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(平14.7.11裁決、裁決事例集No.64 611頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、再公売に際して原処分庁が行った公売財産に係る見積価額の決定の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成13年8月3日(同年9月5日公売分)付及び同年10月5日(同年11月7日公売分)付の公売通知書(以下、これらを併せて「先行通知書」という。)により、審査請求人(以下「請求人」という。)が所有する別表に記載した不動産を公売財産として、公売することを通知した。
ロ 原処分庁は、別表に記載した不動産を公売財産として、平成13年9月5日及び同年11月7日に公売(以下、これらを併せて「先行公売」という。)を実施したが、いずれも入札者がなく不成立となった。
ハ 次いで、原処分庁は、平成14年2月4日(同年3月6日公売分)付の公売通知書(以下「本件通知書」という。)により、別表に記載した不動産を公売財産として、再公売することを通知した。
ニ これに対し、請求人は、別表の丙に記載した公売財産(以下「本件公売財産」という。)に係る本件通知書により通知された公売処分(以下「本件公売処分」という。)に不服があるとして、平成14年3月5日に審査請求をした。
ホ その後、原処分庁は、平成14年3月6日に○○国税局公売場において、入札の方法により、本件公売財産について最高価申込者及び次順位買受申込者を決定し、公売保証金の納付及び入札等終了の告知等の手続をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件公売財産のうちの土地は、間口約10メートル、奥行き約44メートルのほぼ長方形状の画地であり、東側で幅員約18メートルの県道、北側で幅員約6メートルの市道、西側で幅員約5メートルの市道に、それぞれ等高に接面している。
ロ 本件公売財産のうちの土地の東側部分には、請求人が所有する木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建店舗19.96平方メートルの本件公売財産である建物(昭和45年9月1日新築。以下「店舗建物」という。)が存在している。
 なお、店舗建物は、B株式会社の無人店舗として利用されており、請求人は同社との間で建物賃貸借契約を締結している。
ハ 本件公売財産のうちの土地の中央部分には、請求人の妻であるC(以下「C」という。)が取締役となっている有限会社D(以下「D社」という。)が所有する木造瓦葺平家建居宅102.86平方メートルの建物(昭和49年1月10日に売買により取得。以下「居宅建物」という。)が存在し、請求人の弟であるE(以下「E」という。)が居住している。
ニ 本件公売財産のうちの土地の西側部分については、D社が貸駐車場として使用している。
 なお、駐車場の管理については、D社が○○農業協同組合との間で駐車場管理業務委託契約を締結している。
ホ 先行通知書の本件公売財産に係る「見積価額」欄には、22,856,000円(以下「先行見積価額」という。)と記載されている。
 また、本件通知書の本件公売財産に係る「見積価額」欄には、16,776,000円(以下「本件見積価額」という。)と記載されている。
ヘ 本件通知書に係る売却区分番号○○の「公売財産の概要」欄には、「第三者が所有する登記建物の底地部分については、所有者等の申立てによると、賃貸借契約は締結されていない。」と記載されている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件公売処分は、次の理由により、見積価額が不当に低い価額となっており納得できない。
イ 本件公売財産の見積価額は、先行通知書では22,856,000円であったのに対し、本件通知書では16,776,000円となっており、約4か月の間に大幅に下落しているが、地価がそのような下落をするはずはない。
 また、本件公売財産の土地の中央部分に存在するD社所有の居宅建物の底地について、請求人は賃貸借契約を締結していない旨を原処分庁に申し立てた事実がないにもかかわらず、原処分庁は、本件通知書に「所有者等の申立てによると、賃貸借契約は締結されていない。」と誤った記載をすることで、本件公売財産の見積価額を不当に引き下げている。
ロ 原処分庁は、別表の不動産のうち甲及び乙に記載した土地については、平成8年から数年間は見積価額を下げずに公売に付していたにもかかわらず、本件公売財産については3回目の公売で見積価額を下げており、見積価額を下げるのが早すぎる。

(2)原処分庁の主張

 本件見積価額には、次のとおり、違法又は不当な点はない。
イ 先行通知書及び本件通知書に記載されている金額は、売却価額を記載したものではなく、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第98条《見積価額の決定》の規定に基づいて適法に決定した見積価額である。
 また、徴収法第104条《最高価申込者の決定》第1項は、最高価額の買受申込者であっても、その価額が見積価額に達しないときは最高価申込者としない旨規定していることから、この見積価額は、単なる売却予定価額ではなく最低売却価額の性質を有する。
ロ 本件見積価額は、先行見積価額を基にして、次のとおり、減価すべき合理的な理由により適法に評定したものである。
(イ)先行見積価額は平成13年6月(評価時点は平成12年10月20日)に決定したものであり、本件公売処分時点までの地価の下落率等を勘案した時点修正額を減額した。
(ロ)そして、本件公売財産については、過去2回の公売を実施したが入札者がいなかったことから、その原因について分析検討したところ、〔1〕先行見積価額の決定時点以降、本件公売財産の周辺の要因に変化が見受けられたこと及び〔2〕本件公売財産のうち土地部分については、長方形状の一筆の土地であって複数の権利等が存在するため、権利関係が複雑であることが認められたことを考慮して、上記(イ)の時点修正後の価額から個別要因減価額を減額した。
 なお、本件公売財産のうちの土地の所有者である請求人と居宅建物の所有者である第三者との権利関係については、請求人等に対し過去数回にわたって調査を実施したが協力が得られなかったことから、関係者の申述及び申告書等の関係書類に基づき客観的に判断した結果、当該権利関係は、賃貸借ではなく使用貸借であると判断した。
(ハ)さらに、公売財産を売却する場合には、一般の売買に比して価額が低くなる要素、すなわち「公売の特殊性」があることから、本件見積価額の決定に当たっては、これを参酌して評定した。

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3 判断

(1)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ 原処分庁は、先行見積価額の決定に当たって、不動産鑑定士から不動産鑑定評価書を徴しており、その鑑定評価額(以下「本件鑑定評価額」という。)の評定に当たっては、評価時点を平成12年10月20日とし、本件公売財産のうちの土地については、店舗建物の敷地として利用されている部分(以下「画地1」という。)と居宅建物及び駐車場として利用されている部分(以下「画地2」という。)との用途の異なる2区画に区分し、画地1については更地価格を、画地2については第三者に譲渡する場合の底地正常価格を算定して、それらの合計額(28,570,000円)を本件鑑定評価額とし、また、店舗建物については、登記簿によると昭和45年9月1日の新築であり、既に耐用年数の22年を経過した物件であることから、建物としての価値はないものとして評定した上で、本件鑑定評価額を本件公売財産の客観的時価とした。
 なお、更地価格については、一般的要因、地域要因、個別的要因を踏まえた評価条件及び最有効使用の考え方に基づいて、取引事例比較法による比準価格及び収益還元法による収益価格を求め、公示価格との均衡にも配慮した上で算定した。
 また、画地2の底地正常価格については、画地2に存在する居宅建物が、登記簿によると昭和49年1月10日の売買を原因としてD社の所有となっており、土地の所有者と居宅建物の所有者とが異なることから、更地価格を基礎にして、当該建物の所有を目的とした一般的な借地権が設定されているものとして計算した収益価格及び借地権割合等を勘案した価格を考慮した上で算定した。
ロ 次いで、原処分庁は、先行公売が入札者がなく不成立となったことから、本件見積価額の決定に当たり、次の調整を行った。
(イ)先行見積価額の評価時点から本件公売処分の時点までの時点修正として、不動産鑑定評価書において採用した標準地に係る公示価格の下落率を求め、それを時点修正率として算出した金額(5,271,083円)を、時点修正による減価として減額した。
(ロ)また、本件公売財産のうちの土地の中央部分には、D社が所有する居宅建物が存在し、かつ、当該建物にはEが居住しており、その権利関係は複雑であることが認められたことから、個別要因等による減価として2,329,891円を減額した。
(ハ)以上のとおり、本件鑑定評価額から時点修正による減価額及び個別要因等による減価額を減額した金額(20,970,000円)を調整後の客観的時価とし、これを基礎として、この金額から「公売の特殊性」による減価として20パーセントを控除した金額(16,776,000円)を本件見積価額として決定した。
ハ Eは、平成10年8月6日に、原処分庁に対して、Eと請求人及び先代(父であるF)との間には本件公売財産のうちの土地に係る賃貸借契約は存在せず、D社との間においても同土地に係る契約関係は存在しない旨申述した。
 そして、D社の関与税理士であるG(以下「G税理士」という。)は、平成12年10月30日に、原処分庁に対して、請求人とD社との間の本件公売財産のうちの土地に係る賃貸借契約内容に関し、先代のころに行われたことであり、今となっては全く分からないが、地代の授受が行われていないことから、使用貸借の状態である旨申述した。
 また、Cは、平成13年6月4日に、原処分庁に対して、本件公売財産のうちの土地に係る賃貸借契約については、先代がすべて行っていたことを継続しているだけであり、契約等の有無は不明である旨申述した。
 さらに、請求人は、当審判所に対して、先代からの相続開始後において、D社及び他のだれとも本件公売財産のうちの土地に係る賃貸借契約は結んでおらず、賃貸料収入もない旨答述した。

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(2)関係法令等

イ 徴収法第98条は、「税務署長は、公売財産の見積価額を決定しなければならない。この場合において、必要と認めるときは、鑑定人にその評価を委託し、その評価額を参考とすることができる。」旨規定しており、その趣旨は、公売価額を適正なものとし、特に著しく低廉となることを防止して、最低公売価額を保障するために設定するものであり、また、その方法は、公売財産の客観的時価を基準として、公売の特殊性を考慮することとされている。
 ところで、公売財産の客観的時価とは、これと同種類、同等又は類似の財産の最近における売買実例若しくは取引相場又はその財産の再調達原価及び収益還元価額等に基づいて算定されるものである。
 また、公売の特殊性の要因とは、〔1〕換金を目的とした強制売却であること、〔2〕換価する財産や公売の日時及び場所が一方的に決定されること及び〔3〕売主は瑕疵担保責任を負わず、買主は原則として解約等ができないことなどであり、これら公売の特殊性により、公売財産の見積価額は客観的時価を相当に下回るのが通例である。
 ただし、見積価額が客観的時価と比較して低廉で、ひいては公売価額が客観的時価より著しく低廉であるときは、その見積価額の決定及びそれに基づく公売処分も違法となると解されている。
 そして、公売価額が客観的時価より著しく低廉であると認定する基準は、個々の公売処分によって具体的事情が相当異なり、しかも、基準となる時価も多少の幅があるため、一律に決めることは難しいことから、公売財産の評価事務を適正に実施するために、実務上、国税庁長官通達「公売財産評価事務提要」(以下「評価通達」という。)は、公売の特殊性に伴う調整限度を客観的時価のおおむね30パーセント程度の範囲内とする旨定めているところ、公売の特殊性を考慮した見積価額決定の趣旨からすれば、当審判所においてもその割合は相当であると認める。
ロ なお、評価通達は、借地権について、法律上の借地権のほかすべての宅地の使用権をいうと定め、さらに、使用権がない場合であっても、現に公売財産上に建物等があり、立退等の費用を買受人が負担すると認められるときは、借地権に準じて取り扱う旨定めている。
 これは、公売という特殊な状況の中で、買受人となる者に不測の損害を被らせることのないように配慮したものと解されることから、当審判所においても合理的な取扱いであると認める。
ハ 徴収法第107条《再公売》第1項は、「税務署長は、公売に付しても入札者等がないとき、又は入札等の価額が見積価額に達しないとき等は、更に公売に付するものとする。」旨規定し、また、同条第2項において、「税務署長は、前項の規定により公売に付する場合において、必要があると認めるときは、公売財産の見積価額を変更することができる。」旨規定している。
 この点について、評価通達は、再公売の場合においても直ちに見積価額を減額して廉価に売却してもよいというわけではなく、むしろ当初の見積価額が明確な算定基礎をもって評定されている限り、その価額を据え置いて再公売を実施すべきであるが、直前の見積価額が適当でないと認められるときは、直前の見積価額の算定基礎について、十分に検討を加えるとともに、客観的に是認される範囲内において慎重な配意の下に見積価額の変更を行うものとする旨定めているところ、見積価額の安易な変更への歯止めという趣旨からすれば、当審判所においても相当であると認める。
 そして、「直前の見積価額が適当でないと認められるとき」とは、〔1〕見積価額の決定の前提とした事実認定又は法律判断に誤りがあったこと、〔2〕計算違いなど評価に誤りがあったこと、〔3〕見積価額の決定の前提とした事実等にその後変更が生じたこと、〔4〕公売財産の価値に人為的、自然的変更が加えられたこと、〔5〕経済事情の変動により公売財産の価額が変化したことなどの合理的な事由がある場合と解される。

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(3)これを本件について見ると、次のとおりである。

イ 原処分庁が、本件公売財産の見積価額の決定に当たり基礎とした本件鑑定評価額は、本件公売財産のうちの土地について、用途の異なる2区画に区分し、それぞれについて取引事例比較法及び収益還元法等による更地価格を算定した上で、画地2については一般的な借地権が設定されているものとして底地正常価格を算定しており、その計算過程においても不合理な点は認められず、本件鑑定評価額の評価時点における客観的時価として適正であると認められる。
 そして、原処分庁は、本件見積価額の算定に当たり、本件鑑定評価額の評価時点から本件公売処分の時点までの時点修正を行っていることが認められるが、これは、取引事例に係る取引時点と公売時点とが異なり、その間に価格水準に変動があったと認められたため、取引事例価格を公売時点の価格に修正したものであり、その計算過程にも不合理な点は認められず、時点修正による減価額は相当であると認められる。
 また、原処分庁は、先行公売後の調査によって精通者意見等を徴した結果、本件公売財産に係る土地の所有者、居宅建物の所有者及び現実の居住者がそれぞれ相違している上に、その権利関係が複雑であることから、本件公売財産は市場性が低いと判断したものであり、さらに、本件鑑定評価額の評価時点以降、本件公売財産の南側に隣接して3階建ての鉄筋建物が建設されたことから、日陰の発生などの周辺環境要因に変化があったことを併せ考えると、本件公売財産に係る個別要因等として、本件公売処分の直前の見積価額(先行見積価額)を変更すべき合理的な事由があったと認められ、個別要因等による減価額は相当であると認められる。
 そうすると、本件鑑定評価額から減価調整要因として時点修正及び個別要因等による減価額を控除した後の金額は、本件公売処分時点における客観的時価として適正であると認められる。
 そして、原処分庁は、本件見積価額の算定に当たり、公売の特殊性を考慮して、減価調整後の客観的時価からその20パーセントを控除していることが認められるが、その控除割合は上記(2)のイのとおり30パーセントの範囲内であることから相当であると認められる。
 したがって、過去2回の公売において入札者がなく不成立となったことから、原処分庁が本件公売処分に際して、前記(1)のロに記載した調整を行った上で決定した本件見積価額は相当であり、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 請求人は、原処分庁が本件通知書に「所有者等の申立てによると、賃貸借契約は締結されていない。」と誤った記載をすることで、本件公売財産の見積価額を不当に引き下げている旨主張する。
 しかしながら、前記(1)のハに記載したE、G税理士、Cの申述内容及び請求人の答述内容並びに請求人の確定申告書及びD社の法人決算書によると地代等の授受は行われていないことを総合勘案すると、賃貸借契約が締結されているとは認められないから、本件通知書の記載内容が誤っているとはいえない。
 なお、上記(2)のロで述べたとおり、現に公売財産上に他人名義の建物が存在する場合には、賃貸借契約の有無にかかわらず借地権に準じて取り扱うものとされており、原処分庁が本件鑑定評価額を算定するに当たっても、画地2については一般的な借地権が設定されているものとして計算しているのであるから、本件通知書の記載内容は見積価額の決定に影響を及ぼすものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ さらに、請求人は、本件公売財産について3回目の公売で見積価額を下げるのは早すぎる旨主張するが、〔1〕先行見積価額の評価時点から本件公売処分の時点まで約1年5か月を経過していること、〔2〕過去2回の公売において入札者がなく不成立であったこと、〔3〕見積価額の評価の見直しを行った結果、先行見積価額(22,856,000円)と本件見積価額(16,776,000円)との間には26.6パーセントの開差が認められたことから、原処分庁が、本件公売処分に際して見積価額の評価の見直しを行ったことは相当であると認められ、したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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