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(平14.11.8裁決、裁決事例集No.64 623頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、原処分庁が審査請求人Fほか3名(以下「請求人ら」という。)共有の不動産を公売処分するに当たり決定した見積価額が、公売時の時価を反映した適正なものか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人らが共有する別表1記載の土地(以下「本件土地」という。)及び建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件公売財産」という。)の入札による公売を、別表2の「公売の実施状況」欄のとおり、○○国税局公売場において、延べ10回にわたって実施したが、いずれも入札者がなく不成立となった。
ロ そのため、原処分庁は、本件公売財産の見積価額を従前の18,312,000円(2回にわたる改訂を経た見積価額であり、以下「前回見積価額」という。)から11,865,000円(以下「本件見積価額」という。)に改訂して、平成13年12月25日付の公売通知書(以下「本件公売通知書」という。)により、請求人らに通知した。
ハ その後、原処分庁は、平成14年2月6日に本件公売財産の公売を実施したところ、当該財産が最高価申込者によって12,039,990円で落札されたため、平成14年2月6日付の不動産等の最高価申込者の決定等通知書により、最高価申込価額等を請求人らに通知した。
ニ これに対し、請求人らは、上記ハの原処分に不服があるとして、平成14年2月13日に審査請求をするとともに、同日、Fを総代として選任する旨の届出書を提出した。

(3)関係法令等

イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第98条《見積価額の決定》は、「税務署長は、公売財産の見積価額を決定しなければならない。この場合において、必要と認めるときは、鑑定人にその評価を委託し、その評価額を参考とすることができる。」と規定している。
ロ 次に、徴収法第107条《再公売》第1項は、税務署長は、公売に付しても入札者等がないとき、又は入札等の価額が見積価額に達しないとき等には、更に公売に付する旨規定し、また、同条第2項は、この再公売に付する場合において、必要があると認めるときには、公売財産の見積価額等の変更をすることができる旨規定している。

(4)基礎事実

 次の事実については、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 本件公売財産の見積価額の推移は、別表2の「見積価額の評定(改訂)」欄のとおりである。
ロ 本件土地は、間口約7.5メートル、奥行き約12.5メートルの長方形状の画地で、西側が幅員約11メートルの市道に面しており、その用途等は、以下のとおりである。
(イ)北側部分(面積56.19平方メートル)は、G(以下「G」という。)が所有する建物の敷地として、同人に賃貸されている(以下、この部分の土地を「本件貸地部分」という。)。
 なお、請求人らがGから預かっている敷金(全額返還を要する。以下「本件敷金」という。)は153,000円、月額賃料は32,000円、契約期間は昭和48年9月1日から30年間となっている。
(ロ)南側部分(面積42.91平方メートル)は、請求人らが所有する本件建物(昭和29年に新築され、昭和40年に増築されたもの。)が建っており、第三者が倉庫として無償使用している(以下、この部分の土地を「本件自用地部分」という。)。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 本件公売財産には、次のとおり減価すべき合理的な理由があり、本件見積価額は、これらの減価要素を基に適正に算定されているから、これに基づく原処分も適法である。
イ まず、平成12年6月1日に決定された前回見積価額を基として、平成14年2月の公売時までの公示地の価格の下落率を勘案し、時点修正による減価額(以下「時点修正額」という。)を控除した。
ロ また、本件公売財産は、平成11年6月から延べ10回にわたって公売が実施されたが、いずれも入札者がなく、市場性に極めて乏しい物件であると認められたことから、前回見積価額の算定では考慮していなかった市場性減価額を控除した。
ハ さらに、公売財産を売却する場合には、一般の売買に比して不利な要素、例えば、〔1〕滞納者の意思にかかわらず強制的に行う換金処分であること、〔2〕買受代金は即納しなければならないこと、〔3〕買受後の保証がないこと及び〔4〕公売の場所、日時が一方的に決定され、買受手続が煩雑であること等の要素によって市場性が局限されることから、その見積価額は低廉の傾向を生ずるのが通例である。
 このため、本件見積価額の決定に当たっては、上記イ及びロの減価要因のほかに「公売の特殊性」を参酌した。

(2)請求人らの主張

 本件公売財産の見積価額の変更は、次のとおり、安易な低減方式を採用した結果であり、合理性のない客観性に欠けるものである。
 したがって、これに基づく原処分は違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件見積価額は、短期間のうちに前回見積価額と比較して著しく減価されており、その減価率(約35%)も、路線価又は固定資産税評価額の平成12年から平成13年にかけての価格変動率(約7〜9%)と比較して、減額の限度を超えた大きなものとなっている。
ロ また、原処分庁は、過去10回の公売において入札者がいなかったとして、本件公売財産が市場性に乏しい物件であると認定している。
 しかしながら、本件公売財産が、過去10回の公売において入札者がいないという結果になったのは、原処分庁が、公売に当たって、本件自用地部分(42.91平方メートル)の割合について、実際には本件土地全体(99.10平方メートル)の約43%であるにもかかわらず、本件公売通知書の公売財産の表示(売却区分番号○○)において、本件建物の敷地部分(建物1階部分の床面積30.67平方メートル)が本件土地全体に占める割合である約31%しかないと誤認させるような記載を行っていたことによるものであるから、原処分庁が上記結果を根拠に本件公売財産を市場性に極めて乏しい物件であると判断したことは誤りである。
ハ さらに、原処分庁は、本件見積価額の算定に当たって、公売の特殊性を参酌した旨主張する。
 しかしながら、本来、公売財産は、経済的変動、前提事実、現地・現況調査及び評価基準の適用等の判断過程を経て成り立つ価額を見積価額とすべきである。
 不動産等の合理的な評価算定基準として、不動産鑑定士による鑑定評価があり、その具体的査定方法である原価法、取引事例比較法及び収益還元法のいずれかにより算出した試算価格を鑑定評価額として決定した場合であれば、公売の特殊性の要素をその評価額より減額することにも合理性があるといえるが、本件公売財産の評定においては、その見積価額の決定に係る評価算定基準に問題があるから、公売の特殊性を参酌する必要は認められない。

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3 判断

(1)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 原処分庁は、本件公売財産の評定に当たり、不動産鑑定士に委託して作成された鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)に基づいて、次のとおり、本件公売財産に係る各見積価額を決定している。
 なお、本件鑑定評価書は、本件建物の経済的価値はないとしており、本件公売財産の鑑定評価額を、平成11年2月1日時点における本件土地のみの評価額である24,610,000円(以下「本件鑑定評価額」という。)としている。
(イ)前回見積価額
 前回見積価額は、本件鑑定評価額から次に掲げる金額を控除して算定している(1,000円未満の端数切上げ)。
A 時点修正額
 公示地であるP市Q町○○番に所在する宅地(以下「本件公示地」という。)の価格を基礎として算出した平成11年2月から平成12年6月までの時点修正率6.37%(算定過程は別表3の「前回見積価額の場合」欄のとおり)を、本件鑑定評価額に乗じた金額である1,567,700円(100円未満の端数切上げ)としている。
B 敷金返還額
 本件敷金の金額である153,000円としている。
C 公売の特殊性による減価額
 本件鑑定評価額から、上記A及びBの減価額を控除した金額22,890,000円(1,000円未満の端数切上げ)に、公売の特殊性による減価率20%を乗じた金額である4,578,000円としている。
(ロ)本件見積価額
 本件見積価額は、本件鑑定評価額から、次に掲げる金額を控除して算定している(1,000円未満の端数切上げ)。
A 時点修正額
 本件公示地の価格を基礎として算出した平成11年2月から公売月(平成14年2月)までの時点修正率13.29%(算定過程は別表3の「本件見積価額の場合」欄のとおり)を、本件鑑定評価額に乗じた金額である3,270,700円(100円未満の端数切上げ)としている。
B 敷金返還額
 本件敷金の金額である153,000円としている。
C 市場性減価額
 本件鑑定評価額から上記A及びBの減価額を控除した金額21,186,300円に、市場性減価率20%を乗じた金額である4,237,000円(1,000円未満の端数切捨て)としている。
D 公売の特殊性による減価額
 本件鑑定評価額から上記AないしCの減価額を控除した金額16,950,000円(1,000円未満の端数切上げ)に、公売の特殊性による減価率30%を乗じた金額である5,085,000円としている。
ロ Gは、原処分庁からの電話による買受勧奨に対し、〔1〕本件公売財産に所在する建物を手放す気持ちがないこと及び〔2〕10,000,000円程度であれば本件公売財産の購入を考える旨申述した。
(2)公売財産の見積価額
イ 徴収法第98条の規定の趣旨は、公売価額を適正なものとし、特に著しく低廉となることを防止して、最低公売価額を保障することにあるところ、見積価額の算定に当たっては、公売財産の時価を基準としつつ、公売の特殊性を考慮することが必要となる。
 そして、公売財産の時価とは、これと同種類、同等又は類似の財産の最近における売買実例若しくは取引相場又はその財産の再調達価額及び収益還元価額等に基づき算定されるものである。
 また、公売の特殊性の要因とは、〔1〕換金を目的とした強制売却であること、〔2〕換価する財産や公売の日時及び場所が一方的に決定されること、〔3〕売主は瑕疵担保責任を負わないこと並びに〔4〕買主は原則として解約等ができないことなどであり、これらの公売の特殊性によって、公売財産の見積価額は時価を相当に下回るのが通例である。
 ただし、上記公売の特殊性を考慮した見積価額が時価より著しく低廉であると認められるときは、その見積価額の決定及びそれに基づく公売処分も違法となると解されている。
 また、公売価額が時価より著しく低廉であると認定する基準については、それぞれの公売によって具体的な事情が異なり、しかも、基準となる時価にも多少の幅があるため、一律に決めることは難しいことから、公売財産の評価事務を適正に実施するため、実務上、国税庁長官通達「公売財産評価事務提要」(昭和55年6月5日付徴徴2−9。以下「評価通達」という。)が、公売の特殊性による減価率の調整限度を時価のおおむね30%程度の範囲内とする旨定めているところ、公売の特殊性を考慮した見積価額決定の趣旨にかんがみると、当審判所においても、その割合は相当と認める。
ロ また、評価通達は、再公売における見積価額について、当初の見積価額が明確に算定されている限り、その価額を据え置くべきであること及び直前の見積価額が適当でないと認められる合理的な事由があったときは、客観的に是認される範囲内において慎重な配意の下に見積価額の変更を行うものとする旨定めているところ、見積価額の安易な変更への歯止めという趣旨にかんがみると、当審判所においても、これらの取扱いは相当と認める。
 そして、直前の見積価額が適当でないと認められる合理的な事由があるときとは、〔1〕見積価額の決定に当たって前提とした事実認定又は法律判断に誤りがあったこと、〔2〕評価額算出の際に計算違いをした場合など評価に誤りがあったこと、〔3〕見積価額の決定に当たって前提とした事実等にその後変更が生じたこと、〔4〕公売財産自体の価値に人為的、自然的変更が加えられたこと、〔5〕経済事情の変動により目的不動産の価額が変化したことなどの合理的な事由がある場合をいうと解されている。なお、上記〔5〕の事由の具体的なものとして、時価算定の時点と公売時点との間における価額の変動が考えられるが、この場合、公売財産の評価額を公売時点の時価に時点修正することになり、この時点修正のために求める価額変動率は、標準地の公示価格又は財産評価基準による評価額等の変動率を参考にすることになる。
(3)前記(1)のイの(ロ)で算定された本件見積価額を上記(2)に照らして見ると、次のとおりである。
イ 請求人らは、短期間のうちに本件見積価額が前回見積価額と比較して著しく減価され合理性を欠く旨主張するので、原処分庁が、本件見積価額の算定に当たり、本件鑑定評価額から以下の減額をしたことの適否について検討する。
(イ)時点修正額
 原処分庁は、本件鑑定評価額が平成11年2月1日時点の評価額であることから、本件見積価額の算定時点である平成14年2月1日までの期間経過による価額の変動を反映させるため、時点修正額を控除している。
 この時点修正額は、本件公売財産の近隣にある本件公示地の価格を基準として、それぞれの算定時点の間における下落率(価額変動率)を基に算定されていることから、合理的かつ適正に求められた額であり、原処分庁がこれを控除したことは相当である。
(ロ)敷金返還額
 原処分庁は、本件敷金の金額を控除しているが、当該敷金の返還額は、本件公売財産の買受人の債務負担額となるから、これを控除したことは相当である。
(ハ)市場性減価額
 原処分庁は、本件鑑定評価書に考慮されていない市場性減価額を新たに控除している。
 この点について、当審判所が調査したところ、次のとおりである。
A 本件土地については、〔1〕その面積の約6割を占める本件貸地部分にGが所有する建物があるため、利用可能な土地は、間口の狭小な本件自用地部分に限定されること、〔2〕Gは、本件貸地部分にある建物を手放す意思はない旨申し立てていること、〔3〕本件建物は築40年を超え老朽化しており、その用途が極めて限定されること及び〔4〕仮に本件建物に代わる建物を再築しようとしても、本件自用地部分の建ぺい率等の制約により、その建築が極めて困難であること等、特殊な要因を含んだ市場性に極めて乏しい物件であると認められる。
B 原処分庁が過去10回の公売を実施し、見積価額を2度見直したにもかかわらず入札者がなかったことも、上記の特殊な要因が影響したものと考えられる。
C そうすると、本件見積価額の算定において、原処分庁がこれらの特殊な要因を考慮し、市場性減価額を控除したことは、合理的かつ適正なものといえる。
(ニ)公売の特殊性による減価額
 原処分庁は、本件見積価額の算定に当たって、上記(イ)から(ハ)までの修正及び控除を経て得られた時価を前提として、更に公売の特殊性を参酌しているが、公売に当たっては、財産の所有者が任意に処分する場合よりも、前記(2)のイで述べた要因により市場性が極めて制限され、見積価額が低廉となるのが通例であるから、原処分庁が公売の特殊性を考慮したことは相当である。
 なお、原処分庁は、公売の特殊性による減価率を前回見積価額の算定時の20%から30%に変更しているが、これは、前記(2)のイの評価通達に定めた公売の特殊性の調整限度の範囲内において減額したものと認められる。
(ホ)以上のとおり、本件見積価額と前回見積価額との開差は、原処分庁が本件公売財産を適正に評定した結果によって生じたものと認められる。
ロ また、請求人らは、原処分庁が本件公売通知書に不適切な記載をしたために、過去10回の公売において入札者がいないという結果となったのであるから、これを根拠に原処分庁が本件公売財産を市場性に極めて乏しい物件であると判断したのは誤りである旨主張する。
 しかしながら、本件公売通知書は、前記1の(4)の基礎事実のロに掲げる本件公売財産の概要及び利用状況等を正確に記載していることが認められるから、誤認等の生じる余地はないと考えられる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ハ さらに、請求人らは、不動産鑑定士により算出された鑑定評価額を評価額とした場合であれば、公売の特殊性の要素を減額できるが、原処分庁の見積価額の決定に係る評価算定基準に問題があるから、公売の特殊性を参酌する必要は認められない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が決定した本件見積価額は、前記(1)のイのとおり、不動産鑑定士によって算定された本件鑑定評価額を参考としており、請求人らが主張する査定方法によって算定された評価額を基礎としたものといえる。
 そして、本件見積価額の算定に当たり、本件鑑定評価額から減価額を控除したことは、前記イで述べたとおり適正であるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ニ なお、当審判所の調査によれば、財産評価の基準として財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか)が定められており、同通達11《評価の方式》は、本件土地のような市街地的形態を形成する地域にある宅地の具体的な評価方式として、路線価による方式を定めているところ、この路線価は、売買実例価額、不動産鑑定士などの地価事情精通者の意見価格及び地価公示価格等を基に1平方メートル当たりの宅地の価格が定められたもので、地価の実態を相当程度正確に反映していることは公知の事実である。
 そこで、当審判所が、この路線価の下落率等を用いて、本件土地の公売時点(平成14年2月)の時価を算定すると、別表4のとおり17,115,837円となる。
 そして、上記の金額は、前記(1)のイの(ロ)の本件見積価額の算定過程において原処分庁が算出した本件土地の時価、すなわち、本件鑑定評価額から時点修正額、本件敷金及び市場性減価額を控除した後の金額(公売の特殊性による減価額を控除する前の金額)である16,950,000円とほぼ同額となる。
 このことは、本件見積価額が本件土地の公売時の時価を反映し、同時に、原処分庁の本件公売財産の算定が適正に行われていたことを裏付けるものであるといえる。
ホ 以上のとおり、本件見積価額は適正に算定されているから、当該価額に基づいてされた原処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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