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(平15.2.28裁決、裁決事例集No.65 26頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第40条《国等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税》の規定に基づく承認申請(以下「本件承認申請」という。)に対する不承認の通知が所得税の法定申告期限までになかったことが、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成9年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告(以下「当初申告」という。)をした。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成13年3月9日付で別表1の「更正及び賦課決定処分」欄のとおり、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成13年3月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月9日付で別表1の「異議決定並びに再更正及び変更決定処分」欄のとおり、原処分の一部を取り消す異議決定をした。
ニ 原処分庁は、平成13年7月9日付で異議決定と同じ内容の再更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行い、2月以内に審査請求ができる教示をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、平成13年9月3日に審査請求をした。
 なお、この審査請求は、原処分庁が平成13年7月9日付で行った再更正処分及び本件賦課決定処分に係る教示に基づくものであり、通則法第77条《不服申立期間》第6項の規定により法定の期間内にされたものとみなす。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、P市Q町○番○号に所在する社会福祉法人A(以下「A社」という。)の理事長である。
ロ 請求人は、平成9年7月24日にA社に対し、請求人が所有していた別表2の「譲渡物件の明細」に記載されている土地を贈与した。
ハ 請求人は、国税庁長官に対し、平成9年7月28日に本件承認申請をした。
ニ 国税庁長官は、請求人に対し、平成13年2月28日付で本件承認申請に対する不承認の通知をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法又は不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人が期限内に適正な確定申告ができなかったのは、本件承認申請に対する国税庁長官からの不承認通知(以下「本件不承認の通知」という。)が、平成9年分の所得税の法定申告期限(以下「本件申告期限」という。)までになかったからである。
ロ 本件不承認の通知が、本件申告期限までにあれば適正な確定申告を申告期限内に行うことが可能であり、「不知、誤解あるいは判断の誤り」と言われるような事態は生じなかった。本件承認申請に対する通知が本件申告期限までにない場合は、原処分庁は請求人に対し、譲渡所得の申告が必要であることの指導をすべきであるがその指導もなかった。
 これらのことは、請求人の責任ではないことから、当初申告において譲渡所得を含めなかったことについては、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 措置法第40条の規定については、国税庁長官の承認又は不承認とすべき期限について何ら規定されておらず、青色申告に係る承認申請の場合のようにみなし承認の規定もない。
 このことから、確定申告期限までに承認又は不承認の通知を行うことを強いられるものではない。
ロ 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば、修正申告又は更正前の申告がその後の事情の変更により納税者の過失に基づかず過少となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課すことが不当若しくは酷になる場合を意味するものであり、納税者の不知、誤解あるいは判断の誤りに基づく場合には、これに該当しない。
 したがって、当初申告に係る申告が過少となっていたことは、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」とは認められない。

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3 判断

 本件の争点は、措置法第40条の規定に基づく本件承認申請書に対する不承認の通知が請求人の本件申告期限までになかったことが、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)関係法令等

イ 所得税法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》第1項第1号は、居住者の有する譲渡所得の基因となる資産の贈与による法人への移転があった場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす旨規定している。
ロ 措置法第40条第1項前段は、居住者から国又は地方公共団体に対し財産の贈与があった場合には、所得税法第59条第1項第1号の規定の適用については、当該財産の贈与がなかったものとみなす旨規定している。
 また、同項後段は、民法(明治29年法律第89号)第34条の規定により設立された法人その他の公益を目的とする事業を営む法人に対する財産の贈与で当該贈与が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することその他の政令で定める要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたものについても、また同様とする旨規定している。
ハ 通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。また、同条第4項は、修正申告又は更正に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて「正当な理由があると認められるものがある場合」には、納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、過少申告加算税を課する旨規定している。これらの規定によれば、過少申告加算税は「正当な理由があると認められるものがある場合」を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課されるというべきである。
ニ ところで、上記ハにいう「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば、〔1〕税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告し、又は更正を受けた場合、〔2〕災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものがその後予期しなかった保険金等の支払いを受け又は盗難品の返還を受けたため修正申告し、若しくは更正を受けた場合等であると解されている。すなわち、申告当時に適法とみられた申告が、その後の事情の変更により、納税者の故意過失に基づかないで当該申告額が過少となった場合など、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、このような納税者に過少申告加算税を賦課することが不当もしくは酷になる場合を指すものであって、納税者の税法の不知もしくは誤解に基づく場合は、これに該当しないと解されている。

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(2)これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 請求人は、期限内に適正な確定申告ができなかったのは、本件不承認の通知が本件申告期限までになかったからであり、本件不承認の通知が本件申告期限までにあれば適正な確定申告を申告期限内に行うことが可能であり、「不知、誤解あるいは判断の誤り」と言われるような事態は生じなかった。このことは、請求人の責任ではないことから、当初申告において譲渡所得を含めなかったことについては、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、譲渡所得の申告が必要であるか否かは、請求人が主張するように承認又は不承認の通知に基づき判断するのではなく、法人に対する資産の贈与は、上記(1)のイのとおり、所得税法第59条の規定により譲渡所得の課税対象であることが認められ、譲渡所得の申告が必要であることは明らかである。そして、請求人が措置法第40条の規定に基づく本件承認申請書を国税庁長官に提出したからといって、譲渡所得が非課税となるものではなく、国税庁長官の承認を受けたものについて非課税となるにもかかわらず、請求人は、譲渡所得の申告をしなかったことが認められる。請求人が本件申告期限までに譲渡所得の申告を行わなかったことは、本件承認申請をすれば承認されることを前提としていたものであり、不承認の通知があるまで譲渡所得の申告は必要がないとの請求人の誤った税法解釈に基づくものである。そうすると、上記(1)のニで述べた「正当な理由があると認められるものがある場合」に当たるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、本件承認申請に対する通知が本件申告期限までにない場合は、原処分庁は請求人に対し、譲渡所得の申告が必要であることの指導をすべきであるが、その指導もなかった旨主張する。
 しかしながら、所得税法は、いわゆる申告納税制度を採用しており、この制度の下では、納税者が自らの判断と責任において適正な申告と納付をする義務があり、また、上記(1)のハのとおり、過少申告加算税は、「正当な理由があると認められるものがある場合」を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課されるものであるから、当初の申告に誤りがあったとしても、それは納税者自身の責任においてされたものであり、これについて原処分庁が請求人に申告内容を正すという指導をしなかったからといって、請求人の納税義務に影響を及ぼすものではなく、また、請求人の主張する事実が過少申告加算税を課さない場合の正当な理由に該当しないことは上記イで述べたとおり明らかであるので、本件賦課決定処分を違法又は不当ということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)以上のことから、所得税の再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当初申告の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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