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(平14.12.12裁決、裁決事例集No.64 359頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、ソフトウェア業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が法人税の青色の確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことを基因としてされた法人税の青色申告の承認の取消処分の適否を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年10月1日から平成12年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を作成し、平成13年5月30日に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年6月27日付で本件事業年度以後の法人税について青色申告の承認の取消処分(以下「本件取消処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件取消処分を不服として、平成13年7月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月21日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年9月25日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成6年7月11日に設立された法人であり、設立第一期である同日から平成6年9月30日までの事業年度以後について、法人税の青色申告の承認を受けている。
ロ 請求人は、平成8年10月1日から平成9年9月30日までの事業年度ないし本件事業年度までの4事業年度の法人税の確定申告書について、平成13年5月30日に一括して提出している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法・不当であるからその取消しを求める。
イ 請求人は、本人が当事者となっている別件訴訟でも明らかなように、何者かからの請求人に対する仕事上の妨害、請求人の取締役であるAに対する身体への危害や生活妨害等を受けていたことにより、本件確定申告書の提出が遅延した。
 このことは、法人税法第75条《確定申告書の提出期限の延長》(以下「法人税法による期限の延長」という。)に規定する「やむを得ない理由により決算が確定しない場合」ではなく、むしろ、国税通則法(以下「通則法」という。)第11条《災害等による期限の延長》及び国税通則法施行令第3条《災害等による期限の延長》(以下、通則法第11条と併せて「通則法による期限の延長」といい、法人税法による期限の延長と併せて「通則法等による期限の延長」という。)の規定による「災害その他やむを得ない理由により、申告書等書類をその提出期限までに提出することができないと認められる場合」に該当し、その理由がやんだ後、相当の期間内に申告することができると解すべきであり、原処分庁がこれらの事情を考慮しないでした本件取消処分は違法である。
ロ 請求人は、原処分庁に対して、平成12年1月11日付で書面により、要旨「税理士に対して申告のお願いをしていたが、一切の連絡がなく申告をしていないことがわかったことを以前ご連絡しました。現在、申告している業種の営業をしていますが、税金のかかるほどの所得を得ていません。そのため、もしできるなら休業など、申告をする必要のない手続を取りたいのですが、手だてはあるでしょうか。」との照会(以下「本件照会」という。)をしたところ、原処分庁はこれに対して助言している事実があるので、たとえ延長申請に係る手続をしなかったとしても、事実上通則法による期限の延長を認めたものであり、このことを無視してなされた本件取消処分は違法である。
ハ また、本件確定申告書の提出の遅れは、依頼した税理士がこれを提出しなかったものであり、このような事情を斟酌せず請求人にその責めを負わせることは不当である。
 さらに、本件確定申告書の提出に当たっては、税理士からは提出期限の延長の申請手続に関する指導が一切なかったことから、その必要性も承知していなかったという正当な理由がある。

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(2)原処分庁の主張

 本件取消処分は、次の理由により適法であるから審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁が調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件確定申告書の提出期限についての通則法等による期限の延長の申請はいずれもしていない。
(ロ)原処分庁の担当職員は、本件照会に関し、平成12年1月14日に「会社が存続している限り法人税の申告義務はなくならないので、早めに申告していただきたい。」旨の回答(以下「本件回答」という。)を請求人に対して行っている。
ロ 請求人は、本件確定申告書をその提出期限までに提出しておらず、このことは、法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項第4号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当することから、本件取消処分をしたものである。
ハ 請求人は、何者かからの請求人に対する仕事上の妨害などを受けていたことにより、本件確定申告書の提出が遅延したことは通則法による期限の延長の規定による「災害その他やむを得ない理由」に該当する旨主張するが、通則法による期限の延長は、災害等の範囲が広範囲である場合に、国税庁長官が地域及び期日を指定して期限を延長するものであり、また、個別的事例や災害等の範囲が狭い場合には、申告等の行為者からの申請により、国税庁長官等が期日を指定して期限を延長するものであるところ、請求人の主張する理由が広範囲な災害等に該当しないことは明らかであり、請求人は、上記イの(イ)のとおり、通則法による期限の延長の申請もしないまま、既に本件確定申告書を提出していることから、通則法による期限の延長の適用が可能であるとする請求人の主張は明らかに失当である。
 なお、請求人は、原処分庁が事実上通則法による期限の延長を認めた旨主張するが、上記イの(ロ)のとおり、その延長を認めた事実はなく、請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、本件確定申告書の提出の遅れは、依頼した税理士がこれを提出しなかったものであり、このような事情を斟酌せず請求人にその責めを負わせることは不当である旨及び本件確定申告書の提出に際し、税理士からその期限の延長の申請手続に関する指導が一切なかった旨主張するが、それは結局、請求人自身の法の不知に帰することになり、仮に、請求人が主張するとおり、これらに関して税理士の指導不足及びその提出の失念が事実存在したにせよ、本件確定申告書を期限までに提出できなかった正当な事由には該当しないことは明らかであり、本件取消処分の適法性の判断には何ら影響がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件取消処分の適否にあるので、以下審理する。

(1)認定事実

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件確定申告書の提出期限についての通則法等による期限の延長の申請はいずれもしていない。
(ロ)原処分庁は、本件照会に対して、上記2の(2)のイの(ロ)のとおり、本件回答を行っている。
ロ 原処分庁の担当職員は、当審判所に対して、本件照会においては、請求人からは通則法等による期限の延長の申請手続に関する質疑及び請求人が仕事上の妨害等を受けていたことによる申告手続が遅延する話は一切なかった旨答述している。
(2)ところで、法人税法第127条第1項第4号は、青色申告の承認を受けた法人について、確定申告書をその提出期限までに提出しなかった事実がある場合には、税務署長は、当該確定申告書に係る事業年度までさかのぼって、青色申告の承認を取り消すことができる旨規定している。
 そして、上記事実が生じた場合に青色申告の承認の取消処分を行うかどうかは、税務署長の合理的な裁量にゆだねられているものと解すべきであり、税務署長がその裁量権を行使して行った青色申告の承認の取消処分については、それが社会通念上妥当性を欠いて、裁量権を逸脱し又は濫用したと認められる場合でない限り、違法あるいは不当とはならないものと解するのが相当である。
 また、法人税法による期限の延長は、法人が災害その他やむを得ない理由により決算が確定しないため、法人税の確定申告書をその提出期限までに提出することができないと認められる場合には、税務署長は、その法人の申請に基づき、期日を指定してその提出期限を延長することができる旨規定し、さらに、通則法による期限の延長は、税務署長は災害その他やむを得ない理由により、申告書等書類をその提出期限までに提出することができないと認められる場合は、その申告書等書類を提出すべき者の申請により、その理由がやんだ日から2月以内に限り、期日を指定し当該提出期限を延長することができる旨規定している。
(3)これを本件についてみると、請求人が本件確定申告書をその提出期限である平成12年11月30日までに提出していないことは、上記1の(3)のロの事実のとおりであり、このことは法人税法第127条第1項第4号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当し、青色申告の承認を取り消すことができることは明らかである。
 また、請求人は、何者かからの請求人に対する仕事上の妨害、Aに対する身体への危害や生活妨害等を受けていたことにより、本件確定申告書の提出が遅延したことは、通則法による期限の延長の規定による「災害その他やむを得ない理由により、申告書等書類をその提出期限までに提出することができないと認められる場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張する事実は、当審判所に提出された資料等によっても、当審判所の調査によってもこれを認めるに足りる証拠はなく、請求人の主張を採用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(4)請求人は、原処分庁が事実上通則法による期限の延長を認めた旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイの(ロ)のとおり、原処分庁は、本件照会に対し、会社が存続している限り、申告書の提出義務があり、早めに申告するように本件回答をしていること、また、上記(1)のイの(イ)及び上記(1)のロのとおり、請求人は、確定申告書の提出期限について、通則法等による期限の延長の申請手続を行っていないこと及び本件照会の際に通則法等による期限の延長の申請手続に関する質疑がなかったことがそれぞれ認められ、このことからすると原処分庁が通則法等による期限の延長の申請を認めたということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)さらに、請求人は、本件確定申告書の提出の遅れは、依頼した税理士がこれを提出しなかったものであり、このような事情を斟酌せず請求人にその責めを負わせることは不当である旨及び本件確定申告書の提出に際し、税理士からその期限の延長の申請手続に関する指導が一切なかった旨主張するが、そもそも、請求人の税法の不知及びその誤解に基づくものであるから、その不知等は請求人の責めに帰すべきものであり、これを真にやむを得ないものということはできず、正当な理由には該当しない。
(6)以上のとおり、請求人の主張はいずれもその理由がなく、本件取消処分は、原処分庁の合理的裁量の範囲内で行われたものと認めるのが相当である。
 したがって、本件取消処分は適法、かつ、相当である。
(7)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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