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(平14.8.20裁決、裁決事例集No.64 232頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)において、所得税法第2条《定義》第1項第5号に規定する非居住者であった時に、同人が勤務していた外国法人から付与された株式購入選択権(以下「ストック・オプション」という。)を、発行済株式の過半数の株式を同法人が直接又は間接的に所有する内国法人及び他の外国法人において、同項第4号に規定する非永住者として勤務していた時に行使したことに係る経済的利益が、〔1〕同法第28条《給与所得》第1項に規定する「給与所得」、同法第34条《一時所得》第1項に規定する「一時所得」のいずれに該当するか及び〔2〕同法第161条《国内源泉所得》に規定する国内源泉所得に該当するか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年分の所得税の確定申告に当たり、内国法人K株式会社(以下「K社」という。)からの給与及びP国法人L(以下「L社」という。)からの給与(以下、K社からの給与と併せて「本件給与」という。)のうち所得税法第7条《課税所得の範囲》第1項第2号に規定する部分の金額を「給与所得」として、別表1の「確定申告」欄のとおり確定申告書に記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対して、請求人において、Q国(以下「Q国」という。)法人M(以下「M社」という。)から付与されたストック・オプション(以下「本件ストック・オプション」という。)の行使に係る経済的利益(以下「本件利益」という。)は「給与所得」に該当し、かつ、その一部は所得税法第161条第1項第8号イに規定する国内源泉所得に該当するとして、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を平成13年2月27日付で行った。
ハ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分の全部の取消しを求めて、平成13年4月27日に異議申立てをした。
ニ 原処分庁は、平成9年分の所得税に係る過少申告加算税を零円とする変更決定処分を平成13年7月19日付で行った。
ホ 異議審理庁は、本件更正処分に係る異議申立てについては棄却の異議決定を、本件賦課決定処分に係る異議申立てについては却下の異議決定を、いずれも平成13年7月26日付で行った。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分に不服があるとして、平成13年8月27日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第28条第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第34条第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。
ハ 所得税基本通達23〜35共−6《新株等を取得する権利を与えられた場合の所得区分等》(平10課法8−2、課所4−5による改正前のもの。以下「本件通達」という。)は、発行法人から有利な発行価額による新株等を取得する権利を与えられた場合の所得の区分について、「一時所得とする。ただし、当該発行法人の役員又は使用人に対しその地位又は職務等に関して当該新株等を取得する権利を与えたと認められる場合には給与所得とし、これらの者の退職に基因して当該新株等を取得する権利を与えたと認められる場合には退職所得とする」旨定め、また、収入すべき時期について、「当該新株等についての申込みをした日による」旨定めている。
ニ 所得税法第161条第8号イは、俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するものは国内源泉所得に該当する旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、M社に勤務していた1987(昭和62)年4月10日及び同年12月11日に、同社の1986年インセンティブ・ストック・プログラム(以下「本件プログラム」という。)に基づき本件ストック・オプションを付与された。
ロ 上記イの本件ストック・オプションの付与については、それぞれ請求人とM社との間で付与契約書(以下「本件各付与契約書」という。)が作成されている。
ハ 請求人は、入国前にM社からL社に転籍し、L社からK社に派遣され、同社の代表取締役として勤務するため平成6年7月1日に入国し国内に住所を有することとなり、平成9年12月31日現在、同社に勤務していた。
 請求人は、その後、平成10年6月11日に国内に住所を有しないこととなった。
 したがって、請求人は、平成6年7月1日から平成10年6月10日までの間、非永住者に該当する。
ニ M社は、K社及びL社の発行済株式の過半数を直接又は間接的に所有している。
ホ 請求人は、本件ストック・オプションを平成9年3月18日及び同年11月17日に行使しており、本件利益の金額は、併せて1,718,834.04米国ドルである。
ヘ 平成6年7月1日から請求人が本件ストック・オプションを最初に行使した平成9年3月18日までの間の同人の国外勤務日数及びホームリーブ等の日数は、それぞれ234日及び62日である。
 また、平成6年7月1日から請求人が本件ストック・オプションを2回目に行使した平成9年11月17日までの間の同人の国外勤務日数及びホームリーブ等の日数は、それぞれ332日及び73日である。
ト 平成9年分の本件給与に係る給与等の収入金額のうち、所得税法第7条第1項第2号に規定する部分の金額は60,022,642円である。
チ 請求人が平成9年において納付した所得税法第95条《外国税額控除》第1項に規定する外国所得税の額は8,948,332円である。
リ 平成9年分の本件給与に係る給与等の収入金額のうち、所得税法施行令第222条《控除限度額の計算》第3項に規定する国外所得総額に係る部分の金額は、○○○○円である。

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2 主張

(1)請求人

 本件更正処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 国内源泉所得として課税することの違法性について
(イ)以下の理由により、本件利益は、その全額が国内源泉所得に当たらず、非永住者である請求人にとって非課税である。
(ロ)本件ストック・オプションは、請求人のM社における従業員としての地位に基づいて付与されたものである。
 そして、本件ストック・オプションは、本件プログラム及び本件各付与契約書の各記載事項から判断すると、被付与者が退職した場合において権利行使に関して一定の期間制限があるものの、権利行使に当たって雇用の継続を要件とするものではない。
(ハ)このような本件ストック・オプションの性質にかんがみると、本件利益の発生原因は、ストック・オプションの付与時(厳密に言えば、ストック・オプションの権利行使が可能となった時)、すなわち、請求人が来日する前にQ国において既に確定しているのであるから、本件ストック・オプションの付与後、これをQ国以外のどこの国で行使したとしても、その行使に係る利益は、その行使時において、その利益の源泉の発生地であるQ国で課税されるべきものである。
 言い換えれば、本件利益は、請求人とM社との間において国外で締結された雇用契約に基づくもので、請求人が非居住者であった期間に発生原因が確定した所得であって、所得税法第161条第8号イに規定する「国内において行う勤務その他の人的役務の提供に基因」して与えられたものではない。
(ニ)原処分庁は、「本件ストック・オプションの権利行使による利益の享受は、請求人のM社及びその子会社での地位や職務行為を離れてはあり得ない」旨認定しているが、そうであるのはあくまでも付与時(厳密に言えば、権利行使が可能となった時)であって、付与時から行使時までの期間ではない。
 また、本件各付与契約書には、本件ストック・オプションの行使により得られる所得が、付与時から行使時までの期間の労務の提供の対価であるとする定めがないことからすれば、本件利益を本件ストック・オプションの「付与時から行使時までの期間の労務の提供の対価である」とする原処分庁の認定には根拠がない。
ロ 給与所得として課税することの違法性について
 上記イのとおり、本件利益はその全額が国外源泉所得であるが、本件更正処分は本件利益が給与所得に該当するものとして行われているので、以下のとおり反論する。
 すなわち、以下の理由から、本件利益は、給与所得ではなく一時所得に該当するものと解するのが相当である。
(イ)本件ストック・オプションは、請求人がM社の従業員である時に同社から付与されたものであるが、その行使時においては、請求人は、L社の従業員かつK社の代表取締役社長であり、請求人が労務を提供しているのはM社とは全く別個の法人であるこれらの両社である。すなわち、請求人に報酬を給付する者(M社)と請求人を指揮・監督する者(L社及びK社)が異なるのであるから、本件利益は給与所得にはなり得ない。
(ロ)ストック・オプションのうち、雇用関係に基づき付与され、かつ、継続的雇用を前提としているものについては、その一部が労務の対価としての性質を持つ場合があるが、本件ストック・オプションのように、退職後6か月間その権利を行使できるという行使期間の制限があるものの、継続勤務を要件としていないものは、労務の対価としての性質を有するストック・オプションには当たらない。
(ハ)本件利益が労務の提供の対価であるとするならば、必ず請求人に給付されるべきであるところ、本件利益は、請求人が権利行使の意思決定をしない限り、実現しないのであるから給与としての性格を有していない。
(ニ)請求人のL社及びK社に対する貢献が、M社の株価に反映しているという事実はない。
(ホ)M社は、本件ストック・オプションの行使に係るコストをK社に対して請求していない。
(ヘ)原処分庁は、請求人と本件ストック・オプションの付与会社とは直接雇用関係がないのに、ここに雇用関係を擬制し、法律に規定する給与所得と似て非なるものを給与所得として課税した。これは、全く法的根拠のない新たな所得分類の創設であり、租税法律主義を逸脱している。
(ト)平成8年に改正された本件通達は、平成10年にも改正されているが、いずれの改正も日本の国内法である商法等の改正を受けて当該改正部分が追加されたのみにすぎず、本質的な内容は改正されていない。
 そうすると、請求人は、本件ストック・オプションの権利行使時において「当該発行法人の役員又は使用人」ではないのであるから、本件利益の課税関係を判断するに当たり、本件通達の(1)のただし書きは適用されず、本件利益は一時所得に該当する。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 認定事実
 原処分庁の調査の結果によれば、上記1の(4)の各事実のほか、以下の事実が認められる。
(イ)本件プログラムの要旨は以下のとおりである。
A 本件プログラムは、M社及びその子会社(以下、原処分庁の主張において「M社等」という。)の優秀な役員及び主要な従業員を確保しかつ保持することを目的としている。
B 本件プログラムの対象者は、M社等の役員及び従業員である。
C 本件プログラムに基づくストック・オプションは、遺言又は法定相続による場合以外の事由では譲渡できず、また、対象者の生存中においては、対象者又はその対象者の後見人若しくは法定代理人のみが行使できる。
D 上記ストック・オプションは、権利付与日から10年を経過すると、その権利を行使することができなくなる。
E 上記ストック・オプションは、退職あるいは死亡以外の理由により勤務を終了した場合、その日から6か月を経過した後に権利が消滅する。
(ロ)本件各付与契約書には、要旨次のとおりの記載がある。
A M社は、請求人に対し同社の一定の数の株式を一定の価格で購入するストック・オプションを付与する。
B M社は、本件プログラムに基づき、M社等における経営の向上及び利益拡大のために適切なインセンティブを請求人に提供すること、更にM社等における請求人の雇用を確保することを目的としてストック・オプションの権利を請求人に付与する。
C ストック・オプションは、その付与の日から1年経過しないと行使できない。
D 1987年4月10日に付与されたストック・オプションの権利行使については、付与日から1年後には付与された株式総数の3分の1を、また、2年後にはその3分の2を、3年後には全株について権利を行使することが可能である。
E 1987年12月11日に付与されたストック・オプションの権利行使については、付与日から1年後には付与された株式総数の6分の1を、また、2年後にはその3分の1を、3年後にはその3分の2を、4年後には全株について権利を行使することが可能である。
ロ 給与所得の該当性について
(イ)所得税法第28条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」とは、単に雇用関係に基づき労務の対価として支給される報酬というよりは広く、雇用又はこれに類する原因に基づき非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずべき給付をいい、労務の提供が自己の危険と計算によらず、他人の指揮・監督又は組織の支配に服してなされる場合にその対価として支給されるものと解される。
(ロ)ところで、ストック・オプションの制度は、役員又は使用人による企業の業績向上のインセンティブとして機能することが期待されている制度であるから、ストック・オプションの権利行使による利益は、役員又は使用人の地位に基づくものないしは職務等に関連する一種の成功報酬としての性格を有するものとみることが相当であり、労務その他の役務の対価としての性質を有するものと解される。
(ハ)これを本件ストック・オプションについてみると次のとおりである。
 本件ストック・オプションは、請求人がM社に対し継続的な労務の提供を行うという同人の同社における役員又は従業員としての地位に基づいて同社から付与されたものであり、また、本件各付与契約書に記載されているとおり、一定期間、M社等に対し労務を提供してはじめてこれに係る利益を享受し得るものであるから、本件ストック・オプションの行使に係る所得が労務の対価であることは明らかである。
 そして、〔1〕M社は、M社等の優秀な役員及び主要な従業員を確保し、かつ、保持することを目的として、M社等の従業員等に対して、インセンティブとしてストック・オプションを付与していること、〔2〕本件各付与契約書によると、M社はM社等における経営の向上及び利益の拡大のために適切なインセンティブを請求人に提供し、さらにM社等における同人の雇用を確保することを目的として本件ストック・オプションを付与していること、〔3〕本件プログラム及び本件各付与契約書に定めるとおり、本件ストック・オプションは、M社等の役員及び従業員としての継続的な地位を有することを前提としてその権利の行使が可能となること及び〔4〕請求人は、M社との間で上記内容の付与契約を締結していることという事実に照らし合わせると、本件ストック・オプションの行使に係る所得は、請求人とM社との間の雇用に類する原因に基づくものであることが認められる。
 したがって、本件ストック・オプションの行使に係る所得は、雇用に類する原因に基づき非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずべき給付に該当するので、給与所得と解するのが相当である。
(ニ)請求人は、本件ストック・オプションは、退職後6か月間その権利を行使できるという行使期間の制限があるものの、継続勤務を要件としていないから、労務の対価には当たらない旨主張する。
 しかしながら、死亡又は退職以外の理由で雇用関係が終了する場合に、本件ストック・オプションを6か月間行使することができるのは、「報酬委員会」が延長行使期間を認めた場合に限られ、自己都合等による退職の場合は、本件ストック・オプションに基づくすべての権利が消滅するものとされているのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ)また、請求人は、本件ストック・オプションの行使に係るコストがM社からK社に対し請求されていないことを挙げて、本件利益が給与所得に該当しない旨主張する。
 しかしながら、利益を享受した個人に対する課税は、その享受した利益の実態に応じて所得税法等の租税法令を適用すべきであり、法人の経理処理が利益を享受した個人の所得の性質を左右するものではないから、請求人の主張には理由がない。
ハ 一時所得の非該当性について
(イ)所得税法第34条第1項に規定する「労務その他の役務の対価としての性質を有しないもの」にいう「対価」とは、給付が具体的な役務行為に対応する場合に限られるものではなく、給付が一般的に人の地位、職務行為に対応、関連してなされる場合をも含むものと解されるところ、本件ストック・オプションの権利行使による利益の享受は、請求人のM社等での地位や職務行為を離れてはあり得ないから、この利益が労務その他の役務の対価としての性質を有していることは明らかであって、当該所得は一時所得に該当しない。
(ロ)所得税基本通達23〜35共−6の平成8年及び平成10年における改正は、いずれも日本の国内法である商法等の改正を受けたものであって、当該通達は、商法等の日本の国内法に基づくストック・オプションに係る課税関係を明らかにしたもので、外国の法律等に基づくストック・オプションに係る課税関係を明らかにしたものではなく、これが直ちに外国の法律等に基づく本件ストック・オプションに係る課税関係に適用されるものではない。
ニ 国内源泉所得について
 本件ストック・オプションは、請求人がM社に勤務していた時に付与されているが、その行使に係る所得は、同人が本件ストック・オプションを行使することにより確定するものであり、その行使時に同人は国内に居住していたのであるから、所得の発生原因はQ国において既に発生し、かつ、確定していたとの請求人の主張には理由がない。
 所得税法第161条第8号イに規定する国内源泉所得は、国内において行う勤務その他の人的役務の提供に基因するものとされているから、請求人の場合、本件利益のうち本件ストック・オプションを付与された日から行使した日までのうち国内勤務に対応する利得に係る部分の金額が国内源泉所得に当たることになる。
ホ 納付すべき税額について
 以上の結果、本件利益のうち国内源泉所得に係る金額は別表2のとおりとなり、平成9年分の給与所得の金額は別表3のとおりとなる。また、平成9年分の外国税額控除の額は、別表4のとおりとなる。
 この結果、平成9年分の納付すべき税額は別表5のとおりとなり、この金額は本件更正処分の額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)本件プログラムの要旨は以下のとおりである。
A 本件プログラムの目的は、〔1〕傑出した個人をM社及びその子会社の役員及び重要な被用者として確保すること並びに〔2〕これらの者に対し、本件プログラムに定める有利な条件によってM社の普通株式、同株式の価値若しくは同社の財務上の業績に基づく金銭給付又はこれらの双方を獲得する機会を提供することにより、インセンティブを与えることにある(第1条)。
B 本件プログラムは委員会(〔1〕M社取締役会の報酬委員会又は〔2〕同取締役会が随時指名する、証券取引委員会規則に定義する「利害関係のない者」から構成されるその他の委員会のいずれかをいう。)が管理する(第2条)。
C 本件プログラムの参加者は、M社及びその子会社の役員及び重要な被用者(以下「本件被用者等」という。)で、委員会がその裁量により本件プログラムに基づく給付を受領するよう随時指名するものから構成される(第3条)。
D ストック・オプションは、普通株式を付与日における公正市場価値の100%以上の価格で購入する選択権から構成される。
 ストック・オプションは、付与日の後10年以内の期間にわたって行使可能であり、退職又は死亡以外の理由による雇用の終了の後6か月以内に終了する。
 退職の場合には、ストック・オプションを行使する被付与者の権利は、退職後60か月以内に終了する(第6条・第7条)。
E 本件プログラムに基づき付与されたストック・オプションは、遺言による場合あるいは相続及び遺産分配に関する法令による場合を除き、移転することができず、当該参加者の生存中は、その者又はその者の後見人若しくは法定代理人のみが行使できる(第14条)。
(ロ)本件各付与契約書のうち1987(昭和62)年12月11日付与に係る契約書には要旨次のとおりの記載がある。
 なお、1987(昭和62)年4月10日付与に係る契約書も同旨である。
A M社は請求人に対し、同社の普通株式6,141株の全部又は一部を1株当たり45.130米国ドルで随時購入するインセンティブ・ストック・オプション及び同社の普通株式789株の全部又は一部を1株当たり45.130米国ドルで随時購入する非適格ストック・オプションを取消不能で付与する。
 これらのオプションは、〔1〕請求人に対し、業務を改善し利益を増大することへの適切なインセンティブを与えること及び〔2〕同人がM社又はその子会社との雇用を継続することを奨励することを目的として、本件プログラムに基づき本日1987年12月11日に付与される。
 これらのオプションは分割して行使できるが、その行使は、以下に規定する限度において、以下に規定する期間内に限る。
 これらのオプションは、請求人の生存中においては、以下に規定する場合を除き、同人だけが、M社又はそのいずれかの子会社に雇用されている期間中に限り行使できる。
B これらのオプションは、付与日の後1年間の雇用の後においてのみ行使することができる。この1年の期間中に雇用が終了した場合には、死亡又は退職を理由とする場合を除き、オプションに基づくすべての権利は終了する(第2条)。
C 付与日の1年後においてこれらのオプションが対象とする株式の総数(以下「対象株式数」という。)の6分の1が、付与日の2年後において対象株式数の3分の1が、付与日の3年後において対象株式数の3分の2が、付与日の4年後において対象株式数の全部が、それぞれ購入可能となる(第3条)。
D 請求人のM社又はその子会社との雇用が退職又は死亡以外の理由により終了した場合には、本オプションは同人の雇用の終了が有効となる日において終了する(第4条)。
E 被用者の雇用が死亡又は退職以外の理由により終了した場合には、報酬委員会はその裁量により、M社の推薦に基づき、第3条により認められる限度において、当該オプションを当該被用者の雇用の終了が有効となる日の後6か月以内(当初の行使期限の日を限度とする。)において行使することを許可することができる(第5条)。
F 請求人は、「M社年金退職プラン」その他の同社又はその子会社の年金又は退職プランに基づき、そのプランに基づく「通常退職日」以後に退職した場合には、第3条により認められる限度において、退職の日の後36か月以内(当初の行使期限の日を限度とする。)は、これらのオプションを行使することができる(第6条)。
G 請求人は、「M社年金退職プラン」その他の同社又はその子会社の年金又は退職プランに基づき、そのプランに基づく「通常退職日」前に退職した場合には、第3条により認められる限度において、退職の日の後12か月以内(当初の行使期限の日を限度とする。)は、これらのオプションを行使することができる。
 ただし、報酬委員会はその裁量により、M社の推薦に基づき、第3条により認められる限度において、これらのオプションを退職の日の後36か月以内(当初の行使期限の日を限度とする。)において行使することを許可することができる(第7条)。
H これらのオプションは、いかなる状況下においても、本付与日から10年が満了した後においては行使することができない(第12条)。
I これらのオプションは、遺言による場合あるいは相続及び遺産分配に関する法令による場合を除き、移転することができない(第15条)。
ロ 本件利益に国内源泉所得に当たる部分があるか否かを判断するに当たっては、まず、本件利益の所得区分を判断すべきであるから、この点について審理した後に前者の判断を行う。
ハ 所得区分について
(イ)所得分類の意義について
 所得税法は、所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類しているが、これは、所得はその性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って、公平負担の観点から、各種の所得について、それぞれの担税力の相違に応じた計算方法を定め、また、それぞれの態様に応じた課税方法を定めたものと解される。したがって、所得分類に関する規定については、この立法趣旨に照らし、その所得の経済的実質に即して解釈適用をすることが合理的解釈といえる。
(ロ)給与所得の該当性について
A 所得税法第28条第1項に規定する「これらの性質を有する給与に係る所得」の解釈に当たっては、上記(イ)で述べたように、所得税法における所得分類の立法趣旨に照らし、その経済的実質に着目してこれを行う必要がある。
B 給与所得とは、一般に、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付とされているが、その性質は、個人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価であると認められることから、使用人の地位又は職務に関連して受ける給付である限り、その給付の支払者は、必ずしも、労務の提供を受ける直接の使用者に限られないと解される。
C これを本件についてみると、上記イの(イ)の本件プログラム及び上記イの(ロ)の本件各付与契約書の各記載事項のとおり、〔1〕本件ストック・オプション付与の目的として、請求人に対してインセンティブを供与すること及び同人がM社又はその子会社との雇用を継続することを奨励することが掲げられていること、〔2〕本件ストック・オプションは、同人が本件被用者等であることを前提に付与されたものであること、〔3〕その行使は、同人の本件被用者等としての一定期間の勤務をもって可能となること、〔4〕その権利は、同人のM社又はその子会社との雇用が終了した場合には原則として終了すること(雇用の終了が退職を理由とする場合には、当該終了の日において行使可能となっているストック・オプションに限り、一定期間は行使できる。)、〔5〕その譲渡等は原則として禁止されていることが認められる。
 これらのことからすると、本件利益は、請求人が本件被用者等たる地位に基づき、M社の株式を購入することができる権利を同社から付与され、本件被用者等として一定期間勤務することにより、これを行使して得たものであるということができる。
 換言すれば、本件利益は、請求人が、専ら、M社又はその子会社に勤務することに基づいて得られた経済的利益、すなわち、同人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価としての性質をもった所得ということができるから、給与所得に該当すると解するのが相当である。
D この点について、請求人は、〔1〕本件ストック・オプションの権利行使時において同人が役務を提供したのは、K社に対してであってM社に対してではないこと、〔2〕本件ストック・オプションは、その行使に当たり継続勤務を要件としていないことから、本件利益は給与所得に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件ストック・オプションは、請求人自身認めているとおり、同人のM社との雇用関係に基づき付与されており、また、上記Cのとおり、同人の本件被用者等としての一定期間の勤務をもってその行使が可能となり、同人のM社又はその子会社との雇用が終了した場合には原則としてその権利は終了することが認められるところ、かかる勤務・雇用はM社におけるものであるかその子会社におけるものであるかは問われておらず、また、上記Bで述べたとおり、給与所得は、給与支給者(本件利益についてはM社)との雇用関係に基づく役務の提供に対する対価に限定されるものではないことから、ストック・オプションの行使時における勤務先が転籍・出向等により付与法人の子会社に代わっている場合と引き続き付与法人である場合とで、その行使に係る経済的利益の所得区分が異なることになると解することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
E 請求人は、〔1〕本件利益の実現は同人の意思決定に委ねられていること、〔2〕同人のL社及びK社に対する貢献がM社の株価に反映しているという事実はないことから、本件利益は給与所得に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件利益が請求人の人的役務の提供の対価としての性質が認められるのは上記Cのとおりであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
F 請求人は、また、M社は本件ストック・オプションの行使に係るコストをK社に請求していないから、本件利益は給与所得に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件利益の所得区分については、所得税法等の規定に基づいて判断されるべきであって、これがM社及びその子会社の経理処理により左右されるものではないところ、上記AからCまでにおいて述べたとおり、本件利益は所得税法第28条第1項の規定に基づいて給与所得と判断されることから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
G さらに、請求人は、M社と同人との間に直接雇用関係がないのに雇用関係を擬制して本件利益を給与所得に当たるとした本件更正処分は租税法律主義を逸脱する旨も主張する。
 しかしながら、上記(イ)及び上記AからCまでにおいて述べたとおり、本件利益は、所得税法における所得分類に関する規定の立法趣旨に照らし、その経済的実質に着目して給与所得に該当すると判断されることから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)一時所得の非該当性について
A 所得税法第34条第1項に規定する一時所得については、所得税法第22条《課税標準》第2項第2号の規定により、その2分の1が課税の対象とされているが、これは、一時所得が一時的・偶発的な所得であることから、超過累進税率の適用を緩和しているものである。
 そして、所得税法第34条第1項が「役務の対価としての性質を有する所得」を一時所得から除くこととしているのは、その所得が一時的なものであっても、役務の対価としての性質を有する限り、偶発的に発生した所得ではないものであるからと解される。
 上記1の(3)のロのとおり、一時所得とは利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得とされているところ、上記(ロ)で述べたとおり、本件利益は給与所得に該当するから、一時所得には該当しない。
B なお、仮に、本件利益が上記8種類の所得以外の所得であるとした場合には、役務の対価としての性質を有するかどうかが重要となるため、次のとおり判断する。
(A)一時所得に該当するためには、「その所得が役務の対価ではないこと」が不可欠の要件となるが、この場合における「役務の対価」とは、〔1〕経済的利益の供与が具体的な役務行為に対応する場合だけでなく、一般的に人の地位及び職務に関連してなされる場合も、対価性の要件を充たすと解され、また、〔2〕その対価は、給付が具体的・特定的な役務行為に対応・等価の関係にある場合に限られるものではなく、給付が抽象的・一般的な役務行為に密接・関連してなされる場合をも広く含むと解される。
(B)これを本件についてみると、上記(ロ)のCで述べたとおり、本件利益が請求人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価であることは明らかであり、また、その稼得は、同人の本件被用者等としての地位や職務を離れてはあり得ないことも明らかである。
 したがって、本件利益は、一時所得に該当しないと解するのが相当である。
(C)この点について、請求人は、同人は本件ストック・オプションの行使時においてM社の役員でも使用人でもないから、同人には本件通達の(1)のただし書きは適用されず、本件利益は一時所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のCで述べたとおり、本件利益は請求人の役務提供の対価としての性質を有するものと認められることから、一時所得には該当しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 なお、本件通達はストック・オプションの課税関係を定めたものではないが、仮に、本件ストック・オプションが同通達に定める「新株等を取得する権利」に当たるとしても、本件ストック・オプションの付与が請求人のM社との雇用関係に基づき行われたものであることは同人自身認めているところであり、これが同通達に定める「当該発行法人の役員又は使用人に対しその地位又は職務等に関して当該新株等を取得する権利を与えられたと認められる場合」に当たることは明らかである。
ニ 国内源泉所得について
(イ)上記イのとおり、本件利益は給与所得に該当し、所得税法第161条第8号イに規定する「俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬」に該当すると認められる。したがって、本件利益のうち、請求人が国内において行う勤務その他の人的役務の提供に基因する部分については、国内源泉所得に当たる。
(ロ)所得税基本通達161−28は、勤務が国内及び国外の双方にわたって行われた場合の所得税法第161条第8号イに規定する所得に係る国内源泉所得について、原則として次の算式により計算する旨定めており、この計算方法には合理性があると認められる。
給与の総額×(国内において行った勤務の期間÷給与の総額の計算の基礎となった期間)
(ハ)請求人は、M社に勤務していた時に本件ストック・オプションを付与され、K社に勤務していた時にこれを行使したのであるから、本件利益について、上記通達に定める「給与の総額の計算の基礎となった期間」は、本件ストック・オプションの付与日から行使日までの期間と解するのが相当である。
(ニ)そうすると、本件利益の金額を本件ストック・オプションの付与日から行使日までの期間の日数で除し、これに同期間中の同人の国内における勤務日数を乗じて計算した金額が国内源泉所得となる。
(ホ)この点につき、請求人は、本件利益は本件ストック・オプションが付与され又はその権利行使が可能となったQ国勤務時においてその発生原因が確定している旨主張するが、上記(ニ)のとおり、本件利益はその一部が国内源泉所得に当たると認められるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ホ 納付すべき税額について
(イ)以上の結果、本件利益のうち国内源泉所得に係る金額は別表2のとおりとなり、平成9年分の給与所得の金額は別表3のとおりとなる。
(ロ)また、平成9年分の外国税額控除の額は別表4のとおりとなる。
(ハ)この結果、平成9年分の納付すべき税額は別表5のとおりとなり、この金額は本件更正処分の金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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