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(平15.2.20裁決、裁決事例集No.65 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、新聞販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が行った所得税、消費税及び地方消費税の各修正申告(以下「本件各修正申告」という。)が無効か否か、また、その後の差押処分が違法か否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年分、平成9年分及び平成10年分の所得税並びに平成8年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び平成9年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の各修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)を、それぞれ平成11年6月21日に原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、別表に記載する滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、同表の「督促年月日」欄に記載された日付に、それぞれ督促状を発して、平成14年1月15日付で、請求人がF相互会社に対して有する生命保険契約(以下併せて「本件保険契約」という。)に基づく生命保険金、満期返戻金及び解約返戻金の支払請求権の差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成14年3月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成14年5月17日付で棄却の異議決定をしたので、平成14年6月17日に審査請求をした。
 なお、原処分庁が、本件差押処分のうち、生命保険金及び満期返戻金の支払請求権の差押処分を平成14年4月17日付で取り消したことから、原処分の対象は本件保険契約に基づく解約返戻金の支払請求権のみである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査したところによっても、その事実が認められる。
イ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成11年5月19日に、請求人の代理人としてG税理士(以下「G税理士」という。)ほか1名の立会いの下、請求人の新聞販売所兼居宅(以下「請求人宅」という。)において、請求人の所得税等の税務調査を行った。
ロ 請求人は、平成11年6月21日に、本件各修正申告書を原処分庁に提出した。
ハ 原処分庁は、別表の「滞納国税の明細」のとおり、請求人が本件滞納国税をそれぞれの納期限までに完納しなかったため、同表の「督促年月日」欄に記載された日付に、請求人に対しそれぞれ督促状を発した。
ニ 原処分庁は、請求人が本件滞納国税につき、いずれも上記ハの各督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しなかったため、平成14年1月15日付で、本件差押処分をした。

(4)関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》第1項は、納税者が納付すべき国税をその納期限までに完納しない場合には、税務署長はその納税者に対し、納付の督促をしなければならない旨規定している。
ロ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項第1号には、徴収職員は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときには、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない旨規定している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件各修正申告書は、請求人が調査の内容及び所得金額の計算内容の確認をする余地や顧問税理士であるG税理士の立会いを受ける機会すら与えられず、原処分庁があらかじめ用意していた請求人の住所・氏名が記載された当該修正申告書に押印を強要され、わずか30分程度の間に提出したものであり、請求人の任意の意思に基づくものではないから無効である。
 したがって、別表の「本件各修正申告に係る滞納国税」が無効であるから、本件差押処分は違法であり、取り消されるべきである。
 なお、請求人は、別表の「その他の滞納国税」については争わない。

(2)原処分庁の主張

 本件差押処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件差押処分は、請求人が本件滞納国税を納期限までに完納しなかったため通則法第37条の規定による督促状を発した上で、徴収法第47条第1項第1号の規定に基づき行ったものであり、適法なものである。
ロ ところで、請求人は、本件各修正申告に係る納付すべき税額が無効であるから、本件差押処分は、違法として取り消されるべきである旨主張するが、滞納処分は、税の確定手続としての修正申告とは法律上の目的及び効果を異にする別個の独立した行政処分であって、課税手続の違法性は、滞納処分に承継されないとされていることから、課税手続の違法性をもって滞納処分の前提となる督促処分にその違法性は承継されない。
 一方、督促の違法性は、その後の滞納処分に承継されるが、上記イのとおり、本件滞納国税に対する督促は適法に行われていることから、当該督促を前提とした本件差押処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求は、本件各修正申告が無効か否か、また、その後の本件差押処分が違法か否かにあるので、これらの点について以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 本件各修正申告書の提出に至るまでの経緯は、調査担当職員の質問てん末書によると、次のとおりである。
(イ)調査担当職員は、平成11年5月19日に、G税理士ほか1名の立会いの下、請求人宅において、売上、経費集計表及び領収書・領収書控え等を基に損益面を中心に調査を進めたが、領収書控え等が一部そろっていなかったため、翌日の調査に当該資料等をそろえておくよう依頼した。
(ロ)調査担当職員は、平成11年5月20日に、請求人宅において、資料を借用したが、まだ見つからない領収書等控えがあったため、再度請求人に当該資料を探しておくよう依頼した。
(ハ)調査担当職員は、平成11年6月2日に、電話により、請求人に不足資料等の状況を尋ねたところ、見つかった旨の回答があったので、翌日、請求人宅に臨場する旨伝えた。
(ニ)調査担当職員は、平成11年6月3日に、請求人宅で、請求人に対して、売上計上漏れがあることを指摘し、調査結果の結論について、税理士立会いの下で説明したい旨伝えたところ、請求人からG税理士の関与を断る旨の話があった。
(ホ)調査担当職員は、平成11年6月14日に、請求人に対して、電話により、翌日、農協の通帳を借りるために臨場する旨伝えた。
(ヘ)調査担当職員は、平成11年6月15日に、請求人宅において、平成11年6月21日の午後1時ころから調査結果について説明したい旨伝えた。
(ト)調査担当職員は、平成11年6月21日午後1時ころ、請求人宅において、請求人に対して調査結果を説明したところ、請求人は了解し、本件各修正申告書の提出を受け、請求人宅を午後4時35分ころ辞去した。
 なお、当日、G税理士の立会いはなかった。
ロ 調査担当職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ)平成11年6月21日に、請求人宅において、調査の結果、売上計上漏れがあり、これにより所得金額と税額が増えることを説明したところ、請求人の納得が得られたので、持参した修正申告書用紙に、カーボン紙をはさんで調査担当職員が金額を記入した。そして、この修正申告書の提出用の「住所・氏名」欄に、請求人から署名、押印をしてもらったが、当該修正申告書の控えの「住所・氏名」欄は空欄のままであった。
(ロ)上記(イ)の修正申告書の提出用及びその控えに収受印を押印するために、請求人の了解を得て、これらを税務署に持ち帰り、収受印を押印し、当該修正申告書の控えに請求人の住所・氏名の記載がなかったため、それを調査担当職員が補完記入した上で、請求人あてに郵送した。
ハ 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)〔1〕所得税の各修正申告書、〔2〕所得税の各修正申告書の控え及び〔3〕本件審査請求書に添付されている委任状を見ると、次の事実が認められる。
A 〔1〕と〔2〕に押印された各収受日付は、いずれも平成11年6月21日となっている。
B 〔1〕ないし〔3〕に記載された「住所・氏名」欄の筆跡を見ると、〔1〕と〔3〕の「住所・氏名」欄の筆跡は、同一人によるものと認められる。
C 〔1〕と〔2〕に記載された「住所・氏名」欄以外のものは、同一人の筆跡と認められ、これらを合わせてみると一致する。
(ロ)消費税及び地方消費税の各修正申告書については、上記(イ)のBに掲げる事実が認められる。

(2)本件各修正申告の効力

請求人は、本件各修正申告書は、原処分庁があらかじめ用意していた請求人の住所・氏名が記入された当該修正申告書に押印を強要され、わずか30分程度の間に提出したもので、請求人の任意の意思に基づくものではないことから、当該修正申告は無効である旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロの調査担当職員の答述は、同記イ及びハの各認定事実からみても、十分信ぴょう性が認められるから、請求人が調査担当職員の強要により本件各修正申告書を提出したという事実は認められず、請求人自らが当該修正申告書に署名、押印して、それを提出したと認めるのが相当である。また、これに反するような証拠も認められないことから、請求人の主張は採用できない。
 したがって、請求人の本件各修正申告に係る納付すべき税額は、税法上有効に確定していることが認められる。

(3)本件差押処分

 原処分庁は、別表の「滞納国税の明細」に記載する本件滞納国税を納期限までに完納していないから、通則法第37条に基づき、請求人に対して、それぞれ督促をし、督促状を発した日から起算して10日を経過した日後である平成14年1月15日付で本件差押処分(ただし、平成14年4月17日付で取り消された生命保険金及び満期返戻金の支払請求権の差押処分を除く。)を行っていることから、本件差押処分は適法と認められる。
(4)以上のとおり、本件各修正申告は有効に確定していることから、当該修正申告の無効を理由として、本件差押処分の取消しを求める請求人の主張には理由がない。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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