信頼を保護すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 平成10年課税期間の消費税等について、本則課税の方法により計算し、申告したことに対し、前記イの(ロ)のEのとおり、通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由が存在するので、本件賦課決定処分は違法な処分である。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)調査手続
 本件調査に当たり、調査担当職員は、調査結果をK税理士に対して電話で説明し、修正申告のしょうようを行っており、K税理士の消費税については納得していない旨の返事を確認した上で、本件更正処分を行ったものである。
 仮に、調査担当職員が、請求人に対して消費税等の修正申告のしょうようを全く行うことなく更正処分をしたとしても、更正処分を行う前に修正申告をしょうようしなければならない法令の規定はないので、違法な処分に当たらないことは明らかである。
(ロ)信義則の法理の適用
A 原処分庁が、K税理士が請求人の税務代理行為を行うこととなった事実を把握できるのは、平成8年課税期間に係る消費税の確定申告書が提出された日以降であるが、それ以前に、請求人から税理士法第30条《税務代理の権限の明示》の規定に基づく委任状を提出された事実はない。
 そうすると、原処分庁は、税務代理行為を委任されているかどうかを確認できない税理士からの質問に対して回答することはなく、また、平成9年2月ころ、K税理士事務所の担当者から、請求人の消費税の申告方式について、電話による問い合わせがあった事実は確認できない。
B 前記Aのとおり、公的見解を示した事実が認められない以上、請求人がその公的見解を信頼したとの主張には理由がない。
C 納税申告は、納税者が所轄税務署長に確定申告書を提出することによって完了する通知行為であり、税務署長による確定申告書の受理及び税金の収納又は還付は、当該申告書の申告内容を是認することを何ら意味するものではない。
 また、簡易課税の選択を不適用とするか否かは、消費税法第37条第2項の規定により、その納税者の届出により効力が生じるものであり、本則課税の申告書の提出をもって、簡易課税の選択を不適用とする届出をしたものと解し得るものではない。
 納税申告は、納税者自らの判断と責任において行うものであり、税務署長は、通則法第24条《更正》により、確定申告書に記載された課税標準等又は税額等が法律の規定に従っていなかったときは課税処分をすることができるのであって、納税者が自らの意思で提出した確定申告書が誤っている場合、その旨を速やかに納税者に対して連絡しなければならない旨を定めた法令の規定はない。
D 前記A及びCのとおり、電話による問い合わせに対し、請求人の申告方式を回答したとは到底考えられず、また、還付請求の申告に対する還付の事実がいわゆる公的見解の表示には当たらないことは明らかであることから、原処分庁は本件調査に至るまで、請求人に対し何ら公的見解を表示していない。
E 原処分庁が請求人に対して公的見解を示したのは、本件調査が初めてであり、また、調査担当職員は、請求人の申告方式の誤りを調査の過程において明確に指摘していることから、本件更正処分により請求人が被った不利益が保護に値するものとは認められない。
F 原処分庁において、確定申告書に係るチェックの遅れ、本則課税に係る還付金額の還付及び平成11年課税期間の確定申告書の本則課税用の送付については、事務処理が適切でなかったことは認めるが、平成10年課税期間の確定申告書は簡易課税用の申告書を送付しており、原処分庁が請求人の申告方式を簡易課税であるとして管理していたことは議論の余地はない。
G 前記C、E及びFのとおり、請求人の信頼を保護すべき特段の事情があるとまでは認められない。
H 信義則の法理の適用は、租税法律関係においては慎重に判断されるべきであり、租税法規の適用における納税者間の平等、課税の公平という要請を犠牲にしてもなお、課税を免れしめて請求人を保護しなければ正義に反すると言えるような特別な事情が存在する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきであると解されており、本件更正処分に関する事実関係のすべてをもって総合的に判断しても、本件更正処分において、請求人に対して信義則の法理の適用を考えるほどの特別な事情は存在しないことは明白である。
(ハ)課税標準額等
 請求人の平成10年課税期間の消費税等の課税標準額及び納付すべき税額(以下「課税標準額等」という。)については、請求人から提示された帳簿書類に基づき、次のA及びBにより次表のとおり算定した。
なお、請求人は、平成元年9月29日に消費税法第37条第1項に規定する「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しており、その後、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出していないので、納付すべき税額を算定するに当たり、仕入れに係る消費税額の控除については、簡易課税制度が適用されることとなる。

A 請求人の平成10年課税期間の事業、不動産貸付及び譲渡に係る税込課税売上金額は、売上日報、レジペーパー、請求書控、普通預金通帳等原始記録を検討した結果、次表のとおりとなる。
 なお、請求人の総収入金額には、消費税法上の非課税取引及び免税取引は認められない。

B 請求人の課税標準額等は、次のとおり算定した。
(A)課税標準額は、前記Aの税込課税売上金額の合計額に105分の100を乗じた金額(千円未満切捨て)である。
(B)課税標準額に対する消費税額は、前記(A)の課税標準額に100分の4を乗じた金額である。
(C)請求人は、簡易課税の適用を受ける旨の届出書を平成元年9月29日に提出しており、〔1〕平成10年課税期間の基準期間の課税売上高は2億円以下である、〔2〕平成10年課税期間における請求人の営む事業は、生花小売業が第2種事業、生花アレンジ事業が第3種事業、喫茶店業、雑収入(従業員の食事負担金収入)及び備品等の譲渡収入が第4種事業、不動産貸付収入が第5種事業に該当することから、請求人の平成10年課税期間の控除対象仕入税額は、次表のとおりとなる。

(D)地方消費税の課税標準となる消費税額及び納付すべき譲渡割額は、次のとおりである。
a 地方消費税の課税標準となる消費税額は、課税期間の消費税額から控除対象仕入税額を控除した金額(百円未満切捨て)で、2,194,200円となる。
b 地方消費税の納付すべき譲渡割額は、地方消費税の課税標準となる消費税額に100分の25を乗じた金額(百円未満切捨て)で、548,500円となる。
(E)平成10年課税期間の消費税額及び地方消費税額の合計税額(納付すべき税額)は、1,094,500円となる。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分について、本件更正処分により増加した税額の基礎となった事実には、通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
 また、過少申告加算税の額は、通則法第65条第1項及び第2項の規定に従い正しく計算されており、相当である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件更正処分が信義則に反するか否か、平成10年課税期間の消費税等の確定申告が過少申告となったことに正当な理由があるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 調査手続
 請求人は、調査担当職員が何ら調査の終了の意思表示及び修正申告のしょうようもせず、突然更正処分を行ったことは違法である旨主張する。
 しかしながら、納税者に対して調査経過及び調査結果を説明しなければならない旨を定めた法令の規定はないから、調査担当職員が請求人に対し、本件調査の終了の意思表示及び修正申告のしょうようをせずに更正処分を行ったとしても違法ではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 信義則の法理の適用
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所が調査した結果によれば、次の事実が認められる。
A K税理士は、当審判所に対し、請求人の税務代理を引き受けたのは平成8年分の申告からであり、その際、以前の関与税理士とは消費税の申告方式について引継ぎを行っていない旨答述している。
B また、K税理士は、当審判所に対し、電話による問い合わせに対する原処分庁からの回答は口頭であり、メモ等の証拠はない旨答述している。
C 原処分庁の総務課及び個人課税部門において、請求人の主張する電話による照会に回答した事実は確認できない。
D 原処分庁では、本件のような消費税等の申告方式を調べるには、原処分庁が保管する「消費税届出書関係つづり」により確認するか、又は、コンピュータに入力された届出書の内容を、コンピュータの画面で確認するかのいずれかの方法しかない。
E 平成9年2月ころの「消費税届出書関係つづり」には、請求人に関して、「消費税課税事業者届出書」及び「消費税簡易課税制度選択届出書」しか編てつされていなかったことが認められる。
(ロ)信義則の法理
 租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係の下においては、租税法規に適合する課税処分について、法の一般原則である信義則の適用により、課税処分を取り消すことができる場合があるとしても、その法理の適用について慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、課税の公平という要請を犠牲にしても、なお当該課税処分に係る課税を免れて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情がある場合に、初めて、この法理の適用の是非を考えるべきものと解される。
 そして、特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、〔1〕課税当局が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、〔2〕納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、〔3〕その後に上記表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、〔4〕納税者が課税当局の上記表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという考慮は不可欠のものといわなければならないと解されている。
(ハ)「公的見解」の事実の有無
A 請求人は、原処分庁が請求人に対し、消費税の申告方式を本則課税であるとの公的見解を表示した旨主張する。
 しかしながら、〔1〕前記1の(3)のイのとおり、請求人は、「消費税課税事業者届出書」及び「消費税簡易課税制度選択届出書」を原処分庁に提出し、その後、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」は提出しておらず、〔2〕前記(イ)のCのとおり、原処分庁が請求人に対して電話で回答した事実を確認することはできず、〔3〕前記(イ)のBのとおり、請求人には、原処分庁からの回答があったという証拠はなく、〔4〕仮に、原処分庁が回答したとしても、前記(イ)のD及びEのとおり、本則課税という回答をする根拠がないことを総合勘案すると、原処分庁が請求人に対して、請求人の消費税の申告方式を本則課税であるとの公的見解を表示したと認めることはできない。
B また、請求人は、原処分庁からの回答に基づき、平成8年課税期間から平成11年課税期間まで、本則課税により申告を行い、そのうち、平成8年課税期間及び平成10年課税期間について、原処分庁は、請求人の確定申告に基づいて還付を行っており、その還付の事実は原処分庁の請求人に対する公的見解と同じ重みを持つものであると主張する。
 確かに、原処分庁は、請求人の申告方式を簡易課税であると管理していたことから、平成8年課税期間及び平成10年課税期間の消費税等の申告において、本則課税という申告方式が誤っていること及び控除税額の計算上、返還等対価に係る税額、貸倒れに係る税額等がないから、還付金額が生じる要素がないことは容易に把握できたはずである。それにもかかわらず、原処分庁は、請求人から提出された本則課税の申告方式が誤りであることを看過して確定申告書に記載された還付金額を還付し、また、平成9年課税期間の本則課税の申告方式にも何ら指摘を行っていないことが認められ、これら原処分庁の一連の行為は、不適切であったといわざるを得ない。
 しかしながら、消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項第5号に規定する消費税の還付を受けるための申告書が提出された場合、消費税法第52条《仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付》第1項は、税務署長は、これらの申告書を提出した者に対し、当該不足額に相当する消費税を還付する旨規定し、これを受けて、消費税法施行令第64条《仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付の手続》においては、税務署長は、当該不足額が過大であると認められる事由がある場合を除き、遅滞なく、還付等の手続をしなければならない旨規定している。この消費税法施行令第64条の規定は、還付金が過大であると認められる事由がある場合は、その場合を同条の取扱いから除外する趣旨と認められることから、同条は、確定申告書に記載された還付金が正当でなければ還付等の手続をしてはならない旨を規定したものではなく、納税者から還付を求める旨の申告書の提出があった場合には、税務署長は、遅滞なく、還付等の手続をしなければならないことが原則であることを前提とした上で、還付金が過大であると認められる事由がある場合には、その例外として、還付等の手続をしないことができる旨を規定したものと解すべきである。
 そうすると、本件において、原処分庁は、請求人が提出した還付を求める旨の平成8年課税期間及び平成10年課税期間の消費税等の確定申告書に基づき、申告方式に誤りがあることを看過して、消費税法第52条第1項の規定に従って還付したものにすぎず、原処分庁が調査に基づいて当該申告書の計算が正当と認めたから還付したものということはできない。
 したがって、当該還付は、事実行為以上のものではなく、当該申告書の記載内容が適正であると認める旨の公的見解を表示したものではないことは明らかである。
(ニ)以上のとおり、原処分庁が、請求人に対し、信義則の法理を適用する場合の要件の一つである公的見解を表示したと認めることができない以上、その他の要件を判断するまでもなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ハ 本件更正処分の適否
 前記イ及びロのとおり、請求人の主張には理由がなく、原処分庁が請求人の平成10年課税期間の消費税等について簡易課税を適用したことは相当であり、かつ、前記2の(2)のイの(ハ)の原処分庁の課税標準額等の計算は適正であると認められるので、本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

 請求人は、平成8年課税期間の本則課税に基づく還付申告に対し、原処分庁から本則課税は間違いである旨の指摘があれば、この年に「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出することで、平成10年課税期間以降は本則課税が選択でき、請求人の利益は守られたはずであり、本則課税で申告したことには通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるので、過少申告加算税は賦課すべきではない旨主張する。
 ところで、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものとは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことなどにより申告当時適法と見られた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意又は過失に基づかないで過少申告となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものに限られており、単に過少申告が納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合には、これに該当しないものと解されている。
 これを本件についてみると、原処分庁は、平成8年課税期間及び平成10年課税期間の消費税等の申告において、請求人から提出された本則課税の申告方式が誤りであることを看過して申告書に記載された還付金額を還付し、また、平成9年課税期間の本則課税の申告方式にも何ら指摘を行っていないことが認められるものの、これらの行為が原処分庁において当該課税期間の本則課税の申告方式が適正であると認める旨表示したものではないことは、前記(1)のロの(ハ)のBで認定したとおりである。また、請求人は、〔1〕前記1の(3)のイのとおり、「消費税課税事業者届出書」及び「消費税簡易課税制度選択届出書」を原処分庁に提出し、その後、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」は提出しておらず、〔2〕前記1の(3)のロのとおり、平成元年課税期間から平成3年課税期間までは簡易課税制度を適用した確定申告書を原処分庁に提出していることから、申告方式については十分熟知していたことが推定される。さらに、関与税理士が交代する場合には、新たな関与税理士は以前の関与税理士又は納税者から各種届出書の提出状況や申告方式等について確認することが一般的であると考えられるが、前記(1)のロの(イ)のAのとおり、K税理士は、消費税の申告方式について、以前の関与税理士に確認していないことが認められる。
 以上の事実を総合して判断すると、請求人は、平成8年課税期間の消費税の申告方式を誤って本則課税として申告し、原処分庁が当該課税期間の消費税を還付したことをもって直ちに申告方式が適正であると認められたと誤解したために、平成9年課税期間以降すなわち平成10年課税期間の消費税等の申告においても申告方式を誤り又は誤ったまま申告したと認めるのが相当であるから、正当な理由があるとは認められない。
 したがって、前記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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