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(平14.11.22裁決、裁決事例集No.64 78頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の譲渡所得について、譲渡した資産が買換資産であったことを知らなかったこと等の理由から、原処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、P市Q町○番○に所在する土地242.00平方メートル(以下「本件土地」という。)及び建物137.05平方メートル(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件譲渡資産」という。)を譲渡し、当該譲渡に係る譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額の計算上、本件土地の取得費を43,500,000円であるとして平成12年分の所得税の確定申告書(分離課税用)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに提出した(以下、この申告書を「本件申告書」という。)。
ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁に所属する職員の調査の結果に基づき、本件土地の取得費に誤りがあるとして、平成13年12月25日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成14年2月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月16日付で別表1の「異議決定」欄のとおり、原処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定により一部取り消された後の更正処分を「本件更正処分」といい、異議決定により一部取り消された後の過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成14年6月14日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 租税特別措置法(昭和55年法律第9号による改正前のものをいい、以下「旧措置法」という。)第37条の3《買換えに係る特定の事業用資産の譲渡の場合の取得価額の計算等》第1項(以下「本件規定」という。)は、同法第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》第1項の規定(以下「本件特例」という。)の適用を受けた者が当該買換資産を譲渡した場合において、譲渡所得の金額を計算するときの当該買換資産の取得価額は、譲渡による収入金額が買換資産の取得価額を超えるときは、当該譲渡した資産の取得価額及び譲渡費用の額の合計額のうち、その超える額に対応する部分以外の部分の額として政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定し、そして旧措置法施行令第25条の2《買換えに係る特定の事業用資産の譲渡の場合の取得価額の計算等》第4項は、旧措置法第37条第1項第1号に規定する超える額に対応する部分以外の部分の額として政令で定めるところにより計算した金額は、譲渡資産の取得価額及び譲渡費用の額の合計額に買換資産の取得価額が譲渡資産の収入金額のうちに占める割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ロ また、所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定し、そして同条第2項は、譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、同条第1項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間に係る減価の額を控除した金額とする旨規定している。
ハ そして、所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項は、居住者が相続(限定承認に係るものを除く。)により取得した譲渡所得の基因となる資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件譲渡資産は、請求人が平成8年6月21日に請求人の父K(以下「K」という。)から相続により取得したものである。
ロ 本件申告書に添付された「譲渡所得の内訳書(計算明細書)」と題する書面(以下「本件内訳書」という。)には、要旨次の記載がある。
(イ)本件譲渡資産の譲渡価額は74,000,000円である。
(ロ)本件土地は、昭和55年5月30日にLからKが43,500,000円で取得したものである。
(ハ)本件譲渡資産の譲渡に要した費用は2,439,000円である。
ハ 請求人が原処分庁に提出した本件譲渡資産の取得に係る領収証等によれば、次のとおりである。
(イ)本件土地の取得価額は45,272,000円である。
(ロ)本件建物の取得価額は18,957,800円であり、また、昭和56年6月11日に申請された本件建物の所有権登記申請書には、登録免許税として33,700円の記載がある。
ニ Kを甲、M株式会社を乙とする昭和54年1月5日付の不動産売買契約書には、要旨次の記載がある。
(イ)甲は地主の借地権譲渡の承諾を得て、乙に下記(ロ)の物件を譲渡する。
(ロ)譲渡物件は、R市S町○番地に所在する家屋番号○番○○号の店舗兼居宅1棟及び同所S町○番○号宅地のうち、60.37平方メートルの借地権(以下、店舗兼居宅と併せて「本件S町借地権等」という。)である。
(ハ)本件S町借地権等の譲渡価額は65,000,000円である。
(ニ)甲が地主に支払う本件S町借地権等譲渡の承諾料金8,000,000円のうち3,000,000円は、乙の負担とする。
(ホ)不動産売買契約書には、30,000円の収入印紙がちょう付されている。
ホ 請求人が、上記ニの譲渡に関して原処分庁に提出した経費の領収証は、次のとおりである。
(イ)N株式会社が発行した領収証には、要旨次の記載がある。
A 領収日付は昭和54年1月22日である。
B 上記ニの(ニ)に記載した本件S町借地権等の名義書換料に係る領収証である。
C 金額は8,000,000円である。
(ロ)弁護士Tが上記ニの不動産売買契約の締結報酬として発行した領収証の日付と金額は、次のとおりである。
A 昭和54年1月13日 1,000,000円
B 昭和54年1月22日 1,500,000円
ヘ 請求人の母であり、Kの配偶者であるUは、異議申立てに係る調査担当者に対して、本件S町借地権等の譲渡に係る申告についてはKと共に昭和54年分所得税の確定申告の相談を行い、本件S町借地権等は貸付用であったため、買換資産として貸付物件を取得することとし、その上で本件土地を買換資産として本件特例を適用して申告した旨申述している。
 また、請求人は、昭和54年分所得税の申告時及び本件譲渡資産を譲渡した時においては、Uと同居していた旨申述している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人の本件譲渡資産に係る譲渡所得の申告は、譲渡所得の金額の計算上控除される本件土地の取得費が本件S町借地権等の取得価額を引き継ぐという本件規定について、Kも知らなかったと思われ、かつ、請求人も知らされていなかった。
 そのため、本件申告書において、譲渡所得の金額の計算上、本件土地の実際の取得費を控除したことは、いわば法律上の悪意ではなく、善意の結果に基づくものであり、これらのことを考慮に入れずにされた原処分は違法である。
 また、請求人には同人の母と姉の老後の生活の面倒をみるという経済上の理由があることをも考慮すべきである。
 これらのことから、刑事事件と同様にそのときの状況や事情を考慮し、情状酌量により、原処分の全部を取り消すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 請求人は、上記イのとおり、本件土地が買換資産であること、また、本件土地の譲渡時に、引継価額を基に譲渡所得の金額が計算されることも知らなかったのであり、いわば法律上の悪意ではなく善意の結果であるから、本件賦課決定処分は違法であるので取り消すべきである。
ハ 延滞税について
 延滞税は、請求人の前住所地の所轄税務署であるW税務署の調査担当者が、請求人に本件申告書の計算誤りを指摘した平成13年6月の時点を起算日として計算すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分
(イ)請求人の主張について
A 請求人は、本件譲渡所得の金額の計算上、取得費を適正に申告できなかったのは、法律上の善意によるものである旨主張する。
 しかしながら、本件土地は、Kが本件特例を適用した買換資産であり、請求人が相続により取得した土地であることから、本件譲渡所得の金額の計算上取得費として控除することができるのは、いわゆる引継価額であり、本件土地の取得費は7,545,905円である。
B また、請求人は、同人の経済的事情を考慮すべきであるとも主張する。
 しかしながら、請求人の主張する当該理由により法令の適用が左右されるものではない。
 したがって、本件譲渡所得の金額の計算は、法令に従って算出されることとなるから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)本件更正処分について
 請求人の平成12年分の所得税の納付すべき税額は2,151,900円となるから、これと同額で行った本件更正処分は適法である。
A 総所得金額
 本件申告書に記載された金額と同額の1,731,680円である。
B 特別控除後の長期譲渡所得金額
(A)収入金額
 本件内訳書に記載された金額と同額の74,000,000円である。
(B)取得費
 請求人は、本件譲渡資産をKから相続しているところ、上記1の(3)のハのとおり、本件譲渡資産に係る取得価額は、Kが取得した金額を引き継ぐことになるから、本件譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、次のd及びfの合計金額16,470,011円である。
a 本件土地(取得価額を引き継いだ資産)の実際の取得価額
 別表2の取得価額引継整理票に記載されたΑ欄の金額45,499,430円である。
b 本件S町借地権等(取得価額が引き継がれた資産)の譲渡価額
 上記1の(4)のニの(ハ)に記載した金額65,000,000円である。
c 本件S町借地権等(取得価額が引き継がれた資産)の譲渡に係る費用
 上記1の(4)のニの(ホ)に記載した不動産売買契約書にちょう付されている収入印紙代30,000円と上記1の(4)のホの(イ)及び(ロ)に記載したKが負担すべき承諾料5,000,000円及び売買契約締結の報酬2,500,000円の合計金額7,530,000円である。
d 本件土地が引き継いだ価額
 上記aからcの各価額を基に、上記1の(3)のイの法令に照らして本件土地が引き継いだ価額を算出すると、次の算式のとおり7,545,905円である。
(上記bの金額)     (※) (上記cの金額)
(65,000,000円×5%+7,530,000円)
×((上記aの金額)45,499,430円÷(上記bの金額)65,000,000)=(本件土地が引き継いだ価額)7,545,905円
※ 旧措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項の規定に基づく割合である。
e 本件譲渡資産(取得価額を引き継いだ資産)のうち建物の取得価額
 上記1の(4)のハの(ロ)に記載した建物の取得価額18,957,800円と登録免許税の額33,700円の合計金額18,991,500円である。
f 本件建物の取得費
 上記eの本件建物の取得価額18,991,500円から次の計算による減価償却費相当額10,067,394円を控除した8,924,106円である。
  (本件建物の取得価額) (償却率) (経過年数) (減価償却費相当額)
18,991,500円×0.9×0.031×19年=10,067,394円
(C)譲渡費用
 本件内訳書に記載された金額と同額の2,439,000円である。
(D)特別控除額
 租税特別措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項に規定する金額30,000,000円である。
(E)特別控除後の長期譲渡所得の金額
 上記(A)の収入金額から上記(B)の取得費、(C)の譲渡費用及び(D)の特別控除額を控除した金額25,090,989円である。
C 所得控除の合計額
 本件申告書に記載された金額と同額の1,299,697円である。
D 課税長期譲渡所得金額の税率
 租税特別措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項第1号の規定により10%である。
E 定率減税額
 経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成11年3月31日法律第8号)第6条《定率による税額控除の特例》第2項の規定により、限度額の250,000円である。
F 源泉所得税
 本件申告書に記載された金額と同額の150,186円である。
ロ 本件賦課決定処分
 請求人は、本件土地は相続により取得したものであり、本件特例を適用していたことは知らされていなかった旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)のBのとおり、本件譲渡所得の金額の計算は法令の規定に従い算出されること、また、上記1の(4)のヘの事実によれば、請求人と同居している請求人の母は、本件土地が本件特例を適用して取得したことを認識しており、請求人は確認することが可能であったと認められる。
 したがって、請求人の場合、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定により行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 請求人は、本件土地が買換資産であることは知らなかった事情及び経済上の理由があるから、刑事事件と同様に情状酌量によって、原処分の全部を取り消すべきである旨主張する。
 請求人の主張する情状酌量とは、刑法第66条《酌量減軽》における「犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる」の規定を念頭に置いたものと考えられる。
 ところで、所得税法及び租税特別措置法を含む租税法は、課税要件が充足されている限り、税務行政庁には租税の減免の自由はなく、また徴収をしない自由もなく、法律で定められたとおりの税額を徴収しなければならないとされている。
 これを本件についてみると、課税標準たる本件譲渡所得の金額については、所得税法及び租税特別措置法の規定に基づいて、本件譲渡所得の金額に係る譲渡収入金額、取得費及び譲渡費用の額が算定されていることから、原処分は適法である。
 よって、請求人の主張には理由がない。

(2)本件賦課決定処分について

 請求人は、本件土地が買換資産であること及び取得費は引継価額を基に計算することを知らなかったのであるから、本件賦課決定処分は違法である旨主張する。
イ ところで、通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正により納付すべき税額を基礎として過少申告加算税を賦課する旨規定している。
 そして、過少申告加算税の賦課対象から除かれる場合としては、通則法第65条第4項において修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合と規定し、同項にいう「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けた場合や、災害又は盗難等に関し、申告当時損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けたため、修正申告をし又は更正処分を受けた場合など、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により過少申告となった場合のように、納税者の責めに帰せられない真にやむを得ない理由がある場合などがこれに当たり、単に過少申告が納税者の税法の不知若しくは誤解に基づく場合には、これに当たらないとされている。
ロ これを本件についてみると、本件更正処分は、請求人が本件確定申告書の提出に当たり、本件譲渡所得の金額の計算上、本件土地の取得費に誤りがあったことに基因し、かつ、当該誤りを是正するために行われたものであって、当初適正であった申告につきその後の事情の変更により過少申告となったことによりされたものではないことは明らかであり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある場合には該当しないというべきである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3)延滞税について

 請求人は、延滞税の計算の起算日を、請求人の前住所地の所轄税務署であるW税務署の調査担当者が、請求人に本件申告書の計算誤りを指摘した平成13年6月の時点とすべきである旨主張する。
 しかしながら、延滞税は、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第6号に掲げる納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であり、その確定に際し、同法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分は、何らなされていない。
 したがって、請求人の主張は、審査請求の対象となる処分の存在を欠く不適法なものである。

(4)その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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