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(平14.10.8裁決、裁決事例集No.64 505頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、物納申請に係る土地が、相続税法第42条第2項ただし書に規定する管理又は処分をするのに不適当な財産に当たるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人A、同B及び同C(以下、この3名を併せて「請求人ら」という。)は平成3年12月30日に死亡したDの共同相続人であるが、この相続について、納付すべき税額を別表1の「当初申告」欄のとおりとする相続税の申告書及び物納申請に係る財産を別表2のとおりの財産(以下「本件物納申請土地」という。)とする相続税物納申請書を、いずれも法定申告期限までに提出した。
ロ Aは、納付すべき税額を別表1の「修正申告」欄のとおりとする相続税の修正申告書及び物納申請に係る財産を本件物納申請土地とする相続税物納申請書を平成13年5月30日に提出した。
ハ 原処分庁は、上記イ及びロの相続税について国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定により、E税務署長から徴収の引継ぎを受けた上で、相続税法第42条第3項の規定に基づいて平成13年11月7日付で、上記イ及びロの物納申請に係る本件物納申請土地について、物納財産の変更要求通知処分(以下「本件変更要求処分」という。)をした。
ニ 請求人らは、この処分を不服として、平成13年12月3日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任し、その旨を平成13年12月3日に届け出た。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件物納申請土地は、相続により請求人らが取得したものである。
ロ 本件物納申請土地上には、分譲マンションである「F共同住宅」(以下「本件マンション」という。)が存在する。
ハ 本件物納申請土地については、Dを賃貸人とし、本件マンションの各区分所有者を賃借人とする昭和46年10月5日付の土地賃貸借契約(以下「昭和46年契約」という。)、請求人らを賃貸人とし、F管理組合(以下「管理組合」という。)を賃借人とする平成4年6月28日付の土地賃貸借契約(以下「平成4年契約」といい、昭和46年契約と併せて「本件賃貸借契約」という。)が締結されている。本件賃貸借契約においては、賃借人による借地権譲渡に際し賃貸人の事前承認は不要とされ、また、その譲渡に際し賃貸人がいわゆる承諾料を請求することはできない旨定められている。
ニ 本件変更要求処分における変更を求める理由は、別表3のとおりである。

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人らは、相続財産の大部分が土地であり、相続税を現金で納付することができない状況にあったため、所轄のE税務署との間で相続したP市Q町所在のマンション敷地(貸地)を物納する交渉を行った。その結果、E税務署から指示された物納条件に従い相続税物納申請書の提出期限である平成4年6月30日までに、〔1〕建替えが可能な広さに敷地面積を増加させ、〔2〕公道に通じる通路用の空き地をマンション敷地内に設けた上で、物納申請を行った。
 請求人らは、E税務署のこのような条件提示に従うために、200平方メートルもの土地を追加して本件物納申請土地にせざるを得なかったため、多大なる犠牲を払ったにもかかわらず、E税務署長は、物納申請に対する許可をせず、平成6年10月4日付「物納申請不動産に関する書類の補完等の通知書」(以下、この通知書による通知を「平成6年補完通知」という。)により、借地権者である各区分所有権者ごとの契約書を再度取り交わすよう請求人らに指示した。さらに、G国税局長は、その後3年以上経過した平成9年11月26日付「物納申請不動産に関する書類の補完等の通知書」(以下、この通知書による通知と平成6年補完通知とを併せて「本件補完通知」という。)により、各区分所有権者との土地賃貸借契約は国の貸付契約書に準じたものにすること及び地代を値上げするよう指示した。
 原処分庁の意向は、地代の値上げとともに、本件賃貸借契約に譲渡承認条項を入れた上、譲渡に関して承諾料を徴収可能にすることにあった。
 ところで、このような個別的契約、事前承認、承諾料に関する問題は、平成4年1月のE税務署との物納に関する協議の開始時において、同税務署に提示した昭和46年に締結した土地賃貸借契約書の内容からも容易に把握できたにもかかわらず、結局、何らの指摘もなく、200平方メートルもの土地を追加したことによる5億4千万円もの損失を強いられたものである。
 このような一連の補正命令等は、時期を逸したものであり、請求人らに対し著しい損害を与えるものとして違法であり、また、このような行為をしたのは公務員としての善管注意義務違反であることは明白である。
ロ 本件変更要求処分における変更を求める理由となっている、相続税法基本通達42−2《管理又は処分をするのに不適当な財産》の(3)のカの(注)1は、平成7年5月17日付の同通達の改正により設けられた基準であり、相続開始時(平成3年度)には存在しない定めであった。
 相続開始時における基準からは全く予期しない基準を遡及的に適用し納税者に多大な損失を被らせることは、納税者の財産権に関する予見可能性を阻害し、国民の権利に対する絶大な制約となる。
 このことから、本件変更要求処分が財産権を侵害する重大な違法性を帯びた処分であることは明白であり、違憲の疑いさえ濃厚である。
ハ また、原処分庁が本件変更要求処分における変更を求める理由として、本件賃貸借契約には、賃借人が第三者への借地権譲渡に際し、地主の事前承認が不要とされ、かつ、承諾料を徴さない条項があることから、貸主となる国が「著しく不利益」を被るもので本件物納申請土地は「管理又は処分をするのに不適当な財産」であるとしている。
 しかしながら、〔1〕確かに一戸建ての住宅の底地に関しては、借地権の譲渡について土地所有者の事前承認を必要とすること、慣行として相当額の承諾料が支払われることが多いことは事実であろうが、本件のようなマンションの場合、各区分所有権が別個独立に譲渡の対象になるその権利移転を適宜管理することは困難であるため、事前承認及び承諾料に関する規定があったとしても実効的ではなく、一戸建て住宅の底地と異なり、事前承認及び承諾料に関する規定が契約上設けられていることは決して一般的ではない、〔2〕事前承認条項の不存在については、土地上に存する建物が区分所有建物であるマンションの譲渡の場合、建物の区分所有等に関する法律の定めにより専有部分と敷地権である借地権の準共有持分との分離処分はできないので、建物の所有権者と借地権者が一致しないという権利関係は生じないことに加えて、本件賃貸借契約が個々の区分所有権者だけでなく区分所有建物の管理組合も契約の相手方にしているという特殊な事情があることから、賃貸料の支払については、もともと個々の区分所有者が不可分債務を負う上、何らかの事情で区分所有権者から賃貸料の支払が受けられない場合が生じても、管理組合に対し賃貸料の請求もできることから、新たに借地権譲渡される相手が誰であっても、地代収入について滞納のおそれはなく貸主となる国に特段の不利益は生じない。また、新賃借人が公序良俗を乱すような者である場合に事前承認を要件としないと不利益が生じるということも考えられるが、この点を考慮して現行の建物の区分所有等に関する法律では、他の区分所有者に区分所有者として不適格な者を強制的に排除する方途を与えているので事前承認を要件としなくとも土地所有者にとって不利益になることはない、〔3〕承諾料授受条項の不存在については、平成11年1月分から賃貸料が19万8421円となり、この賃貸料は周辺のマンションの借地料相場からみると比較的高いといえ、このような高額な賃貸料が定められたことにより、区分所有権(借地)の処分に伴う承諾料の不発生は現実的に填補されているし、現実問題として、本件マンションのように、築35年も経過している場合には売買が再々起こることはないので承諾料が発生する場合も少ない。このような状況の下、契約上、借地権譲渡に伴う承諾料が不存在であるからといって、これが土地所有者にとって不利益であるとはいえない。
 仮に、事前承認及び承諾料授受条項の不存在が土地所有者にとって若干の不利益にあたるとしても、過去の裁決例との比較において、明らかにその不利益は軽微であり、「著しい不利益」が存在するとはいえない。
 以上からも、本件変更要求処分に実質的理由がないことは明らかである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であり、請求人らの主張には理由がないから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人らは、一連の補正命令等は時期を失したものであり、請求人らに対し著しい損害を与えるものとして違法である旨主張する。
 しかしながら、物納申請があった場合において、物納申請財産については個別性が強いことから、相続税法基本通達42−3《管理官庁との協議》により管理官庁である財務局等の意見を聞く必要があると認められる場合には管理官庁と協議することとしているので、物納申請時において、すべての補完すべき事項について指導することは困難である。
 本件物納申請土地が物納財産として適しているかどうか、まずはその物件そのものについて現地確認及び登記簿上の調査を行った上で、必要に応じて請求人らにその補完等の通知を行い、その補完等の通知に基づいて補完がなされた後、次にその物件の内容、例えば賃貸借契約等から物納財産として適しているかどうか調査を行った上で、財務局等との協議を行い、必要に応じて補完等の通知を行うものである。
 本件補完通知についても、本件物納申請土地の賃借権等についての調査を行い、財務局等と協議を行った上で、その必要に応じて補完等の通知を行ったものであり、何ら違法、不当なものではない。
ロ また、請求人らは、本件変更要求処分の根拠となっている通達は、相続開始時においては存在しない定めであることから、相続開始時の基準からは全く予期しない基準を遡及的に適用し納税者に多大な損失を被らせることは、納税者の財産権に関する予見可能性を阻害し、国民の権利に対する絶大な制約となる旨主張する。
 確かに、本件変更要求処分における処分の理由の根拠となっている相続税法基本通達42−2の(3)のカの定めは、本件における相続税の納期限である平成4年6月30日直前の同年6月19日の改正により追加明記され、また、同通達42−2の(3)のカの(注)1の定めは、平成7年5月17日の改正により追加例示されたものであり、相続開始時においては存在しない定めであった。
 しかしながら、同通達については、いつの相続開始分から適用する旨の取扱規定はなく、物納申請に基づき、許可処分相当か却下処分相当か若しくは物納財産の変更要求処分が相当か否かについては、その処分時に存在する関係法令等を適用して判断するものであり、本件変更要求処分において、同通達が相続開始時においては存在しなかったとしても、何ら違法、不当なものではない。
 なお、物納財産の収納後、普通財産貸付けを行う場合の処理について、借地権等の譲渡の承認に当たっては、借地権等譲渡申請書を提出させること及び借地権の譲渡を承認する場合には、原則として借地権の譲渡人から名義書換承諾料を徴するものとしていることから、E税務署及びH財務局は、平成6年5月12日及び同年9月8日にB、C及びその代理人に対して、契約書の文中に事前承認の文言が必要であること及び金額の明示は文言上不要であるが、承諾料については必要である旨説明し、その補完を求めている。
ハ さらに、請求人らは本件変更要求処分において原処分庁が変更を求める理由とする地主の事前承認の不要、かつ、承諾料は徴さないとする現契約のまま収納した場合であっても、貸主となる国が著しく不利益を被るとは認められない旨主張する。
 しかしながら、現契約のまま収納すると、〔1〕本件賃貸借契約では、第三者への借地権譲渡の承認は事後承認で、かつ、承諾料を徴さない条項となっているが、通常、民間においては事前承認及び承諾料の授受が行われていること、〔2〕国の貸付基準による借地権等の譲渡の承認に当たっては、借地権等譲渡申請書を提出させること、及び〔3〕借地権の譲渡を承認する場合には、原則として借地権の譲渡人から名義書換承諾料を徴するものとする旨定められていることから、貸主である国が著しく不利益を被ることになるため、相続税法基本通達42−2の(3)のカの(注)1「社会通念に照らし、契約内容が貸主に著しく不利な貸地」に当たり、「管理又は処分をするのに不適当な財産」に該当することから、原処分庁は、本件変更要求処分を行ったものであり、請求人らの主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の主たる争点は、本件物納申請土地が、本件変更要求処分の理由をもって管理又は処分するのに不適当な財産に当たるか否かにあるので、審理したところ、以下のとおりである。

(1)関係法令等

イ 国税の納付方法については、国税通則法第34条《納付の手続》の規定によって金銭による納付が原則とされているところ、相続財産の物納による納付は、相続税法第41条《物納》第1項の規定に基づき、相続税を金銭で納付することが困難とする事由がある場合に、その納付を困難とする金額を限度として許可されたときに限り、例外的に認められているにすぎない。これらの規定からすると、相続税の物納制度は、国税を金銭で納付するという原則に対して、相続税が財産課税であるという特殊性を考慮して設けられている制度であるということができ、物納申請財産を国に帰属させることが真の目的ではなく、相続税の納付の単なる手段であり、国がこれを換価し、その代金をもって財政収入に充てることが真の目的であると解される。
 したがって、物納適格財産であるというためには、その収納が金銭納付に代わるものである以上、相続税評価額すなわち時価の算定が可能であるとして相続税が課税されたことをもって、直ちにこれに当たるということはできず、国が、物納された財産の管理又は処分を通じて、金銭の納付があった場合と同等の経済的利益を確保し得るものでなければならないと解するのが相当である。
ロ 相続税法第42条第2項ただし書は、税務署長は、物納申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、その変更を求めた上で、その申請を許可又は却下することができる旨規定している。ここでいう「管理又は処分をするのに不適当」であるか否かの基準については、相続税法に明文の規定は置かれていないが、上記イで述べた物納制度の趣旨から、単に管理又は処分が絶対的に不可能であるのかという判断ではなく、当該財産を国において管理又は処分することにより、金銭で国税の納付があった場合と同等の経済的利益を将来、現実に確保することができるか否かの観点から判断されるべきことになる。したがって、「管理又は処分をするのに不適当」な財産とは、例えば、物納申請財産が、〔1〕質権、抵当権その他の担保権の目的となっている財産、〔2〕所有権の帰属等について係争中の財産、〔3〕共有財産及び〔4〕法令又は定款で譲渡に関し特別の定めのある財産等と解され、不動産については、具体的に、〔1〕買戻しの特約等の登記のある不動産、〔2〕崖地や地形狭長な土地等で、単独には通常の用途に供することができない土地等、売却できる見込みのない不動産、〔3〕現に公共の用に供され又は供されることが見込まれる不動産及び〔4〕借地、借家契約の円滑な継続が困難な不動産である場合などがこれに該当するものと解される。
ハ ところで、賃借権などの目的となっている土地(底地)の物納においては、物納が一種の代物弁済の性格を有することからも国は物納によって前賃貸人の地位を承継することになるが、この場合の「地位を承継する」とは、底地そのものの所有権及びこれに伴う賃貸借契約における貸主の地位などの権利も移転することであり、また、この承継により上記イの経済的利益として、底地の売却処分による財政収入はもとより、前賃貸人の地位を承継したことによる賃貸料収入も承継することになる。
 よって、賃貸借の目的となっている土地(底地)の物納においては、継続的な財政収入としての賃貸料収入の確保の観点から当然に賃貸借契約の円滑な継続が要請されるところ、ここでいう「賃貸借契約の円滑な継続が困難な不動産」とは、例えば、次に掲げるものがこれに当たると解され、これに該当した不動産は、「管理又は処分をするのに不適当な財産」に当たると解される。
(イ)賃貸料が近傍類似の賃貸料を大幅に下回るもの。
(ロ)賃貸料の滞納が見込まれるもの。
(ハ)社会通念に照らし、契約内容が貸主に著しく不利な貸地であること。
 この(ハ)について付言すれば、契約は私法上の契約自由の原則により契約当事者相互の自由な意思によって行われるものであることから、一般的にはその契約内容は尊重され、賃貸人及び賃借人相互間においてその契約内容によって権利が保護されるものであり、物納により国が賃貸中の不動産を収納した場合においても、国が従前の賃貸借契約関係における前賃貸人の地位をそのまま承継し、その賃貸借契約の内容も従前の契約内容と同一であり、収納後においても従前の契約内容は尊重され、権利も保護されるものと解される。一方、物納許可により物納申請財産が国有財産となった場合には、財政法及び国有財産法等の適用を受けることから、賃貸借契約においても貸付けに関する国の定める基準も考慮する必要がある。そこで、この両者の調和を図るためには、その契約内容が、〔1〕契約時はもとより現在においても社会慣習に著しく反していること、〔2〕貸主に対し一方的に不利な内容の特約が存すること、また、〔3〕賃貸人と賃借人の賃貸借契約関係が不明確であり、賃借人を特定することができないような権利関係が複雑なものなど、「契約内容が貸主に著しく不利な貸地」は、賃貸料の円滑かつ継続的な収入の確保が図られない危険を包含するから、管理又は処分をするのに不適当な財産に当たるものと解される。

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(2)本件変更要求処分の適否について

 原処分庁は、本件物納申請土地については、本来、借地権の譲渡に関して、民間においては事前承認及び承諾料の授受の慣行があり、国の貸付基準においても借地権等の「譲渡の承認」及び「承諾料の授受」をすることと規定していることから、現契約のままで収納すると、地主である国が著しく不利益を被ることになるとして、相続税法基本通達42−2の(3)のカの(注)1「社会通念に照らし、契約内容が貸主に著しく不利な貸地」に当たり、「管理又は処分をするのに不適当な財産」に該当する旨主張しているので、以下検討する。
イ 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)建物の所有を目的とする借地契約においては、借地権の譲渡につき敷地の賃貸人の事前承認を必要としているものが一般的ではあるが、民間の借地権付マンションの敷地の場合、借地権の譲渡につき賃貸人の事前承認を必要としない契約も見受けられ、また、借地権譲渡の際にいわゆる承諾料の授受をする旨の規定については、必ずしも一般的とはいえない。
(ロ)本件賃貸借契約において、賃借人は、土地賃借権の準共有持分を、賃借人が所有する本件マンションの専有部分と同時に第三者に譲渡することができる旨規定されており、本件マンションの専有部分と分離して土地賃借権の準共有持分だけを譲渡することはできないこととされている。
(ハ)本件賃貸借契約に基づく賃借料の支払に関し、昭和46年契約では各区分所有者の連帯債務とされていて、同契約は有効に存続しているうえ、更に平成4年契約では本件マンションの管理組合も賃借料の支払義務を負うこととされており、これまで賃借料の滞納はない。
(ニ)本件マンションの管理規約においては「区分所有者が、その専用部分を第三者に譲渡する場合には、予め、管理委員会に書面にて届出をし、かつ、その譲渡前日までに所定の管理費、賦課金等の未納があった場合には、残額を完納しなければならない」旨定められている。
ロ 借地権譲渡の事前承認について
(イ)建物の所有を目的とする借地契約の賃貸人にとって、賃借人の変更は、特に〔1〕新賃借人が賃借料を滞納するおそれがないか、〔2〕新賃借人が公序良俗に反するような行為を行う者でないかという面で大きな利害を有する事柄であるから、上記イの(イ)のとおり、賃貸人の事前承認にかからしめる条項を設けることは一般に行なわれている。
(ロ)しかしながら、借地権付マンションの敷地に関する借地契約については、上記イの(イ)のとおり、本件賃貸借契約と同様に事前承認条項のない契約も見受けられるところ、〔1〕賃借人変更による賃借料滞納のおそれについては、借地権付マンションにおける敷地利用権たる借地権の譲渡の場合には、建物の区分所有等に関する法律第22条《分離処分の禁止》により、区分所有者はその有する専有部分とその敷地利用権を分離して処分することはできないとされており、上記イの(ロ)のとおり本件賃貸借契約にも同様の規定があることから、建物所有者と借地権者が異なるという権利関係が生ずる危険がなく、上記イの(ハ)のとおり本件賃貸借契約においては特に賃借料の安定した徴収の確保が図られており、賃借人の変更による賃借料滞納は見込まれない。また、〔2〕公序良俗に反するような行為を行う者の排除の点については、この点に最も大きな利害関係を有するのは、むしろ本件マンションの各区分所有者であるところ、上記イの(ニ)のとおり借地権譲渡に際し管理組合が事前届出を受けて、賃貸人と同様の管理機能の一部を果たすこととされており、また、事後的にせよ同法第57条《共同の利益に反する行為の停止等の請求》などの規定により各区分所有者によって建物の保存に有害な行為及び共同の利益に反する行為を排除する効果が確保されることが期待できる。
(ハ)そうすると、本件物納申請土地については、借地権の譲渡につき事前承認条項がなくても貸主に著しい不利益が生ずるとまでは認められないから、本件賃貸借契約に事前承認条項がないからといって、「社会通念に照らし、契約内容が貸主に著しく不利な貸地」に該当すると解することは相当でない。
ハ 承諾料の授受について
 上記イの(イ)のとおり、借地権付マンションの借地権譲渡に伴う承諾料の授受は必ずしも一般的ではなく、契約慣行とまでは至っていないことが認められる。そして、〔1〕承諾料の発生は、賃貸料のように契約内容の根幹として継続的に発生する確実な収入とは異なり、偶発的、臨時的に、また発生するかしないか不確実なものであること、〔2〕承諾料は、承諾に代わる性質を有するものであるから、本件賃貸借契約に事前承認条項がないことについて、上記ロのとおり著しい不利益ではないと解すべきである以上、承諾料を請求できないことを著しい不利益と解することはできないことから、本件物納申請土地については、借地権譲渡に当たって承諾料を徴さない条項があるからといって、「社会通念に照らし、契約内容が貸主に著しく不利な貸地」に該当すると解するのは相当でない。
ニ 本件物納申請土地の賃貸借は、長年にわたって賃借料の滞納もなく継続してきたものであり、本件賃貸借契約の内容も上記のとおり貸主に著しく不利な契約に当たるとは認められず、国が収納した後も賃貸料による円滑な収入が確保されると見込まれる。したがって、本件物納申請土地については、原処分庁の主張するような理由をもって、賃貸借契約の円滑な継続が困難な不動産ということはできないから、管理又は処分をするのに不適当であると認めるのは相当でなく、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(3)以上の結果、本件物納申請土地については相続税法第42条第2項ただし書にいう「管理又は処分をするのに不適当である」とは認められないにもかかわらず、同項ただし書を適用してなされた本件変更要求処分は違法であるから、その余について判断するまでもなく、原処分はいずれもその全部を取り消すべきである。

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