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(平14.11.22裁決、裁決事例集No.64 565頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が新築した建物の所有権保存登記に係る登録免許税の課税標準となる当該建物の価額が争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年10月19日、次表の建物(以下「本件建物」という。)の所有権保存登記(以下「本件登記」という。)の申請に当たり、本件建物の課税価格を874,953,000円、登録免許税の額を5,249,700円と記載し、その税額相当額の印紙をちょう付した登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)を原処分庁に提出し、本件登記を了した。
所在 P市Q町○○番地○、○○番地○、○○番地○、○○番地○、○○番地○、○○番地○、○○番地○、○○番地○、○○番地○、○○番地○、○○番地○
家屋番号 ○○番○
種類 店舗
構造 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建
床面積 1階11,055.72平方メートル・2階277.87平方メートル
ロ その後、請求人は、平成13年11月13日に原処分庁に対し、登録免許税の還付通知請求書に本件登記に係る登録免許税の課税標準の正当額を535,000,000円、また、登録免許税の正当額を3,210,000円と記載し、先に納付した登録免許税の額5,249,700円との差額2,039,700円を所轄税務署長に還付通知すべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をしたところ、原処分庁は、平成13年11月16日付で還付通知すべき理由がない旨の通知処分をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成13年11月28日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項は、不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における当該不動産の価額による旨を、同法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、当該不動産の価額は、当分の間、地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に規定する固定資産課税台帳に登録された価格(以下「台帳価格」という。)を基礎として政令で定める価額によることができる旨をそれぞれ規定しており、登録免許税法施行令附則第3項は、上記政令で定める価額として、〔1〕台帳価格のある不動産については、登記の申請がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在の台帳価格に100分の100を乗じて計算した金額に相当する価額、また、〔2〕台帳価格のない不動産については、登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産で台帳価格のあるものの上記〔1〕の金額を基礎として登記官が認定した価額とする旨をそれぞれ規定している。
ロ これを受けてF地方法務局では、管内登記所における台帳価格のない建物(以下「未登録建物」という。)に係る登録免許税の課税標準の額の認定に当たっては、F地方法務局長通達により「建物の課税標準価格認定要領」(以下「認定要領」という。)を定め、未登録建物の登録免許税の課税標準の額はこの認定要領によって認定する旨定めている。
ハ また、認定要領では、未登録建物に係る登録免許税の課税標準の額の認定は、首席登記官が作成し、F地方法務局長が承認した「新築建物課税標準価格基準表」(以下「価格基準表」という。)に記載された価額に準拠して行うこととされている。
ニ さらに、価格基準表は、F地方法務局管内の市町村が3年ごとに行う固定資産の評価替えの際、見直し及び是正を加え改定することとされており、現行の価格基準表は、平成12年4月1日から適用されている。

(4)基礎事実

 本件建物は、平成13年10月15日に完成した新築の建物であり、本件登記の申請日現在において、未登録建物であることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、以下の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件建物は、通常の鉄骨造の店舗とは内装及び造作等の状況が大きく異なり、その実質は倉庫と同様なものであることから、通常の建物に適用されるべき価格基準表を適用するのは誤りである。
ロ 本件建物の完成直後の平成13年11月に○○県税事務所が行った不動産取得税に係る評価によれば、本件建物の評価額は462,740,000円である。
 なお、一般に評価額が建築価額を上回ることは考えられない。
ハ 本件建物の建築価額は535,000,000円であり、この金額は建築業者13社による競争入札を経た結果であることから、適切なものである。
ニ 以上のことから、原処分庁は、本件建物の登録免許税の課税標準の額を実情とかけ離れた過大な額で認定しており違法である。
 本件建物の登録免許税の課税標準の額には実際の建築価額535,000,000円を用いるべきであり、そうすると登録免許税の額は3,210,000円となることから、先に納付した納税額との差額2,039,700円は還付されるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件建物は、本件登記の申請の時点では未登録建物であったので、認定要領に従って価格基準表の中から本件建物の種類、構造が該当するものを選び、以下のとおり、本件建物の登録免許税の課税標準の額を874,953,000円と認定した。
(イ)本件登記申請書によれば、本件建物の構造は鉄骨造、種類は店舗であり、床面積は、1階11,055.72平方メートル、2階277.87平方メートルである。
 このことは、登記の記載とその根拠である表示登記申請書及び添付された土地家屋調査士作成の建物調査書、さらに、建築確認申請書及び確認済証といずれも符合する。
 したがって、種類、構造及び床面積に疑義はないことから、実地調査をしなかったものである。
(ロ)価格基準表によると、構造が鉄骨造で種類が店舗又は事務所であれば、1平方メートル当たりの価額は77,200円である。
 したがって、本件建物の登録免許税の課税標準の額は77,200円に床面積を乗じた874,953,148円から千円未満を切り捨てた874,953,000円となり、登録免許税の額は、この金額に1,000分の6の税率を乗じた5,249,718円から百円未満を切り捨てた5,249,700円となる。
ロ なお、登記官が台帳価格を基礎とし、特別の事情を考慮して、登録免許税の課税標準の額を認定できるのは、固定資産税課税台帳に不動産の価額が登録された後、目的となる不動産について増築、改築、損壊及び地目の変換その他これらに類する特別の事情があった場合であって、本件建物の登録免許税の課税標準の額の認定に当たっては該当しない。
ハ 請求人は、工事請負契約書を示し、請負代金額561,750,000円から消費税及び地方消費税の額26,750,000円を差し引いた535,000,000円を本件建物の登録免許税の課税標準の正当額と主張するが、登録免許税の課税標準の額は、未登録建物については台帳価格のある類似不動産の登録価額を基礎として認定するものであり、建物個々の直接工事費をもって当てるものではない。
 もし仮にそうであるとするならば、発注者と請負者の関係等建築の際の特殊事情に左右され、適正な建物の価額の認定が困難であり、個々に採用したとしても不適切さは否めない。
 以上のとおり、本件建物の登録免許税の課税標準の額は適正な手続によって認定されたものであり、納付された登録免許税の額に過誤納の事実はないので、本件還付通知請求は正当性を欠いているといわざるを得ず、原処分に違法はない。

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3 判断

 本件登記に係る登録免許税の課税標準の額及び登録免許税の額の多寡に争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 請求人の提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、本件建物の建築に当たり、13社の建築業者から提出された見積書を検討の上、最低価額を提示したG株式会社に建築価額535,000,000円で本件建物の建築を発注した。
ロ 上記イの建築価額には、本体工事費のほか電気設備工事費、給排水衛生設備工事費、冷暖房換気設備工事費、外構工事費、サイン工事費及び家具・備品工事費等の直接工事費、共通仮設工事費及び諸経費が含まれている。
ハ 本件建物は、いわゆる郊外型大型量販店であり、その内部は日用雑貨品売場と食品売場に分かれているものの、間仕切り及び特別の造作等を施していないワンフロアー形式で、天井、壁面及び床には化粧パネル等は装備されていなく、本件建物内の倉庫区域と同様に構造材がむき出しであるなど、簡易な仕様・構造の建物である。
ニ 本件登記の申請の日において、台帳価格のある本件建物の類似不動産は、F地方法務局○○支局の管内には認められない。
ホ 平成14年1月1日現在における本件建物の台帳価格は453,485,497円である。

(2)登録免許税の課税標準の額及び登録免許税の額について

 上記1の(4)及び上記(1)の各事実並びに上記1の(3)の関係法令等に基づいて判断すると以下のとおりである。
イ 原処分庁は、認定要領に基づき調査した結果、本件建物の登録免許税の課税標準の額及び登録免許税の額は相当であり、過誤納の事実は認められないと主張する。
 しかしながら、原処分庁が適用した認定要領は、未登録建物に係る登録免許税の課税標準の額の認定の妥当性と課税の公平を図り、併せて登記事務の迅速な処理を図ることを目的とし、標準的な仕様・構造の建物についての適用を予定していると考えられるところ、本件建物は、上記(1)のハのとおりであることから、認定要領に従って価格基準表を適用することが相当でない例外的な建物であると認められる。
 このことは、本件登記の申請の日である平成13年10月19日から間もない平成14年1月1日現在における本件建物の台帳価格453,485,497円と原処分庁が認定した本件建物の登録免許税の課税標準の額874,953,000円との間に著しい開差があることからも明らかである。
 したがって、原処分庁の認定した本件建物の登録免許税の課税標準の額は、本件建物に類似する建物の台帳価格を基礎として認定した価額とは認め難いものであるから、原処分庁が認定した本件建物の登録免許税の課税標準の額は採用することはできない。
ロ ところで、本件建物の登録免許税の課税標準の額は、上記1の(3)のイの規定に照らせば、本件建物は上記1の(4)のとおり未登録建物であり、上記(1)のニのとおり本件登記の申請の日において本件建物に類似する建物もないことから、本件登記の申請の日における本件建物の価額すなわち本件建物の時価によるものと解される。
ハ そこで、請求人が主張する本件建物の建築価額について検討すると、上記(1)のイのとおり、本件建物は13社という多数の建築業者からの見積書を検討した上で、請求人とは特別な関係がないと認められるG株式会社に発注し建築されていることから、その建築価額535,000,000円は、通常の取引による客観的な価額であると認められ、そこに恣意性は認められない。
ニ さらに、本件登記が本件建物の完成直後にされていること及び本件建物の時価を算定するに考慮すべき事由が他に認められないことからすれば、登録免許税法第10条第1項に規定する登録免許税の課税標準の額である本件建物の時価が、その建築価額を超えるとする事情は認められない。
 そうすると、本件建物の登録免許税の課税標準の額は、本件建物の建築価額535,000,000円とするのが相当である。
ホ その結果、本件建物の本件登記に係る登録免許税の額は、本件建物の登録免許税の課税標準の額535,000,000円に、登録免許税法第9条《課税標準及び税率》の規定に基づき1,000分の6を乗じて算定した額3,210,000円となる。
ヘ したがって、請求人が納付した登録免許税の額5,249,700円と上記ホで算定した額3,210,000円との差額2,039,700円は過誤納ということとなるから、本件還付通知請求に対して還付通知すべき理由がないとした原処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

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