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(平14.11.11裁決、裁決事例集No.64 574頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、老人介護等の社会福祉事業を行う社会福祉法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地の所有権移転登記の申請の際、財務省令で定める書類を添付せずに登録免許税を納付し、その後、当該書類を添付して登録免許税の還付通知請求をした場合に、登録免許税法第4条《公共法人等が受ける登記等の非課税》第2項の適用があるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年8月1日に、次表の土地(以下「本件土地」という。)について、登記の目的を所有権移転、登記原因を平成13年8月1日売買、登記権利者を請求人、登記義務者をA株式会社、課税標準額を48,686,000円、登録免許税の額を2,434,300円と記載した登記申請書(以下「本件申請書」という。)に基づき所有権移転登記(以下「本件登記」という。)を了した。
 なお、請求人は、本件申請書に上記登録免許税の額に相当する収入印紙をちょう付して、本件登記に係る登録免許税を納付した。

所在地番地目地積
P市Q町○○番○雑種地5,840平方メートル
P市R町○○番○○雑種地163平方メートル

ロ その後、請求人は、平成14年5月16日に原処分庁に対し、本件登記に係る登録免許税は登録免許税法第4条第2項の適用により非課税になるものとして、上記イにより納付した登録免許税の額2,434,300円につき、請求人の納税地の所轄税務署長に還付通知すべきである旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をした。
ハ これに対し、原処分庁は、請求人に対して平成14年5月17日付で、還付通知をすべき理由のない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をしたところ、請求人は、この処分を不服として、同年同月29日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 登録免許税法第4条第2項は、別表第3の第1欄に掲げる者が自己のために受けるそれぞれ同表の第3欄に掲げる登記等(同表の第4欄に財務省令で定める書類の添付があるものに限る旨の規定がある登記等にあっては、当該書類を添付して受けるものに限る。)については、登録免許税を課さない(以下「本件非課税規定」という。)旨規定している。
ロ 登録免許税法別表第3の10の項の第3欄の第1号は、非課税の登記等は、社会福祉法第2条《定義》第1項に規定する社会福祉事業の用に供する建物の所有権の取得登記又は当該事業の用に供する土地の権利の取得登記とする旨規定している。
ハ 登録免許税法別表第3の10の項の第4欄は、第3欄の第1号の登記に該当するものであることを証する財務省令で定める書類の添付があるものに限る旨規定している。
ニ 登録免許税法施行規則第3条項第1号のイの(1)は、上記ハにいう財務省令で定める書類として、社会福祉事業の用に供する不動産が地方自治法第252条の19第1項に規定する指定都市及び同法第252条の22第1項に規定する中核市の区域外に所在する場合は、その登記に係る不動産が登録免許税法別表第3の10の項の第3欄の第1号に規定する不動産に該当する旨を証する当該不動産の所在地の都道府県知事の書類(以下「本件証明書」という。)と規定している。
ホ 国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第12号は、登録免許税の納税義務は登記の時に成立するとし、同条第3項第5号は、登録免許税は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する旨をそれぞれ規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年8月1日に原処分庁に対して本件登記の申請をしたが、本件申請書に本件証明書を添付しなかった。
ロ 原処分庁は、平成13年8月1日に本件申請書を受理し、本件登記を完了した。
ハ 請求人は、平成14年2月14日にB県知事から上記(3)のニの本件証明書の交付を受け、同年5月16日に原処分庁に対して本件証明書を添付の上、本件還付通知請求をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件通知処分の取消しを求める。
イ 請求人は、平成13年8月1日に平成13年度の国等の補助事業として建設する特別養護老人ホームの用地として取得した本件土地に係る本件登記の申請をC司法書士(以下「C司法書士」という。)に依頼したが、本件登記が本件非課税規定に掲げる登記に該当することを承知していなかったことから、本件申請書に本件非課税規定の適用を受ける場合に必要な本件証明書を添付せず、登録免許税の額2,434,300円に相当する収入印紙をちょう付して原処分庁に提出し、本件登記を完了した。
 ところが、請求人は平成14年2月にC司法書士から、本件登記は本件非課税規定が適用される登記に該当し、本件申請書に本件証明書を添付していれば非課税となったことを知らされたので、同年5月16日に本件証明書を添付して原処分庁に対し本件還付通知請求を行った。
ロ これに対し、原処分庁は、本件申請書には上記1の(3)のイないしニに規定する本件証明書が添付されていないことから、本件非課税規定の適用を受けることはできず、過誤納の事実は認められないとして本件通知処分を行った。
ハ しかしながら、本件登記に係る登録免許税は、本件申請書に本件証明書を添付してさえいれば非課税となったものであり、また、本件申請書を受け付けた原処分庁の職員は、本件登記が本件非課税規定の適用される登記に該当することに気付かず、請求人に伝えなかったという配慮不足及び指導不足が起因となって過誤納が生じたものであるから、後日に本件証明書を提出した場合であっても本件非課税規定の適用が当然に認められるべきであり、既に納付した登録免許税の還付をするゆうじょの計らいがされるべきである。
ニ また、登記申請を行う場合には、司法書士という有資格者の手に委ねなければ登記申請書を法務局へ提出できないという仕組みとなっている実態においては、法務当局は司法書士に対して特別な職務権限を付与していることになるから、司法書士が適正に業務を行うよう指導、監督する義務があり、また、登記官はもとより司法書士は、一般市民に対して登記事務について適正な指導を行う責任がある。
 よって、本件のようにC司法書士が請求人に対して適切な指導をしなかったことを起因とする登録免許税の過誤納については、直ちに法務当局が責任をもって過誤納金として還付をすべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により、適法であるから審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 不動産登記の申請について、不動産登記法第35条は、登記を申請するには申請書等の提出を要するものとし、不動産登記法施行細則第38条は、申請書に登録免許税額を記載しなければならない旨をそれぞれ規定している。
 そして登記官は、提出された申請書等とこれに関連する登記簿の記載を基に申請された登記について、不動産登記法第49条各号(第10号を除く。)に掲げる却下事由の有無を書面審査した上で、当該申請書等を受理すべきか否かを決定することとしている。
 また、本件非課税規定の適用を受けるためには、本件申請書に、上記1の(3)のイないしニのとおり、社会福祉法人が行う社会福祉事業の用に供する建物の所有権及び土地の権利の取得登記に該当することを証する本件証明書の添付をすることとされており、登録免許税法には本件証明書を添付しなかった場合でも本件非課税規定の適用ができる旨のゆうじょ規定は存在しない。
 ところで、本件申請書には、本件非課税規定の適用を受けるための本件証明書の添付はなく、また、登録免許税の額は、登録免許税の課税標準となる本件土地の価額48,686,000円に登録免許税法別表第1の第1号の(ニ)のニに掲げる1000分の50の税率を適用した2,434,300円と記載の上、それに相当する収入印紙のちょう付があり、かつ、他に本件登記の申請を却下する事由もなかったので、本件申請書を受理し、本件登記を完了したものである。
 したがって、本件申請書に本件証明書の添付がない以上、本件非課税規定の適用はなく、また、本件登記に係る登録免許税の額は、登録免許税法第9条《課税標準及び税率》の規定に基づいて正当に計算されており、過誤納の事実は認められない。
ロ 登録免許税については、上記1の(3)のホのとおり、登記の時に納税義務が成立し、その成立と同時に何ら特別の手続を要せず確定するとされているから、登記を受けた事実があれば、登記申請書に記載された登記の目的、登記の原因によって形式的かつ画一的に税額が確定するものである。
 そして、登記官は、登録免許税に関して、上記イのとおり、本件申請書の形式的審査権を有するに過ぎないので、本件証明書の添付がなければ、本件非課税規定の適用要件は存しないものと判断する以外にない。
 そうすると、本件証明書を本件申請書に添付することが、本件非課税規定の適用要件とされているから、本件登記の完了後に既に納税義務が成立し、納付すべき税額が確定した登録免許税の還付を求めることはできない。
ハ 以上のことから、請求人には登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項に定める過誤納の事実は認められないから、本件還付通知請求に基づき税務署長に対して還付通知をすべき理由はなく、原処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件登記の完了後、本件非課税規定の適用を受けるために本件証明書を添付して本件還付通知請求をした場合に、本件非課税規定の適用が認められるか否かにあるので、以下審理する。
(1)本件非課税規定は、上記1の(3)のイないしニのとおり、社会福祉法人が行う社会福祉事業の用に供する土地等の権利の取得登記に該当することを証する本件証明書の添付があるものに限り適用される旨規定されている。
 この規定の趣旨は、社会福祉法人は社会福祉法第26条《公益事業及び収益事業》第1項の規定により、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、公益事業又は収益事業を行うことができるため、これらの事業の用に供する不動産を取得することが考えられるところ、社会福祉法人の取得した不動産が社会福祉法第2条第1項に規定する社会福祉事業の用に供される場合に限り、本件非課税規定の適用を認めるものである。
 したがって、本件非課税規定の適用が認められるためには、上記1の(3)のイないしニのとおり、社会福祉事業の用に供することを明らかにする本件証明書の添付をして登記を受けることが必要であるから、本件証明書の添付が要求される時期は、登記申請の時であることは明らかであるというべきである。
 また、上記1の(3)のホのとおり、登録免許税の納税義務は登記の時に成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するとされているから、登記申請の時に、上記1の(3)のイないしニに規定する手続等を履践した場合に限り登録免許税が非課税とされることとなる。
(2)これを本件についてみると、〔1〕請求人は、上記1の(4)のイのとおり、本件登記の申請の時に本件証明書を添付せず、本件非課税規定を適用しないところで登録免許税の額を算出し納付していること、〔2〕原処分庁は、上記1の(4)のロのとおり、本件証明書の添付がない本件申請書を受理し、本件登記を完了していることが認められる。
 そうすると、本件登記は、本件非課税規定に該当しないことは明らかであるから、請求人が本件登記の完了後において、本件非課税規定の適用要件である本件証明書を添付して本件還付通知請求をしても、その適用要件を具備したことにはならないというべきである。
 また、請求人は、請求人が本件非課税規定の内容を承知していなかったので、本件証明書を添付せず、本件非課税規定の適用を行わずに本件登記を了したものであり、このことは本件申請書を受け付けた原処分庁の職員の本件非課税規定に係る取扱いについての的確な指導等が不足したことに起因するものであるから、本件非課税規定の適用は当然に認められるべきであり、既に納付した登録免許税は過誤納となるから、還付するゆうじょの計らいがあるべき旨主張する。
 しかしながら、本件非課税規定は、上記1の(3)のイのとおり、公益法人等が受ける登記等について一定の要件の下に登録免許税を課さない旨の例外的な規定であることからすれば、その解釈適用に際しては、これを厳格に解釈すべきであると解されるところ、本件申請書には本件証明書の添付がなかった以上、本件非課税規定の適用要件を満たすものと認めることはできない。また、登録免許税法には本件証明書の添付がなかった場合でも登録免許税を非課税とすることができる旨の規定、あるいは、ゆうじょ的に扱うべき旨の規定もない。したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)また、請求人は、C司法書士が適切な指導をしなかったことから過誤納が生じたものであり、その責任はC司法書士を指導、監督する立場にある法務当局にあるから、法務当局が過誤納金を返還するよう措置を採るべきであると主張する。
 しかしながら、法務当局にC司法書士を一般的に指導、監督する責任があるからといって、このことから直ちに法務当局が請求人の主張する過誤納金を返還する措置を採るべき理由はないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(4)なお、請求人及び原処分庁から提出された資料によれば、本件登記に際して納付された登録免許税の額は、登録免許税法第9条の規定に基づいて正当に計算が行われているから、本件登記に係る登録免許税に過誤納があったとは認められない。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件登記に係る登録免許税の本件還付通知請求に対する本件通知処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、当事者間に争いがなく、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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