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(平14.11.6裁決、裁決事例集No.64 531頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定により消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の納税義務を免除される事業者(以下「免税事業者」という。)であった審査請求人(以下「請求人」という。)が、課税事業者を選択するとして同条第4項に規定する届出書(以下「課税事業者選択届出書」という。)を、その選択しようとする課税期間の開始後に提出したことにより当該課税期間以後課税事業者となるか否か、すなわち、当該課税期間が、同条第4項かっこ書により届出の日の属する課税期間以後直ちに課税事業者となる「事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間」に当たるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、ゴルフ場「Eゴルフ倶楽部」(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営する事業者であるが、平成10年8月1日から平成11年7月31日まで及び平成11年8月1日から平成12年7月31日までの各課税期間(以下、順次「平成11年7月課税期間」及び「平成12年7月課税期間」という。)の消費税等について、確定申告書に別表の「確定申告等」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、平成12年8月1日から平成13年7月31日までの課税期間(以下「平成13年7月課税期間」という。)の消費税等について、平成12年12月22日、平成13年3月27日及び平成13年6月20日に別表の「確定申告等」欄のとおり中間申告をした。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年6月27日付で別表の「原処分」欄記載のとおり、平成11年7月課税期間の消費税等について増額の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を、平成12年7月課税期間及び平成13年7月課税期間(中間申告分)の消費税等について減額の各更正処分(以下「本件各減額処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年8月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年11月16日付で、本件更正処分及び本件賦課決定処分に対する異議申立てについては棄却の異議決定をし、本件各減額処分に対する異議申立てについては却下の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年12月13日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 消費税法第9条第1項本文は、事業者のうちその課税期間に係る基準期間における課税売上高が3,000万円以下である者については、その課税期間中に行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨のいわゆる免税事業者について規定している。
ロ 一方、消費税法第9条第4項は、本来免税事業者となる事業者であっても選択により課税事業者となることを認める特例として、免税事業者がその基準期間における課税売上高が3,000万円以下である課税期間につき、第1項本文の納税義務の免除の規定の適用を受けない旨を記載した課税事業者選択届出書を所轄税務署長に提出した場合には、その提出した日の属する課税期間の翌課税期間(その提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、その提出した日の属する課税期間)以後の課税期間においては納税義務の免除の規定を適用しない旨規定している。
ハ そして、消費税法施行令第20条《事業を開始した日の属する課税期間等の範囲》第1号は、上記消費税法第9条第4項かっこ書の「政令で定める課税期間」の一つとして、「事業者が課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」がこれに該当する旨規定している。
ニ なお、消費税法基本通達(平成7年12月25日課消2−25国税庁長官通達。)1−4−8《過去2年以上課税資産の譲渡等がない場合の消費税法施行令第20条第1号の適用》(以下「本件通達」という。)は、上記ハの消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」には、その課税期間開始の日の前日まで2年以上にわたって国内において行った課税資産の譲渡等又は課税仕入れ等がなかった事業者が課税資産の譲渡等に係る事業を再び開始した課税期間も該当するものとして取り扱う旨定めている。

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(4)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成11年2月4日ころ、課税事業者選択届出書を同日付の「書類送付の件」と題する文書(以下「本件送付書」という。)とともに原処分庁に郵送し、原処分庁において同月8日に収受されたこと(以下、請求人が提出した上記届出書を「本件届出書」という。)。
ロ 本件送付書は、差出人を「P市Q町○番○号 F株式会社 経理G」とし、あて先を「H税務署 法人課税部門」とするものであり、本文には要旨次のとおり記載されていること。
 「(株)Jの経理事務を行っておりますが、添付の課税事業者選択届出書の申請をしたく送付します。同社は現在創立6期目ではありますが、5期までは売上も全くない休業の状態にあり、当期の途中より売上が発生します。基本通達1−4−8に基づき当進行期より課税事業者の選択をしたいと考え、用紙を送付します。2部送付しますので、(株)Jの(控)を決定次第返送ください。」
ハ 本件届出書には、次のことが記載されていること。
(イ)適用開始課税期間  平成11年7月課税期間
(ロ)上記(イ)の期間の基準期間  自平成8年8月1日至平成9年7月31日
(ハ)基準期間の課税売上高   0円
(ニ)設立年月日  平成5年9月7日
ニ その後、請求人は本件届出書と同様の記載内容の課税事業者選択届出書を再度原処分庁に提出し、原処分庁において平成11年3月1日に収受されたこと。
ホ 原処分庁は、上記ニの課税事業者選択届出書が提出された後に平成11年2月8日に収受した本件届出書の控えを請求人に送付したこと。
ヘ 請求人は、消費税等の合計還付税額214,340,758円とする平成11年7月課税期間の消費税等の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を平成11年9月27日に原処分庁に提出したこと。
ト 請求人の平成9年2月20日付の振替伝票には、カレンダーの購入代金として広告宣伝費1,005,280円の記載があり、平成8年8月1日から平成9年7月31日までの事業年度の法人税の確定申告書に添付されている損益計算書には、広告宣伝費1,005,280円の記載があること。
チ 請求人の平成10年1月20日付の入金・出金一覧表兼振替伝票には、98年カレンダー350部の購入代金として広告宣伝費817,687円の記載があり、平成9年8月1日から平成10年7月31日までの事業年度の法人税の確定申告書に添付されている損益計算書には、広告宣伝費817,687円の記載があること。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、本件通達を適用して平成11年7月課税期間から納税義務の免除の適用を受けないことを内容とする本件届出書を提出の上、同課税期間について課税事業者として本件確定申告書を提出したところ、原処分庁は、同課税期間の開始前2年間に課税仕入れがあることから本件通達の適用はなく、本件届出書は消費税法所定の提出期限までに提出されていないことになるから、同課税期間において請求人は免税事業者に当たるとして本件更正処分をした。
 しかしながら、一般に会社が設立されてから開業するまでの間にどのような会社にも設立費用、電話代等の課税仕入れが発生するのが通例であり、このようなことを前提として本件通達が制定されているのであるから、この通達は課税売上げが発生するまでは、請求人がした程度の課税仕入れがあったとしても適用されるべきである。
(ロ)また、仮に本件通達が適用されないとしても、次のことから、原処分庁は平成11年7月課税期間が課税事業者であることを表明したものであり、請求人はこれを信頼して本件確定申告書を提出したものであるから、原処分庁は自らした同課税期間は課税事業者である旨の表明に反する処分はできないというべきである。したがって、請求人は平成11年7月課税期間以降、課税事業者であるから、免税事業者であることを前提とする本件更正処分は違法である。
A 請求人は、原処分庁に対して、平成11年2月初旬に「本件通達に基づいて本件届出書を提出するものであること」及び「本件届出書の控えを返送してほしい」ことを記載した本件送付書を同封の上本件届出書を郵送し、更に、控えの返送がなかったことから同年2月の下旬に再度本件届出書と同じ趣旨の課税事業者選択届出書を原処分庁あて郵送した。
 これに対して原処分庁は、従来から請求人が郵送した申告書等の控えを1週間程度で返送していたのに、本件届出書控えはその到達から3週間以上も経過した後に、本件届出書は適法ではないとの連絡をしないで返送した。
 これらの事実を前提とすれば、原処分庁は、請求人の法人税確定申告書に基づいて平成11年7月課税期間前に課税売上げ又は課税仕入れがあったかどうかなど本件届出書に関する本件通達の適用の有無について調査した上で、その適用があるとして本件届出書を返送したものと受け止めるのが一般的であり、請求人もそのように考えて本件確定申告書を提出した。
B 原処分庁は、請求人が本件届出書の提出を前提として約2億円もの還付を内容とする本件確定申告書を提出したのに対しても、何らの質疑、調査もせず、還付手続を行ったが、これも原処分庁が請求人は平成11年7月課税期間から課税事業者であることを認めた上で行ったものと受け止めるに足りる事情である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
 仮に、本件更正処分が適法であるとしても、原処分庁は本件届出書が提出された時点で不適法な届出書である旨を請求人に連絡しなかったこと、更に、原処分庁が本件確定申告書提出後直ちに指摘ないし指導をしなかったことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」に当たるというべきであるから、本件賦課決定処分は違法である。
ハ 本件各減額処分について
 平成12年7月課税期間及び平成13年7月課税期間は課税事業者であるところ、本件各減額処分は、免税事業者であることを前提に行ったものであるから取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は次のとおりいずれも適法であるから、本件更正処分及び本件賦課決定処分に対する審査請求については、いずれも棄却するとの、また、本件各減額処分に対する審査請求については、いずれも却下するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、本件通達を適用して平成11年7月課税期間から課税事業者になることを選択しようとして、同課税期間の中途に本件届出書を原処分庁に提出した。
 しかしながら、本件通達は課税事業者を選択しようとする課税期間開始の日前2年にわたって課税売上げ又は課税仕入れがない場合に適用されるものであるところ、請求人には、上記1の(4)のト及びチのとおり平成8年8月1日から平成10年7月31日までの間に課税仕入れがあることから、請求人の平成11年7月課税期間は本件通達に定める「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に該当しない。
 そうすると、請求人は、本件届出書が平成11年2月8日に原処分庁に提出されているから、本件届出書を提出した日の属する課税期間である平成11年7月課税期間においては免税事業者である。
 したがって、平成11年7月課税期間については、消費税法第46条《還付を受けるための申告》第1項に規定する還付を受けるための確定申告書を提出することはできないこととなる。
(ロ)請求人は、本件届出書に問題があるならば、原処分庁はその誤りを指摘すべきであり、本件届出書を基にした申告に対して、質疑及び調査をすべきであるところ、これをしなかったことは納得できない旨主張する。
 しかしながら、納税義務は、税法の規定によって納税者に直接課されるものであり、また、申告納税制度の下における申告は、本来、納税者自身の判断と責任において行われるものであって、納税者自身において注意義務が存するのであることから、当初申告に誤りがあった場合、これについて課税庁が法定申告期限内にその誤りについて請求人に適切な指導をしなかったことをもって、本来納付すべき正当な納税額を免れる理由にはならない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、上記イの(ロ)のとおり通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
ハ 本件各減額処分について
 本件各減額処分は、納付すべき消費税等を減額する処分であり、請求人の権利又は法律上の利益を侵害したものではないから、審査請求は不適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 請求人が本件届出書の提出により平成11年7月課税期間以後課税事業者を選択したとして還付の本件確定申告書を提出したことに対し、原処分庁が本件届出書の効力を否定し、同課税期間において請求人は免税事業者に当たるとして行った本件更正処分の適否に争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び請求人の代理人Gの当審判所に対する答述等によれば次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成6年ころ、前事業者が行っていた用地買収の途中から本件ゴルフ場の事業を引き継ぎ、用地の買い足し及び許認可を経てコースの造成を行い、平成11年4月に本件ゴルフ場を開場したこと。
(ロ)請求人は、平成5年9月7日に設立され、以後平成11年7月課税期間の開始前まで営業収入は発生していないこと。
(ハ)請求人の設立以後の各事業年度の法人税の確定申告書に添付されている貸借対照表の科目内訳書によれば、各事業年度終了日における土地勘定及び建設仮勘定の残高は次表のとおりであること。

(ニ)請求人の平成9年8月1日から平成10年7月31日までの事業年度の法人税の確定申告書に添付されている勘定明細書によれば、平成10年7月31日現在の建設仮勘定の内訳は次のとおりであるほか、車両運搬具勘定には平成8年8月30日に購入した車両1,954,655円が計上されており、また、同事業年度の販売費及び一般管理費の内訳書には賃借料14,371,443円の記載があること。

(ホ)Gは、本件届出書が原処分庁に届いていないかも知れないと考えて、2通目の届出書を送付したが、本件届出書の適否について原処分庁に相談若しくは確認をしたことはなく、他に請求人がこの確認等をした事実は認められないこと。
ロ 課税事業者への該当性について
(イ)上記1の(3)のロのとおり、消費税法第9条第4項の規定によれば、課税事業者選択届出書の提出による納税義務免除不適用の効力は、原則としてその届出書の提出をした日の属する課税期間の翌課税期間から発生することとなるが、例外として、その提出をした日の属する課税期間が「事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間」である場合には、届出書を提出した日の属する課税期間から直ちに課税事業者となることができることになる。
 上記の例外規定は、設立第1期目のように事業を開始したばかりの課税期間の場合にあっては、その課税期間の開始前に課税事業者選択届出書を提出することが困難であることを考慮したものと解される。
 そして、上記の「政令で定める課税期間」について、消費税法施行令第20条第1号は上記1の(3)のハのとおり、事業者が課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間がこれに該当する旨規定しているが、当該規定の「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」は、「課税資産の譲渡等を開始した日」のみを意味するものではないことは文理上明らかであるから、例えば課税資産の譲渡等を行うために必要な事務所、店舗等の賃貸借契約の締結、資材、商品等の仕入れ等の準備行為を行った日も該当すると解するのが相当である。この解釈は、たとえ課税資産の譲渡等が開始されていなくとも既にその準備行為が行われているような状況においては、課税資産の譲渡等の開始時期の予測が可能であり、原則どおりその開始時期を含む課税期間の開始前に課税事業者選択届出書を提出することができ、上記例外規定の対象とするまでもないことからしても妥当する。
(ロ)これを本件についてみると、次のとおりである。
 上記1の(4)のト及びチ並びに上記イの(イ)ないし(ニ)の各事実からすると、請求人は、平成5年9月7日に設立後、前事業者から本件ゴルフ場の事業を引き継ぎ、平成6年8月1日から平成7年7月31日までの課税期間(以下「平成7年7月課税期間」という。)以降、用地の取得、コース造成工事及びクラブハウスの設計施工等の本件ゴルフ場を開業するための準備を進め、平成11年4年に本件ゴルフ場を開場したことが認められるから、平成11年7月課税期間の開始前の課税期間においては課税資産の譲渡すなわち営業収入は生じていないものの、これを得るための必要な準備が継続して行われていたことが明らかである。
 したがって、請求人の平成11年7月課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する「国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に該当しないから、上記1の(4)のハのとおり、基本的に免税事業者である請求人が平成11年7月課税期間から課税事業者となるには、同課税期間の開始の日の前日までに課税事業者選択届出書を提出することを要するところ、本件届出書の提出がこれに遅れたことについては争いがないから、請求人は同課税期間においては免税事業者であることが明らかである。
(ハ)請求人は、平成11年7月課税期間について本件通達が適用されてしかるべきである旨主張する。
 ところで、本件通達は、休眠会社が事業を再開した場合などについては、事業を再開する日の属する課税期間の開始前に課税事業者選択届出書を提出することが困難な場合が少なくないという実態にかんがみ、上記1の(3)のニのとおり一定の要件に該当する場合は、新設法人と同様に、消費税法施行令第20条第1号に規定する課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間に含めて取り扱うことと定めている。
 ここで本件通達が、2年以上にわたって「課税資産の譲渡等」のみならず「課税仕入れ等」がなかった場合を要件としているのは、課税期間開始前2年以上の間、営業収入は再発生していなくとも、そのための準備として課税仕入れを既に再開しているような場合には当該課税期間は上記「事業を開始した日の属する課税期間」とみないという趣旨によるものと解されるところ、これは、上記(イ)の消費税法施行令第20条第1号の規定の趣旨と合致するから、当審判所においても相当な取扱いと認めることができる。
 しかしながら、本件の場合、次の理由から請求人の平成11年7月課税期間について本件通達の取扱いが適用される場合に当たるということはできない。
A 上記(ロ)のとおり、請求人は、平成7年7月課税期間以降継続して、本件ゴルフ場を開業するための用地の取得及び造成工事等の準備を進め、平成11年4年にゴルフ場を開場したことが認められ、この間いったん事業を休業し平成11年7月課税期間中に事業を再開したという事実は認められない。
B 請求人において平成11年7月課税期間開始の日前2年以上にわたって課税仕入れがなかったということはできない。すなわち、原処分庁が指摘する上記1の(4)のト及びチの広告宣伝費の支払のみでなく、上記イの(ハ)及び(ニ)のとおり、直前の2課税期間において車両の購入及び賃借料の支払という課税仕入れが存在したことが明らかであり、また、建設仮勘定に計上された金額には、コースの造成工事代のみならずゴルフ場にて使用する車両及び機械並びにクラブハウスの設計料等が含まれているところ、これらの中には、仕入税額控除の対象とする時期の問題はあれ、既に課税資産の引渡し若しくは役務の提供が行われ課税仕入れに該当する支払が含まれているものと認められる。
 なお、この点に関し請求人は、一般に設立から開業までの間に設立費用等の課税仕入れが発生するのが通例であるから請求人がした程度の課税仕入れがあっても本件通達の取扱いが適用されるべき旨主張するが、上記認定のとおり開場までの準備期間に発生した多額の課税仕入れの存在及び上記の取扱いの趣旨に照らし、採用できない。
(ニ)請求人は、仮に本件通達の適用がないとしても、原処分庁が本件届出書控えの返送に3週間以上を要したこと及び控えの返送に当たり本件届出書は適法ではない旨の連絡をしなかったことからすれば、原処分庁は本件届出書に関する本件通達の適用の有無について調査した上で、その適用があることの表明として本件届出書控えを返送したものと受け止めるのが一般的であり、請求人もそのように考えて本件確定申告書を提出したものであるから、原処分庁自らした同課税期間が課税事業者である旨の表明に反して請求人を免税事業者として行った本件更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、消費税法第9条第4項は課税事業者の選択のための手続要件として課税事業者選択届出書の提出のみを規定し税務署長の承認を要件としていないから届出書の適否等につき税務署長が提出者に何らかの意思表示を行うことは予定されていないこと、また、上記届出書の控えの返送日限等を規定する法令はないことから、上記事実をもって原処分庁が本件届出書について消費税法第9条第4項の規定の適用がある旨を表明したということはできない。
 さらに、上記イの(ホ)のとおり、ほかに請求人において本件届出書の適否について原処分庁に相談、確認をした事実はないから、原処分庁が請求人に対し何らかの見解の表明をすることはあり得ない。
 したがって、請求人の主張はその前提を欠くものといわざるを得ないから、採用できない。
(ホ)なお、請求人は、原処分庁が、本件届出書の提出を前提とした還付の本件確定申告書に対して、何らの質疑、調査もせず、還付手続を行ったことも、請求人が課税事業者であることを認めたものと信ずるに足る事情である旨主張する。
 しかしながら、申告納税方式をとる消費税等においては、納税者の申告により納付すべき又は還付されるべき税額が確定する(通則法第16条第1項第1号)ところ、税務署長は、還付金があるときは遅滞なく還付しなければならず(通則法第56条第1項)、また、還付手続に先立ち、質疑、調査を行うべき法令の規定も存しない。そして、税務署長は、調査の結果、納税申告書に記載された課税標準等または税額等に誤りがあるときは更正する(通則法第24条)ことになり、その調査の時期については税務署長の合理的な判断に委ねられているものと解される。
 したがって、原処分庁が本件確定申告書について還付を行い、その後調査に基づいて本件更正処分を行ったことに違法はなく、この点に係る請求人の主張は採用できない。
ハ 結論
 以上のとおり、請求人は平成11年7月課税期間においては消費税等の免税事業者に該当するから、これを前提として行われた本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であるところ、請求人は、原処分庁が本件届出書の提出がされた時点で不適法な届出書である旨を請求人に連絡しなかったこと、さらに、原処分庁が本件確定申告書の提出後直ちに指摘ないし指導をしなかったことは、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に当たるというべきであるから、本件賦課決定処分は違法である旨主張する。
 ところで、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」とは、当該申告が真にやむをえない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものであって、単に納税者の税法等の誤解に基づく場合には、これに当たらないというべきである。
 これを本件についてみると、請求人が本件届出書ないし本件確定申告書を提出したのに対して、原処分庁が請求人は課税事業者を選択できない旨の連絡又は指摘ないし指導をしなかったことをもって、請求人において、本件届出書に本件通達が適用されるとして課税事業者であると誤解したとしても、上記(1)のロの(ニ)で認定したとおり、そのことに上記「正当な理由」があったということはできないから、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)本件各減額処分について

本件各減額処分は、納付すべき消費税等を減額する処分であり、請求人の権利又は法律上の利益を侵害したものではない。
 したがって、本件各減額処分に対する審査請求は不適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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