ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.64 >> (平14.10.24裁決、裁決事例集No.64 256頁)

(平14.10.24裁決、裁決事例集No.64 256頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が譲渡した農地に係る譲渡所得について、農業委員会のあっせんにより譲渡したとして特別控除が認められるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成10年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第34条の3《農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除》第1項に規定する譲渡所得の特別控除(以下「本件特別控除」という。)を適用した上、次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成13年1月26日付で本件特別控除の適用はないとして次表の「原処分」欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、上記各処分を不服として平成13年3月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月2日付で次表の「異議決定」欄記載のとおり、更正処分については一部取消しの異議決定をし、また、過少申告加算税の賦課決定処分については棄却の異議決定をした。

 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年8月2日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 措置法第34条の3第1項及び第2項は、農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。)第23条《土地の譲渡しに係る所得税等の軽減》第1項に規定するあっせんにより土地等を譲渡した場合には本件特別控除を適用することができる旨規定している。
 また、措置法第34条の3第3項及び租税特別措置法施行規則(平成12年省令第69号による改正前のもの。以下「措置法規則」という。)第18条《農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除》第3項第3号は、措置法第34条の3第1項の規定は確定申告書にその適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、同項の規定に該当する旨を証する書類として農業委員会の当該土地等の譲渡につき当該あっせんを行ったことを証する書類(以下「あっせん証明書」という。)の添付がある場合に限り適用する旨規定している。
ロ 農振法第23条第1項は、土地を同法第18条《農地等についての権利の取得のあっせん》の規定による農業委員会のあっせんにより譲渡した場合には措置法の規定により所得税を軽減する旨規定している。
ハ 農振法第18条は、農業委員会は農業委員会等に関する法律(以下「農業委員会法」という。)第6条《所掌事務》第2項の規定に基づき農用地区域内にある土地について所有権の移転のあっせんを行うに当たっては、農業振興地域整備計画に基づきその土地に関する権利の取得が農地保有の合理化に資することとなるようにしなければならない旨規定している。
 なお、上記の「農業振興地域整備計画」については、農振法第8条《市町村の定める農業振興地域整備計画》第1項及び第4項において、市町村は農業振興地域について農業振興地域整備計画を定め都道府県知事の認可を受けなければならない旨規定している。
ニ 農林水産省は、農業委員会が農業委員会法第6条第2項の規定に基づいて行う農地保有の合理化のための権利移動のあっせん事業について、「農地移動適正化あっせん事業実施要領の制定について(昭和45年1月12日付44農地B第3712号通達)」及び「農地移動適正化あっせん事業実施要領の運用について(昭和45年4月30日付45農地B第953号通達)」(以下、両通達を併せて「実施要領等」という。)を定めており、その要旨は次のとおりである。
(イ)農業委員会は、あらかじめ農地移動適正化あっせん基準を定めて、都道府県知事の認定を受けること。
(ロ)農業委員会は、農用地等の譲受人として適当と認められる候補者を登録した「あっせん譲受等候補者名簿」を作成すること。
(ハ)農業委員会は、上記(ロ)の「あっせん譲受等候補者名簿」に登録されている者から農用地等の買受けについてのあっせんの申出があった場合には、その申出者が農地移動適正化あっせん基準に適合することを確認の上、その相手方となるべき者(以下「売渡候補者」という。)を選定すること。
(ニ)農業委員会は、農地移動適正化あっせん事業の対象として不適正な事実の有無の確認及び売渡候補者の選定の経過を記載した「選定調書」を作成すること。
(ホ)農業委員会は、売渡候補者を選定した場合には農業委員の中からあっせん委員を2名指名し、そのあっせん委員(以下「あっせん委員」という。)にあっせんを行わせ、あっせんの申出者及びその相手方にこれらを通知すること。
(ヘ)あっせん委員は、あっせんにより売買が成立したときは「あっせん調書」を作成し、あっせん委員及び農用地等の権利移動の当事者の署名押印の上、農業委員会に報告すること。
(ト)農業委員会は、農用地等の権利移動の当事者から「あっせん証明書」の交付の申請があったときは、契約書を提示させ、その内容と上記(ヘ)の「あっせん調書」との照合を行い、その契約があっせんに基づき成立したことを確認の上、あっせん証明書を交付すること。
(チ)当該地区における通常の農用地等の売買価格を上回る価格でのあっせんは、農業経営を圧迫するとともに一般に農用地等の価格の高騰を招くこととなるので、このようなあっせんは行わないこと。
(リ)都道府県知事は、農地移動適正化あっせん事業として不適正なもの又はあっせん証明事務が不適正なものがあった場合には、あっせん証明書の交付の取消し等所要の是正措置をとるよう農業委員会を指導すること。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ P市農業委員会は、農業委員会法第6条第2項、農振法第8条第1項及び第4項の各規定に基づき「P市農地移動適正化あっせん基準」を作成し、平成9年3月31日付でR県知事の認可を受けていること。
ロ 請求人は、平成10年中にP市Q町○○番○所在の畑2,418平方メートル(以下「本件土地」という。)をK(以下「本件譲受人」という。)に対して7,310,000円(1坪当たり約9,994円)で譲渡(以下「本件譲渡」という。)したこと。
ハ 本件土地は、その譲渡をしたときにおいて農業振興地域の農用地区域内にある土地であること。
ニ P市農業委員会は、平成11年2月10日付で請求人に対し本件土地に係るあっせん証明書を発行していること。
ホ 請求人が提出した平成10年分の所得税の確定申告書には、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり本件特別控除の額6,944,500円を適用する旨の記載があり、かつ、P市農業委員会が発行したあっせん証明書の添付があること。

トップに戻る

2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分の手続について
 請求人は、更正処分の通知書に更正の理由が附記されていないから原処分は違法である旨主張するが、請求人の確定申告書は青色申告書以外の申告書(以下「白色申告書」という。)であり、白色申告書について更正処分をした場合にその理由を附記しなければならない旨を定めた法令の規定はないから、請求人の主張には理由がない。
ロ 更正処分について
(イ)上記1の(3)のニの実施要領等は、農地保有の合理化に資するという農振法第18条に規定するあっせんの趣旨を適正かつ確実に実現できるように設けられたものと解されるが、これを本件についてみると、次のとおりである。
A あっせんはあっせん委員が行うものとされているところ、次の事実からすると、本件譲渡にあっせん委員があっせんをした事実はない。
 そして、あっせん委員があっせんを行うものとされている趣旨は、これらの者が協議してそのあっせんが農地保有の合理化に資するよう適正に行われることを担保するためと解されるから、農地保有の合理化に資するという観点からみて極めてふさわしくないといわざるを得ない。
(A)P市農業委員会は、あっせんについて管理も選定もせず実施要領等で定められている様式例による(以下「実施要領等所定の」という。)「選定調書」も作成していないこと。
(B)あっせん委員は名前だけで、あっせん委員会も開催していないこと。
(C)実施要領等所定の「あっせん調書」は、原処分に係る調査があった後にLが作成したものであること。
(D)あっせん委員があっせんの経過を記載したとするP市農業委員会が作成した「あっせんの経過」は、契約が成立した後にLが作成したものであること。
B あっせん証明書は、申請者から提示された契約書と実施要領等所定の「あっせん調書」を照合し当該契約があっせんに基づき成立したことを確認した上で交付する必要があるところ、次のことから、本件譲渡に係るあっせん証明書は、その契約が農業委員会のあっせんに基づき成立したことが確認されないまま発行されたものと認められる。
(A)請求人が確定申告書に添付したあっせん証明書には、あっせん成立日が平成10年5月30日である旨記載されていること。
(B)Lは、実施要領等所定の「あっせん調書」は請求人が原処分に係る調査を受けた後に作成したものである旨申述していること。
 なお、請求人は、P市農業委員会は実施要領等所定の書類ではないがそれと同様の内容が記載されている「選定調書及びあっせん調書関係一覧表」(以下「あっせん関係一覧表」という。)を作成し、契約書とあっせん関係一覧表を照合・確認した上であっせん証明書を交付している旨主張するが、実施要領等所定の「選定調書」及び「あっせん調書」はその性格上選定ないしあっせんをしたときに作成すべきものであるのに、あっせん関係一覧表が作成された時期は平成11年12月であって、これは本件譲渡に係る売買契約のときから6か月以上経過しているから、請求人の主張には理由がない。
C あっせんに当たっては、その地区における通常の売買価格を上回る価格でのあっせんは行うべきではないとされており、この趣旨は、農用地等の高騰を招きその後のその地域の農業経営者の農業経営規模の拡大が困難になり、また、農地の集団化をも阻害することにもなりかねないためと解されるところ、農業委員は本件譲渡の譲渡価格に関し通常の2倍程度の価格を示していることが認められ、本件譲渡は実施要領等に基づいたあっせんに基づくものではなく、農振法の趣旨に反することは明らかであって、このような場合にまで本件特別控除の適用を認めるとすると、実施要領等に従った価格により譲渡をした者に比較して著しく租税正義に反することにもなるので、到底認めることはできない。
(ロ)以上のことから、本件譲渡に係る農用地等の権利移動に係るあっせん手続は、実施要領等に定める手続によって行われたものではなく農振法第18条の規定の趣旨に適合したものではないから、本件譲渡について本件特別控除を適用することはできない。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 過少申告加算税の賦課決定処分は、確定申告額が過少であったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、適法である。

トップに戻る

(2)請求人の主張

 請求人は、次の理由により、原処分の全部の取消しを求める。
イ 更正処分の手続について
 原処分庁は、所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項の反対解釈として白色申告書には更正の理由附記は必要ないと主張するが、次のことから譲渡所得の更正に当たっては理由を附記すべきであり、これを欠く更正処分は取り消されるべきである。
(イ)帳簿書類の整備をしている青色申告者に対する更正には理由附記をし、いわゆる白色申告者にはそれを要しないという差異は、事業所得者等に関するものであれば理解でき得るが、譲渡所得は比較的高額に及び、また、複雑かつ専門的であるから、事業所得者等に関する上記のような事情とは区別して考えるべきであって、譲渡所得の更正に際してはその理由を附記すべきである。
(ロ)行政手続法は、行政庁は処分をする前に国民である納税者に対し十分な反論の機会を与えること、公正・透明性を勘案すべきことを定めており、これは適正な手続を定めることにより権利の濫用を律する憲法第31条に規定する適正手続の保証を具体化したものであるところ、譲渡所得者に係る更正の理由附記を定めていない所得税法第155条第2項及び通則法第74条の2《行政手続法の適用除外》の各規定は、憲法第31条に違反するものというべきである。
ロ 更正処分について
 原処分庁は、本件譲渡に係るあっせん手続が実施要領等に定める手続によって行われたものではないから、本件譲渡に本件特別控除は適用されないと主張するが、次に述べるとおり、本件譲渡は、農振法第18条に規定する農業委員会のあっせんに基づくものであるから、本件特別控除は適用されるべきである。
(イ)本件特別控除は、農振法を根拠とする農業振興地域内の農用地等について行う農地保有の合理化のための権利移動のあっせん事業を実施することにより農地保有の合理化の実現を図ることを目的として、その実現の協力者としての当該農地譲渡者に対して税法上の特典を付与し、効果の促進に資することを目的としたものである。
 そして、このあっせん事業が法令に適合したものであって、あっせんのプロセスが適切に機能するためのガイドラインないしマニュアルとして実施要領等が定められている。
(ロ)本件譲渡は、大型商業施設の建設用地として農地を譲渡し代替地の取得を希望した本件譲受人に対して、請求人がP市農業委員会のあっせんにより譲渡したものであるが、P市農業委員会は、次のとおり、実施要領等に適合したあっせんをしている。
A P市農業委員会は、「P市農地移動適正化あっせん基準」を定め、R県知事の認定を受けている。
B P市農業委員会は、あっせんに先立って次の名簿を作成しており、これらは実施要領等所定の「あっせん譲受等候補者名簿」の内容を充足するものである。
(A)担い手農家組合員名簿
(B)農地の購入希望者の名簿
(C)代替農地希望者名簿
C P市農業委員会は、平成10年2月ころから代替地購入希望者から実施要領等所定の「あっせん申出書」を受理し、当事者間の事前契約の有無及び譲受申出者が「P市農地移動適正化あっせん基準」に適合するかどうかのチェックをした。
D P市農業委員会は、本件譲渡に係るあっせん委員を2名指名している。
E P市農業委員会は、あっせん関係一覧表を作成し、あっせん委員はこれを確認した上で記名押印した。
 このあっせん関係一覧表は、実施要領等所定の「選定調書」及び「あっせん調書」に記載すべき内容を網羅している。
 なお、実施要領等所定の「選定調書」及び「あっせん調書」は、原処分の調査着手後ではあるが、あっせん関係一覧表を基にして作成し、関係者の記名押印を施した。
(ハ)原処分庁は、実施要領等の定めるところにより、あっせんはあっせん委員がすべきであるのに、あっせん委員があっせんをした事実はない旨主張するが、農地保有の合理化のためのあっせんは、宅地取引における宅地建物取引主任に要求されるような専門性に加え、農地売買の取引に必要な知識の提供や取引対象農地に関する具体的調査と説明など極めて高度な専門的能力が要求されるところ、これらは、農業委員に期待するよりは農業委員会事務局に期待するのが現実的であるから、事務局が行ったあっせんも農業委員会が行ったものというべきである。
(ニ)原処分庁は、本件譲渡に係るあっせん証明書は、実施要領等所定の「あっせん調書」が作成されていない状態で交付されており、その売買契約があっせんに基づいて成立したことが確認されないまま交付されたと主張するが、P市農業委員会が平成11年2月初旬に作成したあっせん関係一覧表は実施要領等所定の「あっせん調書」の内容を充足しており、これに基づいてあっせん証明書の作成をしたものであるから、本件譲渡に係る売買契約があっせんに基づいて成立したことを確認した上であっせん証明書を交付したというべきである。
(ホ)原処分庁は、実施要領等は通常の農地の売買価格を上回る額でのあっせんは行わない旨定めているのに、本件土地の譲渡価格に関し農業委員が通常の2倍程度の価格を示した経緯があることから、実施要領等に基づいたあっせんではないと主張するが、P市農業委員会が価格の基準を設定してあっせんをしなかったとすれば、当事者だけで決定される価格はより高く設定された可能性が高かったと想定されるから、P市農業委員会がした価格の基準の設定は、かえって農地移動適正化あっせん基準に適合するものと評価されるべきである。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記のとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

3 判断

(1)更正処分の手続について

 請求人は、上記2の(2)のイのとおり、譲渡所得の更正に当たっては更正の理由を附記すべきであり、これを欠く原処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、白色申告書に係る更正処分については、その更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨を定めた法令上の規定はないから、原処分庁が更正通知書に更正の理由を附記しなかったとしても違法ではない。
 なお、請求人は、譲渡所得について更正の理由附記を定めていない所得税法第155条第2項及び通則法第74条の2の各規定は憲法第31条の規定に違反する旨主張するが、憲法違反の判断は当審判所の権限に属さないことであり、審理の限りではない。

(2)更正処分について

 本件譲渡につき本件特別控除の適用の可否が争われているので以下審理する。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果並びに関係者の答述によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件譲受人は、P市農業委員会に対し、土地を売るため代替地(畑)が欲しい旨の「あっせん申出書」を平成10年2月に提出していること。
(ロ)P市農業委員会が作成した「選定調書(選定経過)」には、本件譲受人に対してあっせんする相手方の候補として本件土地の所有者である請求人を選定した旨記載されていること。
(ハ)P市農業委員会が作成した「あっせんの経過」には、請求人と本件譲受人が本件譲渡に係る契約に至るまでの経緯が記載されていること。
(ニ)請求人は、原処分の調査担当者に対して、次のとおり申述していること。
A 平成10年1月下旬に農業委員会へ畑の売却依頼をした。
B 平成10年2月上旬にS地区農業委員から譲受人がKであることを知らされた。
(ホ)Lは、当審判所に対して、次のとおり答述していること。
A P市農業委員会は、平成9年10月に開催された農業委員会において、大型商業施設のP市出店に係る用地買収に伴う代替地(農地)のあっせん価格を1坪当たり20,000円ないし25,000円を上限とする旨取り決めた。
B P市農業委員会は、平成9年12月に代替地購入希望者を対象として説明会を開催し、その席上で申出があれば候補を探して提供する旨説明した。
C P市農業委員会は、平成10年1月ころ、あっせんについて、あっせん委員は当事者に対して相手方の氏名や農地の所在地等を伝え、事務局はその後の事務的なことを担当することと決めた。
D P市農業委員会は、平成10年1月から3月にかけて、平成8年に各農家を対象として実施したアンケートに売却希望と記入した者に対して、その真意を確認する作業をした。
E P市農業委員会は、平成10年2月ころ、会長と事務局が相談した上あっせん委員は地区の農業委員が良いだろうということを決めて、その後すぐに申出のあった2ないし3組のあっせんを行った。
F P市農業委員会は、平成10年4月13日に開催した農業委員会で、あっせん委員は地区の農業委員が担当する旨決定し、正式なあっせん作業を進めていった。
G P市農業委員会は、あっせん証明書の交付申請があった際には、〔1〕売買契約書に記載された契約年月日があっせんを開始したときよりも後であること、〔2〕売買された農地があっせんしたものであること及び〔3〕売買単価が25,000円以内であることなどについて、売買契約書と「選定調書(選定経過)」及びあっせん関係一覧表などの書類に基づいて確認を行った。
(ヘ)本件譲渡に関して、請求人と本件譲受人があっせん申出の前に既に実質的に契約を締結していたと認められるような不適正な事実及びあっせん証明書の交付に際する事務に不正の存在をうかがわせるような事実は認められないこと。
ロ 本件特別控除の趣旨
 農振法は、農業の健全な発展を図るとともに国土資源の合理的な利用に寄与することを目的として昭和44年7月1日に公布され同年9月27日から施行された法律であり、同法においては、都道府県知事は総合的に農業の振興を図ることが必要な地域として「農業振興地域」を指定し(第6条)、市町村はその区域内にある土地の農業上の用途区分を農業振興地域整備計画により定め(第8条)、農業委員会は農用地区域内の農地について農地保有の合理化に資するよう譲渡等のあっせんをする(第18条)など業務分担が定められている。
 そして、農振法第23条第1項は、上記法律制定の目的の一環として農地保有の合理化という政策要請に即応した農業委員会のあっせんに基づく土地の譲渡については所得税を軽減する旨規定したものであり、措置法第34条の3第1項の規定は、これに対応する租税特別措置として、一般の任意譲渡の場合の1,000,000円の特別控除に代えて8,000,000円までの特別控除を認めることとしている。
ハ 本件特別控除の適用要件
 上記1の(3)のイないしハのとおり、本件特別控除は、農用地区域内にある土地が農業振興地域整備計画に基づき農地保有の合理化等に資するために農業委員会のあっせんに基づいて行われた譲渡であることが一つの要件とされている。そして、この規定は、〔1〕適用を受けようとする年分の確定申告書にその適用を受けようとする旨の記載をするとともに、〔2〕この規定に該当することを証する書類であるあっせん証明書の添付がある場合に限り適用することとされている。
 ところで、あっせん証明書は、措置法第34条の3第3項に規定する「第1項の規定に該当する旨を証する書類として大蔵省令で定めるもの」、すなわち措置法規則第18条第3項第3号に規定する「農業委員会の当該土地等の譲渡につき当該あっせんを行ったことを証する書類」として農業委員会が交付するものである。換言すれば、「あっせん証明書」は当該譲渡が農振法第23条第1項及び同法第18条に規定するあっせんによって行われたことを証する書類である。
 そうすると、適用を受けようとする年分の確定申告書に添付されたあっせん証明書が無効なもの又は取り消された場合は格別、上記〔1〕及び〔2〕の要件が充足される限り、本件特別控除の適用は認められるべきものと解される。
ニ 本件譲渡について
 上記ハの適用要件を本件譲渡についてみると次のとおりである。
(イ)農用地区域内の土地の譲渡かどうかについて
 上記1の(4)のハのとおり、本件土地は、本件譲渡のときにおいて農用地区域内にあった土地である。
(ロ)農業委員会のあっせんに基づいて行われたかどうかについて
 上記イの(イ)ないし(ホ)及び1の(4)のニの各事実からすれば、本件譲渡はP市農業委員会のあっせんに基づいて行われたと認められ、また、農地保有の合理化に資するものであることを否定すべき事実は認められない。
(ハ)上記ハの〔1〕及び〔2〕の要件について
 上記1の(4)のホのとおり、請求人の確定申告書には本件特別控除を適用する旨の記載があり、かつ、あっせん証明書の添付がある。
 なお、当該あっせん証明書の交付が取り消された事実は認められない。
(ニ)以上のとおり、本件譲渡は、本件特別控除の適用要件をすべて充足しているものと認められ、また、上記イの(ヘ)のとおり、本件譲渡に関して不適正な事実及びあっせん証明事務に不正が行われたことなどをうかがわせる事実は認められないから、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算に当たっては、本件特別控除の適用を認めるのが相当である。
ホ 原処分庁の主張について
 原処分庁は、上記2の(1)のロのとおり、〔1〕本件譲渡に係るあっせんはあっせん委員によって行われたものではない、〔2〕あっせん証明書は本件譲渡に係る契約があっせんに基づき成立したことが確認されないまま発行された及び〔3〕本件譲渡の譲渡価格に関し農業委員が通常の2倍程度の価格を示したなどとして、これらのことは実施要領等の定めに違反するから農振法第23条に規定するあっせんにより譲渡した場合とは認められない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁の主張は、次の理由から採用することはできない。
(イ)原処分庁の主張はいずれも農業委員会部内のあっせん事業の処理過程における瑕疵の存在を指摘するものであるが、上記ニで述べたとおり、本件特別控除の適用要件のすべてを充足している本件のような場合においては、仮に農業委員会のあっせんに係る処理過程の一部が実施要領等に従っていなかったとしても、そのことをもって直ちに請求人に係る本件特別控除の適用が否定されることにはならないというべきである。
(ロ)確かに、本件特別控除は農振法第23条第1項及び同法第18条の各規定に該当することを前提とするものであるから、課税庁は、その該当性の判断に当たり現実に行われた農業委員会のあっせん事業が上記農振法各規定に基づいて適正に行われたものかの調査を行う場合も当然にあり得るが、その場合であっても、上記法令に違反することがその趣旨目的を滅却させるほど重大であり、あっせん証明書が無効なものであると評価できる場合はともかく、当該証明書が取り消されない限り有効な証明書として本件特別控除の適用は認められるものと解される。
 なお、本件譲渡のあっせんに関し、あっせん事業として不適正なもの又はあっせん証明事務が不適正なものであったとして、R県知事がP市農業委員会を指導した事実は認められない。
(ハ)原処分庁の上記主張についてみると、次のとおり、いずれもその主張する事実が本件特別控除の趣旨目的に照らし看過し得ない重大な瑕疵に該当するということはできない。
A 上記〔1〕の主張は、あっせんに係る具体的実務の行為者を問題とするものであるが、農業委員会部内の人選は、各自治体の規模や個別事情等に応じて各自治体の判断にゆだねられているものであり、また、具体的な実務を事務局長が行ったからとして農振法の趣旨に反するということはできない。
B 上記〔2〕の主張は、本件譲渡に係るあっせん及びあっせん証明書の交付に至る事務処理手順が実施要領等に定める手続によって行われていないことを問題とするものであり、確かに原処分庁の主張するとおりP市農業委員会によるあっせん事業においては実施要領等所定の様式による各種書類の作成の遅延等の事実が認められる。
 しかしながら、上記イの(イ)ないし(ホ)及び1の(4)のニの各事実からすれば、本件譲渡はP市農業委員会のあっせんに基づいて行われたものと認められ、また、あっせん証明書の交付も事実に基づいて作成・交付されているものと認められるところ、上記手続の瑕疵のみをもって本件特別控除の適用を不相当とすることはできない。
C 上記〔3〕の主張は、あっせん価格を問題とするものであるが、「通常の2倍程度の価格を示した」と認めるに足る具体的な証拠がないことに加え、本件譲渡が大型商業施設のP市出店による代替地の確保という特殊な状況を背景としていたことからすれば、「通常の価格」としての基準値自体も変動するものと想定されるから、必ずしも本件土地のあっせん価格自体が農用地等の価格の高騰など本件特別控除の趣旨目的に反する結果を招くほどに高額なものと断定することはできないものと認められる。
 なお、上記1の(4)のロのとおり、本件譲渡の譲渡価格は1坪当たり約9,994円である。
ヘ 結論
 以上のとおり、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり、本件特別控除は適用されるべきであり、その結果、請求人の分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額はいずれも申告に係る分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額と同額となるから、更正処分はその全部を取り消すべきである。

(3)過少申告加算税の賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、更正処分の全部の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

トップに戻る