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(平14.7.9裁決、裁決事例集No.64 324頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が株式会社K(以下「K社」という。)から同社が各店舗で使用中の建物附属設備を購入すると同時に、これを同社に賃貸した取引が、税務上の「リース取引」に該当し、かつ、実質的に金銭の貸借(以下「金融取引」という。)であると認められるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、英国領ケイマン諸島に本店を置き、日本国において金融業及びリース業を行う外国法人であるが、平成9年3月27日から平成10年2月28日まで、平成10年3月1日から平成11年2月28日まで、及び平成11年3月1日から平成12年2月29日までの各事業年度(以下、それぞれ「平成10年2月期」、「平成11年2月期」及び「平成12年2月期」といい、これらの事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の請求人の日本支店(以下「日本支店」という。)に係る法人税について、青色の確定申告書に別表1の各「確定申告」欄のとおり記載して、平成10年2月期は平成10年6月30日に、平成11年2月期は平成11年5月31日に、平成12年2月期は平成12年5月31日にそれぞれ申告した。
 また、日本支店に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)については、平成9年3月27日から平成9年6月26日まで、平成11年6月1日から平成11年8月31日まで、及び平成11年9月1日から平成11年11月30日までの各課税期間(以下、それぞれ「平成9年6月課税期間」、「平成11年8月課税期間」及び「平成11年11月課税期間」といい、これらの事業年度を併せて「本件各課税期間」という。)において別表2の各「確定申告」欄のとおり記載して、平成9年6月課税期間は法定申告期限までに申告し、平成11年8月課税期間は平成11年12月21日に、平成11年11月課税期間は平成12年3月7日にそれぞれ申告した。
 原処分庁は、平成11年8月課税期間について別表2の「無申告加算税の額」欄のとおり平成12年6月30日付で無申告加算税の賦課決定処分をした。
ロ その後請求人は、平成12年5月31日に日本支店の平成11年8月課税期間に係る消費税等ついて、別表2の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ハ 原処分庁はこれに対し、平成12年8月22日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を行うとともに、同日付で本件各事業年度の法人税について別表1の各「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)並びに平成11年2月期及び平成12年2月期について過少申告加算税の各賦課決定処分をし、また、本件各課税期間の消費税等については別表2の各「更正処分等」欄のとおりの各更正処分を行い、平成9年6月課税期間及び平成11年11月課税期間(以下、これらの課税期間に係る各更正処分を併せて「本件消費税等各更正処分」という。)については過少申告加算税の各賦課決定処分を、平成11年8月課税期間については無申告加算税を零円とする変更決定処分をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として平成12年10月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年1月31日付で本件法人税各更正処分及び本件通知処分につき棄却の異議決定をするとともに、同日付で本件消費税等各更正処分については棄却の異議決定をし、平成11年8月課税期間に係る消費税等の更正処分については却下の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年2月28日に審査請求をした。

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(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、K社との間で、平成9年5月30日、K社の営業中の69店舗の建物附属設備(以下「本件対象資産」という。)を36,450,845,913円(内消費税等1,735,754,567円)で購入する旨の売買契約(以下、当該契約を「本件売買契約」といい、当該契約の契約書を「本件売買契約書」という。)を締結した。
 本件売買契約において、売主は、本件対象資産を契約締結と同時に、対象物の所在地において、占有改定その他相当の方法で買主に引き渡し、買主が相当と認める期間、売主が管理することとされている。
ロ 請求人は、K社との間で、平成9年5月30日、K社に対し本件対象資産を賃貸する旨の賃貸借契約(以下、当該契約を「本件賃貸借契約」といい、当該契約の契約書を「本件賃貸借契約書」という。)を締結した(以下、本件売買契約及び本件賃貸借契約に基づく取引を「本件取引」という。)。
 本件賃貸借契約の要旨は次のとおりである(括弧書きは本件賃貸借契約書の該当条文)。
(イ)賃貸借期間は、平成9年5月30日から20年間とする(第4条)。
(ロ)賃料は、平成9年12月から毎年6月10日及び12月10日の5営業日前までに後払で、月額257,500,000円の6か月相当分1,545,000,000円を貸主の指定する口座に振込入金する。なお、賃料に関して生ずる消費税等その他の公租公課は借主の負担とする(第5条)。
(ハ)賃料は、賃貸借開始の日から5年間は据え置き、平成14年5月30日を初回として5年ごとに本件対象資産に関する公租公課、修繕費、その他の経済情勢の変動等を考慮して、借主、貸主が事前に協議の上、増減の改定をすることができる。当該協議は平成14年3月1日から平成14年4月30日までの間に行うものとし、以後5年ごとに3月1日から4月30日までの間に当該協議を行う。
 賃料改定の協議がなされない、ないしは、合意に達しない場合には、賃料は従前の80%に改定されたものとする(第6条)。
(ニ)借主は、本件対象資産について、時価相当額を被保険金額とする損害保険契約を締結し、保険料を負担しなければならない(第7条)。
(ホ)本件対象資産の品質、数量、権利の帰属等に関し、瑕疵があった場合においても、借主は、賃料の減額、本件賃貸借契約の解除、又は損害賠償を請求できない(第8条)。
(ヘ)本件賃貸借契約は中途解約することはできない。天災地変、不可抗力、借主が貸主の事前の書面による同意を得て本件対象資産の設置状況、物件の帰属状況等の変更及び本件対象資産の改造、加工など原状の変更を行った結果、本件対象資産の全部又は一部に滅失、大破、毀損等が生じた場合、経済的に使用価値が著しく低減したと認められる場合等には、その旨を書面で借主は貸主に通知するものとし、貸主は損害賠償等何らの債務を負うことなく本件賃貸借契約は全部又は上記各場合に該当する本件対象資産に関する一部について終了する(第9条)。
(ト)上記(ヘ)の規定に従い、本件賃貸借契約の全部又は一部が終了した場合には、借主は貸主に対し、貸主によって算定される〔1〕賃貸借契約終了時から次回の賃料改定時までに本件賃貸借契約の全部又は一部が終了していなかったのであれば借主が支払うべきであったであろう当該賃貸借契約終了部分に係る賃料の合計額と、〔2〕借主・貸主が合意した本件対象資産の将来の推定鑑定価格24,015,000,000円に、当該賃貸借契約終了部分に係る本件対象資産の貸主の取得原価を本件対象資産の貸主の取得原価の合計額で除した数を乗じて算出した金額(上記(ハ)の賃料改定の合意が成立した場合には、新たに将来の推定鑑定価格を借主の費用で取得し、その次回の賃料改定時の簿価として使用する。)を貸主が指定する時期・方法で支払うものとする(第10条)。
(チ)本件対象資産の維持、修繕、公租公課その他、本件対象資産の保有に関して発生する一切の費用は借主が負担する(第11条)。
(リ)借主の事前の承諾を得た上で、貸主が本件対象資産を第三者に売却するなど、本件対象資産に特定承継が生じた場合には、貸主は何らの損害賠償義務を負うことなく本件賃貸借契約に基づく地位を第三者に移転させることができる。また、賃料改定の協議がなされない、ないしは、合意に達しない場合には貸主は、何らの損害賠償義務を負うことなく、借主の事前の承諾を得た上で、本件対象資産の所有権を第三者に移転し、本件賃貸借契約に基づく地位を第三者に移転させることができる(第17条)。
(ヌ)賃貸借期間の20年を満了した際には、本件賃貸借契約は終了し、更新を認めない。この場合には、借主の費用で借主の選定した第三者による本件対象資産の鑑定評価を行い、その鑑定によって示された価格で、借主は貸主から本件対象資産を買い取るものとし、本件対象資産の所有権は本件賃貸借契約終了時に貸主から借主に当然に移転する(第18条)。
ハ 請求人は、平成9年5月30日、当時K社の50%直接出資会社であった株式会社L(以下「L社」という。)との間で、請求人がL社に対し本件賃貸借契約の本件対象資産及び賃貸人の地位を行使価格で譲渡できる権利を購入するオプション契約(以下、当該契約を「本件オプション契約」といい、当該契約の契約書を「本件オプション契約書」という。)を締結するとともに、同日付で、同契約に関し請求人が損害を受けた場合には、K社がその責任を負い、同契約に基づくL社の債務についてK社が連帯して債務を引き受ける旨の念書をK社から徴した。
 本件オプション契約の要旨は次のとおりである(括弧書きは本件オプション契約書の該当条文)。
(イ)請求人は、本件オプション契約締結後、10営業日以内に80,000,000円をL社に支払うことの対価として、平成14年5月1日から平成14年6月3日までの間、L社に対して書面でオプションを行使する旨の意思表示をすることにより、次の(ロ)の法律効果を平成14年6月3日に生じさせることができる(第1条)。
(ロ)上記(イ)のオプションを行使した場合の法律効果は以下のとおりである。
A 本件対象資産のうち、法律効果発生時に請求人が有している所有権は、請求人からL社に移転する。
B 本件賃貸借契約に基づく請求人の契約上の地位をL社が承継する。
C L社は、次の順序で定められるいずれかの金額及び鑑定に要する費用などを直ちに請求人の指定する銀行口座に振込入金する。
(A)L社が第三者にL社に移転する所有権に係る本件対象資産を鑑定評価させた結果、示される鑑定価格相当額で請求人が承諾するもの。
(B)上記(A)の請求人の承諾が得られない場合には、請求人がL社の費用で第三者に本件対象資産を鑑定評価させた結果、示される鑑定価格相当額でL社が承諾するもの。
(C)上記(B)の承諾が得られない場合には、本件対象資産の将来の推定鑑定価格24,015,000,000円に、本件対象資産の請求人の取得原価の合計額からオプションの行使日までに賃貸借が終了した部分の本件対象資産の取得原価の合計額を減じた金額を本件対象資産の請求人の取得原価の合計額で除した数を乗じて算出した金額(第2条)。
ニ 請求人は、平成9年5月30日、当時K社の100%子会社であった株式会社M(以下「M社」という。)との間で、K社からの受取賃料を再運用し、次のホで述べる社債の償還元本の一部を積み立てるため、次に述べるとおりの金銭を相互に支払うスワップ契約(以下「本件スワップ契約」という。)を締結するとともに、同日付で、同契約に関し請求人が損害を受けた場合には、K社がその責任を負い、同契約に基づくM社の債務についてK社が連帯して債務を引き受ける旨の念書をK社から徴した。
 本件スワップ契約の要旨は次のとおりである。
(イ)約定日 1997(平成9)年5月30日
(ロ)終了日 2002(平成14)年6月10日
(ハ)固定金額(A)
 固定金額(A)の支払者 M社
 固定利率(A) 1.435%(年率)

 固定金額(A) (固定金額(B)×(1+固定利率(A)/2)のn乗)

 固定金額(A)の支払日 2002(平成14)年6月3日
(ニ)固定金額(B)
 固定金額(B)の支払者 請求人
 想定元本(B) 35,000,000,000円
 固定利率(B) 2.75%(年率)
 固定金額(B) 1,545,000,000円−(想定元本(B)×固定利率(B)/2)
 固定金額(B)の支払日 1997(平成9)年12月から2002(平成14)年12月の毎年6月10日及び12月10日の4営業日前
ホ 請求人は、平成9年6月10日(ロンドン時間)、K社に対する本件賃貸借契約や上記ハ及びニで述べた念書上の権利、M社に対する本件スワップ契約上の権利、L社に対する本件オプション契約上の権利等を担保として、総額35,000,000,000円の社債(ユーロ円5年債)(以下「本件社債」という。)を発行し、本件売買契約の購入資金を調達した。本件社債の利息の支払時期は、平成9年以降毎年6月10日及び12月10日の年2回、最終償還期限は2002(平成14)年6月10日とされている。
ヘ 請求人は、本件賃貸借契約の定めのうち、上記ロの(ト)で述べた本件対象資産の将来の推定鑑定価格について、平成9年4月30日付で、不動産鑑定士から意見書を徴しており、その記載内容は要旨次のとおりである。
(イ)評価対象物件は、K社グループが営業中の店舗のうち69店舗の建物附属設備等、評価の対象となる権利は、所有権
(ロ)5年後の上記(イ)の物件の適正な評価額は、24,015,000,000円
(ハ)価格時点は平成14年4月30日、評価を行った日付は平成9年4月24日、評価の依頼目的は、建物附属設備等の5年後(平成14年)の買戻し価格の参考のため。
(ニ)評価対象は、依頼者(K社)から提出のあった固定資産増減表(台帳)及び同集計表に記載された建物附属設備等で、これらは価格時点で現存するものとみなして評価を行う。当該評価は、譲渡後も当該建物附属設備等を引き続き使用収益し続け、5年後に買い戻す場合における適正価額を求めるものであり、評価対象の建物附属設備等について、建物(店舗)と分離、独立した場合の市場価値(処分価値)あるいは担保価値を把握するものではない。
(ホ)評価の依頼目的及び条件は、建物附属設備等の所有者がいったん売却した後、従来どおり使用しながら5年後に再び買い戻す場合を想定しており、建物附属設備等だけを分離し、単独に評価するものではない。建物附属設備等はその単独の市場取引は期待できず、建物と結合して一体利用がなされて初めてその経済価値を発揮するものであり、本件評価は、建物と一体的に使用収益されることを前提として把握される適正な経済価値を評価するもので、求める価格は市場における単独取引を前提としない価格で、一体としての継続使用を前提とした場合の合理的な適正価格となる。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であり、すべて取り消されるべきである。
イ 更正の理由附記について
 原処分庁は、更正通知書上の理由において、「賃貸借契約書で20年間と賃貸借期間が定められ」、その「賃貸借期間中に支払われる賃借料の額の合計額が賃貸をする法人が取得した物件の取得価額及びその取引に係る付随費用の額の合計額のおおむね全部を支弁する(以下、当該要件を「フルペイアウト」という。)よう定められていること」を、本件取引が賃貸借取引ではなく金融取引であることの論拠とする一方、実際の課税所得計算は、「賃貸借期間5年の金融取引」としてこれを行っている。
 すなわち、賃貸借期間20年間の賃料の合計額がフルペイアウトを満たすとするならば、原処分庁は課税所得計算も20年間の賃料の額を基に行うべきであるにもかかわらず、当該賃貸借期間の6年目以降の賃料の額が確定していないため、当該賃貸借期間の当初5年間の確定した賃料の額と、その行使のがい然性が低く、あくまでも信用補完として付しているにすぎないL社に対するオプション権の行使価額を基に仮想的な課税所得計算を行っている。
 このことは、更正通知書上に記載された課税所得計算と更正の理由との間に重大なそごが生じているということであり、更正通知書の課税所得計算は更正の理由として示された内容に即して行わなければならないのは当然であり、課税所得計算と更正の理由とは表裏一体である必要がある。したがって、法人税法第130条《青色申告書に係る更正》第2項の規定の趣旨を充足しているとは到底いえないことから、当該規定の趣旨を満たさない更正の理由附記により行われた本件更正処分は違法である。
ロ 金融取引について
 原処分庁は、本件法人税各更正処分に当たり昭和53年7月20日付「リース取引に係る法人税及び所得税の取扱いについて」(以下「53年通達」という。)及び昭和63年3月30日付「リース期間が法定耐用年数よりも長いリース取引に対する税務上の取扱いについて」(以下「63年通達」という。)のいわゆるリース通達(以下、53年通達及び63年通達を併せて「本件通達」という。)を基に本件取引が賃貸借取引ではなく金融取引に該当するとし、その前提として、本件賃貸借契約が5年あるいは20年の期間のいずれをとってもフルペイアウトになる旨主張する。
 しかし、本件賃貸借契約は、次の理由から5年あるいは20年のいずれの期間をとってもフルペイアウトになるとは認められず、したがって本件通達の要件に該当しないことから、本件取引を金融取引とした原処分は違法である。
(イ)5年のフルペイアウトの判定について
A そもそも更正の理由において、賃貸借期間は20年であり、その期間中の賃料の総額をもってフルペイアウトになる旨が記載されているので、5年を単位としてフルペイアウトの判定を行うこと自体失当である。
B また、仮に請求人がL社に対して、オプションを行使し当該賃貸借を5年で終了させる場合、賃借人(K社)は、自己の連結財務諸表上に再度本件対象資産を掲記することになり、結果として賃借人の資本市場での与信を低下させることとなる。したがって、本件賃貸借契約を締結した各当事者(賃借人及び賃貸人)は、こうした事態を回避し賃貸借契約を継続するよう社債発行に限らず資金借入れ等多様な方法を取ると推定され、当該賃貸借が5年で終了することを予定していた取引と考えることは現実に即しておらず、その時点で当該賃貸借が終了することのがい然性自体極めて低いものであったと判断される。
 以上のことから、本件賃貸借契約について5年を単位としてフルペイアウトの判定を行うことは、本件取引の実態の面からも失当というべきであり、6年目以降の賃料は不確定であることから、それ以後のフルペイアウトの判定は技術的にも不可能である。
(ロ)20年のフルペイアウトの判定について
 本件賃貸借契約は、〔1〕6年目以降の賃料が不確定であること、〔2〕20年間の賃貸借期間終了後に行われる物件の時価売買についてその売却価格が不明であることから、賃貸借期間中に支払われる賃料の額の合計額がフルペイアウトを満たすとは明確にはいえない。
(ハ)リース物件の廃棄予定と本件賃貸借契約の一般性について
A 国税庁職員記載の昭和53年のリース通達に係る問答集(昭和54年2月5日付週刊税務通信)(以下「問答集」という。)によれば、賃貸期間中に除却又は廃棄される建物附属設備のリースは、仮にその取引がフルペイアウトであったとしてもこれを賃貸借処理することを容認している。この点も併せ考えれば、20年後に残存している資産は時価売却されることからフルペイアウトに該当すると断定できず、また、20年後までに、又は20年後の時点で除却、廃棄された部分については、それが仮にフルペイアウトであってもその除却、廃棄という事実によって税務上の賃貸借処理は肯定されるべきである。したがって、この点からも20年間の推定賃料の総額をもってフルペイアウトと断定し、本件取引を金融取引とする原処分庁の主張には理由がない。
B 原処分庁は更正の理由において、建物附属設備のみの賃貸借は一般的な取引ではないとしているが、上記Aの問答集の内容からして、同種の資産の取引の一般性を課税庁も同意していると解されるので原処分庁がこれを理由に金融取引の根拠とすることには理由がない。
ハ 課税所得の計算について
 原処分庁は、本件取引において実際に授受される金額が貸金の額として取り扱われるとし、消費税等も実際に授受される金額に含む旨主張する。
 しかしながら、〔1〕本件取引に係る賃貸借が消費税等の課税取引と認められなければ当初から消費税等は支払われなかったこと、〔2〕当該消費税等は課税当局に納税されており、通常の金銭消費貸借契約に係る資金のように借り手が自由に消費できる資金ではないことから、後日消費税等の支払に誤りが明らかとなった場合には、当該消費税等相当額は課税所得計算に含めず、別途取り扱うべきであり、消費税等の金額を実際に授受された金額に含め課税所得計算を行うことは違法である。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件法人税各更正処分について
(イ)更正の理由附記について
 更正の理由附記が必要とされる法人税法第130条第2項の規定の意味するところは、青色申告制度の趣旨にかんがみ、処分庁に対し慎重かつ妥当な判断に基づき処分を行うことを担保させるとともに、処分を受けた法人に対しその理由を理解させ、不服申立てに便宜を与えるものと解される。
 これを本件法人税各更正処分に係る更正の理由についてみると、「金融利益計上もれ」又は「金融損失計上もれ」の項目において、請求人がK社との間で平成9年5月30日付で締結し作成した本件売買契約書及び本件賃貸借契約書を明示し、本件取引が中古資産のリースバック取引であり実質的に金融取引であると認められる旨を記載し、また、そのように判断した理由として6項目を掲げており、さらに「金融利益計上もれ」又は「金融損失計上もれ」の金額の計算根拠も示しているので、更正の理由附記制度の趣旨からして欠けるところはない。
 なお、賃貸借期間の20年については、本件賃貸借契約に定める期間であり、この期間は本件取引がリース取引に該当するか否かの判断をする場合の基礎の一つにしたにすぎず、本件各事業年度の所得金額の計算は、本件売買契約及び本件賃貸借契約により確定している貸金の額とすべき金額並びにその返済の額及び利息の額の合計額により行ったものであるから、更正の理由と所得金額の計算とにそごが生じている事実はない。
(ロ)金融取引について
A 本件取引については、6年目以降の請求人の資金調達コストが確定していないものの、本件取引の当事者の意図及び契約内容からして6年目以降の契約の継続及び賃料の改定についても、両当事者が最善の方法を取るのが通常であると認められ、その場合にはフルペイアウトになる賃料をもって改定が行われると認められる。異議決定の理由における6年目以降についての検討は、何らかの事情で改定が合意しなかった場合がありうることから念のため検証したものであり、この場合の6年目以降の請求人の資金調達コストについては、便宜的に、本件賃貸借契約書等から必要になると認められる5年ごとの資金の額と公表されている20年もののスワップ金利のうち本件取引の日において通常使用すると認められる利率により利息の額を計算し、賃料の額については、本件賃貸借契約書の第6条により計算したものであり、本件賃貸借契約が5年で終了することを前提としているものではない。
B また、本件取引については、6年目以降の請求人の資金調達コストが確定していないとしても、本件取引の両当事者の意図及び契約内容からすれば、本件賃貸借契約が中途解約によりその全部又は一部が終了した場合及び20年間継続した場合のいずれの場合でもフルペイアウトになるものと認められるのであるから、将来の資金調達コストに確定していない部分があることをもってして税務上のリース取引に当たらないとする理由はない。
(ハ)リース物件の廃棄予定と本件賃貸借契約の一般性について
A 請求人は、建物附属設備の賃貸借は一般的であり、また、リース期間経過後に廃棄が予定されているような店舗設備等は賃貸借として取り扱うべきでこの考え方はリースバック取引についてもしんしゃくされるべきものである旨主張する。
B 確かに昭和53年12月7日付の53年通達の運用についての通達(以下「53年運用通達」という。)の別紙問6には、定期的に改装を行う場合の店舗用設備等のように、その改装サイクル期間をリース期間とするようなリース取引でその期間経過後、そのリース物件の廃棄が予定されているものについては、「廃棄されることが明らかな場合」に該当する旨の記載があり、この場合には売買として取り扱わないことができることとされている。
C しかしながら、本件対象資産は主な対象が電気設備、給排水設備等であり、一定の改装サイクル期間で廃棄が予定されているものとは認められない。
 また、本件取引は中古資産のリースバックであり実質的に金融取引と認められ、本件対象資産の請求人への譲渡が当初からなかったものとして取り扱われるので、当該資産を請求人が賃借人にリースしたものとして取り扱うことができないのは明らかである。
 よって、賃貸借を認めるべきであるとする請求人の主張には理由がない。
(ニ)課税所得の計算について
 請求人は、課税所得の計算上は本件取引について授受される消費税等相当額を控除すべきである旨主張するが、本件取引が実質的に金融取引であるとして取り扱われる場合には、その取引は消費税等の課税対象となる取引とはならないので、消費税等の額としている金額を含むその取引により実際に授受される金額が貸金の額並びに元本の額及び利息の額として取り扱われることとなるので、請求人の主張には理由がない。
(ホ)以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、本件法人税各更正処分は適法である。
ロ 本件消費税等各更正処分及び本件通知処分について
(イ)本件消費税等各更正処分について
 本件取引が実質的に金融取引であるとして取り扱われるべきであることは、上記イの(ロ)のとおりであり、本件取引は消費税法第2条《定義》第1項第12号及び第9号に規定する課税仕入れ及び課税資産の譲渡等には該当しない。
(ロ)本件通知処分について
 平成11年8月課税期間の消費税等については、当該課税期間の更正処分により請求人が本件更正の請求で減額を求める消費税等の額を超えて減額更正をしていることから、本件更正の請求には更正をすべき理由はない。
(ハ)したがって、上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件消費税等各更正処分及び本件通知処分は適法である。

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3 判断

(1)本件法人税各更正処分について

イ 更正の理由附記について
 請求人は、更正通知書上に記載された課税所得計算と更正の理由との間に重大なそごが生じていることから、本件法人税各更正処分は更正の理由附記に係る法令の趣旨を満たさず違法である旨主張するので、以下検討する。
(イ)当審判所の調査の結果によれば、本件各事業年度に係る更正通知書(以下「本件更正通知書」という。)には、本件取引が金融取引に該当する理由として、要旨次の記載がある。
A 平成10年2月期及び平成11年2月期に係る更正通知書の加算項目欄のうち「金融利益計上もれ」の項目並びに平成12年2月期に係る更正通知書の減算項目欄のうち「金融損失計上もれ」の項目において、請求人は平成9年5月30日付で、K社よりK社所有の建物附属設備を36,450,845,913円(消費税等込み)で買い取る旨の本件売買契約を締結した後、本件対象資産を月額257,500,000円(消費税等抜き)でK社に賃貸する本件賃貸借契約を締結しているが、当該売買取引及び賃貸借取引は、次の理由から中古資産のリースバック取引であり、実質的に金銭の貸借であると認められる旨記載されている。
(A)本件賃貸借契約書により賃貸期間中の中途解約が禁止されていること。
(B)本件賃貸借契約書で定められた20年間の賃貸借期間中に支払われる賃借料の額の合計額が賃貸をする法人が取得した物件の取得価額及びその取引に係る付随費用の額の合計額のおおむね全部を支弁するよう定められていること。
(C)本件取引の目的は、K社の保有資産のオフバランス化及びそれに合わせての資金調達にあること。
(D)建物附属設備のみの売買取引は、資産の利用価値の点から見て一般的な取引とはいえず、また、建物附属設備のみの賃貸借取引も一般的な取引ではないこと。
(E)K社は、本件対象資産の売却前後で自己の店舗の利用等その経済的実質に何ら変化はないこと。
(F)本件対象資産の所有権は請求人にあるにもかかわらず、当該資産を第三者に売却するときは、本件賃貸借契約書によりK社の承諾が必要とされていること。
B したがって、本件対象資産の売買取引はなかったものとし、請求人からK社に対して本件対象資産の購入価額に相当する金銭の貸付けがあったものとして、下記(A)及び(B)の項目について再計算を行い算出された金額を金融利益計上もれ又は金融損失計上もれとして、次のとおり、本件各事業年度別に、所得金額の加算項目又は減算項目を記載して、その内容の説明を行っている。
(A)平成10年2月期及び平成11年2月期においては、加算項目として、〔1〕減価償却費の過大計上額、〔2〕受取利息計上もれ、〔3〕受取リース料過大計上額等の項目を説明するとともに、これらの金額を加算、減算して金融利益計上もれの金額を算定し、また、減算項目として、〔1〕雑収入過大計上額、〔2〕雑損失計上もれ等の項目の説明及び金額を記載し、さらにその他の項目として、翌期繰越欠損金の過大額等の項目の説明及び金額を記載して、これらを所得金額に加算すべき金額又は所得金額から減算すべき金額として記載している。
(B)また、平成12年2月期においては、加算項目として、〔1〕雑収入計上もれ及び〔2〕欠損金の当期控除過大額の項目の説明及び金額を記載し、減算項目として、〔1〕減価償却費の過大計上額、〔2〕受取利息計上もれ、〔3〕受取リース料過大計上額等の項目を説明するとともに、これらの金額を加算、減算して金融損失計上もれの金額を算定し、さらにその他の項目として、翌期繰越欠損金の過大額等の項目の説明及び金額を記載し、これらを所得金額に加算すべき金額及び所得金額から減算すべき金額として記載している。
(ロ)ところで、法人税法第130条第2項が更正通知書にその更正の理由を附記しなければならないとする趣旨は、青色申告制度の趣旨にかんがみ、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにある。この趣旨からすると、処分の理由は更正通知書に附記された更正の理由の文面から明らかであることが必要であり、事実に対する法的評価の相異による更正処分の場合には、なぜそのような判断に至ったのかという原処分庁の判断過程について、これを省略することなく具体的に記載する必要があると解される。
(ハ)これを本件についてみると、本件更正通知書においては、上記(イ)のとおり、更正処分の対象となった本件取引についての事実とそれに対する法的評価について、なぜ原処分庁が本件取引を金融取引と判断したのかというその判断過程が具体的に記載され、その判断を基にした本件各事業年度の所得金額への加算額及び減算額の金額並びにこれらに対する説明が付されていることが認められる。したがって、本件各更正通知書の理由附記は法の趣旨にかなうものであり、適法である。
 したがって、この点の請求人の主張には理由がない。
ロ 金融取引について
(イ)関係法令等
A 本件取引の契約締結当時、リース取引の取扱いについて税法上具体的な規定はなかったので、基本的には、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第4項の規定にのっとり、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準にしたがって会計処理がなされるべきである。もっとも、いわゆるファイナンスリースに係る法人税の取扱いについては、その経済的実質において一般の賃貸借と異なる面があり、ファイナンスリースを一般の賃貸借と同様に取り扱うことに課税上弊害のあるものも認められるので、個々のリース取引の経済的実質に応じ課税上弊害があると認められるものについては金融取引等として取り扱うこととし、本件通達でその処理の統一を図ることとされていたのであり、次に述べる本件通達の取扱いは、法人税法第22条第4項の規定に照らして相当と認められる。
B 53年通達
(A)リース取引とは、次のa及びbのいずれにも該当する賃貸借契約(以下「リース契約」という。)に係る取引をいう。
a 賃貸借期間(以下「リース期間」という。)が定められており、そのリース期間中に支払われる賃借料(以下「リース料」という。)の額の合計額が、少なくとも、賃貸をする法人(以下「リース会社」という。)におけるその契約の対象となった物件(以下「リース物件」という。)の取得価額及びその取引に係る付随費用の額の合計額のおおむね全部を支弁するように定められていること。
b リース期間中における契約の解除が禁止されていること(解約禁止条項がない契約であって、賃借人が契約違反をした場合又は解約をする場合において、リース会社がリース期間のうち未経過の期間に係るリース料の合計額のおおむね全部に相当する金額を賃借人に対して請求することができることとされているものを含む。)。
(B)そして、当該取引が上記a及びbに該当した場合において、法人がその所有していた中古資産をいったんリース会社に譲渡した上、これをリース契約により賃借した場合において、その一連の取引が取引当事者の意図、取引物件の内容等からみて実質的に金融取引と認められるときは、当初からその譲渡はなかったものとして取り扱う。
(C)この場合のリース会社における処理は、当該資産の売買によりリース会社が賃借人に支払う金額は、貸付金の額として取り扱い、リース会社がリース期間中に収受すべきリース料の額の合計額のうち、その貸付金の額とした金額に相当する金額については、当該貸付金の返済を受けた金額として取り扱う。この場合において、リース会社が各事業年度に収受するリース料の額に係る貸付金の返済を受けたものとされる金額とそれ以外の金額との区分は、通常の金融取引における元本と利息の区分計算の方法に準じて合理的にこれを行うが、リース会社が、当該リース料の額のうちに貸付金の返済を受けたものとされる金額が均等に含まれているものとして処理しているときは、これを認める。
C 63年通達
(A)リース契約に係る取引のうち次のすべての要件に該当する賃貸借取引で、賃貸借期間が賃貸借物件の法定耐用年数の100分の120に相当する年数を超えるものは、金融取引又は売買取引として取り扱う。
a リース物件がいったん賃借人において取得された上でその賃貸借を行うことを条件に賃貸人に譲渡されたものであること。
b リース期間中のリース料の額の合計額が賃貸人におけるリース物件の取得価額及びその取引に係る付随費用の額の合計額のおおむね全部を回収するものとして算定されていること。
c リース期間中におけるリース契約の解除(以下「中途解約」という。)が禁止されていること、あるいは中途解約をする場合でも、賃借人が、リース期間のうちの未経過期間に対応するリース料のおおむね全部を支払うこととなっているか又はそのリース物件につき引取りをすることが明らかなこと。
d リース契約の中に、賃借人が公正な市場価額でリース物件を購入する旨の条項(以下「公正市場価額条項」という。)が付されていないこと。
 ただし、リース契約の中に公正市場価額条項が付されている賃貸借であっても、次のすべての要件を満たすものでないときは、公正市場価格条項が付されていないものとして取り扱う。
(a)リース物件のリース期間終了時における市場価額が残価(リース料の算定に当たって取得価額及びその取引に係る付随費用の額の合計額のうちリース料として回収しないこととした金額。以下同じ。)を上回る可能性が高いと認められること。
(b)賃借人がリース物件を購入する権利若しくは義務を有する場合において、当該権利の行使若しくは義務の履行をするとき又は賃貸人がリース物件を引き取る場合のいずれにおいても、残価と市場価額との差額についていかなる清算又は調整をもしないことが明らかであること。
(c)リース期間がリース物件の使用可能期間よりも相当短いこと。
(B)金融取引として取り扱うリース取引は、賃借人が、取得したリース物件を賃貸借を行うことを条件にいったん賃貸人に譲渡した上、これをリース契約により賃借したリース取引とする。
(ロ)本件取引の性質とフルペイアウトの判定をすべき期間について
A 当審判所の調査の結果によれば、請求人はN株式会社(以下「N社」という。)が本件取引のために設立し管理をしている特定目的会社(以下「SPC」という。)と認められる。
B N社が本件取引に関して1997(平成9)年5月22日付で作成した「店舗設備賃料を担保としたユーロ円債のご提案(ユーロ円建資産担保証券)」と題する書面には、「スキーム概要」として要旨次の記載がある。
(A)SPCによるK社保有設備の購入とK社への賃貸(セール&リースバック)
 SPCはK社の保有設備を購入すると同時に、当該設備をK社へ賃貸する。賃貸契約は20年間とし、5年ごとに賃貸条件を見直す。
(B)設備賃貸契約の譲渡選択権(プット・オプション)の購入
 5年後にSPCは、K社との間で賃貸料を見直し、社債償還資金の一部をリファイナンスして調達することを予定している。しかし、K社との賃料交渉が合意に達しない場合あるいは起債環境によりSPCによる社債発行が困難である場合に備え、SPCはL社に対し当該賃貸契約を行使価格にて譲渡できる権利を購入する。なお、SPCの選択権購入に当たり、K社はL社を信用補完するため、SPCに対し保証予約(念書)を提供する。
(C)キャッシュフロー・スワップ(本件スワップ契約に基づく賃料の再運用。以下同じ。)
 SPCは、M社とのキャッシュフロー・スワップを通じて、受取賃料を再運用し、社債償還元本の一部として積み立てる。なお、SPCの本件スワップ契約締結に当たり、K社はM社を信用補完するため、SPCに対しスワップの履行に対する保証予約(念書)を提供する。
(D)資産担保ユーロ円債の発行
 SPCは、〔1〕設備賃貸に関するK社からの受取賃貸料、〔2〕L社に対する当該賃貸契約の譲渡選択権、〔3〕M社との本件スワップ契約及び〔4〕譲渡選択権とスワップ契約に対するK社からの保証予約(念書)を担保とするユーロ円債(5年債)を発行する。
(E)本件社債の信用リスク分析
 本件社債は、〔1〕K社からの賃貸料、〔2〕M社に対するK社からの保証予約(念書)、〔3〕L社に対するK社からの保証予約(念書)及び〔4〕保有設備の除去、滅失等に対するK社からの規定損害金(上記1の(3)のロの(ト)に基づく金額。以下同じ。)の支払により、最終的にはすべてK社の信用リスクに帰着する。
C 本件取引を行うに至った経緯等に関する請求人の当審判所に対する答述は、要旨次のとおりである。
(A)本件取引当時、K社は負債の圧縮及び経費の削減が急務であり、本件取引はそのための店舗設備の流動化である。請求人は社債の発行により資金を調達し、当該店舗設備の購入及び賃貸を行うことになった。本件スワップ契約は、請求人の余剰資金の運用として行われたものであり、本件オプション契約は請求人が社債を発行するに当たり、社債元本等の信用補完として設定されたものである。
(B)仮に5年後に当該賃貸借が終了した場合には、当時のK社の関係会社との資本関係を前提とすれば、K社は自己のバランスシートに再度本件対象資産を計上することとなるため、本件取引を5年で終了させることは想定しておらず、請求人としてもK社の与信リスク等が許す限りオプションの行使により本件取引を5年で終了させることは考えておらず、5年ごとに借換えを行い、20年間本件取引を継続することを想定している。
D 上記1の(3)のロの(イ)のとおり、本件賃貸借契約の賃貸借期間は、賃貸借契約書上、平成9年5月30日から20年間と定められている。また、上記A及びBの事実並びにCの請求人の答述によれば、本件取引の目的は、K社の保有資産と有利子負債を圧縮するいわゆるオフバランス化とそのための資金調達であり、請求人はこの目的のためだけに設立された法人であって、この目的達成のためには、20年間K社が本件対象資産を買い戻すことなく請求人が保有して賃借し続けることが予定されており、5年後に請求人がオプションを行使することや本件賃貸借契約を終了させることは予定されていなかったこと、本件賃貸借契約において6年目以降5年ごとに協議の上賃料の改定ができることとされているのは、請求人が5年ごとに社債(5年債)を発行して借換えをすることが予定されていたことに対応するものであることが認められる。
 これらの事実によれば、本件賃貸借契約の契約当事者は、契約どおり20年間本件賃貸借契約を継続することを意図していたことが認められるから、この20年間を対象にフルペイアウトに該当するか否かを判定すべきである。
E この点、本件更正通知書によれば、原処分においてもこの20年間の賃貸借期間を対象としてフルペイアウトの判定をしていることが明らかであり、5年を単位としてフルペイアウトの判定をしているものではないから、5年を単位とするフルペイアウトの判定は失当であるとの請求人の主張はその前提を欠くものである。
(ハ)フルペイアウトの判定について
 本件賃貸借契約においては、当初5年間の賃料は確定しているものの、6年目以降の賃料は、当事者が協議のうえ増減の改定をすることができるとされていることから、20年間の契約期間に支払われる賃料総額は契約当初の段階では未確定である。そのため、請求人は、フルペイアウトの判定は不可能である旨主張している。そこで、本件賃貸借契約における賃料の設定方式について検討し、本件取引についてフルペイアウトの判定の可否を検討した上で、本件取引がリース取引に該当するか否かを検討する。
A N社が1997(平成9)年4月18日付で作成した「K社設備資産流動化におけるキャッシュフローの考え方(確認メモ)」と題する書面には、要旨次の内容の記載がある。
(A)賃貸料の設定
 年間賃貸料は、「(SPCの購入簿価−鑑定価格)/5+社債クーポン+発行費用償却分」に設定される。
 鑑定価格は、5年後の対象設備の時価に相当するものとし、購入の際に、SPCが第三者である鑑定人から取得する。鑑定人は、5年後の定額法簿価を鑑定評価の基準とする。
(B)SPCの償却方法
 SPCの償却方法としては、定率法を採用する。ただし、期中、償却簿価が上記鑑定価格に達した時点で、SPCは償却費用の計上を停止するものとする。
B 本件賃貸借契約における賃料の設定に関する請求人の当審判所に対する答述は、要旨次のとおりである。
(A)本件賃貸借契約に係る年間賃料の金額は、「(請求人の対象物件の購入簿価−鑑定価格)/5+社債クーポン+発行費用償却」を基に適正な利潤を加えて決定されている。
(B)借換えが継続した場合の本件取引に係る6年目以降の各5年間の賃料について、「(請求人の簿価(減価償却後の簿価を5年前の各賃料改定時に算定された鑑定価格と同一にしている)−各賃料改定時に算定される5年後の鑑定価格)/5+社債クーポン+発行費用償却」は、請求人が資本市場で資金を調達するに当たり確保すべき最低限のキャッシュフローである。
(C)上記1の(3)のロの(ト)の〔2〕のかっこ書きの「賃料改定の合意が成立した場合には、新たに将来の推定鑑定価格を借主の費用で取得し、その次回の賃料改定時の簿価として使用する」との意味は、6年目以降の規定損害金の算定に当たっては、「取得価額」を「各賃料改定時の帳簿価額」とし、「鑑定価格」を「各賃料改定時に再度算定される5年後の鑑定価格」に置き換えて計算するという意味である。
C 上記1の(3)のロ、ホ及びヘの事実、上記Aの事実及びBの請求人の答述によれば、本件賃貸借契約に基づく当初5年間の年間賃料の金額は、最低限のキャッシュフローである「(請求人の本件対象資産の購入簿価−鑑定価格)/5+社債クーポン+発行費用償却分」に適正な利潤を上乗せして算定されたものであり、6年目以降の賃料についても、当初の5年間と同様の考え方で算定されることになっている。また、ここでいう「鑑定価格」は、K社が5年後に本件対象資産を買い戻す場合の価格で、鑑定人が5年後の定額法簿価を鑑定評価の基準としてこれを算定したもので、本件対象資産に係る請求人の簿価と鑑定価格との関係は、請求人が本件対象資産の減価償却を5年後の鑑定価格と同額となった時点で停止して当該資産の簿価と鑑定価格とを一致させることを5年ごとに繰り返すことが予定されていたことが認められる。
 これらの事実からすれば、例えば本件対象資産の当初から5年後の鑑定価格は6年目の賃料改定時の請求人の簿価とされ、当該簿価を基準とした請求人の減価償却は当初から10年後の鑑定価格と同額となった時点で停止するので、請求人の10年後の本件対象資産の簿価と同鑑定価格は一致するということであり、その後も同様となるから、この請求人の本件対象資産の各簿価と各鑑定価格との関係からすれば、本件賃貸借契約が20年間継続した場合の請求人の最低限のキャッシュフローを確保する20年間の賃料の算定式は「(請求人の本件対象資産の購入簿価−20年後の鑑定価格)+20年間の社債クーポン+5年ごとの借換え時の社債発行費用償却分」ということとなる。
D そこで、本件対象資産の20年後の鑑定価格について検討すると、請求人がK社と連名で平成12年7月18日付で原処分庁に提出した「株式会社KとR(請求人)○○支店とのリースバック取引について」と題する書面及びK社が平成12年8月3日付で○○国税局に提出した「Rとの内装設備賃貸借取引に係る税務上の取扱いについて」と題する書面によれば、請求人自身が、本件対象資産はもともと既に事業の用に供してから一定期間が経過していた中古資産であり、現状の店舗寿命、大規模改装のサイクル等からすると、20年後に経済的価値を有するものはほとんどないと推定していたことが認められる。また、店舗の給排水設備及び電気設備等の建物附属設備の法定耐用年数については、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第1において、電気設備、給排水設備等は長いものでも15年、エレベーターは17年及びエスカレーターは15年となっており、その他の最長のものでも18年となっていることに照らしても、20年後の鑑定価格はほとんどないものと認められる。
E そうすると、本件賃貸借契約に基づき請求人が受領する20年間の賃料の合計額は、「請求人の本件対象資産の購入簿価」とほぼ一致する金額に「20年間の社債利息」及び「借換え時の社債発行費用償却分」を加えた金額となり、この金額は請求人の受領する最低限の賃料ということであり、リース物件の取得価額及びその取引に係る付随費用の合計額のおおむね全部を支弁することとなる。
F また、上記1の(3)のロの(ヘ)及び(ト)において、本件賃貸借契約は原則として中途解約はできないこととされてはいるものの、本件対象資産の全部又は一部に滅失等が生じた場合等には、貸主は、本件賃貸借契約の全部又は一部を終了させることができ、その場合に借主が支払うべき規定損害金の額と支払方法が定められている。その内容は、借主が貸主に対し、〔1〕賃貸借契約終了時から次回の賃料改定時までに借主が支払うべき当該終了部分に係る賃料の合計額と、〔2〕本件対象資産の将来の推定鑑定価格に、本件対象資産の貸主の取得原価の合計額に対して当該終了部分に係る本件対象資産の貸主の取得原価の占める割合を乗じて算出した金額を支払うものとされている。この場合、6年目以降のこの割合の算定に当たっては、「取得価額」を「各賃料改定時の帳簿価額」とし、「鑑定価格」を「各賃料改定時に再度算定される5年後の鑑定価格」に置き換えて計算されるものとされており、6年目以降の支払金額も5年目までと同様な方法で算定されると認められる。
 そうすると、5年目まではもちろん6年目以降についても、本件賃貸借契約の全部又は一部が終了した場合には、K社から請求人に対し、〔1〕次回の改定時まで当該終了した部分に係る賃料と、〔2〕当該終了部分に係る取得価額が本件対象資産の取得価額に対して占める割合の将来の推定鑑定価格部分の金額が支払われることになるから、その支払金額は、本件通達でいうところの未経過の期間に係るリース料の合計額のおおむね全部に相当する金額ということができ、20年間の賃貸借期間中の途中において、本件賃貸借契約の全部が終了した場合及びその一部が終了した場合のいずれにおいても、請求人が賃貸借期間中に受領する賃料の合計額は、請求人の本件対象資産の取得価額及びその取引に係る付随費用の額の合計額のおおむね全部を支弁すると認められる。
G さらに、上記(ロ)のCのとおり、請求人はK社の保有資産及び有利子負債の圧縮のために資金調達の手段として設立された法人と認められ、この設立の目的からすれば、K社が本件対象資産をオフバランス化し続けるため請求人が当該資産を保有し続けることを前提としており、この前提を基に、請求人が受領する年間賃料の金額も、請求人が本件対象資産の取得のため本件社債により調達した資金を社債権者にその利息分を含め償還できるよう算定されていると認められることからすると、20年間の賃貸借期間中に請求人がK社から受領する賃料の合計額は、当初請求人が本件対象資産を取得するために発行した社債の元利金及び発行費用を満たすように当事者間で設定されていることは明らかである。したがって、この点からも本件賃貸借契約がフルペイアウトに該当すると認められる。
H 以上のことから、請求人が本件賃貸借契約を20年間継続した場合及びその全部又は一部が中途で終了した場合のいずれの場合においても、請求人が賃貸借期間中に受領する賃料の合計額は、リース物件の取得価額及びその取引に係る付随費用の合計額のおおむね全部を支弁することとなり、これは本件通達に定めるフルペイアウトに該当すると認められる。
I そして、上記1の(3)のロの(ヘ)のとおり、本件賃貸借契約には中途解約禁止条項が定められていることを併せ考えると、本件賃貸借契約は本件通達で定めるリース取引に該当すると認められる。
(ニ)金融取引の判定について
A 上記1の(3)の各事実及び上記(ロ)及び(ハ)で認定した各事実によれば、本件取引は通常の売買や賃貸借とは異なる次のような特徴が認められる。
(A)本件取引はK社の保有資産と有利子負債を圧縮するいわゆるオフバランス化とそのための資金調達を目的として、K社が現に使用している店舗の建物附属設備を請求人が購入すると同時に賃貸するという中古資産のリースバック取引である。
(B)K社の本件対象資産に対する使用状況は本件取引の前後で何ら変化がない。
(C)請求人は、本件取引により本件対象資産の所有者となっているものの、本件対象資産の売却に際してはK社の事前の承諾が必要とされている。
(D)請求人は、K社保有資産のオフバランス化に伴うK社の信用を裏付けとした資金調達の手段としての法人と認められ、法人としての実質的な実態が認められない。
(E)本件対象資産は20年後に経済的価値を有するものはほとんどないと認められる。
B これらの点からすると、本件取引は、本件対象資産の売買及び賃貸借という法形式が整えられてはいるものの、その経済的実質は売買代金の支払という形式での金銭の貸付けと賃料の支払という形式での元利金の返済であると認められ、実質的に金融取引と認められる。
 したがって、本件取引は金融取引に該当しないとする請求人の主張には理由がない。
(ホ)リース物件の廃棄予定と本件賃貸借契約の一般性について
A 53年通達は「2.売買として取扱うリース取引」の項において、「次に掲げるリース取引については、当該リース取引に係るリース物件の引渡しの時に売買が行われたものとして取扱う。ただし、その賃借人における当該リース物件と同一種類のリース物件に係る既往のリース取引の状況、当該リース物件の性質その他の状況からみて、リース期間の経過後に当該リース物件がリース会社に返還され、又は廃棄されることが明らかな場合には、そのリース物件に係るリース取引については、売買として取扱わないことができる」と定めており、売買として取り扱われる取引として「土地、建物、建物附属設備又は構築物(建設工事等の用に供する簡易建物、広告用の構築物等で移設が比較的容易に行い得るものを除く。)を対象とするリース取引」が挙げられている。
 そして、53年運用通達の別紙問6には、上記ただし書の「廃棄されることが明らかな場合」とは、「個々のリース物件について、その実態に応じて判断すべき事項であるが、例えば、・・・定期的な店舗の改装に合わせてリース期間を定めている店舗用設備等のように、・・・改装サイクル期間をリース期間とするようなリース取引でその期間経過後、そのリース物件の廃棄が予定されているものは、これに該当する」との記載がある。
B 請求人は、これらの通達の定めや問答集を根拠に、〔1〕廃棄される建物附属設備のリース取引を賃貸借として処理することが認められている旨、〔2〕建物附属設備の賃貸借も一般的な取引であり、本件取引を金融取引と認定する根拠とはならない旨主張する。
 しかしながら、上記Aの通達の定めは、売買として取り扱わないことができるとしているにすぎず、金融取引とは取り扱わないと定めているものではない。また、そもそも本件取引は中古資産のリースバック取引であるから、上記Aの通達の定めではなく、別項の「6.中古資産をリースバックした場合の取扱い」の定め(上記(イ)B(B))に該当する場合であり、前提となる取引態様が異なるから、上記Aの通達の定めの考え方をしんしゃくすべき理由も認められない。よって、請求人の主張は採用できない。
 なお、本件賃貸借契約において、〔1〕賃貸借期間は改装サイクル期間を基に定めたものとは認められないこと、及び〔2〕リース期間経過後に本件対象資産が廃棄されることが明らかとも認められないことからも、請求人が主張する除却・廃棄という事実によって賃貸借処理は肯定されるべきとの主張は採用できない。
ハ 課税所得の計算について
(イ)請求人は、更正の理由附記に関する主張の中で、20年間の賃貸借契約期間でフルペイアウトの認定をした場合、課税所得計算も20年間の賃料の額を基に行なうべきであり、賃貸借期間の当初5年間の賃料額等により所得計算を行うべきでない旨の主張をしている。
 しかしながら、原処分は、5年ごとに賃料を改定しながら20年間賃貸借を継続するという本件取引の性質に即して、本件各事業年度に対応する確定した5年間の現実の収支に基づいて、各年分の所得計算を行なったもので、その所得計算は合理的であり、このことと本件取引が20年間でフルペイアウトになると認定することとは何ら矛盾するものではない。
(ロ)また、請求人は、本件取引が税務上の金融取引に該当した場合に、消費税等の金額を実際に授受された金額に含め課税所得計算を行うことは違法である旨主張するので、この点について検討する。
A 消費税におけるリース取引に係る実質的な課税については、消費税法基本通達(平成10年改正前のものをいう。)5−1−9《リース取引の実質判定》において、「事業者が行うリース取引が資産の譲渡又は貸付けのいずれに該当するかは、所得税又は法人税の課税所得の計算における取扱いの例により判定する」と定めている。
 これは、リース取引、特にファイナンスリースと称されるリース取引については、所得税又は法人税の取扱いにおいて、税法における実質主義の原則に基づき、その取引の経済的実質に着目して、賃貸借取引、売買取引又は金融取引のいずれに該当するかを判定することとされているところ、消費税においても、事業者が行うリース取引が資産の譲渡又は資産の貸付けのいずれに該当するかは、その実質によって判定することとし、所得税又は法人税の課税所得計算における取扱いの例により判定することを明らかにしたものであり、その取扱いは相当と認められる。
B そして、上記ロで述べたとおり、本件取引は税務上金融取引と認められることから、これを上記Aに照らしてみれば、消費税においても本件取引は金融取引と判定されることとなる。そうすると、本件売買契約に基づき授受された金額は、貸付金の額として取り扱われることとなるので、消費税等相当額を含め実際に授受された金額を基に貸付金の額並びに貸付金の返済額及び利息の額を算定することとなる。
C 本件法人税各更正処分において、原処分庁は、本件取引が税務上金融取引に該当すると認定した上で、本件取引により請求人とK社との間で消費税等相当額を含めて授受された金額に基づき貸付金の額並びに返済額及び利息の額を算定しており、その返済額及び利息の額の算定も通常の金融取引における元本と利息の区分計算の方法である元利均等残債方式により算定されていると認められ、この計算は相当と認められる。
 したがって、本件法人税各更正処分は適法と認められる。

(2)本件消費税等各更正処分及び本件通知処分

イ 本件消費税等各更正処分について
 本件取引が、実質的に金融取引に該当することは上記(1)のロのとおりであり、したがって、本件取引は、消費税法第2条第1項第12号及び第9号に規定する課税仕入及び課税資産の譲渡等には該当せず、これに該当しないとして行った本件消費税等各更正処分は適法と認められる。
ロ 本件通知処分について
 平成11年8月課税期間の消費税等については、当該課税期間の更正処分により請求人が本件更正の請求で減額を求める消費税等の額を超えて減額更正をしていることから、本件更正の請求には更正をすべき理由はない。
 したがって、本件通知処分は適法と認められる。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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