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(平14.12.4裁決、裁決事例集No.64 90頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)の税額が法定申告期限内に納付され、これに係る確定申告書が法定申告期限後に提出された場合においてなされた無申告加算税の賦課決定処分の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成11年7月1日から平成12年6月30日までの課税期間に係る消費税等(以下「本件消費税等」という。)について、法定申告期限内の平成12年8月30日にその税額である49,581,900円を納付し、これに係る確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限後の同年10月2日に原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、本件確定申告書の提出が期限後申告書の提出に当たるとして、平成13年7月6日付で国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第3項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》に基づき、無申告加算税の額を2,479,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成13年8月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月28日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして平成13年12月27日に審査請求をした。
ホ なお、請求人は、平成14年8月31日に解散し同年9月13日に解散の登記をした。

(3)関係法令

イ 通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第1項は、国税を納付する義務が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定される旨規定し、同法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項は、国税についての納付すべき税額の確定の手続については、申告納税方式と賦課課税方式があり、このうち申告納税方式とは、同項第1号で、納付すべき税額が納税者のする申告により確定する方式をいう旨規定している。
ロ 通則法第34条《納付の手続》第1項は、国税の納付の手続について、国税を納付しようとする者は、その税額に相当する金銭に納付書を添えて、これを納付しなければならない旨規定している。
ハ 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該申告に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同法第66条第1項ただし書においては、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合には、無申告加算税を課さない旨規定している。また、同条第3項は、当該期限後申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときは、同条第1項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。
ニ 消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から2月以内に、課税資産の譲渡等に係る課税標準額、課税標準額に対する消費税額、消費税額から控除されるべき同法第32条《仕入れに係る対価の返還等を受けた場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項第1号に規定する仕入れに係る消費税額を控除した残額に相当する消費税額を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない旨規定している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により不当であるから、その取消しを求める。
イ 通則法第66条第1項ただし書の「正当な理由」については、旧所得税基本通達「518」において、〔1〕交通、通信の途絶、〔2〕通信機関の事故、〔3〕納税義務者が申告時に重患等のほか、〔4〕その他宥恕すべき特別の事情があった場合とされ、おおむね不可抗力又はそれに準ずるような事情がある場合と解されており、大阪地方裁判所昭和43年4月22日判決(昭和40年(行ウ)第129号加算税賦課取消請求事件をいい、以下、これを「本件判決」という。)は、税務職員の不十分な指導の下においての無申告を、「誠に無理からぬところ」であり、「行政上の制裁を課することは原告にとって極めて酷である」という理由で「正当な理由」を肯定している。
 ところで、請求人が税務申告を委託する会計事務所の職員(以下「本件会計事務所職員」という。)は、平成12年7月にF税務署に法人税の件で電話による質問を行った。その際、本件会計事務所職員は、電話に応対した男性職員に対し、法人税の申告期限の延長が承認されている6月決算法人の場合の法人税及び消費税等の確定申告書の提出期限並びにこれらに係る税額の納付期限について尋ね、次のとおりの回答を得た。
(イ)法人税の申告書の提出期限は9月末、納付期限は8月末である。
(ロ)納付額は9月末の確定したときに清算し、期限に遅れた部分の本税に対し利子税がかかる。
(ハ)消費税等の提出期限及び納付期限についても法人税と同様の取扱いである。
 そして、請求人は、上記(ハ)の指導に基づき、上記1の(2)のイのとおりに本件消費税等の税額を納付し、本件確定申告書を提出したものであり、本件確定申告書が期限後申告書となったのは、本件会計事務所職員の質問に対する男性職員の上記(ハ)の誤指導によるものである。
 したがって、本件判決が示すとおり、請求人の場合も通則法第66条第1項のただし書の「正当な理由」があったと認められるべきである。
ロ また、昭和46年2月24日裁決(東京国税不服審判所裁決例集No.3−2をいい、以下、これを「本件裁決」という。)によれば、確定申告書を申告期限の夕刻に居住地から離れたポストに投函したことにより日付印が1日遅れたことによる無申告加算税の賦課決定処分に対し、居住地に戻ってポストに確定申告書を投函する又は税務署に直接確定申告書を持参すれば申告期限に間に合ったという事実に対し、「請求人がこれらの事情を知らなかったことを責めるのは酷にすぎる」として原処分を取り消している。
 ところで、請求人の場合、法定申告期限内に本件確定申告書を提出できなかったことについてある程度の過失はあるものの、〔1〕本件確定申告書が期限後申告書になったのは、上記イの(ハ)の誤指導によるものであり、〔2〕本件消費税等の税額を法定申告期限内に納付していることを考慮すれば、無申告加算税を課することは、本件裁決が示すように請求人にとって酷すぎるものであり、上記イの旧所得税基本通達の「その他宥恕すべき特別な事情」があった場合に該当することから、この点においても通則法第66条第1項ただし書の「正当な理由」があったと認めるべきである。
ハ 次に、無申告加算税制度は、申告の適正を担保し申告納税制度を確保するために行政上の制裁として設けられたものである。
 これを租税債権の確定という点から本件についてみると、請求人は、上記1の(2)のイのとおり本件消費税等の税額を法定申告期限内である平成12年8月30日に領収済通知書(以下「本件納付書」という。)を添えて納付している。
 さらに、本件納付書には、課税事業者名、税目、課税期間等が記載されていることから、原処分庁は本件確定申告書の提出を待つまでもなく入金の内容を把握し、租税債権として確定することが可能である。
 このように、請求人は、本件消費税等の税額を法定申告期限内に納付しているのであるから、本件確定申告書が期限後申告書であるとして無申告加算税を賦課することは、無申告加算税制度の趣旨からも不当といわざるを得ない。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件会計事務所職員は、異議審理庁の調査担当者に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ)平成12年7月に、F税務署に法人税のことで電話による質問を行った。
(ロ)電話に応対した男性職員に対し、申告期限の延長をしている6月決算法人の法人税申告書の提出期限及び納付期限について尋ねたところ、当該男性職員から、〔1〕申告書の提出期限は9月末であるが、納付期限は8月末であること、〔2〕納付額は9月末の確定した時に清算し、期限に遅れた部分の本税には利子税がかかるとの回答を得た。
 その後、消費税も法人税と同じ申告、納付でよいか尋ねたところ、当該男性職員からは同じでよいとの回答を得た。
 なお、当該男性職員の部門は分からない。
(ハ)消費税に申告期限延長制度がないことは知らなかった。
ロ 請求人の主張について、上記イの各事実を上記1の(3)の関係法令の規定に照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件確定申告書が期限後申告書となったことについては、F税務署の職員の電話質問に対する上記イの(ロ)の誤指導によるものであり、このことは上記1の(3)のハに規定する「正当な理由」に該当する旨主張する。
 しかしながら、原処分庁の調査の結果、請求人が主張する上記イの(ロ)のような誤指導があったと認めるに足る事実がないことから、この点についての請求人の主張には理由がない。
 ところで、請求人は、上記2の(1)のイの本件判決を引用して、F税務署の男性職員の誤指導が本件判決に示す正当な理由に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件判決は、「譲渡所得に関する申告手続、居住用資産の買換えの特例の適用を求めるための手続などに通じていなかった原告」が、「担当係員に居住用買換資産取得の予定を申し述べて買換え特例の適用を受けたい旨の意向を伝え、かつ、同係員から求められるまま申請書に署名押印し、その申請事務の代行をしてもらった」という事例であり、本件における電話による一般的な質問の場合と同一視することはできず、本件判決があることをもって、誤指導に係る請求人の主張を認めることはできない。
 よって、この点についても請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、租税債権の確定は課税事業者名等を記載した本件納付書により消費税等を納付すれば足り、租税債権が確定できないのは税務署の内部の問題である旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のイのとおり、通則法第16条第1項第1号は、申告納税方式の場合の納付すべき税額は、第一次的には納税者のする申告によって確定するのが原則であり、納付書によって確定するものではないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件確定申告書は、上記1の(2)のイのとおり期限後申告書であり、本件確定申告書は、消費税等の調査により更正又は決定があることを予知して提出されたものでないと認められるので、上記1の(3)のハの規定により、当該申告に係る納付すべき税額に対して100分の5の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税が課されることになる。
 したがって、本件確定申告書に係る納付すべき税額49,580,000円(通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》の規定により1万円未満の端数切捨て後のもの)に100分の5の割合を乗じて無申告加算税の額を計算すると2,479,000円となり、この額は本件賦課決定処分の額と同額であるから、本件審査請求は棄却されるべきである。

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3 判断

 本件の争点は、無申告加算税の賦課決定処分における正当な理由の存否にあるので、以下審理する。

(1)関係法令等

イ 関係法令は、上記1の(3)のとおりであるところ、無申告加算税は、期限後申告書の提出があったという事実のみにより課されるものであることから、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、無申告加算税を課することが納税者にとって不当又は酷と認められる特別の事情、例えば、災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰することができない外的事情等で、法定申告期限内に申告書を提出することができない真にやむを得ない理由がある場合がこれに該当し、単に納税者の税法の不知又は誤解に基づくような場合はこれに該当しないものと解される。
ロ 消費税の納税義務は、通則法第15条第2項第7号において、課税資産の譲渡等をした時に成立する旨規定されており、確定した決算に基づくことは消費税等の確定申告の要件とはなっていないことから、消費税法には、確定申告書の提出期限の延長を認める旨の規定は設けられていない。

(2)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件会計事務所職員は、平成14年9月17日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)平成12年7月にF税務署に電話で問い合わせをした。
(ロ)F税務署の電話交換手に法人税のことで質問したい旨を伝え、男性職員が電話に応答し、法人名を言わずに一般的な内容を質問したと記憶している。
(ハ)電話の応答の内容は、6月決算法人で申告期限の延長をしている法人の法人税及び消費税等の申告書の提出期限並びに納付期限を尋ねたところ、応答した男性職員は、申告期限は9月末で、納付期限は8月末となる。8月末の納付額は見込みで納付し、9月に確定した時に納税額との差額を清算し、差額については利子税がかかる旨の回答を得た。
(ニ)請求人が申告期限延長を申請していることは、法人税の申告期限延長申請書の控で確認した。この申請書で消費税等についても申告期限が延長されるものと誤認していた。
(ホ)応答した男性職員の部門や氏名も分からず、誤指導があったことを立証できる証拠はない。
ロ 異議審理庁の担当職員は、平成14年10月7日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
 平成12年7月に法人課税部門に在職した男性職員に対し、上記イの(ハ)の電話照会の質疑の事績を確認した結果、本件会計事務所職員が言うような質疑事績は認められなかった。

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(3)本件賦課決定処分の適法性について

イ 請求人は、本件確定申告書が期限後申告書となったことについては、F税務署の職員の電話質問に対する上記2の(1)のイの誤指導によるものであり、このことは上記2の(1)のイの本件判決が示すとおり、上記1の(3)のハに規定する「正当な理由」に該当する旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、〔1〕上記(2)のイの(ホ)及びロのとおり、請求人が主張する上記2の(1)のイのような誤指導があったと認めるに足る証拠資料を得ることはできず、請求人が主張するような誤指導の客観的な事実を認めることができないこと、〔2〕本件のような電話による一般的な質問の場合と本件判決とは判断の基礎となる事実関係が相違するので、本件審査請求と本件判決を同一視することはできないことから、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。また、申告納税制度の下における消費税等の申告は、本来、納税者自らの責任と判断においてなされるべきものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ロ また、請求人は、上記2の(1)のロの本件裁決を引用し、上記2の(1)のイの誤指導に基づくもので、本件消費税等の税額を法定申告期限内に納付していることを考慮すれば、本件裁決が示すとおり、無申告加算税を課することは請求人にとって酷すぎるものであり、上記2の(1)のイの旧所得税基本通達の「その他宥恕すべき特別な事情」があった場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、本件会計事務所職員は、異議審理庁の担当者に対し上記2の(2)のイの(ハ)のとおり、消費税に申告期限延長制度がないことは知らなかったと申述し、当審判所に対しても上記(2)のイの(ニ)のとおり、消費税等についても申告期限延長制度があるものと誤認していたと答述していることから、本件裁決が認定した事実に基づく真にやむを得ない事情と本件会計事務所職員の法律の不知又は誤認に基づき、本件確定申告書が期限後申告書となったことを同一視することはできず、消費税法の不知又は誤認だけでは、請求人が主張する旧所得税基本通達の「その他宥恕すべき特別な事情」があった場合の「正当な理由」に該当するものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ハ 次に、請求人は、上記1の(2)のイのとおり、本件消費税等の税額を法定申告期限内に本件納付書を添えて納付しており、本件納付書には、課税事業者名、税目、課税期間等が記載されていることから、原処分庁は確定申告書の提出を待つまでもなく入金の内容を把握し、租税債権として確定することが可能であり、本件消費税等の税額を法定申告期限内に納付している事情を考慮すれば、本件確定申告書が期限後申告書であるとして無申告加算税を賦課することは、無申告加算税制度が、申告の適正を担保し申告納税制度を確保するために行政上の制裁として設けられた趣旨からも、不当といわざるを得ない旨主張する。
 ところで、納付すべき税額の確定については、上記1の(3)のイのとおり規定されており、消費税の申告書の記載事項及び提出期限については、上記1の(3)のニのとおり規定されている。一方、通則法第34条第1項に規定する納付書は、申告納税方式による国税を自主納付する場合に、納付すべき税額に相当する金銭とともに日本銀行等の収納機関に提出する書面で、年度、納税者の住所、氏名、税目、納付の目的及び税額等が記載されているものである。
 したがって、本件確定申告書と本件納付書は、その記載事項及び法的効果において明らかに異なるものといえる。
 また、申告納税方式においては、確定申告書の提出が納税義務を確定させるために重要な意義を有することから、納税者の法定申告期限内の申告書提出義務の不履行に対して、通則法第66条第1項の規定により、行政上の措置として、一律に無申告加算税が賦課されるものであり、当該申告書に係る税額が法定申告期限内に納付されたか否かにより、同項の規定の適用が左右されるものではない。
 そうすると、本件納付書の提出により、期限内申告書の提出と同一の法的効果を認めることはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がなく、本件賦課決定処分を不当ということはできない。
ニ 以上のとおり、請求人の場合、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められず、また、本件賦課決定処分を不当とする理由もない。
 したがって、本件確定申告書が、本件課税期間の消費税等について調査があったことにより、決定があるべきことを予知して提出されたものとは認められないことから、同条第3項及び地方税法附則第9条の9の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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